暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
動物を殺さず誘導するというのはかなり難しい行為です。
ロロナは立て続けに業績を上げていますが、今回も苦労する事になります。
ましてや今回の相手は大型肉食鳥類です。
ライフルなんか何の役にも立たなくなった時代、機械で追い払うのは極めて困難な相手でもあるのです。
ロロナが足を運んだのは、アーランドの外れにある小さなお店。
魔女が経営していると噂の、寂れた場所である。
此処で言う魔女というのは、外法に手を染めた女性魔術師の事を意味している。禁忌の術を行ったり、或いは魔術によってアーランドそのものを損なうような事をすると、こう言われることがある。
ただ、此処のお店が魔女のというのは、話半分と誰もが知っている。
単に見かけが不気味で、中身が寂れているから、そう子供達が噂しているだけの事だ。
ロロナがお店に入ると、齢百才を越えているかと思われる老婆が、店番に立っていた。かって、アーランドでも上位に入った魔術師だったという噂の女性だけれど。流石に百を超えると、老齢が目立ち、もうろくし始めてもいる。
「いらっしゃい。 何をお探しかね。 惚れ薬なら、其処の棚じゃが」
「おばあちゃん、お久しぶりです」
「おー。 誰じゃったかなあ」
「ロロナです」
しばらく経ってから、反応があった。
まあ、無理もない。このおばあちゃんのお店に足を運んだのは、実に四年ぶりだ。以前はアストリッドと一緒に来た。師匠は何だかよく分からないものを山ほど買い込んでいて、当時は不気味で仕方が無かった。たびたび足を運んでいたのだけれど、師匠はいつからか外に行くのも面倒くさがるようになって、必然的にこのお店にも来なくなった。
ざっと棚を見るけれど。
商品の保存状態は、お世辞にも良いとは言えない。
ただ、ものが分かるようになってきた今は。其処に、珍しいものがたくさんあることが、理解できた。
「これと、これと、それにこれをお願いします」
「はいはい、毎度あり。 またよろしくたのむよう」
代金を渡す。
魔女だとしても、もうすっかり衰えてしまっている。何でも噂に聞いたところによると、戦場で娘を亡くし、孫達とは疎遠だとかで、寂しい老後を送っているという。このお店も、おばあさんが体調を崩してしまったら、おしまいになるのだろうか。
店を出て、今度は工場に。
荷車をがらがら音を立てて引きながら、必要な素材を揃えていく。
今回作ろうとしているのは、一種のお香だ。
ただし、以前作った任意の幻覚を見せるときに使ったアロマとは、放出できる臭いの桁が違っている。
だから、仕組みからして、大がかりなのだ。
森一つ分に、強烈な臭いを行き渡らせなければならないのだから、当然だろう。しっかりした土台も作らなければならない。
課題を突破するには、準備が必要だった。
工場でも素材を集めると、最後に隣の親父さんのお店に。設計図を渡すと、親父さんは唸った。
「これは香炉と言うよりも、鼎に近いな」
「カナエ?」
「大昔にあった、三脚のついた鍋のようなものだな。 ちょっと待ってろ」
親父さんが持ってきたのは、小さな模型。
確かに、ロロナが参考書で見たものと、よく似ている。ただ、これは非常に重いのだとか。
「アーランド戦士でも、二人がかりで運ぶことになるぞ。 ましてや中に一杯薬を入れるんだろ?」
「はい。 まずは実験から、ですけれど」
「どうしてこれにするんだ」
「ヴァルチャーを追い払うための、お薬を入れるんです。 その時、嫌がったヴァルチャーがひっくり返せるようだと、話になりませんし」
何より危ない。
今回のも、あまり激しくないとはいえ、臭いを放出するために火を使う。もしもひっくり返されると、森が火事になってしまう。
ヴァルチャーは体が大きくて、パワーがある上に、風の魔術まで使う。
幸い、自分に届く臭いを防ぐような器用な真似は出来ない様子だけれど。風の魔術で飛ばされてしまうような土台では、使用できない。
ましてや、今回の道具は、時間差を置いて使うのだ。
昼の内に、ヴァルチャーが群れている森に置いてきて、夜くらいには臭いが充満するようにする。
そして、数日は保たなければならない。
大がかりなお香になる。
それこそ、大昔のカナエというものほどに。
「まあ、分かったけれどな。 ただ、これを作るとなると、かなり金が掛かるぜ」
「お金は、どうにかなります」
「そうか。 じゃあ、頼むな」
親父さんに一礼して、お店を出る。用事を一通り済ませて戻ると、お昼近くにまでなっていた。
すぐに食事を作る。
ホムは無言で黙々と働いていた。子供らしく、食事の臭いに敏感になれば面白いのに。殆ど、食べる事に、興味を見せないのだ。
パメラはと言うと、朝から師匠と一緒に出かけている。
何をしているのかは、よく分からなかった。
実のところ、ここ数日、パメラは頻繁に出かけている。何をしているかは教えてくれないのだけれど。師匠と一緒に出かけているのだし、どうせ碌な事をしていないだろう。それにパメラと師匠は、もう隠すこともなくつるんでいる。一緒にロロナをいじくったりするので、大変困り果てていた。
今日は得意なミートパイにする。丁度良い兎が手に入ったこともあって、これ以外には考えられなかった。
既に、単純なパイなら、錬金術でお店のものか、それ以上のものが作れるようになっている。
数を散々こなしたからである。
ホールパイを切り分けて、二人で食べる。師匠はどうせ、今日は帰ってこないだろう。
「ホムちゃん、美味しい?」
「美味しいです」
「そっかあ。 全然表情が変わらないから、分からないよ」
「申し訳ありません。 マスターに、表情を作る機能は、付けていただけませんでしたので」
そうか。そう言われると、少し悲しい。
ホムは、本当に人工の生命なのだと、再認識してしまう。
「量は大丈夫かな」
「問題ありません。 少し多すぎるくらいです」
「うん、それじゃあ次からは減らすね」
片付けを済ませると、次。
集めて来た材料は、実験用も含んでいる。色々調べて見たのだけれど。鳥よけの香料は、存在している。
たとえば小鳥よけ。
小鳥を追い払うには、猛禽の臭いを使うのが良いとされている。小鳥がたくさん集まって、糞害に困っている場合に、使用するものだ。
普通使うのは隼や鷹の翼や肉、後は糞など。
ただ、今回追い払うのは猛禽だ。そうなると、やはり蛇が対象になるだろうか。しかし、蛇を好んで食べる鳥もいる。蛇が鳥の天敵だとするには、少し考えが安直だ。
ヴァルチャーを、捕獲しなければならないだろうか。
資料を調べていく。
どうやら、近くの森の東側にある小さな林が、ヴァルチャーの群れに占領されたのは、時間にして60年ほど前だそうである。
丁度その頃は、アーランドが隣国と戦争をしていた事もあって、顧みられることもなかった。
戦争そのものはアーランドの圧勝で幕を閉じたらしいのだけれども。相手の国力がアーランドの数十倍はあったという事で、王様も前線に出るほどの総力戦だったそうである。ちなみにその結果、相手国は滅亡。ただし、アーランドも相応の被害を被った。
ともかく、その影響で、本来だったらあり得ない状況が出来、放置されて今まで来てしまったのだ。
それからヴァルチャーの群れが掃討されなかったのは。
ヴァルチャーがいついてから、森が露骨に豊かになった事。これはヴァルチャーが運び込んだ死肉やその糞が原因だろう。
彼らの営巣地ではないことが確認されたこと。
更に言えば、被害が出ているとは言え、小さいということ。
もう一つを付け加えるなら、この戦い以降、アーランドでは戦士の数が露骨に不足した。何でも滅亡した国も領土に取り込んだ結果、巡回する地域が膨大に増えてしまい、戦士の手数が足りなくなったのだという。
このため、とてもではないが、危険性が小さい相手をわざわざ討伐する余裕など、なくなってしまったらしい。
いろいろな理由から、ヴァルチャーの群れは放置され。
そして、今に到っている。
ロロナがその対処を任されたのは、名誉なことなのだろうか。もしそうだとすれば、なんとしても成し遂げなければならない。
それに、ヴァルチャーを殲滅してしまうのは、それはそれでまずい。
やはり、お香を使って追い払うのが、一番だろう。
資料を調べる。
鷹を操作するお香というのを見つけたので、付箋を付けておく。ただこれは、鷹の感情をある程度コントロールする目的のものらしい。
鷹を使って狩りをする、辺境でも更に辺境の人々のために、十何代か前の錬金術師が作った道具だけれど。
アーランドではなじみがない。
確か、鳩を使った手紙配達は、何処かでやっていると聞いているけれど。それもまた、今回の作業では、応用が利かないだろう。
「マスター。 栄養剤、仕上がりました」
「うん、分かった。 樽を、コンテナに入れておいて」
「分かりました」
黙々と、ホムが樽を運んでいく。力ならロロナより確実に上だ。実際、苦労もせず、自分以上の体積はある樽を運んでいる。
師匠が作ったのだから、何とも思わない。
あの人はどれだけの無茶を実現しても、不思議では無いのだ。ため息が漏れてしまう。師匠がこの課題に手を付けたら、一瞬で終わってしまうだろうに。
少しはやる気を出して欲しい。
師匠が、帰ってきた。
参考書に目を通しているロロナを一瞥だけすると、どっかとソファに座る。そういえば、パメラがいない。
「あれ、パメラさんは?」
「ああ、彼奴はこれから店をやる事になった」
「お店、ですか?」
「ティファナの家の二つ隣に、空き家になっている襤褸屋があるだろう。 彼処を買い取って、パメラが住むことにした」
確かあの店は、かなり古くて、幽霊が出るという噂があった。何でも前の持ち主が、夫婦揃って戦死。その無念もあって、今でも化けて出るという。どちらも死んだときの姿のままで、凄まじい形相で迫ってくるとか。
師匠に聞かされた、トラウマ昔話の一つだ。
その後、ぶるぶる震えているロロナを、師匠が恍惚たる笑みで見ていた事を、よく覚えている。
「あの家、確か幽霊が」
「嘘に決まってるだろう。 というか、前の持ち主は、家を売ってもっと大きな家に引っ越したのだ。 今でも元気にやっている」
「ししょー! 酷いです!」
「だってお前が怖がる様子が、あまりにも面白かったのでな! ついその場ででっち上げてしまったのだよ、許せ」
けらけら笑いながら、師匠が自室に引き上げていく。
どっと疲れたけれど。言い返す気力も沸かなかった。とりあえず、近いうちにお土産でも持って足を運ぼう。
それに、パメラが売るものにも、興味があった。
そう決めると、作業を続行。今日は一日、この作業に費やすことに決めている。気がつくと、夕刻。
パメラがいないと、ぐっと静かだ。
散々いじくられたし、怖がらせられもしたけれど。アトリエからいなくなると、少し残念ではあった。
翌朝。
ホムを連れて、クーデリアと外出する。ホムがどれだけの能力があるか、実際に見ておきたかったからだ。
荷車は最初ロロナが引いていたが、街を出た辺りで、ホムに代わる。
栄養剤を納品する際に、どれだけやれるか。見ておきたいのである。クーデリアが、リボルバーを開けて弾を隣で確認していた。
そういえば、隣の親父さんが。クーデリアに用があると言っていた事を思い出す。
「くーちゃん、今日の帰り、親父さんの所に寄ろう。 銃を改良してくれるって言ってたよ」
「そうね。 威力不足が目についてきたし」
「ショットガンはどう?」
「ショットガンよりも徹甲弾が使えるライフルが良いのだけれど。 ただ、取り回しがね」
クーデリアは身体能力も上がってきているし、銃の重さなど気にならないだろう。ライフル如きでは役に立たないから、どうせなら軽い方が良いと言う事で、牽制用に拳銃を使っているという意味もあるようだ。
ただ、やはりライフル弾に能力を乗せると、威力は相応に上がるのだという。
「拳銃でライフル弾を撃てないかな」
「そんな馬鹿な事……出来るなら、それが良いけれど」
理論的には出来る筈だ。
ただ、銃火器はアーランドではあまり発達していない。役に立たないからである。上位の戦士になると、銃弾なんか見切って斬るのは当たり前。当たったところでびくともしないのだから、当然か。
ひよっこだって、銃弾では殺しきれない。
ロロナだって、ライフル弾くらいで死ぬほど柔ではない。ロロナでさえ、そうなのだ。
「仮にライフル弾撃てる拳銃を作っても、反動が大きいから、牽制の意味ではちょっと使い道がね。 破壊力はライフル弾並で、今までの銃と同じには出来ないのかしら」
「くーちゃん、それは流石に……」
「分かってる。 あたしもこれで、魔力は毎日鍛え込んでるから。 今後は、もう幾つか切り札増やす予定だし、ね」
会話を横目に、ホムは無言で荷車を引いている。
小さな体だけれど、全く問題は無い。やがて、荒れ地が見えてくる。既にびっしりと雑草が生い茂っていて、キューブ栄養剤の効果で、低木も葉っぱを豊かに付けている。ただし、ため池の水量は、相変わらず寂しい。今後森の中核になるような大きな木を生やす場合は、もっと水がいる。
ジェームズに手を振る。
気むずかしい老人は、ロロナを見ると鼻を鳴らした。
「栄養剤の納品か。 さっさと来い」
「今日は、この子が交渉をします」
「よろしくお願いします」
ぺこりと一礼をするホム。
ロロナは笑顔のまま側に立ち、様子を見守る事にした。ジェームズは若干うんざりしたようだけれど。
きちんと、対応してくれる。
納品した樽を受け取って、中身の確認。
今回はキューブ状栄養剤を樽二つ。普通の栄養剤を樽三つ、作ってきた。栄養価は、以前より上がっている筈だ。
「良いだろう。 俺から上に報告はしておくから、後で王宮に行って報酬うけとりな」
「有り難うございます」
ホムが頭を下げる。
交渉はつつがなく終わった。と言いたいところだが。
実際には、何ら問題が無かったのだから当然だ。何か問題を仕込むべきだったかとロロナは思ったけれど。まあ、最初はこんな所だろう。
今回の件で、通常通りの納品なら、ホムに任せられることが分かった。問題はモンスターに襲われたり、イレギュラーがあった場合だが。
流石に、こんな小さな子を、モンスターにけしかけるわけにはいかない。師匠は強いと言っていたけれど。ロロナの倫理観が許さない。
アトリエに先にホムを戻すと、クーデリアと一緒に、親父さんの店に。
親父さんは、金床で、何かを忙しく叩いていた。
「今、忙しい。 ちょっと待ってろ」
不機嫌そうな声。
そういえば、少し前から、親父さんは相当に忙しいそうだ。確かに大物モンスターが彼方此方に出没しているとなると、それも当然だろう。
戦士の武器は消耗品だ。
どれだけ丁寧に扱っていても、痛む。折れないにしても、刃こぼれを直さなければならない。
手入れくらいは、どの戦士も出来るとしても。
痛みすぎた場合は、親父さんのような本職で無ければ、どうにも出来ないというのが現実だ。
仕事が終わったらしく、親父さんがこっちを向く。手元には、柔らかそうな毛皮に包んだ抜き身の剣があった。
「銃を、改良できるという話だけれど」
「見せてみな」
クーデリアから、やっぱり機嫌が悪い親父さんが、銃を受け取る。
しばらく上下に見回していたけれど。やがて嘆息した。
「これは、誰にもらった」
「うちの倉庫にあったものよ。 兄たちはもっと良い武器をもらっていたようだけれど」
「なるほど。 これはな、コルトって言う銃だ。 オルトガラクセンなんかの遺跡で発見される、旧時代の銃火器だよ。 旧時代のだから現在の人間やモンスターには通じないが、作成している技術力は向こうが圧倒的に上でな。 詰め込む銃弾次第では、強烈な威力を発揮するんだよ」
幾つかのパーツについて説明してくれたけれど。確かに、現在の冶金技術では、作れないものも多いようだ。
ただ、それでも親父さんは、銃を分解して、調整を行う。
しばらくハンマーで無心に叩いていたが。やがて、難しい顔をして、クーデリアに手渡した。
「どれ、取り回してみな」
クーデリアが、手慣れた動作で、体を動かす。
舞うような動き。
クーデリアは敵の気を引くことが極めて上手だ。ロロナが術式を展開するまでの時間を、いつも稼いでくれる。
そして彼女の舞には、実戦武術の動きが、貪欲に取り込まれている。ロロナから見ても、以前とは雲泥の差だ。確かに、クーデリアは、確実に強くなっている。
「良い感じよ。 前より、かなり軽くなったわ」
「幾つかの部品が、ほんのちょっと曲がっていたのさ。 技量が上がってくると、そういった些細な事で、取り回しに影響が出てくる。 弾丸の方も見せてみな」
クーデリアが、言われるままに、ポケットから弾丸を取り出す。
殆どはただの鉛弾だ。ただし、表面には文字がしっかり書き込まれている。言うまでも無く、その弾丸には、魔術を掛けられるようになっているのだ。クーデリアの特殊能力を知っているロロナは、驚かない。
「もっと良い金属を使わないのか」
「あたしが自由に出来るお金は、そう多くないわ」
「そうか。 ちょっとこれを試してみな」
親父さんが、青黒い弾丸を取り出してくる。
いずれもが、色以外は、今までクーデリアが使っていたものと、大差ないように思えたけれど。
クーデリアは弾丸を見て、驚きの声を漏らす。
「これ、ひょっとして」
「シルヴァタイトだ。 かなりの高級金属だが、切り札をこの弾に乗せてみな。 吃驚するくらい、威力が出るぜ」
一発ずつの値段が、相当高額になるとも、親父さんは付け加えた。
シルヴァタイトといえば、かなりの貴重な金属だ。加工次第では、相当に強力な武器防具に化けるとも聞いている。
もっとも、使い手の方が優れている現在。武器防具が如何に優れていても、場合によっては通用しないが。
クーデリアが見つめている弾丸も、それは同じだろう。
拳銃という武器そのものが、人間には通じにくいのだ。弾が基本的に遅い。残像を残して動くような奴が珍しくもない現在、拳銃の弾程度では、そもそも強い相手には当たらないのである。
つまり、弾丸の威力がどれだけあっても、使い所を間違えれば塵になってしまう。実力がついてきたからこそ、親父さんはクーデリアに、この弾を渡したのだろう。
「弾速を上げられないかしら」
「今の弾速だと遅いか?」
「残像を残すような相手だと、戦術を工夫しないとかなり厳しいわね。 格上の相手と戦う時のことを想定すると、今の拳銃だとパワー不足よ」
「いきなり武器を変えると、慣れるまで時間が掛かるぞ。 ちょっと待っていろ」
親父さんは店の奥に行くと、幾つか銃を取り出してくる。
その中には、クーデリアの手には大きすぎるように見える、見るからに凶悪な銃も幾つかあった。
流石に、何でも揃っている。
親父さんが考えた末にクーデリアに渡したのは。もう拳銃とは思えない、とても大きなものだった。銃身も非常に長い。
「此奴はライフル弾を発射できる銃だが、反動がデカイ。 現在の技術では作れない代物だから、触るときには気をつけろ」
しかも、ライフル弾だけではなくて、大口径の弾丸もだいたいは扱えるという。非常にキワモノ的な代物だ。
大きいし、何よりおっかない。
これだと、重さが禍して、クーデリアが使いこなせないのでは。ロロナは心配したが。しばらく取り回していたクーデリアは、意外なことを言った。
「思ったより、随分軽いわ」
「撃ってみるか」
「……」
クーデリアは言われるまま、店の裏の射撃場に。
其処で的に向けて、何度か発砲。発砲音がかなり凄い。ただ、クーデリアの狙いは正確そのもので、最初から的の中心部に命中させた。その後も、連続して的の中心部に、ほぼ誤差もなく当ててみせる。
問題は、現在。弾丸が当たったところで、倒せるような魔物などほぼいないという事だが。
「弾速もかなり出るわね。 これなら当てやすいわ」
「それは流石に売れないから、俺が作ったカスタムモデルを用意するわ。 マグナム弾を発射できるようにしてある。 形状はほぼ同じだ。 金は用意できるか」
「どうにか」
受け取りは、数日後と決まった。
クーデリアの手形を取った親父さんが、何だかよく分からない部品を幾つか出してくる。これから、クーデリアの手に合わせて、調整するのだろう。
ロロナの杖についても聞いてみる。
幾つか出してきた、重そうな杖。それに、どれもこれも、非常に高額そうだ。ただ、持ってみて、驚いた。
軽いのだ。とても。
「力がついてきたな。 後は、金属が相応にあれば、安く作れるぜ」
「やっぱり、そうなりますか」
「ああ。 此方でも、貴重な金属は高値になるんでな。 まあ、用意できないことはないが」
値段を聞く限り、どれも手が出ない。
クーデリアはお金持ちという事を、こういうときに、思い知らされる。
カタログを見せられて、やはりゴルトアイゼンが適当だろうと、ロロナは結論。加工法についてのアドバイスをもらった後、引き上げることにした。
アトリエに戻ると、すでにホムがコンテナに荷物を片付け終えていた。
「ホムちゃん、そのまま栄養剤の中間素材の生成をお願いね」
「分かりました」
ロロナ自身は、昨日に引き続いて、ヴァルチャーを追い払う臭いを研究する。クーデリアにも手伝ってもらう。
ヴァルチャーに天敵がいれば良いのだけれど。
少なくとも、今までの資料で、それはほぼ見つけられなかった。蛇のモンスターでも、ヴァルチャーを専門で狙う奴などいないだろう。
と、思っていたのだけれど。
しばらく資料を探していたクーデリアが、何か見つけてきた。
「ロロナ、これは?」
「えっ……」
思わず声を上げてしまう。
なんと、天敵の記述がある。慌てて資料を見直すと、全く関係ないと思い込んでいたものだった。
過去の獣という資料である。
どうやって調べたのかよく分からないけれど。既にアーランドにはいない生物の記録が、多数残されている。
よく調べてみると、オルトガラクセンの内部に、そういった情報を記録する機械があったのだという。
なるほど、それは確かに、過去の獣だ。
二人で資料を読み進めてみる。
それによると、記述はこのようになっていた。
その獣は、現在ベヒモスと言われているモンスターの直接の先祖であったらしい。世界がまだ混沌に包まれていて、アーランドでも王都以外にほぼ村も街もなく、人々がその日暮らしをやっと送っていた、更に前。荒野で王者として君臨していたそうだ。
見ると、今のベヒモスよりもだいぶ小さい。
ただ、当時の人類では、太刀打ちできない相手であったそうだ。遭遇する度に多くの被害が出たと、記録が残されている。
今では、更に強力なベヒモスでもそう苦労せずに狩っているのに。昔は、そんな時代もあったのだと思うと、不思議だ。
原初ベヒモスとでもいうべきそのモンスターは、多くの動物を好んで喰らったが。中でも鳥が好物で、大型の鳥類。特にアードラなどを、好んで食したという。勿論ヴァルチャーも、その中に入る。
化石の図が書かれていた。
骨になっている原初ベヒモスの腹の中に、多数の獲物の骨。糞の化石も載せられている。頭からばりばり食べてしまうようで、かなり砕かれた骨が見える。確かに、ヴァルチャーの骨が、相応に見えるようだった。
これは、使えるかも知れない。
「この原初ベヒモスって、もういないのかな」
「いるでしょ、ベヒモスが」
「うーん。 でも、原初ベヒモスそのものの方が、良いような気がするんだよね」
思い立ったので、コンテナに。
以前カタコンベから拾い集めてきた骨を調べて見る。どれもベヒモスのものではない。ましてや、原初ベヒモスのものも、含まれてはいなかった。もしもあるとすれば、相当に古いものとなるだろう。
以前幼体ベヒモスを倒した時に、体の部品を幾らかもらった。
今、骨にして飾っている分がある。それを少し使って見れば、或いは効果があるかも知れないけれど。
考え込んだ末に、一旦保留。
ベヒモスが、鳥を好んで食べるなどと言う話は、聞いたことがない。原初ベヒモスとは、好みが違うのかも知れない。
クーデリアにも聞いてみるが、首を横に振るばかりだった。
「昔はアードラやヴァルチャーが手頃な獲物だったのかも知れないけれど。 今のベヒモスは、もっと捕らえやすい手頃な獲物がいくらでもいるでしょう。 多分、鳥を襲うことがあっても、好んで食べる、という事はないでしょうね」
「そうだよねえ。 でも、原初のベヒモスなんて、もういないでしょ。 骨も、何処で見つければ良いんだろう」
カタコンベにいくしかないか。
彼処なら、骨と名がつくものなら、だいたい揃っていそうだ。
今回も、ぎりぎりになるかも知れない。
動くなら、早い方が良い。
天敵を用いての誘導。それにはまたカタコンベに行く必要もある。
様々な人と関わり、様々な事をこなしてきたロロナは。
それだけ力を増してきて。
出来る事が増えてきているのです。
困難もまた、加速度的に増えているのですが。
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