暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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パメラさんはこの頃は楽しい幽霊ライフを過ごしています。

アストリッドさんが協力するのは、単にプロジェクトのためだからです。









3、パメラとアストリッド

ロロナが栄養剤を可能な限り生成して、飛び出していくのを、アストリッドは横目に見ていた。

 

アストリッドはと言うと、パメラの店と称する、精製工場を作る件と、ホムンクルスの量産作業で手一杯である。ロロナが何をやっているかは、不平満々でこの間から怖い顔を崩さないステルクに聞いてはいるけれど。介入しようとは思わなかった。

 

それにしても、ロード級悪魔の巣に、正面から乗り込んで。なおかつ、相手との交渉を成功させるとは。

 

流石だ。

 

ロロナは普段は駄目な娘だし、実際に頭も良くないが。

 

強みは全般にわたる才能と、あの肝が据わったところだ。並の錬金術師では、束になってもああはいかない。

 

悪魔の巣というだけで、尻込みしてしまうだろう。

 

四体のホムンクルスを完成させたので、硝子の培養槽から引っ張り出す。流れ作業になってきているが、これだけは他の者には任せられない。名前を割り振っていく。既にホムンクルスの名前は、40番台に突入していた。月あたりの生産数は、この様子だと、近いうちに30を突破するだろう。

 

最終的な目標生産数は、1500。

 

熟練アーランド戦士が、1500人一気に増強されるのと同じだ。今までの戦力不足が、完全に解消される。

 

元々アーランド人は、その戦闘能力に反比例するように、繁殖力が極めて弱い。その辺りは、むやみやたらに増える他の人間と比べて、明らかな弱点だ。弱点を補うために、禁断の手段に手を染めたとも言えるが。

 

アストリッドにとって、倫理はもうどうでも良いものともなっている。

 

そもそも、この世界を一度滅ぼした人間共に、倫理を語る資格など無いのかも知れなかった。まあ、アストリッドにとっては。師匠をあんな風に死なせた時点で、人間共に倫理など期待していない。

 

何より、師匠の死に自分も関与している時点で。

 

自分を許すつもりも、一生なかった。

 

番号を割り振ったホムンクルス達を、自分で王宮に届ける。エスティに引き渡すと、自身はさっさと引き上げた。

 

何処に配属するかは、ほぼ興味が無い。

 

今の時点では、各地の前線にある砦よりも、要注意地帯を巡回したり警備したりしている部隊に配属して、実戦経験を積ませている様子だ。

 

今後は押し出すように、実戦をある程度経験させた者から、前線に廻すのだろう。

 

アトリエに戻ると、すぐに次のホムンクルス作成に取りかかったが。

 

作業を始めようとした矢先、アトリエの戸を、せわしなく叩く音がした。ひげ面の騎士が、ホムンクルスを背負っている。

 

あれは確か、騎士ヴァーデン。ステルクより4歳ほど年上で、騎士の中でも上位に入る使い手だ。

 

背負っているホムンクルスは。確か、22番。

 

適当に名前を付けていても、姿形は全て記憶している。色々と歪んでいることは自覚しているけれど。

 

それでも、ホムンクルス達を、自分の子だと考えている事に、違いはないのだ。

 

「おお、いたか。 良かった」

 

「貴様は確か、南のアランヤ村近辺で、モンスターの掃討作戦を行っていたはずだが」

 

「サンドバジリスクにやられた。 急いで戻ってきたのだ」

 

サンドバジリスクか。それは厄介だ。

 

南の海岸線付近に広がる砂漠地帯に生息する、猛毒の蜥蜴だ。かって同じ名前の怪物が、神話に登場したと言うけれど。そうではなくて、実在した、水上を走る蜥蜴を祖先に持つ生物である。

 

とにかくその毒は強烈。噛みついて牙から注入もしてくるが、それ以上に霧状に吹きかけてくるものが危険。知らず知らずのうちに吸い込んでしまうと、屈強なアーランド戦士でも長くは保たない。

 

ヴァーデンなら、半日程度で此処まで走ってこられるだろう。

 

すぐに22を受け取り、手術台に横たえる。22は亜麻色の髪を腰の辺りまで伸ばしていて、もう何歳か年を取ればかなり美しく成長する事が確実な、バタ臭い顔立ちをしている。ただし、戦闘力は、若干抑えめだ。

 

目を閉じていた22は、アストリッドが診察しているのを見ると、ぼんやりとしながら言った。

 

「マスター。 体が、寒いです」

 

「何カ所かで、壊死が始まっている。 解毒剤を飲ませた後、培養槽で調整する」

 

「助かるのか」

 

「どうにかする」

 

ヴァーデンをアトリエから出すと、22の服を脱がせた。

 

作業中だったホムを呼んで、服を念入りに洗わせた。どうやら、22は他のアーランド戦士の盾となって、もろに噛みつかれたらしい。

 

噛まれた左腕は、既に青黒く変色していて、切りおとすしかないだろう。切りおとした後、細胞を採取して、もう一度作る。

 

調整には、さほど時間は掛からないが。

 

体には負担が掛かる。寿命は縮むだろう。

 

ホムンクルス達は、140年ほどの寿命を設定したパラケルススを筆頭に、だいたい80年程度の寿命を見込んでいるが。

 

多分22は、今回の件で10年は命を縮めたと見て良い。

 

ただし、それでもまだマシか。サンドバジリスクに噛まれて、死なずに澄んだのだから。

 

切りおとした左腕を、焼却処分。

 

細胞を弄って、すぐに再生に取りかからせる。勿論、幾つかの魔術も併用。錬金術だけでは、再生はすぐには出来ない。

 

外に出ると、困惑した様子で、ヴァーデンがうろうろしていた。

 

部下の死など散々見てきただろうに。まるで出産を控えた妻を待つ夫のような情けなさだ。

 

「どうした。 戦場に戻らないのか」

 

「22の容体は」

 

「命に別状はないが、寿命は縮むな。 80年は生きられる所が、70年程度で死ぬと見て良いだろう」

 

「そうか……」

 

顔を曇らせるヴァーデン。嘆息すると、歴戦の男は言う。

 

あれを助けてくれと。

 

他の戦士に邪険にされているにもかかわらず、22は気にする様子も無く、ためらいなく身を投げ出したのだとか。

 

それで他の戦士達も、皆奮起した。

 

アランヤ村周辺での掃討作戦が、一気に加速したのは、22の犠牲があったから、だという。

 

実際には。

 

ホムンクルスには、人間が喜ぶ情の類は薄い。

 

あれは、人間を守るようにと、設定しているから起こした行動だ。だが、勘違いしてくれたのなら、それでよい。

 

いずれにしても、22の戦線復帰は当分無理だ。

 

ヴァーデンには、もう一度戻るように言った。

 

 

 

22の容体が落ち着いたので、パメラの店に様子を見に行く。

 

パメラの店と言っても、一般客はほぼ入らない。一応名目上は魔法のお店ということにしているのだけれど。

 

実際は、広い地下空間を持つ、生成工房だ。パメラは、其処の管理人である。

 

そろそろ、様々な作業が、ロロナの手には余るようになってきている。発破の作成、栄養剤の増産、ネクタルの精製。

 

これらの作業を王宮からの指示で代行して、納品するべく作るのが、此処での主な仕事だ。

 

地下で働かせているのは、パメラに引き渡したホムンクルス何名か。

 

とはいっても、いずれもが命を持ち育ちはしたが、戦闘には適さない者達だ。主にホムンクルスの増産を開始してから、最初期の頃に出来た者達。名前にも、数字を割り振っていない。

 

彼女らは黙々と、薄暗い空間で、錬金術の生成物を増やし続けている。

 

パメラがリストを見ている横に、アストリッドは並んだ。

 

「どうだ、順調か」

 

「あらー。 可愛い子供の一人が、死にかけたって聞いたけれど?」

 

「戦闘目的で作ったホムンクルスだ。 消耗することは、最初から覚悟している」

 

「非情なのねえ」

 

「情などとっくに捨てた」

 

薄暗い空間は、六十歩四方ほど。

 

国から提供されている、かなり広い地下工房だ。実は以前、此処で危険な魔術の実験を行っていたらしいのだけれど。その詳細についてまでは、アストリッドも知らない。

 

分かっているのは、プロジェクトMが動いた頃には。既に、アーランドでは、周辺国家との摩擦が問題視されていたという事だ。戦力の不足を、歴代の王は様々な方法で乗り切ろうとしてきた。

 

魔術の研究による強化も、その一つだったのだ。

 

結果、この部屋には、強い魔力が満ちている。

 

二つある錬金釜は全力で動き続けている。素材についても、見習いの若い戦士達が、定期的に集めてくる。

 

彼らには、丁度採集地での戦闘経験も積むことが出来るので、丁度良い様子だ。

 

幽霊で物理干渉できないと不便なので、アストリッドはパメラに体を持ったが結局心を持てなかったホムンクルスの一体を与えた。

 

それに憑依することで、今パメラは擬似的な肉体を得ている。

 

元々此奴は、良いところのお嬢だった様子で、体を得ても動きはそれほど速くない。戦闘は出来ないとみて良いだろう。

 

ただし、此奴の知恵は必要だ。

 

何しろ此奴は、失われた過去の知識を、山のように蓄えている。そして此奴自身、それを使う事に、ためらいを感じていない。

 

アストリッドとは、ギブアンドテイクの関係が成立する。利害関係の調整が上手くいく以上、パメラはアストリッドにとって有用な存在だ。

 

「時に、オルトガラクセンの攻略は、上手く行っているの?」

 

「王が前線に立っているが、まだ14層近辺だそうだ。 ポータルの封印を其処までは完成させているが、なかなか、な」

 

「早くしないと、最深層にいる「邪神」が目覚めるわよお?」

 

「目覚めたところで、今更何も出来んさ。 せいぜいアーランドと相打ちになる程度だ」

 

そうなれば、アストリッドとしては、願ったりかなったり。

 

こんな国は滅びれば良い。

 

後は数年がかりでホムンクルスの大軍団を作成して、辺境を制圧。更には大陸中央部を支配して、師匠の威光を知らしめれば良い。

 

もっとも、其処まで上手くは行かないだろう。

 

幾つかの重要な肝をアーランドに握られている現状、逆らうことは出来ない。悔しいが、圧倒的な戦力差は、覆らないのだ。

 

目標生産数以上のホムンクルスは、作る事が出来ないし。今の時点では、アストリッドは四方八方から伸びた鎖につながれているに等しい。

 

まあ、いずれ機会を待つとする。

 

現時点では、反逆はしない。出来ないからだ。

 

ホムンクルス達の手際を見て、所々で指示を入れる。此奴らの手際を見ていると、ロロナが腕を上げていることが如実に分かる。あの不器用なロロナだが、呆れるほど真面目に単純反復作業を繰り返した結果、様々な事が出来るようになってきた。

 

「予定通りの生産数は確保できそうだな」

 

「そうねえ。 ネクタルの純度を上げるのに、少し手間取っているけれど」

 

「私がこつを教えてやろうか」

 

「ううん、いいわ別に。 それよりも、例のものは大丈夫なのかしら?」

 

集めて来た資料を渡してやる。

 

パメラがアストリッドと同盟関係を結ぶ原因の一つ。その中身は。

 

「そうかー。 やっぱり、生き残ってはいないみたいねえ」

 

「子孫が生きているとしても、苛烈な淘汰にさらされて、もう面影はないだろう。 最悪、人間ではなくなっているだろうな」

 

「分かってはいたけれど。 悲しいわあ」

 

パメラが目を擦る。

 

冗談めかしているが。嘘泣きには、見えなかった。

 

咳払いの声。

 

気付いてはいたが、わざと無視していたのだ。

 

エスティが、壁際で腕組みしている。アストリッドの監視役の一人である此奴は、ときどき気配を消して、ふらりと現れる。

 

「作業は順調かしら?」

 

「問題ない。 そちらこそ、ロロナの作業の監視は滞りないだろうな」

 

「今、丁度ステルクくんとクーデリアちゃんと一緒に、要監視対象の所に辿り着いたって連絡があったわ」

 

魔術による通信だろう。

 

ステルクの報告書を受けて、アーランドも事態を重く見たのだ。一人監視用に、密偵を付けている。

 

とはいっても、その密偵というのは、トリスタンだが。

 

「案外、あれがパメラの探している相手かもな」

 

パメラは応えない。

 

その可能性を、否定出来ないからだろう。

 

 

 

アトリエに戻ると、22の調整を進める。それと同時に、他のホムンクルス達の調整も。この様子だと、数日以内に、50の大台を超えそうだ。

 

ホムが戸をノックした。

 

何かあったのか。

 

部屋に顔を出してみると、ホムが指さしたのは。泡を吹き出している錬金釜だった。盛大な光景だ。

 

「これはまた、派手にやったな」

 

「マスターのレシピ通りにやったのですが」

 

「これはな、釜の清掃が十分ではなかったからだ。 こうなってしまっては、もう役に立たない。 一旦廃棄して、丁寧に釜を清掃してから、やりなおせ」

 

「……」

 

ホムは悔しそうにするでもなく。淡々と、作業を始めた。

 

ロロナだったら、きっときゃあきゃあ騒いで泣いたりして、とても見ていて面白いだろうなとアストリッドは思ったけれど。

 

ホムンクルスはこれはこれで可愛いので、問題ない。

 

調整の合間に時間が出来たので、コンテナも確認。中身の整理を行っておく。アストリッドが使っているコンテナは、実は部屋の地下に直結する仕組みで。ロロナが使っている第二コンテナとは、別々だ。

 

また、危険度が高い素材も多数置いているため、防爆構造も取ってある。最悪の場合、アトリエが消し飛ぶくらいで済む。

 

ホムンクルスの素材が減ってきたので、採取することにする。オルトガラクセンに潜らないと入手できないレアな素材だが、一回採集してくれば、数十のホムンクルスを産み出すことが可能だ。

 

小さくあくびをしながら、アトリエを後にする。

 

ロロナは知らない。

 

アストリッドが、どうしてたびたびアトリエを留守にするのか。留守にした後、何処で何をしているのか。

 

知ったところで、ロロナにはどうにも出来ない。

 

だが、今の時点で教えるつもりはない。

 

ロロナが真相を知るのは、もっと後で良いのだ。この世界が、どうして滅びてしまったのか。

 

今のロロナでは、真相を知ったときに、耐えられないだろう。

 

オルトガラクセンに単独で潜り、生還できる者はあまり多くない。例外であるアストリッドでさえ。油断できない魔境。

 

パスを見せて、入り口の歩哨に通してもらうと。

 

アストリッドは、今回は十三層辺りをぶらついて、素材を探してみようと、思ったのだった。

 

もう一度、沼地の悪魔の所についたのは。予定より、ほんの少し早かった。

 

見ると、沼地の周囲の土が、かなり耕されている。この間話した巨大な悪魔の眷属らしい、紅い体をした小柄な悪魔が、多数働いていた。

 

道具を使っている様子は無い。殆どが、鋭い爪を使ったりして、地面を掘り返している。時には、魔術も使っているようだ。

 

栄養剤を持ってきたというと、沼地の悪魔が此方に来る。

 

一瞬だけ、ロロナのずっと後ろの方を見たようだけれど。それ以降は、じっとロロナを見ていた。

 

「約束を、果たしてくれたようだな。 人間にしては誠実だ」

 

「はい。 栄養剤、持ってきました」

 

「中身を改めさせてもらう」

 

今回は、通常の栄養剤を樽四つ。

 

これは、備蓄があったから、すぐに作る事が出来た。材料についても、この間のことがあってから、まめに集めに行っているので、コンテナに蓄えられている。

 

沼地だから、低木はいらないだろうと判断。キューブ栄養剤は今回、作ってこなかった。

 

前回の荒れ地と違って、湿地帯である。栄養剤は、どうするかかなり悩んだのだけれど。栄養が高い事に越したことはないだろうと判断し、こういう選択をした。

 

更に、樽二つ、以前零ポイントを緑化した錬金術師が残したレシピのまま、強力な栄養剤を作ってきている。これは念のためだが、草木も生えない場所を緑化した栄養剤だ。必要になるかも知れないと思ったのだ。

 

しばらく、栄養剤を確認する悪魔。

 

堰は壊されずに、そのままになっている。ただし、沼地そのものは少し減ったようだ。

 

「問題ない品質だ。 早速使わせてもらうが、良いか」

 

「どうぞ。 ただし、堰は壊さないでください」

 

「我々は殆どの人間とは違う。 約束は守る」

 

そう言われてしまうと、心が痛い。

 

栄養剤を引き渡したので、戻ろうかと思ったけれど。おそらく、追加で栄養剤は必要になってくるはずだ。

 

ただし、この間緑化した地域とは、広さが全く違う。

 

後二回か、三回もすれば充分か。

 

そう思っていたロロナだが。不意に、悪魔に呼び止められた。

 

「待て」

 

「えっ……?」

 

「この栄養剤。 ひょっとして、汚染の性質について、知っているのか?」

 

「……? ええと、それは。 零ポイントの緑化に成功した、以前の錬金術師のレシピから起こしたものですけど」

 

悪魔はじっとロロナを見ていた。

 

だが、嘘を言っていないと気付いたのだろう。大きく嘆息した。まるで、鞴のような音がした。

 

「そうか。 多くのデータを積み重ねて、その中から自分で浄化方法を発見したのか」

 

「えっ……?」

 

「お前になら教えても良いだろう。 お前達の言葉で言うと、この大地を覆っている汚染は、主に四つ。 その内三つは、本来自然に存在したもの。 重金属、放射性物質、アルカロイド性毒物。 これらについては、自然による浄化、淘汰による競争が進んだ事もあって、既にお前達をはじめ、世界の動物たちにとっても、何ら脅威ではなくなっている。 だが、最後の一つ。 かって、この世界を滅ぼすきっかけを作った愚物共がまき散らした、劣悪形質排除ナノマシンだけは、自然の浄化作用だけではどうにもならん。 だから我々は、己の姿が変わる事も躊躇わずに、命がけで戦って来た。 時には己の身に取り込むことで、排除もしてきた。 しかしこの栄養剤には、カウンターナノマシンが含まれている。 過去の文明が失われる寸前、最後の力で造り出したものだ。 培養方法は、我々には分からなかったのだが」

 

分からない言葉が、たくさん出てきた。

 

クーデリアが、隣で眉をひそめている。彼女の記憶力に、後で頼るしかないかも知れない。

 

だが、その劣悪なんとかを、特注の栄養剤が、どうにか出来ると言うことだけは分かった。

 

「もっとたくさん、これを造ってきましょうか?」

 

「そうだな。 後二樽は頼んでも構わないだろうか。 通常の栄養剤に関しても、四樽ほど欲しい」

 

「分かりました!」

 

悪魔が、少しだけ顔を歪めた。

 

笑ったのだろうか。分からない。ただ、モンスターとは、基本的に殺し合うしかないこの世界で。

 

少しでも、相手とわかり合えたのは良かった。

 

そう、思った。

 

 

 

少しだけ、気分は楽になった。

 

アトリエに帰りながら、状況の整理を兼ねて、クーデリアと話す。

 

時間はロスしているけれど、水源の確保は出来そうだ。実際、沼地の緑化を悪魔達が開始してから、小川の水量は戻りはじめている。沼地そのものを中心として、緑化を進めて、周囲の「汚染除去をしている」のだと、悪魔は言っていた。

 

ロロナには分からない。

 

殆どの単語さえ、理解できない事だった。

 

勿論、武人であるステルクに聞いても、意味がないことだ。クーデリアはどうだろう。今までの資料に、悪魔が言っていたような単語はあっただろうか。

 

「くーちゃん。 あの悪魔さんが言っていた言葉、聞き覚えがある?」

 

「あるにはあるけれど」

 

「えっ!? 何処で?」

 

「パメラよ。 彼奴があんたの師匠と話してるときに、何とかナノマシンがどうのこうのって言っていたわ」

 

流石の記憶力だ。いつもクーデリアは頼りになる。

 

話の内容を覚えているかと聞くと。クーデリアは、指先を、額に当てた。

 

「カタコンベの話をしていた、ような気がするわ。 カタコンベは、ナノマシンではなくて、何か他のものを作っている、というような内容だった気がする。 あんたの師匠が、やっぱりそうかとか、相づちを打っていたわね」

 

「ネクタルの事かな」

 

「そうだとすると、ネクタルにはそのナノマシンとやらは入っていないのではないのかしら」

 

多分、そうだろう。

 

好奇心もある。

 

ロロナは自覚しているが、好奇心は強い方だ。一度資料を漁りはじめると、ついつい調査に没頭してしまう。

 

急いでアトリエに戻る。

 

その途中、ずっとステルクは険しい顔をしていた。

 

ようやくアーランドに辿り着くと、ステルクはそのまま王宮に直行すると言う。

 

「君達は悪いが先に戻っていてくれ。 あの悪魔達が友好的な存在だと言う事は分かっているが、それはあくまで、君達に対してだけだ。 これから戦力を一部割いて、あの荒野の周囲に監視小屋を作る必要がある」

 

「緑化作業を邪魔しちゃ駄目ですよ」

 

「分かっている。 何も知らない者が入り込むのを避けなければならない。 あの悪魔達は、あくまでロロナ君に対して心を許したのであって、無礼な真似をする他の人間には容赦しないだろう。 ロード級の悪魔となると、戦えば私でも無事ではすまん。 無為な犠牲を避ける必要があるからな」

 

すたすたと歩いて行ってしまうステルク。

 

その背中は、あらゆる言葉を拒んでいるようにさえ見えた。何だか、言っている以上の、重い事情があるように思える。

 

だが、それに踏み込む権限は、ロロナにはない。

 

アトリエに戻ると、荷物だけ下ろして、お風呂に行く。

 

お風呂で湯船に浸かっていると、疲れが取れる。流石にここ数日の強行軍はつらかった。並んで湯船で溶けながら、ロロナはクーデリアに言う。

 

「くーちゃん、下流の村は、大丈夫かな」

 

「川の水量も回復しはじめているし、問題は無いでしょうね。 それよりも、ヴァルチャーをどうするのよ」

 

「うーん……」

 

ヴァルチャーをあの森から追い払うのは、アーランドのために必要なことだ。

 

だが、ヴァルチャーは貴重なスカベンジャーでもある。大型のスカベンジャーは、大地に残った死体を処理する、自然の大事な番人だ。ましてや、緑が失われているこの世界で、その仕事がどれだけ重要か。言われなくても、ロロナにも分かっている。

 

「別の所に、連れて行けないかなあ」

 

「また無茶なことを言い出すわね」

 

「だって、スカベンジャーは自然の中でとても重要な存在だよぅ」

 

「のぼせてきてない? 顔、真っ赤よ?」

 

うぃーと、情けない声が漏れた。

 

湯船からもたもた上がると、着替える。確かに、少しのぼせてしまったようだ。呆れたクーデリアと並んで、冷たいミルクを呷る。

 

流石に、今日はもう仕事にならない。

 

アトリエに戻ったら、ばたんきゅうだろう。

 

それでも、おなかは空く。帰りはサンライズ食堂に寄った。イクセルが来たが、疲れ果てている様子に、呆れていた。

 

「何だ、まだ過酷な仕事してるようだな」

 

「まだまだ半分も終わってないよぉ」

 

「そうか。 じゃ、これでも喰って、元気出せ」

 

そう言ってイクセルが出してきたのは、よく分からない茸を炒めたものだった。毒ではないだろうけれど。

 

口に入れてみると、かなり独特の歯ごたえである。

 

何というか、弾力が強くて、戻ってくる。

 

「何これ。 面白い味!」

 

「毒茸なんだけどよ、毒を抜く方法を見つけてな。 で、毒を抜いて喰ってみたらこれがまた美味くてな!」

 

「そういえば、毒のある魚を料理する方法もあるんだったかしら?」

 

「そうだよ。 まだ試してないけどな。 新鮮な材料がこの辺りじゃ手に入らないし」

 

元毒茸と聞いて不安になったけれど。

 

まあ、ロロナだってアーランド人だ。毒茸程度で死ぬほどヤワじゃない。それに、イクセルが言うだけあって、かなり美味しい。

 

毒の抜き方だけ、聞いてみる。

 

やり方は、錬金術で、簡単に応用できそうだった。

 

これはパイに入れると、多分美味しい。

 

少しだけ、気分が晴れた。

 

アトリエに戻ると、そのまま寝室に直行。ホムは栄養剤の精製を黙々とこなしてくれていたので、作業の手間自体も省くことが出来るだろう。

 

クーデリアはどうするか聞いたが。

 

泊まると言った。

 

どうしてだろう。いつものように、楽しそうではなかった。

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