暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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依頼追加ドン。

仕事ができるようになってきたからこそ、こういう困難も増えてきます。

ロロナの実力がついてきたからこそ、アクシデントは更に厄介なものが増える訳ですね。






2、さらなる課題

青ざめることになった。

 

ステルクの所に、カタコンベへの同行を頼みに行ったら。最悪の事態を聞かされたのである。

 

追加依頼だ。

 

「此方を優先的に解決して欲しい」

 

そういって渡されたのは、予想通りの依頼だった。

 

あの荒れ地に流れ込んでいる、小川の調査である。

 

数日前から、更に水量が減ってきているらしいのだ。水源は問題が無いのだが、それから川下に到る地域を調べるとなると、手が足りない。

 

ロロナも息を呑む。

 

かなりの広域が、調査対象となっていた。

 

勿論場合によっては戦闘も想定される。ステルクがついてきてくれるのが不幸中の幸いだけれど。

 

それにこの課題は、川下の村の人達にとっては、死活問題だ。

 

ロロナとしても、放置しておく訳にはいかなかった。

 

「分かりました。 すぐ、対応します」

 

「頼むぞ」

 

咳払いしたのはクーデリアだ。

 

袖を引かれる。王宮を出た後、案の定がみがみ言われた。

 

「ちょっと、抗議の一つくらいしなさいよ。 本来あんたの仕事じゃないし、騎士団の怠慢でしょう!」

 

「そうだけど。 でも、やっぱり放ってはおけないよ」

 

「お人好し」

 

「ごめんね。 でも、大勢の人を助ければ、きっと……」

 

それ以上の言葉は飲み込んだ。

 

ロロナが考えている事は、クーデリアには悟らせたくないのだ。ため息をつくと、クーデリアはアトリエに戻ろうと言った。

 

明日から出かけるにしても、準備がいる。川をさかのぼって調べるにしても、数日は歩き通しになるだろう。

 

アトリエに戻ると、まずコンテナから耐久糧食を引っ張り出す。

 

念のため、十日分を準備。それ以外にも、持ち運べそうな発破や武器類は、みんな持っていくことにした。

 

回復薬や、包帯の類も揃える。

 

いそいそと準備をしていると、アストリッドが大あくびをしながら部屋から出てきた。

 

「どうした、くーちゃんと楽しくキャンプか?」

 

「くーちゃんいうな。 新しい仕事が押しつけられたのよ」

 

「ふうん。 その様子だと、調査作業。 あの涸れかけている小川のだな」

 

流石に師匠は鋭い。

 

でも、助けてくれそうにはなかった。

 

昼食を作れと言われたので、準備はクーデリアに頼んで、さっさと料理する。丁度良いお魚があったので、火を通して焼き魚に。サラダ類も準備して、師匠の待っているテーブルに並べた。

 

ただ焼くだけではなく、サワーアップルの絞り汁を使って、味にアクセントを付けている。

 

クーデリアとロロナの分を焼いた頃には。師匠はもう食べ終えていた。

 

「料理も上手くなってきたな」

 

「もう、師匠も手伝ってくださいよ」

 

「まあそういうな。 そうそう、パメラの奴が、もうすぐ店を準備できそうだ。 お前達が帰ってきた頃には開けるだろう。 帰りにでも寄ってやれ」

 

分かりましたと応えるけれど。気が重い。

 

どうせ散々脅かされるに決まっている。

 

準備が終わったのは、夕刻。それからは、原初ベヒモスについて、もう少し調べておいた。

 

もしもヴァルチャーにとっての絶対的な天敵だったのなら。その骨を香料に混ぜれば、必ず追い払う事が出来るはず。

 

準備は、並行で進めておかなければならない。

 

 

 

遠出になる事が分かっていたので、ホムには細かく指示を出しておいた。

 

栄養剤の調合も、昨日のうちに教えた。問題なく作れることも分かっていたので、納品についても指示をしておく。

 

ステルクとクーデリアに同行は頼めたが。案の定イクセルは駄目。リオネラはここ数日姿が見えないし、タントリスも用事があると言うことで、結局この三人で出かけることになった。

 

リオネラが、病院にもいなかった事は少し気になるけれど。

 

彼女も、一人で生活している立派な大人だ。

 

それに、何か事故が起きたという話も聞いていない。ただ、何処かにいるにしても、声は掛けて欲しいのだけれど。

 

北門に出ると、ステルクが待っていた。

 

どういうわけか、タントリスもいる。何か話していたようだけれど、近づくと、タントリスはいつも通り、気持ち悪いくらいの甘い声で話しかけてくる。

 

「やあハニー。 久しぶりだね」

 

「昨日あったじゃないですか」

 

「それは随分と久しぶりなことだ。 君の顔を見られなくて寂しかったよ」

 

苦笑いするロロナの前で、クーデリアが咳払いする。

 

さっさと行こうと、促された。

 

「ああ、待ちなよ。 リオネラ君のことだけれどね」

 

「えっ!?」

 

「どうやら病院を出て、近くの安宿に移ったようだよ。 何でも魔術の修行をするのが目的だとか」

 

そういえば。

 

最近、彼女の自動防御が少し物足りないと思い始めていた。何も口にはしなかったけれど、自主的に勉強をするつもりになったのかも知れない。

 

でも、どうしてそれを知っているのだろう。

 

クーデリアに促されて、先に行く。

 

一応お礼の言葉は口にしたけれど。どうも引っかかる。あの人、何か隠しているのではないのか。

 

ステルクに聞いてみるが、知らないとしか言われない。

 

「それで、どうする」

 

「まず、西に。 小川に行き当たったら、上流へ北上します」

 

「ふむ……」

 

ステルクは反対しない。

 

街を出ると、すぐ荒野になる。川の近くは緑がある場所もあるけれど。やはりこの世界は、まだまだ緑になるには遠いのだ。

 

荷車を引きながら、小川に出るまで、数刻歩く。

 

小川に突き当たると、既に水量が、相当に削り取られているのが分かった。このまま水量が減り続けると、危険だ。

 

ステルクは既に剣に手を掛けながら歩いている。

 

何が出ても不思議では無いことは、ロロナも分かっている。だから、荷車には、あらゆる道具類を積んできているのだ。

 

「ステルクさんは、この辺りに来たことは?」

 

「前に何度かあるが、そう詳しくはない」

 

「そうですよね。 何か、今回の件で、心当たりとかはありませんか?」

 

ないと即答されて、少し困ったけれど。

 

確かに、騎士団でも心当たりがあれば、それを突いているだろう。

 

上流へと、黙々と歩く。

 

時々何か話を振るけれど。既にステルクは戦闘モードに入っていて、返答はいずれもそっけない。

 

歩いていると、時間は容赦なく過ぎていく。

 

支流にぶつかった。

 

協力して、荷車を担いで川を渡る。橋などある筈もない。ずっと東に行って街道に行けばあるけれど。そんな時間はない。

 

川には魚も少し泳いでいるけれど。

 

このまま水量が減れば、いずれ川ではなくなってしまうだろう。非常に危険な状態だと言える。

 

「騎士団は、忙しいんですか?」

 

「少し前に、アランヤでモンスターの大量発生があってな。 どうもオルトガラクセンから、定期的に強力なモンスターが出てきて、そいつらが他のモンスターを統率して、群れを作っているらしいのだ」

 

騎士団は討伐にてんてこ舞い。

 

どれだけ人員がいても、足りないのだという。

 

王も毎日出陣しては、モンスターを片付けていると言うから、なおさらだ。ロロナに声が掛かる位なのである。壮絶な忙しさなのは、間違いないのだろう。

 

ステルクはそんな中。時間を無理に作ってくれたのだとか。

 

確かにこの任務、騎士団が本来するものだ。ステルクが来てくれたのはありがたいけれど。責任も重大である。

 

日が暮れた頃、野営する。

 

水は側にあるけれど、火を通して濾過しないと危ない。

 

食べ物は用意してあるから大丈夫だけれど。クーデリアが火を熾しているのを横目に、ステルクはじっと遠くを見ていた。

 

何か、そちらにあるのだろうか。

 

「ステルクさん、どうしたんですか?」

 

「私の友人が、足を路ならぬ闇に踏み外してな。 私ではどうすることも出来ずに、困っていた。 考えても、どうすれば良いのか分からない」

 

思ったよりも、深刻な悩みだ。

 

アーランド戦士は、ずっと過酷な環境にいるから、心が壊れてしまうことも多いとロロナは聞いている。

 

ステルクの友達とは、騎士だろうか。

 

だとすれば、悲しい事だ。

 

「ステルクさんは、その人が好きなんですか?」

 

「そうだな。 かっては愛したこともあったか」

 

これは、意外な話を聞くことになった。

 

ロロナだって、恋愛沙汰には興味がある。ただ、ステルクの表情が深刻だったので、あまり深く追求することは出来なかった。

 

耐久糧食は持ってきているけれど。今日はまだ、使わない方が良いだろう。その辺りで、ステルクが取ってきた野ウサギを捌いて、焼いて食べる。

 

しばらく肉を焼いていると、油がたき火に垂れはじめた。

 

本当に小さい子ウサギであれば、骨ごとかみ砕いて食べる事が出来るのだけれど。今日取ってきたのは、どれも大人の兎なので、そうはいかない。

 

骨のついた肉をしゃぶりながら、ロロナはステルクの話を聞く。

 

「もう少し北上すると、小川が分岐している。 片方は、ネーベル湖に流れ込んでいる」

 

「ネーベル湖ですか。 一度、行ったみたいですね。 前に師匠から聞いたんですけれど、避暑地として最適だとか」

 

「危ないぞ。 彼奴だからモンスターをものともしないのであって、君達の力量では、かなり命がけになる」

 

ぱちんと、たき火が音を立てて爆ぜた。

 

それから、三人で交代して、休む。順番に一人ずつ見張りに立って、明け方まで休むのだ。

 

ステルクにも休んでもらう。

 

今回は長丁場になる可能性が高い。

 

徹夜くらいは平気だと思うけれど。それも、最初から最後までやっていたら、いくら何でもからだがもたないだろう。

 

ロロナは最初の見張りになった。

 

二人には寝袋に入ってもらって、一人たき火の側に座り込む。毛布を被ると眠ってしまうので、敢えて少し寒い格好にする。

 

星の読み方は分かるから、今がだいたいどれくらいの時間かは分かる。

 

既に遠くには、アーランドは見えなくなっていた。アーランドの明かりの付き方でも時刻はだいたい分かるのだけれど。

 

東の方には、小さな明かりがある。

 

おそらくあれは、街道沿いにある村の一つだろう。

 

ロロナの調査が上手く行かなければ、ああいう村が幾つか、とても困ることになる。勿論その場合は、騎士団が優先順位を上げて対応に掛かるのだろうけれど。せっかくいままでの課題をこなして築き上げてきた信頼も、地に落ちてしまう。

 

モンスターが原因ではないと良いのだけれど。

 

遠くで、何かが吠えているのがわかった。

 

狼にしては、少し声が野太い。

 

凶暴性が強い特殊な狼も何種類かいると、ロロナは聞いたことがある。群れと戦えば、苦労は免れないだろう。

 

ぎゅっと身を縮めた。

 

思ったほど怖くはないけれど。

 

戦う時には、クーデリアが、自分が傷つくことを厭わないだろう。それがロロナには、あまり好ましく思えなかった。

 

 

 

朝から、北上を続ける。

 

相変わらず、川の水量は落ちている。まだ、原因と思える地点は、発見できない。丸一日掛けて川沿いに北上。

 

勿論、川の分岐点も確認した。

 

ネーベル湖に向かっている支流も、少し水量が落ちているようだ。ただ、ネーベル湖には四ヶ所から水が流れ込んでいるという事だから、干上がることはないだろうけれど。支流も調査したので、かなりの時間をロスした。泊まり込みながら、調べていったが、成果無し。

 

もっと上流に上がるしかないだろう。

 

上流に進むと、川から時々顔を覗かせている大きな白い姿がある。

 

「島魚だ」

 

「あれが! うわ、おっきいですね!」

 

「近寄るなよ。 非常に獰猛だ」

 

聞いたことはある。陸上にも平気で上がってくる、極めて獰猛な魚の一種。いや、魚かどうかさえ、よく分かっていないモンスター。

 

巨体を使って獲物を押し潰して食べる。口は巨大で、小さな獲物なら、そのまま一呑みにしてしまう。

 

ステルクが見張ってくれているから、多分大丈夫だろうけれど。

 

川の中に点々としていて、何とも恐ろしい。

 

ただ、支流との分岐点から離れると、生息域から外れたのだろう。もう姿を見ることは無くなった。

 

更に北上。支流を見つけては、調査。

 

その間、何の成果もなかった。流石にこれだけの日にち、野営を繰り返しながら歩き続けたのは初めてだ。

 

疲れはしないけれど、少しずつ神経がすり減っていくのが分かる。

 

ステルクは平然としている。

 

クーデリアも、疲れをまだ見せてはいない。

 

街から離れると、それだけ周囲はモンスターの気配が、露骨に強くなって行く。ロロナとしても、これ以上街から離れたくはなかったけれど。

 

まだ、原因地点は特定できない。

 

いい加減不安になってきた頃。

 

それは、唐突に現れたのだった。

 

ステルクが足を止める。

 

小川に、支流が出来ている。それも、かなり大きな奴だ。すぐ側に沼沢地があるけれど、其処へ流れ込んでいる。

 

しかし、どうも様子がおかしい。

 

地図を見ると、昔からある沼沢地なのだけれど。どうも水が多すぎるように思えるのだ。しかも、小川の様子を見ると。その支流の辺りから、水量が露骨に減っている。

 

どうやら、此処が原因に間違いないか。

 

地図を、もう一回確認。ステルクにも見てもらう。

 

どうやら、此処には前から支流があったらしいのだけれど。

 

確認すると、明らかに広げられた形跡がある。川の岸を確認。間違いない。無理に広げた大きな爪痕があった。

 

明らかにモンスターの仕業と見て良いだろう。

 

「この爪痕、生半可な相手じゃないわよ」

 

「ステルクさん、どうすれば良いですか? これ、騎士団を呼んだ方が……」

 

「まず、応急処置をしよう。 水量を調整することで、下流へ行く水の量を、元に戻す」

 

ステルクが顎で示したのは、荒野にごろごろしている大岩だ。

 

ロロナが運ぶのは難しいけれど。ステルクが運ぶのなら、そうそう苦労はしないだろう。問題は、運んでいる間の事だ。

 

「周辺の警戒に当たってくれるか」

 

「分かりましたっ!」

 

すぐに、荷車から、発破類を取り出す。

 

手投げ式のフラムも、今回は幾つか持ってきた。勿論、最初に作ったフラムに比べると、破壊力が段違いだ。発破をたくさん作って納品している内に、こつも掴めてきているのである。

 

「くーちゃん、周囲に何かいる?」

 

「今の時点で、近くに気配は感じないけれど。 あっちの沼沢地には、多分いるわね」

 

そうなると、彼処に住んでいるモンスターが、原因だろうか。もしそうだとすると、応急処置だけでは、駄目かも知れない。

 

モンスターの気配については、クーデリアの言葉が正しい様子だ。

 

ステルクがじっと沼地を見ているので、まず間違いなくいるとみて良いだろう。

 

知能が高いモンスターであれば、会話が成立するかも知れないけれど。流石にそれは望み薄だ。

 

悪魔の長老と会話した経験はあるけれど。

 

あれは、どうも例外のように思えてならない。

 

「ステルクさん、護衛を頼めますか」

 

「何をするつもりだ」

 

「モンスターに、まず呼びかけてみます。 ひょっとしたら、会話が出来る、知能が高いモンスターかも」

 

「何を馬鹿な」

 

一笑に付そうとしたステルクだが。

 

ロロナの表情が真面目なので、咳払いした。クーデリアはやれやれと肩をすくめている。最初から、そう言い出すことを、分かっていたのだろう。

 

沼地に、入り込む。

 

「すみませーん! お邪魔します!」

 

真っ正面から行ったので、ステルクが唖然としていた。クーデリアは平然としている。これは、ロロナをあまり知らない人間と、知っている人間の差だ。

 

沼の中に入ると、かなり足が沈み込む。

 

だが、いわゆる底なしではなくて、ある程度でとまった。それにしても、汚いというか、生理的な嫌悪感を刺激される沼だ。所々青紫色の泥が泡立っていて、動物もいない。異臭も酷かった。

 

ロロナは進み出ながら、何度か挨拶。

 

やがて、住処を荒らされたからか。面倒だと思ったからか。

 

或いは、真面目に真正面から入ったロロナに、感心してくれたのか。いずれかは分からないけれど。

 

沼の一角が、泡立ちはじめた。

 

泥と水草を押しのけるようにして、巨体が姿を見せる。

 

それはおそらく、悪魔の一種だろう。手足に水かきがついているが、以前見た悪魔の長老に、姿がよく似ている。ただし、子供程度の大きさだった向こうとは違って、とにかく大きかった。

 

文字通り、見上げるほどの巨体だ。

 

この間戦った幼体ベヒモスよりも更に大きい。

 

「すみません、すみかに入ってしまって!」

 

「人間か。 何用か」

 

「水を沼地に引き込んだのは貴方ですか?」

 

幸運だ。

 

怒らせないように、できる限り穏便に話を進めたい。それに、何よりだ。会話が成立しているという幸運が此処にある。

 

長老と話してみて分かったのだが、悪魔族は人間と殆ど精神的には変わらない。

 

残忍だ残虐だと色々伝承が残っているが、それは人間だって同じだ。ロロナが知る限り、悪魔と人間には、姿以外の差は無い。

 

ただ、それはあくまで知っている範囲で、だ。

 

種族によって考え方が違うのは当然。人間に到っては、種族どころか民族や国によっても考え方が違ってくるのだ。

 

「いかにも、沼地に水を引き込んだのは私だ」

 

「気をつけろ。 ロードと呼ばれる上級悪魔だ」

 

ステルクが、後ろから小声で警告してくる。

 

既に後ろの二人は、いざというときには、即時に介入できるようにしていた。無理もない話である。

 

この大きさで、言葉を使いこなす器用な知能。

 

以前戦った幼体ベヒモスとは、桁外れの相手とみて良いだろう。

 

「下流の村々が、水不足で困っています! 出来れば、水の流れを戻していただけると助かります!」

 

「……この辺りの荒野は、lskdfhlaiogaLfdaによって汚染されている。 一族を集めて、環境の回復を行いたいのだ。 それには水がいる」

 

途中、何か聞き取れない単語が出てきた。

 

だが、意図は分かった。

 

それに、悪魔は、ステルクとクーデリアには警戒しているけれど。ロロナの言葉は聞いてくれている。

 

何とかしたい。

 

出来れば、戦いは避けたい。会話が成立しない獣が相手ではないのだ。

 

「緑化作業をすれば、土地の保水力は上がると思います! それで、どうにかならないですか!?」

 

「ほう……?」

 

無理な話ではない。

 

既に、栄養剤の集中投入の時期は終わっている。ホムの手を借りれば、相応の数の栄養剤は生産が可能だ。事実、ホムにアトリエを任せて、ロロナは遠出が出来る状態なのである。悪魔の長老は、しばしロロナを見ていたが。

 

やがて、顔を背けた。

 

「そなたは本気のようだが。 そのような事をして、他の人間は黙っているのか?」

 

「基本的に、アーランドでは、人間を群れを成して襲ったりはしない限り、モンスターの駆除作戦は行われません」

 

ステルクを見る。

 

眉間に皺を寄せているのが分かった。

 

勝手な事をいうなというのだろうか。いや、これはちょっと違うとみて良いか。責任は持てない、だろうか。

 

分からないけれど。

 

ただ、この会話できる時間を、無駄にはしたくなかった。

 

「分かった。 良いだろう。 我らとて、屈強なアーランド戦士と敵対して、生き延びられるとは思っておらぬ。 むしろ人間の中に協力者が得られるのであれば、それは好ましい事だ」

 

「有り難うございますっ!」

 

ひょこんと頭を下げる。

 

まず、水の量を戻したいと言うと、悪魔は無言で顎をしゃくった。

 

ステルクの所に、歩いて戻る。ステルクは百言くらいは言いたそうな顔をしていたが。満面の笑顔のロロナを見ると、咳払いをするにとどめた。

 

「全く、冷や冷やしたわよ」

 

「大丈夫、会話がちゃんと成立したよ!」

 

「分かったから、まずは作業を済ませるわよ」

 

まず、近くにある幾つかの大岩を、発破で砕く。

 

どかん、どずんと、凄まじい音がして、岩が破砕された。砕けた岩の破片を、沼地に流れ込んでいる支流に入れて、水量を調節。

 

丸一日がかりの作業になったけれど。

 

ステルクが凄い力を発揮して、岩を運んでくれたので。それだけでどうにか水量をある程度回復させることが出来た。

 

岩を運んで水流を変えた後は、泥を入れて、岩の間を埋める。

 

その後は、ロロナが持ち込んだ固定材を流し込んだ。速乾性のある泥のようなものだ。以前、参考書で見て、作っておいた。使うときは空気に触れさせればいい。あっという間に固まってくれる。

 

更にステルクが、何カ所かに杭を打ち込む。その杭から縦横に板を伸ばして、補強するのだ。

 

ただ今回は、板がそもそも足りていない。

 

だから要所に板を置いて、岩を固定する作業を、更に進めた。砂利も、そのまま運んでくる。

 

発破を使う必要は、もう無さそうだ。

 

作業を進めて、川の水量の調整は終わった。

 

沼地に入り込む水の量は減った。

 

心なしか、下流に向かう水量も、回復しているように思える。これなら、きっと少しはましになるだろう。

 

それに、これから緑化作業を進めていけば。保水力が上がって、沼地が干上がってしまうのは避けられるはずだ。

 

「数日以内には、栄養剤を持ってきます!」

 

「我らの一族は、水を必要とする。 あまり長い時間は待てぬぞ」

 

数日経っても戻らないなら、堰を破壊する。そういうつもりなのだろう。

 

往復に四日。栄養剤を準備するのに丸二日。六日で戻る事が出来るだろう。かなりの強行軍になるが、今までと比べれば、どうと言うことは無い。寄り道をせず、まっすぐ行くだけなので、だいぶ気分も楽だ。

 

すぐに出立する。

 

悪魔の姿が見えなくなってから、ようやくステルクが口を開いた。

 

「報告書を後で提出してもらうぞ」

 

「ええー」

 

「当たり前だ。 確かに君が言うように、積極的に人間を襲わないモンスターであれば、余程のことがなければ討伐対象にはならない。 だが、それにも限度がある」

 

今ロロナが話していたのは、それこそ熟練のアーランド戦士でも、命の危険があるほどの相手だと、ステルクは言う。

 

ただ、ロロナは。先ほどから、沼の周囲を見ていて、思ったのだ。

 

「川の周囲にも、ほとんど草木がなかったですね。 川の中にも、お魚が殆どいなかったですし」

 

「あんた、意外に細かい所を見てるじゃない」

 

「えへへー、そうかな」

 

「それで?」

 

ステルクが、先を言うよう促してくる。

 

ロロナは、思ったのだ。あの悪魔は、何だか聞き取れない言葉で言った。汚染されていると。

 

確かに、そうかも知れない。

 

事実、生き物が見当たらないのだ。この小川も、単に地盤が良いから薙がれているだけではないのか。

 

川の周囲にしっかりした緑がないと、大雨が降ったときに、大氾濫するのではないのだろうか。

 

それに、土地の保水力も落ちる。

 

この辺りは、地平の彼方まで、赤茶けた土だ。街道の辺りはどうにか緑が散見できるけれど。

 

これだけ豊かに水があって、荒れ地がずっと続いているなんて。

 

この間まで着手していた緑化作業を、どれだけ繰り返せれば、世界は緑に覆われるのだろう。

 

汚染されているというのが本当なのだとすれば。

 

悪魔とでも場合によってはモンスターとも協力して、世界を緑化していかなければならないのでは。そう、ロロナは思うのだ。

 

実際こんな涸れた土地では、人は住む事が出来ない。人だけじゃない。どんな動物だって、住めない。

 

「なるほど、な」

 

説明を終えると、ステルクは頷いてくれた。

 

がらがらと荷車が、乾ききった土を踏んで、嫌な音を立てる。これが、黒ずんで緑に覆われた土だったら、きっとこんな嫌な音は出ないはずだ。

 

「ステルクさん、往復分の護衛もお願いできますか?」

 

「私は構わないが。 ヴァルチャー退治は問題ないのかな」

 

「何とかします」

 

忘れてはいない。

 

原初ベヒモスの骨を、近いうちにどうにかして探さなければならない。或いは、恐ろしいモンスターが多数いるというオルトガ遺跡にあるかも知れないけれど。今のロロナでは、とてもでは無いが潜れる場所ではない。

 

今は、問題を一つずつ解決していくことだ。

 

悪魔が言っていた通り、この辺りを見ていると。世界の状態が、思ったよりずっと悪いのではないかと思えてくる。

 

世界に、過去、一体何が起きたのだろう。

 

師匠やパメラは知っているのだろうか。

 

知るのが、怖いけれど。

 

錬金術師は、何かを知って、はじめて為す事を理解できる。いずれ、知らなければならない。

 

それは、ロロナに限ったことではない。そう、この世界を見て、思う。

 

アトリエに戻っても、其処からは確実に強行軍になる。途中の休憩を減らしながら、ロロナは可能な限り、ステルクとクーデリアに、急いでもらった。







暗黒!アトリエシリーズでは緑化が重要タスクの一つとなっていますが、本作もそれは同じです。

とにかく荒れ果てた世界での出来事ですので、緑化は非常に重要な事項になるのです。

ロロナだけではなく、アーランドシリーズの他の錬金術師達も、皆これで苦労する事になります。






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