暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
アストリッドがあくびしながら、部屋を出てくる。
同じプロジェクトの参加員だから、クーデリアだって此奴が何をしているかは知っている。勿論、パメラについてもだ。
パメラは少し前から、プロジェクトの会議に出るようにもなった。
彼奴の正体についても、ロロナに言う事は禁止だとされているけれど。そろそろクーデリアも、堪忍袋の緒が切れそうだった。
「何だ、くーちゃん。 遊んで欲しいのか」
「ロロナに、いつまで量産型ホムンクルスのことを黙っておくの?」
「彼奴は天才だが馬鹿だ。 だから、黙っておけば気がつかない。 くーちゃんも余計な事は言わないようにな」
「……その事だけじゃないわ。 あんた、この世界で何が起きたか、知っているんでしょ」
にやりと、アストリッドは笑う。
部屋からぞろぞろと、生産されたばかりらしいホムンクルス達が出てくる。
以前はいろいろな個性が見て取れたのだけれど。
どうしてだろう。金髪の子が、非常に多くなっていた。
少し前に実戦投入されたらしいパラケルススという完成型をベースにしているから、だろうか。
「沼地の悪魔が、このままだとあんたより先に教えるわよ」
「それなら別にかまわんさ。 ロロナはまだ知識が決定的に不足している。 聞いたところで理解も出来ん。 それに……」
「何よ」
「苦しむ弟子の姿を見るのも悪くない。 嗜虐心をそそられる」
思わず、反射的に体が動いていた。
拳を顔面に叩き込んだのだけれど。瞬時にアストリッドは後ろに回り、クーデリアの頭を掴むと、床にたたきつける。
悲鳴を上げる暇も無い。
更に言うと、凄まじい力だ。今まで交戦したどのモンスターよりも、遙かに。
それでいて、床にたたきつけながら、あまり大きな音を立てていない。一体、どういう技術なのか。
「おやおや、くーちゃんは格闘戦がお好みかな?」
「この、外道……っ!」
「生憎人道などには興味が無いのでな」
けらけらと笑いながら、アストリッドはアトリエを出て行った。
立ち上がろうとして、失敗する。
完全に、腰が抜けてしまっていた。あまりにも圧倒的な力の差。それを本能で感じたのだろう。
肉体が、戦闘を拒否してしまったのだ。
呼吸を、必死に整える。
ホムが、冷たい目で、クーデリアをじっと見ていた。
「理解できません。 貴方がグランドマスターに戦いを挑んでも、勝率は限りなくゼロに近い。 不意を打っても勝てないでしょうに」
「あんたには分からないわよ」
「ますます理解できません」
泊まると言った以上、いきなりいなくなったら、ロロナも心配するだろう。
寝室に入ると、幸せそうに寝息を立てているロロナが見えた。
世界は、悪意に満ちている。
ロロナが真実を知ったとき。
その時には。支えるのは、自分しかいない。クーデリアは、二度。大きくため息をついたのだった。
ロロナは朝から調合をはじめたので、クーデリアは戻る事にした。朝食だけ一緒に食べると、一旦実家に。
訓練着に変えると、アルフレッドに稽古を付けてもらう。
まだまだ、一本も取らせてはもらえないけれど。
実は、最近。一番若いエージェントからは、ついに一本を取った。まだまだ偶然に近い結果だけれど。
確実に、努力が報われてきていることを、感じて嬉しい。
アルフレッドの長柄はまるで蛇のように自在に動き、クーデリアがどれだけ訓練用の銃で四方八方から攻めても、弾丸一つ身に到達させない。
踏み込んだアルフレッドが、力が乗った突きを繰り出してくる。
横っ飛びして、どうにかかわす。
かわすことだけなら、出来るようになってきていた。ただし、その後の怒濤の攻めを、まだまだいなしきれない。
ごつんと、強烈な音。
気がつくと、地面に大の字に寝ていた。
何度か突きをかわした後。アルフレッドが、柔軟に棒を動かして、クーデリアの頭を打ったのだ。
悔しいが、まだまだとうてい及ばない。
自力で立ち上がると、休憩にしようとアルフレッドが言う。並んで座ると、冷やしたミルクを出された。
「だいぶ、力がついてきましたな」
「一本も取れないじゃない」
「いいえ、今までのお嬢は、どうやって倒されたかさえ理解できていない事もあった」
確かにその通りだ。
今は、どうしてアルフレッドに勝てないか、分かるようになってきている。それだけで、進歩しているという事だ。
小休止を入れてから、他のエージェントも交えて、訓練をする。
身体能力は上がっているし、技自体も。アルフレッドに言われたとおり、一瞬に集中して力を爆発させる事も、少しずつ出来るようになってきた。切り札も、幾つか増やしている。
それでも、まだまだ勝てない。
実戦では、ロロナの盾になることが出来ているから良い。
そろそろ、アタッカーとしても、もっと多くの技を手に入れておきたかった。
調子が良いからか。
若手のエージェントを相手に、一本を取る。
これで、通算二回目だ。
既に万を超えているだろう訓練で、ようやく二回目なのだから、情けない話だけれど。それでも、勝ちに変わりはなかった。
呼吸を整えると、次と告げる。
だが、次は出来なかった。
ステルクが来た。どうやら、プロジェクトの会議らしかった。此処まで呼びに来ると言う事は、何かあったと見て良いだろう。
訓練着を着替えると、すぐに王宮に。
嫌な予感がする。
そして、それはすぐに現実のものとなった。
人員が揃うと、挨拶もそこそこに。メリオダスが、急いだ様子で言う。
「アーランド北部国境地帯に、異常な空間が発見されました。 以降、この場所を夜の領域と呼称します」
「国境地帯に、ですか?」
「ほぼ間違いなく、ロード級の悪魔か、オルトガラクセン最深部から現れたモンスターが関与しているとみて良いでしょう」
名前の通り、其処では常に夜のように空が暗く、今までに無いほど強力なモンスターが生息しているという。更に場所によっては上下の概念までもがおかしいらしく、空に岩が浮かんでいたり、巨大な歯車が確認もされているという。
通報してきたのは地元の住民だが。村からは距離がある上、今のところ夜の領域からモンスターが出てくる気配もない。
この地域は、元から極めて過酷な環境として知られ、誰も足を踏み入れたがらなかった場所だ。
典型的な零ポイントの一つ。
何代か前の錬金術師が緑化を提案したが、アーランド王都から遠いこともあって、結局実現に到らなかった。
これらの知識は、最近知った。
ロロナと一緒に、荒れ地の緑化計画について調査しているときに、資料を読んだのだ。自分では無駄だと思っている記憶力が、こんな所で役に立った。
「直ちに調査部隊の派遣を」
「うむ。 あの辺りは、広大な緩衝地帯として機能していた。 不意に強力なモンスターが住まう魔境と化した場合、機能しなくなる可能性が高い。 頭が痛い問題だ」
王が頷く。
すぐに調査部隊が編成されることとなった。ステルクも同行が決まる。
まずいとクーデリアは思った。
これでは、最悪の場合、ヴァルチャーの大軍と、ステルク無しで戦う事になる。ロロナはヴァルチャーを引っ越しさせたいなどと言っていたけれど。そんな事が出来るとは、クーデリアには思えない。
今まで無理を実現させてきたロロナだが。
今回ばかりは、無茶だ。
最悪の場合、ロロナだけでも逃がさなければならない。むしろ、王をはじめとして、一流どころの使い手が皆席を外す、今が好機ではないのか。
だが、咳払いの音。
エスティが、意見を加えた。
「私は残ります」
「ふむ、どういうことかな」
「オルトガラクセンのモンスターによる何かしらの作戦行動だとすると、主力が根こそぎ消えると、アーランドを襲撃してくる可能性があります」
「勿論それに備えて、少数精鋭で出向くつもりだが」
それでも、エスティは残るという。
何か、知っているのか。メリオダスが王に耳打ちする。王は一瞬だけ眉をひそめたが、意外にも部下の提案を受け入れた。
「ならば、エスティの代わりにパラケルススと、ホムンクルス10体を伴う。 それで異存はないか」
反対意見は出ない。
後は、アーランドの栄光を皆で誓って、会議は解散となった。
クーデリアは早歩きで、王宮地下を出る。先に出ていたステルクに追いつくためだ。
ステルクは追いついてきたクーデリアを見て、不思議そうに言う。
「君が私に声を掛けてくるとは珍しいな」
「出来るだけ早く戻ってきて」
「何かあるのか」
「ヴァルチャーの群れを追い払う際に、あんたの力は必要よ。 ロロナはヴァルチャーを引っ越しさせるなんて言っているけれど。 上手く行くとは思えない」
少し考え込んでいたが。
ステルクは、分かったと言ってくれた。
勿論、奇跡を起こしてきたロロナを信用はしている。しかし、保険を掛けておくのは、それとは別の問題だ。
小川の問題は、後一回、栄養剤を納品すれば片付く。片付くと信じたい。
問題は、ヴァルチャーの方。どうすれば、ロロナに過剰な無茶をさせずに、問題を解決できるのか。
錬金術に、無知な自分が悔しい。
アトリエに行くと、ロロナが無邪気な笑顔を浮かべて、調合をしている。まずは、栄養剤から片付けてしまうと言う事なのだろう。
何も考えずに動けるロロナが。
今は、ただ羨ましかった。
(続)
原作の数倍過酷な人生を送っているクーデリアさん。この子は強制的に大人になるのを急がされた結果、精神に大きな傷を抱えてしまっています。
それでもなんとかやっていけているのは、誰よりも大事なロロナの為ですね。
比翼の友であるロロナの事を、クーデリアさんは血のつながった家族よりも余程大事に思っています。
まあ家族がアレだから、というのも理由としては大きいですね。
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