暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
依頼追加ドン。
仕事ができるようになってきたからこそ、こういう困難も増えてきます。
ロロナの実力がついてきたからこそ、アクシデントは更に厄介なものが増える訳ですね。
青ざめることになった。
ステルクの所に、カタコンベへの同行を頼みに行ったら。最悪の事態を聞かされたのである。
追加依頼だ。
「此方を優先的に解決して欲しい」
そういって渡されたのは、予想通りの依頼だった。
あの荒れ地に流れ込んでいる、小川の調査である。
数日前から、更に水量が減ってきているらしいのだ。水源は問題が無いのだが、それから川下に到る地域を調べるとなると、手が足りない。
ロロナも息を呑む。
かなりの広域が、調査対象となっていた。
勿論場合によっては戦闘も想定される。ステルクがついてきてくれるのが不幸中の幸いだけれど。
それにこの課題は、川下の村の人達にとっては、死活問題だ。
ロロナとしても、放置しておく訳にはいかなかった。
「分かりました。 すぐ、対応します」
「頼むぞ」
咳払いしたのはクーデリアだ。
袖を引かれる。王宮を出た後、案の定がみがみ言われた。
「ちょっと、抗議の一つくらいしなさいよ。 本来あんたの仕事じゃないし、騎士団の怠慢でしょう!」
「そうだけど。 でも、やっぱり放ってはおけないよ」
「お人好し」
「ごめんね。 でも、大勢の人を助ければ、きっと……」
それ以上の言葉は飲み込んだ。
ロロナが考えている事は、クーデリアには悟らせたくないのだ。ため息をつくと、クーデリアはアトリエに戻ろうと言った。
明日から出かけるにしても、準備がいる。川をさかのぼって調べるにしても、数日は歩き通しになるだろう。
アトリエに戻ると、まずコンテナから耐久糧食を引っ張り出す。
念のため、十日分を準備。それ以外にも、持ち運べそうな発破や武器類は、みんな持っていくことにした。
回復薬や、包帯の類も揃える。
いそいそと準備をしていると、アストリッドが大あくびをしながら部屋から出てきた。
「どうした、くーちゃんと楽しくキャンプか?」
「くーちゃんいうな。 新しい仕事が押しつけられたのよ」
「ふうん。 その様子だと、調査作業。 あの涸れかけている小川のだな」
流石に師匠は鋭い。
でも、助けてくれそうにはなかった。
昼食を作れと言われたので、準備はクーデリアに頼んで、さっさと料理する。丁度良いお魚があったので、火を通して焼き魚に。サラダ類も準備して、師匠の待っているテーブルに並べた。
ただ焼くだけではなく、サワーアップルの絞り汁を使って、味にアクセントを付けている。
クーデリアとロロナの分を焼いた頃には。師匠はもう食べ終えていた。
「料理も上手くなってきたな」
「もう、師匠も手伝ってくださいよ」
「まあそういうな。 そうそう、パメラの奴が、もうすぐ店を準備できそうだ。 お前達が帰ってきた頃には開けるだろう。 帰りにでも寄ってやれ」
分かりましたと応えるけれど。気が重い。
どうせ散々脅かされるに決まっている。
準備が終わったのは、夕刻。それからは、原初ベヒモスについて、もう少し調べておいた。
もしもヴァルチャーにとっての絶対的な天敵だったのなら。その骨を香料に混ぜれば、必ず追い払う事が出来るはず。
準備は、並行で進めておかなければならない。
遠出になる事が分かっていたので、ホムには細かく指示を出しておいた。
栄養剤の調合も、昨日のうちに教えた。問題なく作れることも分かっていたので、納品についても指示をしておく。
ステルクとクーデリアに同行は頼めたが。案の定イクセルは駄目。リオネラはここ数日姿が見えないし、タントリスも用事があると言うことで、結局この三人で出かけることになった。
リオネラが、病院にもいなかった事は少し気になるけれど。
彼女も、一人で生活している立派な大人だ。
それに、何か事故が起きたという話も聞いていない。ただ、何処かにいるにしても、声は掛けて欲しいのだけれど。
北門に出ると、ステルクが待っていた。
どういうわけか、タントリスもいる。何か話していたようだけれど、近づくと、タントリスはいつも通り、気持ち悪いくらいの甘い声で話しかけてくる。
「やあハニー。 久しぶりだね」
「昨日あったじゃないですか」
「それは随分と久しぶりなことだ。 君の顔を見られなくて寂しかったよ」
苦笑いするロロナの前で、クーデリアが咳払いする。
さっさと行こうと、促された。
「ああ、待ちなよ。 リオネラ君のことだけれどね」
「えっ!?」
「どうやら病院を出て、近くの安宿に移ったようだよ。 何でも魔術の修行をするのが目的だとか」
そういえば。
最近、彼女の自動防御が少し物足りないと思い始めていた。何も口にはしなかったけれど、自主的に勉強をするつもりになったのかも知れない。
でも、どうしてそれを知っているのだろう。
クーデリアに促されて、先に行く。
一応お礼の言葉は口にしたけれど。どうも引っかかる。あの人、何か隠しているのではないのか。
ステルクに聞いてみるが、知らないとしか言われない。
「それで、どうする」
「まず、西に。 小川に行き当たったら、上流へ北上します」
「ふむ……」
ステルクは反対しない。
街を出ると、すぐ荒野になる。川の近くは緑がある場所もあるけれど。やはりこの世界は、まだまだ緑になるには遠いのだ。
荷車を引きながら、小川に出るまで、数刻歩く。
小川に突き当たると、既に水量が、相当に削り取られているのが分かった。このまま水量が減り続けると、危険だ。
ステルクは既に剣に手を掛けながら歩いている。
何が出ても不思議では無いことは、ロロナも分かっている。だから、荷車には、あらゆる道具類を積んできているのだ。
「ステルクさんは、この辺りに来たことは?」
「前に何度かあるが、そう詳しくはない」
「そうですよね。 何か、今回の件で、心当たりとかはありませんか?」
ないと即答されて、少し困ったけれど。
確かに、騎士団でも心当たりがあれば、それを突いているだろう。
上流へと、黙々と歩く。
時々何か話を振るけれど。既にステルクは戦闘モードに入っていて、返答はいずれもそっけない。
歩いていると、時間は容赦なく過ぎていく。
支流にぶつかった。
協力して、荷車を担いで川を渡る。橋などある筈もない。ずっと東に行って街道に行けばあるけれど。そんな時間はない。
川には魚も少し泳いでいるけれど。
このまま水量が減れば、いずれ川ではなくなってしまうだろう。非常に危険な状態だと言える。
「騎士団は、忙しいんですか?」
「少し前に、アランヤでモンスターの大量発生があってな。 どうもオルトガラクセンから、定期的に強力なモンスターが出てきて、そいつらが他のモンスターを統率して、群れを作っているらしいのだ」
騎士団は討伐にてんてこ舞い。
どれだけ人員がいても、足りないのだという。
王も毎日出陣しては、モンスターを片付けていると言うから、なおさらだ。ロロナに声が掛かる位なのである。壮絶な忙しさなのは、間違いないのだろう。
ステルクはそんな中。時間を無理に作ってくれたのだとか。
確かにこの任務、騎士団が本来するものだ。ステルクが来てくれたのはありがたいけれど。責任も重大である。
日が暮れた頃、野営する。
水は側にあるけれど、火を通して濾過しないと危ない。
食べ物は用意してあるから大丈夫だけれど。クーデリアが火を熾しているのを横目に、ステルクはじっと遠くを見ていた。
何か、そちらにあるのだろうか。
「ステルクさん、どうしたんですか?」
「私の友人が、足を路ならぬ闇に踏み外してな。 私ではどうすることも出来ずに、困っていた。 考えても、どうすれば良いのか分からない」
思ったよりも、深刻な悩みだ。
アーランド戦士は、ずっと過酷な環境にいるから、心が壊れてしまうことも多いとロロナは聞いている。
ステルクの友達とは、騎士だろうか。
だとすれば、悲しい事だ。
「ステルクさんは、その人が好きなんですか?」
「そうだな。 かっては愛したこともあったか」
これは、意外な話を聞くことになった。
ロロナだって、恋愛沙汰には興味がある。ただ、ステルクの表情が深刻だったので、あまり深く追求することは出来なかった。
耐久糧食は持ってきているけれど。今日はまだ、使わない方が良いだろう。その辺りで、ステルクが取ってきた野ウサギを捌いて、焼いて食べる。
しばらく肉を焼いていると、油がたき火に垂れはじめた。
本当に小さい子ウサギであれば、骨ごとかみ砕いて食べる事が出来るのだけれど。今日取ってきたのは、どれも大人の兎なので、そうはいかない。
骨のついた肉をしゃぶりながら、ロロナはステルクの話を聞く。
「もう少し北上すると、小川が分岐している。 片方は、ネーベル湖に流れ込んでいる」
「ネーベル湖ですか。 一度、行ったみたいですね。 前に師匠から聞いたんですけれど、避暑地として最適だとか」
「危ないぞ。 彼奴だからモンスターをものともしないのであって、君達の力量では、かなり命がけになる」
ぱちんと、たき火が音を立てて爆ぜた。
それから、三人で交代して、休む。順番に一人ずつ見張りに立って、明け方まで休むのだ。
ステルクにも休んでもらう。
今回は長丁場になる可能性が高い。
徹夜くらいは平気だと思うけれど。それも、最初から最後までやっていたら、いくら何でもからだがもたないだろう。
ロロナは最初の見張りになった。
二人には寝袋に入ってもらって、一人たき火の側に座り込む。毛布を被ると眠ってしまうので、敢えて少し寒い格好にする。
星の読み方は分かるから、今がだいたいどれくらいの時間かは分かる。
既に遠くには、アーランドは見えなくなっていた。アーランドの明かりの付き方でも時刻はだいたい分かるのだけれど。
東の方には、小さな明かりがある。
おそらくあれは、街道沿いにある村の一つだろう。
ロロナの調査が上手く行かなければ、ああいう村が幾つか、とても困ることになる。勿論その場合は、騎士団が優先順位を上げて対応に掛かるのだろうけれど。せっかくいままでの課題をこなして築き上げてきた信頼も、地に落ちてしまう。
モンスターが原因ではないと良いのだけれど。
遠くで、何かが吠えているのがわかった。
狼にしては、少し声が野太い。
凶暴性が強い特殊な狼も何種類かいると、ロロナは聞いたことがある。群れと戦えば、苦労は免れないだろう。
ぎゅっと身を縮めた。
思ったほど怖くはないけれど。
戦う時には、クーデリアが、自分が傷つくことを厭わないだろう。それがロロナには、あまり好ましく思えなかった。
朝から、北上を続ける。
相変わらず、川の水量は落ちている。まだ、原因と思える地点は、発見できない。丸一日掛けて川沿いに北上。
勿論、川の分岐点も確認した。
ネーベル湖に向かっている支流も、少し水量が落ちているようだ。ただ、ネーベル湖には四ヶ所から水が流れ込んでいるという事だから、干上がることはないだろうけれど。支流も調査したので、かなりの時間をロスした。泊まり込みながら、調べていったが、成果無し。
もっと上流に上がるしかないだろう。
上流に進むと、川から時々顔を覗かせている大きな白い姿がある。
「島魚だ」
「あれが! うわ、おっきいですね!」
「近寄るなよ。 非常に獰猛だ」
聞いたことはある。陸上にも平気で上がってくる、極めて獰猛な魚の一種。いや、魚かどうかさえ、よく分かっていないモンスター。
巨体を使って獲物を押し潰して食べる。口は巨大で、小さな獲物なら、そのまま一呑みにしてしまう。
ステルクが見張ってくれているから、多分大丈夫だろうけれど。
川の中に点々としていて、何とも恐ろしい。
ただ、支流との分岐点から離れると、生息域から外れたのだろう。もう姿を見ることは無くなった。
更に北上。支流を見つけては、調査。
その間、何の成果もなかった。流石にこれだけの日にち、野営を繰り返しながら歩き続けたのは初めてだ。
疲れはしないけれど、少しずつ神経がすり減っていくのが分かる。
ステルクは平然としている。
クーデリアも、疲れをまだ見せてはいない。
街から離れると、それだけ周囲はモンスターの気配が、露骨に強くなって行く。ロロナとしても、これ以上街から離れたくはなかったけれど。
まだ、原因地点は特定できない。
いい加減不安になってきた頃。
それは、唐突に現れたのだった。
ステルクが足を止める。
小川に、支流が出来ている。それも、かなり大きな奴だ。すぐ側に沼沢地があるけれど、其処へ流れ込んでいる。
しかし、どうも様子がおかしい。
地図を見ると、昔からある沼沢地なのだけれど。どうも水が多すぎるように思えるのだ。しかも、小川の様子を見ると。その支流の辺りから、水量が露骨に減っている。
どうやら、此処が原因に間違いないか。
地図を、もう一回確認。ステルクにも見てもらう。
どうやら、此処には前から支流があったらしいのだけれど。
確認すると、明らかに広げられた形跡がある。川の岸を確認。間違いない。無理に広げた大きな爪痕があった。
明らかにモンスターの仕業と見て良いだろう。
「この爪痕、生半可な相手じゃないわよ」
「ステルクさん、どうすれば良いですか? これ、騎士団を呼んだ方が……」
「まず、応急処置をしよう。 水量を調整することで、下流へ行く水の量を、元に戻す」
ステルクが顎で示したのは、荒野にごろごろしている大岩だ。
ロロナが運ぶのは難しいけれど。ステルクが運ぶのなら、そうそう苦労はしないだろう。問題は、運んでいる間の事だ。
「周辺の警戒に当たってくれるか」
「分かりましたっ!」
すぐに、荷車から、発破類を取り出す。
手投げ式のフラムも、今回は幾つか持ってきた。勿論、最初に作ったフラムに比べると、破壊力が段違いだ。発破をたくさん作って納品している内に、こつも掴めてきているのである。
「くーちゃん、周囲に何かいる?」
「今の時点で、近くに気配は感じないけれど。 あっちの沼沢地には、多分いるわね」
そうなると、彼処に住んでいるモンスターが、原因だろうか。もしそうだとすると、応急処置だけでは、駄目かも知れない。
モンスターの気配については、クーデリアの言葉が正しい様子だ。
ステルクがじっと沼地を見ているので、まず間違いなくいるとみて良いだろう。
知能が高いモンスターであれば、会話が成立するかも知れないけれど。流石にそれは望み薄だ。
悪魔の長老と会話した経験はあるけれど。
あれは、どうも例外のように思えてならない。
「ステルクさん、護衛を頼めますか」
「何をするつもりだ」
「モンスターに、まず呼びかけてみます。 ひょっとしたら、会話が出来る、知能が高いモンスターかも」
「何を馬鹿な」
一笑に付そうとしたステルクだが。
ロロナの表情が真面目なので、咳払いした。クーデリアはやれやれと肩をすくめている。最初から、そう言い出すことを、分かっていたのだろう。
沼地に、入り込む。
「すみませーん! お邪魔します!」
真っ正面から行ったので、ステルクが唖然としていた。クーデリアは平然としている。これは、ロロナをあまり知らない人間と、知っている人間の差だ。
沼の中に入ると、かなり足が沈み込む。
だが、いわゆる底なしではなくて、ある程度でとまった。それにしても、汚いというか、生理的な嫌悪感を刺激される沼だ。所々青紫色の泥が泡立っていて、動物もいない。異臭も酷かった。
ロロナは進み出ながら、何度か挨拶。
やがて、住処を荒らされたからか。面倒だと思ったからか。
或いは、真面目に真正面から入ったロロナに、感心してくれたのか。いずれかは分からないけれど。
沼の一角が、泡立ちはじめた。
泥と水草を押しのけるようにして、巨体が姿を見せる。
それはおそらく、悪魔の一種だろう。手足に水かきがついているが、以前見た悪魔の長老に、姿がよく似ている。ただし、子供程度の大きさだった向こうとは違って、とにかく大きかった。
文字通り、見上げるほどの巨体だ。
この間戦った幼体ベヒモスよりも更に大きい。
「すみません、すみかに入ってしまって!」
「人間か。 何用か」
「水を沼地に引き込んだのは貴方ですか?」
幸運だ。
怒らせないように、できる限り穏便に話を進めたい。それに、何よりだ。会話が成立しているという幸運が此処にある。
長老と話してみて分かったのだが、悪魔族は人間と殆ど精神的には変わらない。
残忍だ残虐だと色々伝承が残っているが、それは人間だって同じだ。ロロナが知る限り、悪魔と人間には、姿以外の差は無い。
ただ、それはあくまで知っている範囲で、だ。
種族によって考え方が違うのは当然。人間に到っては、種族どころか民族や国によっても考え方が違ってくるのだ。
「いかにも、沼地に水を引き込んだのは私だ」
「気をつけろ。 ロードと呼ばれる上級悪魔だ」
ステルクが、後ろから小声で警告してくる。
既に後ろの二人は、いざというときには、即時に介入できるようにしていた。無理もない話である。
この大きさで、言葉を使いこなす器用な知能。
以前戦った幼体ベヒモスとは、桁外れの相手とみて良いだろう。
「下流の村々が、水不足で困っています! 出来れば、水の流れを戻していただけると助かります!」
「……この辺りの荒野は、lskdfhlaiogaLfdaによって汚染されている。 一族を集めて、環境の回復を行いたいのだ。 それには水がいる」
途中、何か聞き取れない単語が出てきた。
だが、意図は分かった。
それに、悪魔は、ステルクとクーデリアには警戒しているけれど。ロロナの言葉は聞いてくれている。
何とかしたい。
出来れば、戦いは避けたい。会話が成立しない獣が相手ではないのだ。
「緑化作業をすれば、土地の保水力は上がると思います! それで、どうにかならないですか!?」
「ほう……?」
無理な話ではない。
既に、栄養剤の集中投入の時期は終わっている。ホムの手を借りれば、相応の数の栄養剤は生産が可能だ。事実、ホムにアトリエを任せて、ロロナは遠出が出来る状態なのである。悪魔の長老は、しばしロロナを見ていたが。
やがて、顔を背けた。
「そなたは本気のようだが。 そのような事をして、他の人間は黙っているのか?」
「基本的に、アーランドでは、人間を群れを成して襲ったりはしない限り、モンスターの駆除作戦は行われません」
ステルクを見る。
眉間に皺を寄せているのが分かった。
勝手な事をいうなというのだろうか。いや、これはちょっと違うとみて良いか。責任は持てない、だろうか。
分からないけれど。
ただ、この会話できる時間を、無駄にはしたくなかった。
「分かった。 良いだろう。 我らとて、屈強なアーランド戦士と敵対して、生き延びられるとは思っておらぬ。 むしろ人間の中に協力者が得られるのであれば、それは好ましい事だ」
「有り難うございますっ!」
ひょこんと頭を下げる。
まず、水の量を戻したいと言うと、悪魔は無言で顎をしゃくった。
ステルクの所に、歩いて戻る。ステルクは百言くらいは言いたそうな顔をしていたが。満面の笑顔のロロナを見ると、咳払いをするにとどめた。
「全く、冷や冷やしたわよ」
「大丈夫、会話がちゃんと成立したよ!」
「分かったから、まずは作業を済ませるわよ」
まず、近くにある幾つかの大岩を、発破で砕く。
どかん、どずんと、凄まじい音がして、岩が破砕された。砕けた岩の破片を、沼地に流れ込んでいる支流に入れて、水量を調節。
丸一日がかりの作業になったけれど。
ステルクが凄い力を発揮して、岩を運んでくれたので。それだけでどうにか水量をある程度回復させることが出来た。
岩を運んで水流を変えた後は、泥を入れて、岩の間を埋める。
その後は、ロロナが持ち込んだ固定材を流し込んだ。速乾性のある泥のようなものだ。以前、参考書で見て、作っておいた。使うときは空気に触れさせればいい。あっという間に固まってくれる。
更にステルクが、何カ所かに杭を打ち込む。その杭から縦横に板を伸ばして、補強するのだ。
ただ今回は、板がそもそも足りていない。
だから要所に板を置いて、岩を固定する作業を、更に進めた。砂利も、そのまま運んでくる。
発破を使う必要は、もう無さそうだ。
作業を進めて、川の水量の調整は終わった。
沼地に入り込む水の量は減った。
心なしか、下流に向かう水量も、回復しているように思える。これなら、きっと少しはましになるだろう。
それに、これから緑化作業を進めていけば。保水力が上がって、沼地が干上がってしまうのは避けられるはずだ。
「数日以内には、栄養剤を持ってきます!」
「我らの一族は、水を必要とする。 あまり長い時間は待てぬぞ」
数日経っても戻らないなら、堰を破壊する。そういうつもりなのだろう。
往復に四日。栄養剤を準備するのに丸二日。六日で戻る事が出来るだろう。かなりの強行軍になるが、今までと比べれば、どうと言うことは無い。寄り道をせず、まっすぐ行くだけなので、だいぶ気分も楽だ。
すぐに出立する。
悪魔の姿が見えなくなってから、ようやくステルクが口を開いた。
「報告書を後で提出してもらうぞ」
「ええー」
「当たり前だ。 確かに君が言うように、積極的に人間を襲わないモンスターであれば、余程のことがなければ討伐対象にはならない。 だが、それにも限度がある」
今ロロナが話していたのは、それこそ熟練のアーランド戦士でも、命の危険があるほどの相手だと、ステルクは言う。
ただ、ロロナは。先ほどから、沼の周囲を見ていて、思ったのだ。
「川の周囲にも、ほとんど草木がなかったですね。 川の中にも、お魚が殆どいなかったですし」
「あんた、意外に細かい所を見てるじゃない」
「えへへー、そうかな」
「それで?」
ステルクが、先を言うよう促してくる。
ロロナは、思ったのだ。あの悪魔は、何だか聞き取れない言葉で言った。汚染されていると。
確かに、そうかも知れない。
事実、生き物が見当たらないのだ。この小川も、単に地盤が良いから薙がれているだけではないのか。
川の周囲にしっかりした緑がないと、大雨が降ったときに、大氾濫するのではないのだろうか。
それに、土地の保水力も落ちる。
この辺りは、地平の彼方まで、赤茶けた土だ。街道の辺りはどうにか緑が散見できるけれど。
これだけ豊かに水があって、荒れ地がずっと続いているなんて。
この間まで着手していた緑化作業を、どれだけ繰り返せれば、世界は緑に覆われるのだろう。
汚染されているというのが本当なのだとすれば。
悪魔とでも場合によってはモンスターとも協力して、世界を緑化していかなければならないのでは。そう、ロロナは思うのだ。
実際こんな涸れた土地では、人は住む事が出来ない。人だけじゃない。どんな動物だって、住めない。
「なるほど、な」
説明を終えると、ステルクは頷いてくれた。
がらがらと荷車が、乾ききった土を踏んで、嫌な音を立てる。これが、黒ずんで緑に覆われた土だったら、きっとこんな嫌な音は出ないはずだ。
「ステルクさん、往復分の護衛もお願いできますか?」
「私は構わないが。 ヴァルチャー退治は問題ないのかな」
「何とかします」
忘れてはいない。
原初ベヒモスの骨を、近いうちにどうにかして探さなければならない。或いは、恐ろしいモンスターが多数いるというオルトガ遺跡にあるかも知れないけれど。今のロロナでは、とてもでは無いが潜れる場所ではない。
今は、問題を一つずつ解決していくことだ。
悪魔が言っていた通り、この辺りを見ていると。世界の状態が、思ったよりずっと悪いのではないかと思えてくる。
世界に、過去、一体何が起きたのだろう。
師匠やパメラは知っているのだろうか。
知るのが、怖いけれど。
錬金術師は、何かを知って、はじめて為す事を理解できる。いずれ、知らなければならない。
それは、ロロナに限ったことではない。そう、この世界を見て、思う。
アトリエに戻っても、其処からは確実に強行軍になる。途中の休憩を減らしながら、ロロナは可能な限り、ステルクとクーデリアに、急いでもらった。
暗黒!アトリエシリーズでは緑化が重要タスクの一つとなっていますが、本作もそれは同じです。
とにかく荒れ果てた世界での出来事ですので、緑化は非常に重要な事項になるのです。
ロロナだけではなく、アーランドシリーズの他の錬金術師達も、皆これで苦労する事になります。