暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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緑化の専門家と丁々発止のやりとりをするロロナさん。

本職から見れば、いかに奇蹟に近い性能の栄養剤でもダメである場合はあります。

そういった本職とやりあいながら、成果につなげていく。

それが重要なのです。





3、苦悩の末に

だめ出しを出された。

 

ロロナはクーデリアと歩きながら、肩をおとす。ついに、ジェームズに、駄目だと言われてしまったのだ。

 

今、ジェームズは雑草が生えてきた地域を、少しずつ増やすことに終始している。そろそろ、低木を川沿いに植え始めようと考えている、という事だ。

 

ただし、水路を野放図に伸ばすわけにも行かない。

 

何カ所か、要所になる場所を作ろうと考えているようなのだ。

 

其処で、栄養がとても強い土がいる。

 

今の時点では、ロロナが作れる栄養剤で足りている。しかし、これから必要になるのは、今とは比較にならないほど強い栄養だ。

 

成長が早くて、頑丈な木を、何種類か其処に植える。

 

既に、周囲に草は生えている。だが、正直な話、力強く大地に根を張る木を育て上げるには、栄養が足りないのだ。

 

もっと深くまで、栄養のある土を作る。

 

今はまだ、少し掘ってしまうと、すぐに赤土にぶつかってしまう。粘土も同然で、生き物が住める土ではない。

 

だから、定期的に完全に掘り返して、「土」の部分を少しずつ深くしている。しみこんでいる水と、何度も耕すことによる循環、それに少しずつ増えてきた虫たちと、栄養剤が、土を強くしてきているのだ。

 

だからこそ、ロロナの仕事は重要なのに。

 

「どうしてだろう。 レシピ、間違っていないのに」

 

「一度戻って、再確認よ。 ほら、まだ時間はあるんだし、今回納品した栄養剤だって、使えないわけではないって言われたでしょう? 気をおとさないで、頑張りなさい」

 

「うん……」

 

クーデリアがそう言って励ましてくれるのは、とても嬉しい。

 

実際、クーデリアと一緒に資料を確認して、道が開けた例は枚挙に暇がない。しかし、すっかり意気消沈してしまったのには、理由がある。

 

今回の栄養剤、自信があったのだ。

 

ずっと研究して、改良を重ねてきた結果の成果物だったのである。ジェームズも、きっと認めてくれると思っていた。

 

ひょっとすると、ジェームズは。今までで、一番手強い納品先かも知れなかった。

 

ここしばらくは、凶暴なモンスターも出現していない。何でも王様が直接討伐して、みんなやっつけたのだとか。

 

アーランドの王様と言えば、戦士として世界最強の噂さえある強者だ。アーランドの光とさえ言われる。ロロナでさえ、その常識外れの武芸は知っている。

 

確かに王様が出てきたのなら、何が相手になっても勝てそうにない。

 

アトリエに戻ると、早速資料の再検討をはじめる。

 

考えられる限り、最強の栄養剤は。十二代前の錬金術師が、手記に残していた。

 

彼女は、歴代錬金術師の中でも、特に緑化に特化した人物だった。ミスグリューンとさえ言われていたほどである。

 

ただ、広域を緑化するよりも、どうしようもない荒野を、ピンポイントで緑化する手腕に優れていたらしい。

 

だから、参考になると思って、彼女の手記からレシピを再現した。

 

実際、さほど難しいレシピではなかった。ネクタルに比べれば、どうと言うことも無かった。庭に撒いてみたところ、確かに強力な効果が見て取れた。ネクタルのような異常さではない、確かな強靱さで、雑草がすくすく育ったのである。

 

それなのに、まだ足りないと言われた。

 

まず、資料を出してきて、クーデリアと二人で精査する。クーデリアはざっと資料を流し見した後、ずばりと言った。

 

「ひょっとして、栄養の方向性が違うんじゃないの?」

 

「えっ?」

 

「ほら、これをみなさい。 この人は、草木も生えないって言われた零ポイントの緑化に成功しているみたいだけれど」

 

零ポイント。

 

由来はよく分からないが、アーランドの周辺に何カ所かある、円形にへこんだ地形のことだ。湖になっている場所もある。その一つがネーベル湖である。

 

こういった零ポイントは、近づくだけで体調が悪くなると言われている。魔術師達の間では、多くの呪いをため込んでいるのではないかと言われているけれど。その真相は、分からない。

 

「そうなんだよ。 あの窪地、今は沼地になってるよね」

 

「だけれど、水は昔からあったって事よ。 今あんたが対応してる荒れ地って、確か水を引くところからはじめてるんじゃなかったのかしら」

 

「あ……」

 

そうか。

 

ひょっとすると、この間作った栄養剤は、或いは。

 

零ポイントの訳が分からない毒を中和する事に特化していたものであって、栄養剤としてはさほど強力ではなかったのかも知れない。

 

いや、それでも、ミスグリューンとまで言われたほどの人だ。

 

栄養剤に関しては、相当な博識であったはず。

 

「そ、それ以外に、何か栄養剤の資料が残っていないかな」

 

「落ち着きなさい」

 

額をぺちんと叩かれる。

 

クーデリアは、時々そうする。或いは、ロロナが追い詰められると、不意に冷静になる事を、知っているのかも知れない。

 

案の定、ぺちんと叩かれてから、少し冷静さが戻ってきた。

 

「時間は、あまりないよ。 何か対応策は無いのかなあ」

 

「栄養剤を煮詰めるのは?」

 

「駄目だよ。 調べてみると、栄養剤の中には、生きている成分も多いんだって。 下手に熱を加えると、死んじゃうよ。 それに生きているから、水分とかのバランスを崩すと、すぐに駄目になっちゃうのもあるし」

 

「厄介ね。 それなら、むしろ木を植えることに特化したものを探してみればいいんじゃないの?」

 

確かに、一理ある。

 

二人で手分けして、資料を探る。

 

だが、今回は、かなり難航した。結局その日は見つからず、クーデリアにはとまってもらった。

 

通常の栄養剤は、大量にいると言われている。だめ出しはされたけれど、納品を断られた訳では無いのだ。

 

だからホムに、中間生成物は作ってもらう。栄養剤を調合しながら、クーデリアに、ロロナは聞いてみる。

 

「何か、よさそうなの、ある?」

 

「難しいわね。 もう少し、探してみるわ」

 

夜半を過ぎた辺りで、一度切り上げる。

 

調合を終わらせて、栄養剤を樽詰め。コンテナにしまった後、二人で銭湯に行った。

 

エスティが来ていたので、驚く。久しぶりに見かけたような気がするが、どうしてだろう。

 

王様と一緒に、討伐にでも行っていたのだろうか。

 

挨拶を交わすと、エスティと一緒に浴槽に入る。彼女はごく自然に大人の体つきをしていて、ロロナとしては羨ましい限りだ。

 

「ふー、生き返るわ」

 

「エスティさん、お風呂好きなんですか?」

 

「そりゃあね。 こう激務が続くと、気晴らしにお風呂に来るのは必須よ」

 

お風呂には、何処でも必ずトルと呼ばれる棒がある。エスティは、それを必ず手元に置いていた。

 

これは、アーランド人がよそに行くとき、必ず持っていく道具の一つ。

 

一見意味を成さない棒に見えるが、違う。

 

傭兵として各地で働くアーランド人は、いつ恨みを買うか、襲われるか分からない。だから身を守るために、風呂場や水場にも武器を持ち込む必要がある。

 

この棒は、水に濡れても傷まない木で作られている、最低限の護身用武器なのだ。しかも棒は武器として、かなり侮れない。素人なら、簡単に無力化することも出来る。トルはそこそこ強度もあるので、使い手次第では相手の頭をたたき割ることも難しくない。

 

エスティは騎士だし、強い。

 

これだけの経験を積んでいる戦士となると、やはり恨みもたくさん買っているだろう。そうなると、トルを手放せないのも、無理はない。

 

噂によると、昔はハンマーだったらしいのだけれど。それは流石に重いしかさばる上、何より目立つ。

 

アーランド人同士が風呂場でトルを使った喧嘩をすることは御法度とされているが。それでも用心をするに越したことはない、というわけだ。

 

「課題は順調?」

 

「今、煮詰まってまして」

 

「そうでしょうね。 二人揃って、こんな時間にお風呂に来ているんだもの」

 

「えへへ……」

 

情けなさに、苦笑いが漏れてしまった。

 

流石に酒はまだ早いかというと、エスティは先にお風呂を出て行った。背中や肩には、相当の古傷が残っている。

 

大きさからいって、多分モンスターに付けられたものだろう。

 

上がろうとしたら、クーデリアに止められる。

 

「もう少し、入っていなさい。 あんたは煮詰まってるでしょう。 此処で少しは心身をリフレッシュさせないと」

 

「はあい……」

 

のぼせてきた。

 

ぼんやりしたまま、遠くを見ていると、湯気が揺らめいているのが分かった。

 

発育がいつまでも悪いロロナとクーデリアは。同年代の女の子達から、取り残されてしまっているかのようだ。

 

時々、友達と会って、吃驚することがある。

 

特に最近は、戦士階級になった友達が、結婚することが時々ある。そう言う子は、おなかに赤ちゃんを宿したりもしている。

 

戦士階級は十四歳から大人として認められるのだから、不思議な事ではない。まあ、ロロナの身近では、だいたい十六くらいから結婚することが多いようだけれど。

 

そして、結婚した子は、雰囲気が露骨に変わる。今まではロロナと一緒にお茶会をしたりしていたのに。子供と家庭のことを真剣に考えるようになったり、どう夫を出世させるか、武勲を積ませるかが、興味の中心になる。

 

そういうのを見ると、ますます、置いていかれるような気分になるのだ。

 

クーデリアは、どうなのだろう。

 

まだ彼女は、家族と上手く行っていないはずだ。父の話など、したくもないと、広言している。実際家族の話が出ると、露骨に機嫌が悪くなる。

 

普通の戦士階級の家出身だったら、それでも良かっただろう。

 

彼女は、アーランドでも有数の資産家の娘で、しかも親と上手く行っていない。それがどういう意味を持つか、ロロナにだって分かる。

 

嫌なことは、忘れたいけれど。

 

気持ちの良いお風呂でも。嫌なことは、中々忘れることが出来なかった。

 

しばらくして、ようやくお風呂から上がる。二人並んで、良く冷やしたミルクを呷る。工場で育てている牛たちのミルクだ。正直、野外で取ってくるミルクの樹液や、彼方此方の村で買える山羊ミルクの方が美味しいけれど。冷やしてあれば、ある程度は飲める。

 

「くーちゃん、また古傷が増えてたね」

 

「戦士の勲章よ」

 

「うん……」

 

クーデリアは気にしていないようだけれど。

 

やっぱり、ロロナは親友が心身ともに傷ついていくのは、心苦しかった。

 

アトリエにまっすぐ戻る。もう寝ようかと思ったけれど、クーデリアはまだ調べると言ったので。ロロナも、つきあうことにした。

 

ホムは先に寝かせる。

 

調べていくと、幾つかの事が分かってくる。

 

栄養剤でも、特定の植物に特化したものがある。だけれども、ジェームズは何か特定の植物を植えるとは、言っていなかった。

 

ミミズとかむしを元気にする栄養剤もある。

 

これらは作っておいて損は無いだろう。実際、一旦雑草を刈り取った後、ミミズを入れて、土地を馴染ませる作業をしている区画もあったのだ。今手持ちの素材だけで作れる。明日、調合しておこう。

 

後は、目的の奴だけれど。

 

気がつくと、ベットに寝かされていた。

 

いつの間にか、落ちてしまっていたらしい。外はもう朝だ。

 

アトリエに出ると、クーデリアが机に突っ伏して眠っていた。毛布が掛けてあると言うことは。

 

或いは、師匠が気を利かせてくれたのかも知れない。

 

いつもクーデリアをからかうばかりで、仲は良くないのに。たまに気が向くと、こういう優しいことをしてくれる。

 

見ると、参考資料の一つに、付箋が貼ってある。

 

開く。

 

ついに、見つけた。なるほど、そう言うことだったのか。

 

クーデリアはかなり深く寝込んでいるし、起こすのは可哀想だ。今度はロロナが、クーデリアをベットに運んであげる。

 

そして自分は、調合を開始。

 

これならば、或いは。

 

ジェームズを満足させることが、出来るかも知れない。

 

 

 

普通の栄養剤を樽二つ。新作の、ミミズやむしが元気になるものを、樽一つ。そして、今回こそと思って調合した自信作を、樽一つ。

 

荷車に積み込み終えると、ロロナはアトリエを出た。

 

クーデリアが小さくあくびをする。ロロナもほぼ徹夜だったし、今回は外の光が、かなりつらかった。

 

途中、リオネラを見かけたので、声を掛ける。

 

今回は、出来るだけ護衛を増やしたかった。出来ればタントリスやステルク、イクセルにも声を掛けたかったけれど。まあ、こればかりは仕方が無い。

 

リオネラは、例の荒れ地に行くというと、不安そうに眉をひそめた。

 

「あの怖そうなお爺さんの所に、また行くの?」

 

「怖いけれど、自分にも厳しい人だから、大丈夫だよ」

 

他者にだけ厳しい人は、確かにいる。

 

ロロナも、そういう人は、酷いと思う。でも、ロロナから見て、自分にも他人にも厳しい人は、信用できる相手だ。

 

これは、きっと。

 

側にいるクーデリアが、そうだから、だろう。

 

街の南門に到着。

 

門番のおじさんに念のため聞くけれど、今回は、強大なモンスターが出ているという話はなかった。

 

ただ、それでも、ここのところ、あの百足のモンスターのような大物の噂が絶えたためしがない。

 

だから、リオネラにも同行を頼んだのだ。

 

荷車を引いて、南門から出る。

 

出来るだけ急いだ方が良いだろう。アーランド人にさえ、最近は環境が厳しくなりつつあるようなのだ。

 

これでは、アーランドに来る旅の人達は、苦労していることだろう。

 

遠くを、虹色の鳥が飛んでいる。

 

この間、タントリスが原初の鳥と言っていたものだ。忘れないうちに、特徴をスケッチしておく。

 

いざというときに、何かの役に立つかも知れないからだ。

 

虹色の鳥は、我が物顔に空を飛んでいる。距離から考えて、アードラよりも倍は大きいと見て良いだろう。空は案外厳しく縄張りが決まっていて、それに侵入すると攻撃を受けるものなのだけれど。

 

あの虹色の鳥は、元からの縄張りの主を、駆逐してしまったのだろう。あの我が物顔ぶりからは、それが感じ取れる。

 

しかも、数が増えている。

 

元はあのシュテル高地に生息しているという話だから、何かしらの理由で勢力を広げている、という事だ。

 

まあ、何か被害が出るようなら、騎士団が動くはず。

 

まだまだようやく一人前、という程度の実力しかないロロナやクーデリアでは、討伐の話など、来るとは思えない。

 

街道を急ぐ。

 

いずれにしても、モンスターが生息範囲を広げると言う事は、騎士団の手が回っていないことを意味している。

 

相次ぐモンスターの発生で、相当忙しいのだろう。

 

この様子だと、二線級の戦士や、引退した老人にまで、やがて討伐の話が来るかも知れない。

 

そうなれば、或いはロロナやクーデリアも。

 

嫌な予感を追い払う。

 

幸い、モンスターには遭遇せずに、目的の場所に到着。既に五百歩四方の荒れ地は耕し終えている。全体的にうっすらと緑がかって見えるのは、雑草がそれだけ生い茂っているということだ。

 

庭などに生えてくると邪魔な雑草だけれど。

 

緑化の際は、土がどれだけ栄養を持っているか、計る重要な指標となる。碁盤目状に走っている水路には、彼方此方木で堰が作ってある。ため池の水量を見ながら、荒れ地に流し込む水を調整しているのだ。

 

「六番の堰を開けろ!」

 

「分かりました!」

 

むつかしい顔をして、ジェームズが忙しく歩き回っている。

 

柵の入り口で、栄養剤を持ってきたことを告げる。ジェームズは面倒くさそうに、此方に歩いてきた。

 

「見ての通り、今少し忙しい。 検品は少し待て」

 

「何があったんですか?」

 

「水が足りないんだよ。 少し前から、此処につなげてる小川の水量が減ってきていてな」

 

それは、大変だ。

 

アーランドの水源とはずれているけれど、確か此処の荒れ地につながっている小川は、下流の幾つかの村にとって重要な存在のはず。

 

確かに、みるとため池が少し元気がない様子だ。

 

「騎士団には報告したんですか?」

 

「ああ、もちろんだ。 だが何だか南の方のアランヤとかいう村で、モンスターが大量発生しているとかでな。 こっちに手が回るのは、少し先だそうだ」

 

口惜しそうに、ジェームズが言う。

 

とりあえず、休憩用の小屋があるので、其処で待つように言われた。騎士団が手こずるほどのモンスターだ。余程に恐ろしい相手だと見て良いだろう。

 

しばらく、小屋でじっと待つ。

 

リオネラは所在なさげにしていた。時々飛び交っている怒号に、身を竦ませている。皆、苛立っているのだ。

 

「りおちゃん、大丈夫だよ。 八つ当たりとかは、されないと思うから」

 

「だって、怖くて……」

 

クーデリアは、様子を見てくると出て行ったきり、戻ってこない。

 

圧縮パイのネクタル漬けを出す。リオネラはしばらく青い顔でうつむいていたけれど。口にすると、少しだけ表情が明るくなった。

 

改良を、重ねているのだ。

 

圧縮しても甘みが壊れない方法が、この間分かった。女の子や、甘いものが好きな戦士向けに、作ったレシピだ。

 

「甘いね……」

 

「生クリームが、美味しく残ってるでしょ? 味だけしかないけど」

 

苦笑い。

 

どうしても、生のクリームを入れたままだと、圧縮時に壊れてしまうのだ。研究を続けて、味だけを抽出。

 

しかもそれを薄くのばして、ようやく圧縮して美味しいままの甘いパイを作ることに成功した。

 

ただ、掛かる手間暇が尋常ではない。

 

まだまだ、実用化にはほど遠い品だ。

 

クーデリアが戻ってくる。険しい顔をしていた。

 

「確かに川の水量が減っているわ。 最近は雨も時々あったし、何かおかしな事が上流であったと見て良さそうね」

 

「大丈夫かな……」

 

「あたし達が勝手に調べて良い事じゃないわよ。 ベヒモスや百足に遭遇して、懲りてないわけ?」

 

首を横に振る。

 

クーデリアは、実力にあった話をしろと言っているのであって、臆しているのではない。それに、これは下流の村にとっても大きな問題だ。騎士団は優先して動いてくれるだろう。

 

ジェームズが来る。

 

促されたので、ついていく。

 

質問されるのは分かっていた。恐らくは、ベテランでも見たことが無いタイプだろうと思ったからだ。

 

「何だこれは……」

 

開口一番に、ジェームズは言った。

 

樽を開けてみると、其処にあるのは、薄緑色をしたキューブだ。一抱えもあるもので、触るとちょっとべたべたする。そして、持ち上げると、相当に重い。

 

「はじめて見る。 これはどう使う」

 

「これは、栄養剤をしみこませたキューブです。 土の中に埋めると、長い年月を掛けて、固めておいた栄養剤が、ゆっくり流れ出ます」

 

「何……」

 

栄養剤を下手に圧縮すると、壊れてしまう。

 

だから、これがロロナの考えた結論だった。

 

まず最初に、栄養剤を固める。

 

これはゼラチンを使えば簡単だ。料理の知識を持つロロナには、さほど難しい事ではなかった。

 

そうやって固めたゼラチンキューブを、ゆっくり数日かけて圧縮。

 

とはいっても、水分だけを飛ばした。そうすることで、体積を一気に減らしたのだ。

 

木は、とても長い時間を掛けて育つ。

 

それなら、ずっと土の中にあって、栄養を与え続けるものが一番良いのではないのか。この形式の栄養剤なら、恐らくは。

 

問題は検証している時間がないことだが。

 

こうすることで、栄養剤はたっぷり時間を掛けて、熟成もされる。流れ出る頃には、栄養もすごく上がっている筈だ。

 

しかも、初期の頃は、普通の栄養剤が出る。

 

大樹といえども、最初は苗。その頃には、普通の栄養剤で、充分の筈。

 

「……なるほど、考えたな」

 

「今まで通り、普通の栄養剤も納品します。 栄養剤の品質も、少しずつ上げていきます」

 

「いや、それはともかく、とりあえずこれを試してみよう。 錬金術師としての技量が足りない分を、アイデアで補ったか」

 

ジェームズは何度も頷いた。

 

ひょっとして、認めてくれたのだろうか。

 

納品は受け付けてくれた。

 

キューブはそれほど硬くもないので、その気になれば砕いて土の中に埋めることも出来る。

 

温かい日差しを受けると、土の中でゆっくり溶けていって、周囲の植物に栄養を与える。木をキューブの上に植えれば、効果は抜群の筈だ。

 

ただ、こればかりは、検証している時間がなかった。やってみて、上手く行くことを願うしかない。

 

一度、アトリエに戻る。

 

後、期限まで、一ヶ月半ほど残っている。その間に、おそらく低木は相応に育つはずだ。それで、効果を証明できる。

 

栄養剤も、まだまだ納品しなければならない。

 

一息付けた、といえるのだろうか。

 

ソファに座って、考え込む。

 

本当にこれで良かったのだろうか。ステルク辺りに同行を頼んで、もっと高品質の栄養剤の材料を、探しに行くべきなのではあるまいか。

 

肩を叩かれる。

 

顔を上げると、クーデリアだった。

 

「少し休みなさい。 あたしも、一旦家に戻って寝るわ」

 

「くーちゃん、あのね」

 

「効果が出るまでは、何とも出来ないでしょう? とりあえず、もし何処かに出かけるつもりなら、早めに準備しておきなさいよ」

 

小さくあくびしながら、クーデリアはアトリエを出て行った。

 

一礼すると、リオネラも。

 

気がつくと。

 

ロロナは、ソファに横になって、そのまま眠ってしまっていた。

 

少しずつ、ロロナの中で、疑問が育ちはじめている。錬金術とは、何だろう。栄養剤を通じて分かってきたこともある。

 

本当にこれは、世界のためになっている事なのか。

 

少なくとも、緑化作業は、世界のためになっている。

 

だが、ロロナがしていることは。

 

本当に、正しいのか。

 

まだ、結論は出せない。世界中に錬金術師がいるのは、ロロナも知っている。だが、その錬金術師達は。

 

世界を、豊かに、していけるのだろうか。

 

今回のキューブ栄養剤は、上手く行ったとき。世界を少しでも、良く出来るのだろうか。

 

目を擦って、起きる。

 

何だか無性に悲しくなっていたので、甘い物でも食べようと思った。ステルクに声を掛けて、ちょっと本格的に、採集に行きたい。

 

その後は。

 

どうするか、考えたかった。

 

もちろん、仕事を放棄する気は無い。ロロナはアーランドが好きだし、何よりクーデリアのためでもある。

 

しかし、ただでさえいつもいつも苦労しているのに、このままでは大きな悩みが晴れることはないだろう。

 

ため息が漏れる。

 

ロロナは本当に。錬金術で、一体何をしているのだろう。

 

本当に、皆は幸せになっているのだろうか。








くるったプロジェクトに巻き込まれている事に、ロロナさんも内心では少しずつ気づき始めています。

ただし気付いたところで、どうにもならないのです。



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