暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、成果とずれ

ジェームズに呼ばれたステルクは、多少煩わしいと思いながらも、荒れ地を訪れていた。何かあったとみるべきだろう。

 

少し前から、荒れ地に水を引いている小川の水量が減ってきている。

 

そのため、開拓班が苦労しているという話は、ステルクも聞いていた。だが、ジェームズが呼んだのは、それが原因ではなかった。

 

荒れ地に出向いて驚かされたのは、既に緑の絨毯が出来ていることだ。

 

かなり緑化が早い。

 

勿論ジェームズの手腕が大きい。ただ、これだけの速度で、どうして緑化できているのか。

 

しかも、荒れ地の、水路沿いの部分には。

 

既に、低木が生い茂りはじめていた。

 

「これは、一気に緑化が加速したな」

 

「あの娘っ子が持ち込んだ栄養剤が、予想以上の出来でしてなあ」

 

顎でジェームズがしゃくった先には、既に青々と葉を茂らせている木。既に背丈は、ステルクよりも高くなっていた。

 

確か、少し前に、ロロナに頼まれて、採集に出た。

 

旅人の街道や、ヘーベル湖の近くにまで足を運んだ。その時確かロロナは、薬草類だけではなくて。川の水や、モンスターの体の一部なども、積極的に採集していた。村でも、買い物をしていたように思える。

 

その時の成果かと、一瞬思ったのだけれど。

 

それにしては、時期がおかしい。

 

いくら何でも此処まで育つには、二ヶ月はかかるはずだ。

 

「これは、どれくらいで育ったのだ」

 

「41日」

 

「なに……」

 

「とりあえず、あの娘っ子、ロロナだったか。 あれには合格と伝えてくれ。 此処まで緑化が進展したら、後は栄養剤を定期的に足すだけで大丈夫だ。 草原を少しずつ拡大して、時々手入れするだけで、俺がおっ死ぬ頃には森になっているさ」

 

驚いて声が出ない。

 

散々苦労していると聞いていたのに。実際蓋を開けてみればこれだ。

 

クーデリアが参謀になっている事は知っていたけれど。それにしても、まさか実際にこれだけの成果を上げる事が出来るとは、思ってもいなかった。

 

あれだけ自信無さそうにしていたのに。

 

偶然は続かない。

 

ロロナは既に五回、課題を突破したことになる。その上今回は、散々手こずった末とは言え、逆転での大成功を決めている。ロロナは高いポテンシャルを秘めている。それは分かっているのだが。

 

まだ、正体が見えてこない。

 

成果を目で確認した以上、後は必要ないだろう。土に無理がない範囲で、緑化の基礎部分は通常以上のペースにて成功したと見て良い。レポートをまとめるべく、王宮に戻る。ロロナの顔も見ていこうかと思ったが、止める。

 

いろいろな事が最近起こりすぎていて、心の整理がついていない。

 

アストリッドの作った、完成型のホムンクルスは本当に衝撃だった。あいつが。かって、ステルクの恋人だった女が、深い深い闇を秘めていたことくらいは知っている。葬儀の時に見た、奴の目は。

 

まさに、地上に顕現した地獄だった。

 

勿論、この国を裏切るような真似はしないだろう。彼奴は、馬鹿をするには頭が良すぎる。無茶なことをすれば、即時で粛正されること。そして、アーランドにはその戦力が充分にあることは、理解できているからだ。

 

ひょっとして、ロロナは。

 

いや、そんなはずはない。

 

フリクセル夫妻の娘だと言う事は、しっかり分かっている。ホムンクルスの筈がない。だが、アストリッドは、ステルクが知らない事を、何か知っていると見て良いだろう。

 

王宮に戻ると、レポートを手早く仕上げる。

 

王に謁見すると、すぐにレポートを提出。跪いているステルクに、王はレポートを見ながら、声を掛けてきた。

 

「ステルク。 何を悩んでいる」

 

「は。 アストリッドが納品したホムンクルスの件にございます」

 

「あれが多大な闇を内に抱えていることは、先刻承知の筈だが。 性能は申し分ないし、子を作る事も出来ると言うでは無いか。 要件は全て満たしている。 何も困ることはない」

 

陛下は。

 

ステルクが忠誠を誓う王は、とにかく強い男だ。

 

最強の戦士としての英才教育を受け、帝王教育で精神も鍛えに鍛え抜かれている。性欲や食欲まで、ほぼ完璧に制御しているという話まで聞く。まあ、だから戦闘では凶暴性が増すのだろう。

 

ステルクは、そこまでは出来ない。

 

アストリッドが師を失ったときは。減俸されるのを承知で、葬儀にも行った。あの時、葬儀に参列したのは、ステルクとアストリッドだけだった。

 

心の底から、怒りを覚えたのを。今でもよく覚えている。

 

アストリッドはあの時から、おそらく心を閉ざした。今では、彼奴が何を考えているのか、全く分からない。

 

「会議を行う。 エスティ」

 

「はい」

 

いつの間にかいたエスティが、レポートを王から受け取っていた。

 

集中が乱れていたらしい。接近に気付かないとは、不覚だった。勿論、力を制御している、と言うのも。原因の一つだろう。

 

一度、王の間を後にする。

 

しばらく悶々としていたが、落ち込んでいてばかりもいられない。訓練場に出て、剣を振るうことにしたのだが。

 

訓練場では、あのパラケルススが、騎士達を相手に訓練していた。

 

元の身体能力が高いという話は聞いていたが、凄まじい。既にベテランを相手に、一歩も引かない戦いを見せている。

 

見物人が、輪を為しているほどだ。

 

戦っている騎士は、ステルクの二年先輩。国家軍事力級とまではいかないが、騎士に恥じない実力のベテランだ。

 

いわゆる鉄鞭という細い棒状の武器を二本用いて戦うスタイルで、武器の細さも相まって、とにかく早い。

 

今は訓練用の木剣を使っているが。その早さに、衰えはない。

 

だが、パラケルススは。

 

子供が用いるような小さめの剣を使って、その猛攻を全ていなしている。そればかりか、徐々に早くなっているのが見て取れた。

 

違う。身体能力が上がっているのではない。

 

技を見切っているのだ。

 

体の動かし方を、理解しているのだ。

 

嵐のような猛攻。

 

並のアーランド戦士では、見切ることさえ無理な、まるで光の群れが薙がれるような怒濤。

 

それなのに。最小限剣を動かすだけで、金髪のホムンクルスは。

 

アストリッドの師匠と同じ顔をした人工の命は。攻撃を受け流し続けている。足捌きも、ステルクが見ていて分かるほどに、ハイペースで進歩していた。

 

ホムンクルス達の調練は、今まで請け負ってきた。

 

確かに才能優れた者達だったけれど。

 

これはいくら何でも異常すぎる。天才という次元ではない。納品されてから、まだ一月程度しか経っていないのに。

 

ただ、攻め手も、息を乱してはいない。

 

その程度で、精鋭揃いのアーランド戦士の中から、騎士にまで抜擢はされない。

 

がつんと、大きな音。

 

騎士がパラケルススの剣を弾いたのだ。わずかに眉をひそめたパラケルススだったけれど。

 

騎士が容赦なく繰り出した面の一撃は、残像を抉った。

 

斜め後ろに、剣を拾い直したパラケルススが、回り込んでいる。そして、横薙ぎの一撃。一撃をはじき返した騎士が、構えを解いた。

 

「此処までだ」

 

「もう少し技と動きを見せてください。 覚えたいです」

 

「馬鹿を言うな。 全部見せたら、全部盗まれるだろうが」

 

不機嫌そうに、騎士がステルクの隣を通り抜けていく。彼は、ホムンクルス達には、どちらかと言えば好意的だった。

 

しかし今の態度は。

 

あれでは、恐怖を覚えるのも、無理はないだろう。

 

十数年、下手をするとそれ以上の研鑽の結果が。わずかの間に盗まれて、気分が良い筈がない。

 

パラケルススが、ステルクに気付いた。

 

人間的な心理駆け引きは未だに見せては来ないけれど。この娘は、声からしてアストリッドの師匠と同じだ。

 

だから、ステルクは苦手だった。

 

悪趣味なことに、歩き方までそっくりなのである。

 

「ステルクさん、おはようございます」

 

「おはよう。 良い修行が出来たか」

 

「多くの技を覚えました。 実戦で活用するのが楽しみです」

 

少なくとも、性格は真逆か。

 

あの人は、アーランド人か疑わしくなるほど、平和的な性格だった。多分、戦いなんて、絶対に出来なかっただろう。

 

アストリッドとステルクは幼なじみだから、よく知っている。

 

こんな好戦的な性格に、どうしてアストリッドは。自分の考えた、最高にかっこよい師匠だと広言していたが。

 

あれは本音だろう。

 

ステルクには、分かる。アストリッドは、パラケルススがそのスペックを見せつけるのを、喜んでいた。

 

最初、パラケルススは、ステルクを様付けで呼んでいた。だが、様を付けられるのも妙な気分なので、さんで良いと言ってある。

 

他のホムンクルス達は、自分は人間の下位にいる存在だという姿勢を崩さない。だが、パラケルススは。仲良くなりたいという理由で、さん付けでステルクを呼ぶようになった。人間的な行動。だから、怖がられもする。

 

「ステルクさんも、技を教えてください。 吸収します」

 

「また今度な」

 

「皆様の役に立つのが、ホムンクルスである私の喜びです。 いずれ、必ず教えてください」

 

しゃべり方は、ロロナの所にいるホムよりも、ずっと人間らしい。

 

この辺りも、アストリッドのことだ。きっと、何か思惑があっての事だろう。

 

パラケルススが、ホムンクルス達を集めて、何か話をしている。既にホムンクルス達は、パラケルススをリーダーとして認めているようだ。反抗的な態度を見せるホムンクルスは、少なくともステルクが見ている範囲ではいない。

 

ただし、落ちこぼれはいる。

 

6番と言われているホムンクルスは、戦闘力は高いのだけれど、理解力に問題がある。しゃべり方もゆっくりしていて、まるでロロナを見ているようだ。

 

14番は今荒れ地の方で働いているけれど、力は強いが頭が悪いと苦情が来ている。とはいっても、大の男でも苦労する大岩を一人で担いで運んでいるという事なので、役に立っていないと言うことは無い。

 

王は、ホムンクルス達の存在を喜んでいた。

 

事実、この国の戦力が、飛躍的に強化されることは間違いない。これから月二十体のペースで納品されるという事であり、更に増えるという話なので。今後は、戦力が足りていなかった前線の砦や、巡回チームが随分助かることになるだろう。量産体制が確立した暁には、アーランドの戦力は何倍にもなる。

 

だが、不安なのだ。

 

会議を行うまでは、まだ時間がある。

 

しばらく、騎士達が食堂にしている部屋にて、茶を飲むことにした。体を動かす気分でもない。

 

かといって、出来ればホムンクルス達とは、あまり話したくなかった。

 

怖れていないと言えば、嘘になる。

 

あの時。

 

アストリッドの師匠が死んだとき。殆ど横死に近かった、あの悲惨な出来事の後。ステルクは、差別を憎んだ。

 

それなのに。自分がホムンクルスを差別していることに、ステルクは忸怩たるものを覚えていた。

 

分からない。このままだと、自分はどうなるのか。

 

他の騎士達の中には、ホムンクルス達を露骨に避けるものも出始めている。今後、関係が発火することをさけるためにも。

 

ステルクがしっかりしていなければならないのに。

 

情けない。

 

そう、ステルクは思った。

 

 

 

プロジェクトMの進捗会議にて、王が発言する。

 

その内容を聞いて、ステルクは思わず耳を疑っていた。

 

「また、前倒しですか」

 

「そうだ。 今回の課題で納品された実に独創的な栄養剤は、高い評価を現場の人間から得ている。 非常に使いやすい上に、効果抜群と言う事だ」

 

「中間報告では、並かそれ以下という話であったそうですが」

 

鼻白んだ様子なのは、フォイエルバッハ卿だ。

 

彼は、本来であれば次の課題になる筈だったものを、子飼いのエージェント達を用いて処理しなければならない立場になった。だから、余計にひとこと言いたいのだろう。

 

ちなみに内容は、街道整備用の石畳の確保だ。

 

馬車を通すためではない。

 

屈強なアーランド戦士達の足腰では、柔らかい土で戦いにくい。だから、石畳で舗装した方が良い。走って行くにも都合が良い。馬より早く走れるアーランド戦士は珍しくもないので、石畳で地面が安定していれば、更に負担を小さく出来るのだ。

 

「それだけ成長が早いという事だ。 我が弟子ながら鼻が高い」

 

アストリッドが自慢たらたらにいうので、周囲がうんざりした様子で見た。特にうすうすパラケルスス関係の事を知っている近所の住民達は、色々言いたいようだ。ティファナが咳払いする。

 

「次の課題というと、確かヴァルチャーの駆除でしたか」

 

「その通りだ。 単に駆除するのではない。 近隣に巣を作って繁殖をしようとするヴァルチャーを、知恵を使って追い出す事になる」

 

「つまり、錬金術を用いて、モンスターを戦わずに追い払えるかどうかの実験だ」

 

ヴァルチャーは、アードラの上位種。スカベンジャーの性質が強いが、爪もくちばしも強く、簡単な魔術まで使う。さほど高位のモンスターではないが、この辺りからそろそろひよっこの手に負えなくなってくる。

 

ステルクも計画は頭に入っている。今回は、近くの森の東側にある、ヴァルチャーの群生地でのミッションとなる。

 

生息しているヴァルチャーは、ざっと数百。

 

これを全て追い払うとなると、腕力沙汰では難しい。ましてやロロナと、周辺にいる者達の戦力では、厳しいだろう。

 

実際問題、住むべきでは無い所にいるモンスターを追い払う事は、アーランド戦士の重要な仕事になっている。

 

逆に言うと、これが無くなれば、他の場所に人手を回せる。

 

勿論大物はベテランのアーランド戦士が、退治のために出張らなければならないけれど。手間が減らせるならば、願ったりだ。

 

「分かりました。 次の課題を、ロロナに伝えてまいります」

 

「うむ。 ホムンクルスの量産計画は」

 

「完成体であるパラケルススの生産成功によって、今後は流れ作業で行う事が出来るでしょう。 今月からは、毎月二十体。 作業が安定した後は、更にペースを上げて生産することが可能です」

 

「素晴らしい。 人手不足で悩んでいた砦や巡回班に、優先的に廻せ」

 

その後は、メリオダスからの報告が始まる。

 

以前納品された、耐久糧食。圧縮パイのネクタル漬けは、大量生産が開始されたという。工場側で、コピーする事に成功したのだ。ネクタルの原液はロロナから定期的に提供されているし、何ら問題ない。

 

これで、アーランド戦士の機動力は、更に増したことになる。

 

その上、ホムンクルスの大量生産による、戦力の補強も行われた。これで、大陸中枢の強国が、アーランドをはじめとする辺境に、先進的な兵器を揃えて押し寄せる前に、どうにか押し返す準備が整ったとみて良い。

 

間に合ったのだ。

 

実際問題、圧倒的な物量を駆使して攻めこまれた場合、対応が出来る状態になかった。如何にアーランド戦士が大陸最強といえど、各個撃破されてしまえば意味がないのである。

 

会議がスムーズに終わる。

 

小さくあくびをしていたトリスタンを、メリオダスがにらむ。噂通り、仲が悪い親子だ。自慢げに部屋を出て行くアストリッドを見送るステルクに、ティファナが声を掛けてくる。彼女は、アストリッドと近所に暮らしていた経歴を持っている。理由があってアストリッドの師匠が苦悩しているとき、助力できず。結果死なせてしまったという負い目もある様子だ。

 

「ステルクくん。 噂には聞いているけれど、パラケルススって子。 アストリッドのお師様と」

 

「その通りです。 悲しい話ですが、彼奴の心の闇を溶かせる者は、もういないとみて良いでしょう」

 

アストリッドにとって、周囲の人間は潜在的に敵だ。

 

利害が一致しているから、今はこのプロジェクトに参加している。勿論弱みを多数握られているという理由もあるだろう。

 

だが、彼奴が誰かに心を開くことは。もう、ステルクには、予想できなかった。

 

アーランドでも名を知られた魔術師だったから、ティファナも相応に修羅場をくぐってきている。だが、彼女も、悲しまない訳では無い。美しい眉を悲しげにひそめた。

 

「ロロナちゃんも、アストリッドの心を溶かすのは難しそうね。 錬金術はとても便利な力だけれど。 誰かを救うことは、出来ないのかしら」

 

「……」

 

かって愛した相手だ。

 

どうにかしたいと思う気持ちは、ステルクにもある。

 

だが、どうにもできない。出来ようがない。

 

いつの間にか、部屋はステルク一人になっていた。

 

大きく嘆息すると、部屋を出る。

 

確実に成果は上がっているのに。どうして、こう気は晴れないのだろう。そればかりか、ますます濃い狂気が、周囲を覆い始めているような気がする。

 

ロロナは、無事に完遂できるだろうか。

 

完遂できたとしても。

 

正気で、いられるのだろうか。

 

分からない。

 

そうとしか、ステルクには思えなかった。

 

 

 

(続)








原作でもおそらくそうですが、本作でもアストリッドさんとステルクさんは恋仲でした。

それが破綻したのは、お師匠様の死が原因ですね。

以降狂っていくアストリッドさんをとめる事は誰にも出来なくなったのです。




ちなみにメリオダス大臣は、本作では表向き王と仲が悪いだけで、裏では昵懇です。

実際にも政治の場では、仲が悪そうに見せていて裏でつながっているなんてのは、よくあることです。





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