暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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動物を殺さず誘導するというのはかなり難しい行為です。

ロロナは立て続けに業績を上げていますが、今回も苦労する事になります。

ましてや今回の相手は大型肉食鳥類です。

ライフルなんか何の役にも立たなくなった時代、機械で追い払うのは極めて困難な相手でもあるのです。






1、禿鷹の森

ロロナが足を運んだのは、アーランドの外れにある小さなお店。

 

魔女が経営していると噂の、寂れた場所である。

 

此処で言う魔女というのは、外法に手を染めた女性魔術師の事を意味している。禁忌の術を行ったり、或いは魔術によってアーランドそのものを損なうような事をすると、こう言われることがある。

 

ただ、此処のお店が魔女のというのは、話半分と誰もが知っている。

 

単に見かけが不気味で、中身が寂れているから、そう子供達が噂しているだけの事だ。

 

ロロナがお店に入ると、齢百才を越えているかと思われる老婆が、店番に立っていた。かって、アーランドでも上位に入った魔術師だったという噂の女性だけれど。流石に百を超えると、老齢が目立ち、もうろくし始めてもいる。

 

「いらっしゃい。 何をお探しかね。 惚れ薬なら、其処の棚じゃが」

 

「おばあちゃん、お久しぶりです」

 

「おー。 誰じゃったかなあ」

 

「ロロナです」

 

しばらく経ってから、反応があった。

 

まあ、無理もない。このおばあちゃんのお店に足を運んだのは、実に四年ぶりだ。以前はアストリッドと一緒に来た。師匠は何だかよく分からないものを山ほど買い込んでいて、当時は不気味で仕方が無かった。たびたび足を運んでいたのだけれど、師匠はいつからか外に行くのも面倒くさがるようになって、必然的にこのお店にも来なくなった。

 

ざっと棚を見るけれど。

 

商品の保存状態は、お世辞にも良いとは言えない。

 

ただ、ものが分かるようになってきた今は。其処に、珍しいものがたくさんあることが、理解できた。

 

「これと、これと、それにこれをお願いします」

 

「はいはい、毎度あり。 またよろしくたのむよう」

 

代金を渡す。

 

魔女だとしても、もうすっかり衰えてしまっている。何でも噂に聞いたところによると、戦場で娘を亡くし、孫達とは疎遠だとかで、寂しい老後を送っているという。このお店も、おばあさんが体調を崩してしまったら、おしまいになるのだろうか。

 

店を出て、今度は工場に。

 

荷車をがらがら音を立てて引きながら、必要な素材を揃えていく。

 

今回作ろうとしているのは、一種のお香だ。

 

ただし、以前作った任意の幻覚を見せるときに使ったアロマとは、放出できる臭いの桁が違っている。

 

だから、仕組みからして、大がかりなのだ。

 

森一つ分に、強烈な臭いを行き渡らせなければならないのだから、当然だろう。しっかりした土台も作らなければならない。

 

課題を突破するには、準備が必要だった。

 

工場でも素材を集めると、最後に隣の親父さんのお店に。設計図を渡すと、親父さんは唸った。

 

「これは香炉と言うよりも、鼎に近いな」

 

「カナエ?」

 

「大昔にあった、三脚のついた鍋のようなものだな。 ちょっと待ってろ」

 

親父さんが持ってきたのは、小さな模型。

 

確かに、ロロナが参考書で見たものと、よく似ている。ただ、これは非常に重いのだとか。

 

「アーランド戦士でも、二人がかりで運ぶことになるぞ。 ましてや中に一杯薬を入れるんだろ?」

 

「はい。 まずは実験から、ですけれど」

 

「どうしてこれにするんだ」

 

「ヴァルチャーを追い払うための、お薬を入れるんです。 その時、嫌がったヴァルチャーがひっくり返せるようだと、話になりませんし」

 

何より危ない。

 

今回のも、あまり激しくないとはいえ、臭いを放出するために火を使う。もしもひっくり返されると、森が火事になってしまう。

 

ヴァルチャーは体が大きくて、パワーがある上に、風の魔術まで使う。

 

幸い、自分に届く臭いを防ぐような器用な真似は出来ない様子だけれど。風の魔術で飛ばされてしまうような土台では、使用できない。

 

ましてや、今回の道具は、時間差を置いて使うのだ。

 

昼の内に、ヴァルチャーが群れている森に置いてきて、夜くらいには臭いが充満するようにする。

 

そして、数日は保たなければならない。

 

大がかりなお香になる。

 

それこそ、大昔のカナエというものほどに。

 

「まあ、分かったけれどな。 ただ、これを作るとなると、かなり金が掛かるぜ」

 

「お金は、どうにかなります」

 

「そうか。 じゃあ、頼むな」

 

親父さんに一礼して、お店を出る。用事を一通り済ませて戻ると、お昼近くにまでなっていた。

 

すぐに食事を作る。

 

ホムは無言で黙々と働いていた。子供らしく、食事の臭いに敏感になれば面白いのに。殆ど、食べる事に、興味を見せないのだ。

 

パメラはと言うと、朝から師匠と一緒に出かけている。

 

何をしているのかは、よく分からなかった。

 

実のところ、ここ数日、パメラは頻繁に出かけている。何をしているかは教えてくれないのだけれど。師匠と一緒に出かけているのだし、どうせ碌な事をしていないだろう。それにパメラと師匠は、もう隠すこともなくつるんでいる。一緒にロロナをいじくったりするので、大変困り果てていた。

 

今日は得意なミートパイにする。丁度良い兎が手に入ったこともあって、これ以外には考えられなかった。

 

既に、単純なパイなら、錬金術でお店のものか、それ以上のものが作れるようになっている。

 

数を散々こなしたからである。

 

ホールパイを切り分けて、二人で食べる。師匠はどうせ、今日は帰ってこないだろう。

 

「ホムちゃん、美味しい?」

 

「美味しいです」

 

「そっかあ。 全然表情が変わらないから、分からないよ」

 

「申し訳ありません。 マスターに、表情を作る機能は、付けていただけませんでしたので」

 

そうか。そう言われると、少し悲しい。

 

ホムは、本当に人工の生命なのだと、再認識してしまう。

 

「量は大丈夫かな」

 

「問題ありません。 少し多すぎるくらいです」

 

「うん、それじゃあ次からは減らすね」

 

片付けを済ませると、次。

 

集めて来た材料は、実験用も含んでいる。色々調べて見たのだけれど。鳥よけの香料は、存在している。

 

たとえば小鳥よけ。

 

小鳥を追い払うには、猛禽の臭いを使うのが良いとされている。小鳥がたくさん集まって、糞害に困っている場合に、使用するものだ。

 

普通使うのは隼や鷹の翼や肉、後は糞など。

 

ただ、今回追い払うのは猛禽だ。そうなると、やはり蛇が対象になるだろうか。しかし、蛇を好んで食べる鳥もいる。蛇が鳥の天敵だとするには、少し考えが安直だ。

 

ヴァルチャーを、捕獲しなければならないだろうか。

 

資料を調べていく。

 

どうやら、近くの森の東側にある小さな林が、ヴァルチャーの群れに占領されたのは、時間にして60年ほど前だそうである。

 

丁度その頃は、アーランドが隣国と戦争をしていた事もあって、顧みられることもなかった。

 

戦争そのものはアーランドの圧勝で幕を閉じたらしいのだけれども。相手の国力がアーランドの数十倍はあったという事で、王様も前線に出るほどの総力戦だったそうである。ちなみにその結果、相手国は滅亡。ただし、アーランドも相応の被害を被った。

 

ともかく、その影響で、本来だったらあり得ない状況が出来、放置されて今まで来てしまったのだ。

 

それからヴァルチャーの群れが掃討されなかったのは。

 

ヴァルチャーがいついてから、森が露骨に豊かになった事。これはヴァルチャーが運び込んだ死肉やその糞が原因だろう。

 

彼らの営巣地ではないことが確認されたこと。

 

更に言えば、被害が出ているとは言え、小さいということ。

 

もう一つを付け加えるなら、この戦い以降、アーランドでは戦士の数が露骨に不足した。何でも滅亡した国も領土に取り込んだ結果、巡回する地域が膨大に増えてしまい、戦士の手数が足りなくなったのだという。

 

このため、とてもではないが、危険性が小さい相手をわざわざ討伐する余裕など、なくなってしまったらしい。

 

いろいろな理由から、ヴァルチャーの群れは放置され。

 

そして、今に到っている。

 

ロロナがその対処を任されたのは、名誉なことなのだろうか。もしそうだとすれば、なんとしても成し遂げなければならない。

 

それに、ヴァルチャーを殲滅してしまうのは、それはそれでまずい。

 

やはり、お香を使って追い払うのが、一番だろう。

 

資料を調べる。

 

鷹を操作するお香というのを見つけたので、付箋を付けておく。ただこれは、鷹の感情をある程度コントロールする目的のものらしい。

 

鷹を使って狩りをする、辺境でも更に辺境の人々のために、十何代か前の錬金術師が作った道具だけれど。

 

アーランドではなじみがない。

 

確か、鳩を使った手紙配達は、何処かでやっていると聞いているけれど。それもまた、今回の作業では、応用が利かないだろう。

 

「マスター。 栄養剤、仕上がりました」

 

「うん、分かった。 樽を、コンテナに入れておいて」

 

「分かりました」

 

黙々と、ホムが樽を運んでいく。力ならロロナより確実に上だ。実際、苦労もせず、自分以上の体積はある樽を運んでいる。

 

師匠が作ったのだから、何とも思わない。

 

あの人はどれだけの無茶を実現しても、不思議では無いのだ。ため息が漏れてしまう。師匠がこの課題に手を付けたら、一瞬で終わってしまうだろうに。

 

少しはやる気を出して欲しい。

 

師匠が、帰ってきた。

 

参考書に目を通しているロロナを一瞥だけすると、どっかとソファに座る。そういえば、パメラがいない。

 

「あれ、パメラさんは?」

 

「ああ、彼奴はこれから店をやる事になった」

 

「お店、ですか?」

 

「ティファナの家の二つ隣に、空き家になっている襤褸屋があるだろう。 彼処を買い取って、パメラが住むことにした」

 

確かあの店は、かなり古くて、幽霊が出るという噂があった。何でも前の持ち主が、夫婦揃って戦死。その無念もあって、今でも化けて出るという。どちらも死んだときの姿のままで、凄まじい形相で迫ってくるとか。

 

師匠に聞かされた、トラウマ昔話の一つだ。

 

その後、ぶるぶる震えているロロナを、師匠が恍惚たる笑みで見ていた事を、よく覚えている。

 

「あの家、確か幽霊が」

 

「嘘に決まってるだろう。 というか、前の持ち主は、家を売ってもっと大きな家に引っ越したのだ。 今でも元気にやっている」

 

「ししょー! 酷いです!」

 

「だってお前が怖がる様子が、あまりにも面白かったのでな! ついその場ででっち上げてしまったのだよ、許せ」

 

けらけら笑いながら、師匠が自室に引き上げていく。

 

どっと疲れたけれど。言い返す気力も沸かなかった。とりあえず、近いうちにお土産でも持って足を運ぼう。

 

それに、パメラが売るものにも、興味があった。

 

そう決めると、作業を続行。今日は一日、この作業に費やすことに決めている。気がつくと、夕刻。

 

パメラがいないと、ぐっと静かだ。

 

散々いじくられたし、怖がらせられもしたけれど。アトリエからいなくなると、少し残念ではあった。

 

 

 

翌朝。

 

ホムを連れて、クーデリアと外出する。ホムがどれだけの能力があるか、実際に見ておきたかったからだ。

 

荷車は最初ロロナが引いていたが、街を出た辺りで、ホムに代わる。

 

栄養剤を納品する際に、どれだけやれるか。見ておきたいのである。クーデリアが、リボルバーを開けて弾を隣で確認していた。

 

そういえば、隣の親父さんが。クーデリアに用があると言っていた事を思い出す。

 

「くーちゃん、今日の帰り、親父さんの所に寄ろう。 銃を改良してくれるって言ってたよ」

 

「そうね。 威力不足が目についてきたし」

 

「ショットガンはどう?」

 

「ショットガンよりも徹甲弾が使えるライフルが良いのだけれど。 ただ、取り回しがね」

 

クーデリアは身体能力も上がってきているし、銃の重さなど気にならないだろう。ライフル如きでは役に立たないから、どうせなら軽い方が良いと言う事で、牽制用に拳銃を使っているという意味もあるようだ。

 

ただ、やはりライフル弾に能力を乗せると、威力は相応に上がるのだという。

 

「拳銃でライフル弾を撃てないかな」

 

「そんな馬鹿な事……出来るなら、それが良いけれど」

 

理論的には出来る筈だ。

 

ただ、銃火器はアーランドではあまり発達していない。役に立たないからである。上位の戦士になると、銃弾なんか見切って斬るのは当たり前。当たったところでびくともしないのだから、当然か。

 

ひよっこだって、銃弾では殺しきれない。

 

ロロナだって、ライフル弾くらいで死ぬほど柔ではない。ロロナでさえ、そうなのだ。

 

「仮にライフル弾撃てる拳銃を作っても、反動が大きいから、牽制の意味ではちょっと使い道がね。 破壊力はライフル弾並で、今までの銃と同じには出来ないのかしら」

 

「くーちゃん、それは流石に……」

 

「分かってる。 あたしもこれで、魔力は毎日鍛え込んでるから。 今後は、もう幾つか切り札増やす予定だし、ね」

 

会話を横目に、ホムは無言で荷車を引いている。

 

小さな体だけれど、全く問題は無い。やがて、荒れ地が見えてくる。既にびっしりと雑草が生い茂っていて、キューブ栄養剤の効果で、低木も葉っぱを豊かに付けている。ただし、ため池の水量は、相変わらず寂しい。今後森の中核になるような大きな木を生やす場合は、もっと水がいる。

 

ジェームズに手を振る。

 

気むずかしい老人は、ロロナを見ると鼻を鳴らした。

 

「栄養剤の納品か。 さっさと来い」

 

「今日は、この子が交渉をします」

 

「よろしくお願いします」

 

ぺこりと一礼をするホム。

 

ロロナは笑顔のまま側に立ち、様子を見守る事にした。ジェームズは若干うんざりしたようだけれど。

 

きちんと、対応してくれる。

 

納品した樽を受け取って、中身の確認。

 

今回はキューブ状栄養剤を樽二つ。普通の栄養剤を樽三つ、作ってきた。栄養価は、以前より上がっている筈だ。

 

「良いだろう。 俺から上に報告はしておくから、後で王宮に行って報酬うけとりな」

 

「有り難うございます」

 

ホムが頭を下げる。

 

交渉はつつがなく終わった。と言いたいところだが。

 

実際には、何ら問題が無かったのだから当然だ。何か問題を仕込むべきだったかとロロナは思ったけれど。まあ、最初はこんな所だろう。

 

今回の件で、通常通りの納品なら、ホムに任せられることが分かった。問題はモンスターに襲われたり、イレギュラーがあった場合だが。

 

流石に、こんな小さな子を、モンスターにけしかけるわけにはいかない。師匠は強いと言っていたけれど。ロロナの倫理観が許さない。

 

アトリエに先にホムを戻すと、クーデリアと一緒に、親父さんの店に。

 

親父さんは、金床で、何かを忙しく叩いていた。

 

「今、忙しい。 ちょっと待ってろ」

 

不機嫌そうな声。

 

そういえば、少し前から、親父さんは相当に忙しいそうだ。確かに大物モンスターが彼方此方に出没しているとなると、それも当然だろう。

 

戦士の武器は消耗品だ。

 

どれだけ丁寧に扱っていても、痛む。折れないにしても、刃こぼれを直さなければならない。

 

手入れくらいは、どの戦士も出来るとしても。

 

痛みすぎた場合は、親父さんのような本職で無ければ、どうにも出来ないというのが現実だ。

 

仕事が終わったらしく、親父さんがこっちを向く。手元には、柔らかそうな毛皮に包んだ抜き身の剣があった。

 

「銃を、改良できるという話だけれど」

 

「見せてみな」

 

クーデリアから、やっぱり機嫌が悪い親父さんが、銃を受け取る。

 

しばらく上下に見回していたけれど。やがて嘆息した。

 

「これは、誰にもらった」

 

「うちの倉庫にあったものよ。 兄たちはもっと良い武器をもらっていたようだけれど」

 

「なるほど。 これはな、コルトって言う銃だ。 オルトガラクセンなんかの遺跡で発見される、旧時代の銃火器だよ。 旧時代のだから現在の人間やモンスターには通じないが、作成している技術力は向こうが圧倒的に上でな。 詰め込む銃弾次第では、強烈な威力を発揮するんだよ」

 

幾つかのパーツについて説明してくれたけれど。確かに、現在の冶金技術では、作れないものも多いようだ。

 

ただ、それでも親父さんは、銃を分解して、調整を行う。

 

しばらくハンマーで無心に叩いていたが。やがて、難しい顔をして、クーデリアに手渡した。

 

「どれ、取り回してみな」

 

クーデリアが、手慣れた動作で、体を動かす。

 

舞うような動き。

 

クーデリアは敵の気を引くことが極めて上手だ。ロロナが術式を展開するまでの時間を、いつも稼いでくれる。

 

そして彼女の舞には、実戦武術の動きが、貪欲に取り込まれている。ロロナから見ても、以前とは雲泥の差だ。確かに、クーデリアは、確実に強くなっている。

 

「良い感じよ。 前より、かなり軽くなったわ」

 

「幾つかの部品が、ほんのちょっと曲がっていたのさ。 技量が上がってくると、そういった些細な事で、取り回しに影響が出てくる。 弾丸の方も見せてみな」

 

クーデリアが、言われるままに、ポケットから弾丸を取り出す。

 

殆どはただの鉛弾だ。ただし、表面には文字がしっかり書き込まれている。言うまでも無く、その弾丸には、魔術を掛けられるようになっているのだ。クーデリアの特殊能力を知っているロロナは、驚かない。

 

「もっと良い金属を使わないのか」

 

「あたしが自由に出来るお金は、そう多くないわ」

 

「そうか。 ちょっとこれを試してみな」

 

親父さんが、青黒い弾丸を取り出してくる。

 

いずれもが、色以外は、今までクーデリアが使っていたものと、大差ないように思えたけれど。

 

クーデリアは弾丸を見て、驚きの声を漏らす。

 

「これ、ひょっとして」

 

「シルヴァタイトだ。 かなりの高級金属だが、切り札をこの弾に乗せてみな。 吃驚するくらい、威力が出るぜ」

 

一発ずつの値段が、相当高額になるとも、親父さんは付け加えた。

 

シルヴァタイトといえば、かなりの貴重な金属だ。加工次第では、相当に強力な武器防具に化けるとも聞いている。

 

もっとも、使い手の方が優れている現在。武器防具が如何に優れていても、場合によっては通用しないが。

 

クーデリアが見つめている弾丸も、それは同じだろう。

 

拳銃という武器そのものが、人間には通じにくいのだ。弾が基本的に遅い。残像を残して動くような奴が珍しくもない現在、拳銃の弾程度では、そもそも強い相手には当たらないのである。

 

つまり、弾丸の威力がどれだけあっても、使い所を間違えれば塵になってしまう。実力がついてきたからこそ、親父さんはクーデリアに、この弾を渡したのだろう。

 

「弾速を上げられないかしら」

 

「今の弾速だと遅いか?」

 

「残像を残すような相手だと、戦術を工夫しないとかなり厳しいわね。 格上の相手と戦う時のことを想定すると、今の拳銃だとパワー不足よ」

 

「いきなり武器を変えると、慣れるまで時間が掛かるぞ。 ちょっと待っていろ」

 

親父さんは店の奥に行くと、幾つか銃を取り出してくる。

 

その中には、クーデリアの手には大きすぎるように見える、見るからに凶悪な銃も幾つかあった。

 

流石に、何でも揃っている。

 

親父さんが考えた末にクーデリアに渡したのは。もう拳銃とは思えない、とても大きなものだった。銃身も非常に長い。

 

「此奴はライフル弾を発射できる銃だが、反動がデカイ。 現在の技術では作れない代物だから、触るときには気をつけろ」

 

しかも、ライフル弾だけではなくて、大口径の弾丸もだいたいは扱えるという。非常にキワモノ的な代物だ。

 

大きいし、何よりおっかない。

 

これだと、重さが禍して、クーデリアが使いこなせないのでは。ロロナは心配したが。しばらく取り回していたクーデリアは、意外なことを言った。

 

「思ったより、随分軽いわ」

 

「撃ってみるか」

 

「……」

 

クーデリアは言われるまま、店の裏の射撃場に。

 

其処で的に向けて、何度か発砲。発砲音がかなり凄い。ただ、クーデリアの狙いは正確そのもので、最初から的の中心部に命中させた。その後も、連続して的の中心部に、ほぼ誤差もなく当ててみせる。

 

問題は、現在。弾丸が当たったところで、倒せるような魔物などほぼいないという事だが。

 

「弾速もかなり出るわね。 これなら当てやすいわ」

 

「それは流石に売れないから、俺が作ったカスタムモデルを用意するわ。 マグナム弾を発射できるようにしてある。 形状はほぼ同じだ。 金は用意できるか」

 

「どうにか」

 

受け取りは、数日後と決まった。

 

クーデリアの手形を取った親父さんが、何だかよく分からない部品を幾つか出してくる。これから、クーデリアの手に合わせて、調整するのだろう。

 

ロロナの杖についても聞いてみる。

 

幾つか出してきた、重そうな杖。それに、どれもこれも、非常に高額そうだ。ただ、持ってみて、驚いた。

 

軽いのだ。とても。

 

「力がついてきたな。 後は、金属が相応にあれば、安く作れるぜ」

 

「やっぱり、そうなりますか」

 

「ああ。 此方でも、貴重な金属は高値になるんでな。 まあ、用意できないことはないが」

 

値段を聞く限り、どれも手が出ない。

 

クーデリアはお金持ちという事を、こういうときに、思い知らされる。

 

カタログを見せられて、やはりゴルトアイゼンが適当だろうと、ロロナは結論。加工法についてのアドバイスをもらった後、引き上げることにした。

 

アトリエに戻ると、すでにホムがコンテナに荷物を片付け終えていた。

 

「ホムちゃん、そのまま栄養剤の中間素材の生成をお願いね」

 

「分かりました」

 

ロロナ自身は、昨日に引き続いて、ヴァルチャーを追い払う臭いを研究する。クーデリアにも手伝ってもらう。

 

ヴァルチャーに天敵がいれば良いのだけれど。

 

少なくとも、今までの資料で、それはほぼ見つけられなかった。蛇のモンスターでも、ヴァルチャーを専門で狙う奴などいないだろう。

 

と、思っていたのだけれど。

 

しばらく資料を探していたクーデリアが、何か見つけてきた。

 

「ロロナ、これは?」

 

「えっ……」

 

思わず声を上げてしまう。

 

なんと、天敵の記述がある。慌てて資料を見直すと、全く関係ないと思い込んでいたものだった。

 

過去の獣という資料である。

 

どうやって調べたのかよく分からないけれど。既にアーランドにはいない生物の記録が、多数残されている。

 

よく調べてみると、オルトガラクセンの内部に、そういった情報を記録する機械があったのだという。

 

なるほど、それは確かに、過去の獣だ。

 

二人で資料を読み進めてみる。

 

それによると、記述はこのようになっていた。

 

その獣は、現在ベヒモスと言われているモンスターの直接の先祖であったらしい。世界がまだ混沌に包まれていて、アーランドでも王都以外にほぼ村も街もなく、人々がその日暮らしをやっと送っていた、更に前。荒野で王者として君臨していたそうだ。

 

見ると、今のベヒモスよりもだいぶ小さい。

 

ただ、当時の人類では、太刀打ちできない相手であったそうだ。遭遇する度に多くの被害が出たと、記録が残されている。

 

今では、更に強力なベヒモスでもそう苦労せずに狩っているのに。昔は、そんな時代もあったのだと思うと、不思議だ。

 

原初ベヒモスとでもいうべきそのモンスターは、多くの動物を好んで喰らったが。中でも鳥が好物で、大型の鳥類。特にアードラなどを、好んで食したという。勿論ヴァルチャーも、その中に入る。

 

化石の図が書かれていた。

 

骨になっている原初ベヒモスの腹の中に、多数の獲物の骨。糞の化石も載せられている。頭からばりばり食べてしまうようで、かなり砕かれた骨が見える。確かに、ヴァルチャーの骨が、相応に見えるようだった。

 

これは、使えるかも知れない。

 

「この原初ベヒモスって、もういないのかな」

 

「いるでしょ、ベヒモスが」

 

「うーん。 でも、原初ベヒモスそのものの方が、良いような気がするんだよね」

 

思い立ったので、コンテナに。

 

以前カタコンベから拾い集めてきた骨を調べて見る。どれもベヒモスのものではない。ましてや、原初ベヒモスのものも、含まれてはいなかった。もしもあるとすれば、相当に古いものとなるだろう。

 

以前幼体ベヒモスを倒した時に、体の部品を幾らかもらった。

 

今、骨にして飾っている分がある。それを少し使って見れば、或いは効果があるかも知れないけれど。

 

考え込んだ末に、一旦保留。

 

ベヒモスが、鳥を好んで食べるなどと言う話は、聞いたことがない。原初ベヒモスとは、好みが違うのかも知れない。

 

クーデリアにも聞いてみるが、首を横に振るばかりだった。

 

「昔はアードラやヴァルチャーが手頃な獲物だったのかも知れないけれど。 今のベヒモスは、もっと捕らえやすい手頃な獲物がいくらでもいるでしょう。 多分、鳥を襲うことがあっても、好んで食べる、という事はないでしょうね」

 

「そうだよねえ。 でも、原初のベヒモスなんて、もういないでしょ。 骨も、何処で見つければ良いんだろう」

 

カタコンベにいくしかないか。

 

彼処なら、骨と名がつくものなら、だいたい揃っていそうだ。

 

今回も、ぎりぎりになるかも知れない。

 

動くなら、早い方が良い。







天敵を用いての誘導。それにはまたカタコンベに行く必要もある。

様々な人と関わり、様々な事をこなしてきたロロナは。

それだけ力を増してきて。

出来る事が増えてきているのです。

困難もまた、加速度的に増えているのですが。






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