暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
とにかく天敵を探さなければなりません。
人間が蛇を怖れるのは、蛇がどうしようもない天敵だった時代があったという説があります。
それくらい恐竜が滅びる前の哺乳類は脆弱だったし、「もっとも進化した種」などではなかったということです。
天敵を怖れる本能が消えないのは動物としては当然の話。
それを利用して、相手を遠ざける。どれだけ困難であっても。
カタコンベでの探索は、既に二日目に入った。
皆でカタコンベに出向いて、それから資料を手に手分けして探しているのだが。案の定、簡単には見つからない。
巡回の戦士達も、呆れている様子だ。
どうして骨を血眼になって探しているのか、分からないのだろう。
「こっちに大きな骨があったよ」
いきなり後ろから首筋に息を吐きかけられて、そう言われたので。ロロナは思わず跳び上がってしまった。
クーデリアが無言で銃を抜いたので、慌てて止める。
「タントリスさん! カタコンベの中! やめてください!」
「涙目で言われても説得力がないなあ。 で、骨をどうするんだい?」
「……見ます」
クーデリアが射殺すような目でタントリスを見ていたけれど。今は、二人の喧嘩に関わっている暇が無い。
大きな骨を見つけたという度に出向いていたのだけれど。
今の時点では、殆どが違う獣のものばかりだ。原初ベヒモスは、何カ所かに特徴がある骨がある。
それは、見つからない。
今回も、空振りに終わった。脱力するロロナに、おろおろしながらリオネラが言う。
「もっと奥、探してみないの?」
「うん、そうしようか」
確かに表層の通路で見つかる骨は、小さいものばかり。
深層では、あの銀色の触手が、作業の邪魔をしないように見張っている。危険性も高い。しかし、もうこれ以上は、表層近くでは、大きな骨は見つからないだろう。
荷車を引いて、深い階層に出向く。
やはり機械がまだ動いている。ネクタルを生産して、地面に流し込んでいるのだろう。機械に近づかないように、タントリスに言う。きざな吟遊詩人は、君の言う事ならばとかいうのだった。
「銀色の触手は、悪いことをしなければ仕掛けてこないはずだから、くれぐれも気をつけてね」
「分かっているわよ」
散って、調査を始める。
幾つかの、ぎっしり骨が詰まっている通路に入ってみる。大きな骨が幾つもある。中には、ロロナの体よりも大きな牙もあった。
確か、もう絶滅した象という動物のものだ。特徴的な牙なので、よく覚えている。
絶滅動物の骨があるのなら。或いは、原初ベヒモスのものも、あるかも知れない。
もっと奥には通路が続いているようだけれど。銀色の触手に怒られそうで、踏み込むのは覚悟がいる。
骨の山に潜るようにして、探していく。
何度か呼ばれて、大きな骨を見に行くけれど、違うものばかり。中には、現在のベヒモスの骨もあった。
一応砕いて持っていく。
ひょっとしたら、効くかも知れないからだ。
一旦カタコンベを出て、食事に。
今の時点では、成果無し。
不安になってくる。だけれども、どうにかしなければならない。
一応近くに村があるので、其処まで戻って宿に泊まる。虱だらけのベットでも、無いよりはマシだ。
お風呂に入りたいけれど、こればかりはどうしようもない。
ぬれタオルで体を拭いて誤魔化す。
「いつまで粘る? もう少し深層に行くか、シュテル高地に行くか、そろそろ判断しないとまずいわよ」
「うん……」
クーデリアは、現実的に物を言う。
だから、ロロナも選択を迫られる。いつまでも此処で探していたって、どうにもならない可能性が高い。
それに、骨が見つかったところで、かなり広域を歩き回って、お香を仕掛けてこなければならない。
いずれにしても、厳しい。
「今からでも、別の方法は考えつかないの?」
「何か候補があれば良かったんだけれど。 あの大群を、力押しで追い払うのは無理だし、それに生半可なやり方じゃあ、一度追い払っても、すぐに戻って来ちゃうよ」
ロロナがぼやくと、クーデリアはため息をついた。
確かに、雲を掴むような話なのだ。
本当に上手く行くか分からないし、だいたい素材が見つからない。今回ほど、不安が刺激される課題は初めてだ。
とにかく、残りはまだ時間がある。
ぶっつけ本番だけは避けなければならない。
「シュテル高地に行くなら、早めにね」
クーデリアはそれだけ言うと、さっさと寝てしまう。
ロロナだって、分かっているけれど。シュテル高地は、本当に最後の手段にしたいのだ。この面子だと、非常に危険だと言う事は、言われるまでも無く分かっている。腕を上げているとは言え、まだベテランから見れば貧弱なクーデリアと、火力はあっても大した力はないロロナ。戦闘経験が不足しているリオネラと、強いけれど何を考えているかよく分からないタントリスでは、戦闘もかみあわないし、多数の敵に囲まれたとき、どうにもならない可能性が高い。
翌朝からは、最初からカタコンベ最深部に潜って、骨を探し続けた。
やはり、無い。
古い骨に絞って調べているのだけれど。見つからない。
骨で埋まっている通路の奥に、意を決して踏み込む。骨をかき分けるようにして奥へ行くと、階段で更に下へ通じている事が分かった。
銀色の触手が、所々に見える。
やっぱり、此方を警戒しているのだろう。余計な事をするなと、言われているようだった。
何度か触手に謝りながら、骨で埋まった通路を降りる。
広い空間に出た。
こんなに膨大な骨を見るのは、初めてだ。
不意に姿が浮かび上がる。あれ。これは。パメラだろうか。
いつもとは違う、白衣を着て、眼鏡を掛けている。普段のふわふわした雰囲気と違って、随分としっかりした感触だ。
幽霊かと思ってびっくりしたが、違う。何というか、気配がない。
「劣悪形質排除ナノマシンの脅威は、世界中に広がっています。 カウンターナノマシン精製設備は、原理主義者のテロによって破壊され、今やその脅威は制御不能です。 核戦争の災禍も留まるところを知らず、各地のシェルターも率先して攻撃されていると報告があります。 残された方法は、劣悪形質排除ナノマシン……」
姿が、途切れる。
その下に、古い機械があるのを見つけた。これが、パメラの姿を作っていたとみて、間違いないだろう。
どうやら機械が壊れてしまっているようだ。
ロロナは小首をかしげながらも、広い場所を歩く。
いつの間にか追いついてきていたクーデリアに、袖を引かれた。
「ちょっと、何こんな奥まで、ふらふら来てるのよ!」
「くーちゃん、今の見た?」
「あの幽霊女、遺跡より古いくらいの存在だって、分かっていたことでしょう? それに、彼奴が何とかナノマシンって口にするのは前にも聞いていたし、驚くことは何一つ無いわよ」
「……そう、だね」
ロロナは、今のを見て、ある事に気付いてしまった。
この間、沼地の悪魔に聞かされた事。それに、今昔のパメラらしい姿が言っていた事を聞く限り。ある仮説が思い当たるのだ。
ひょっとして、ネクタルは。
いや、それは今は良い。とにかく、たくさんある骨から、探していくしかない。
部屋の四隅には、触手ではなくて、大きな人型の姿がある。動く様子は無いけれど。多分触手と同じ、ガーディアンとみて良いだろう。
リオネラとタントリスも呼んで、探すのを手伝ってもらう。
とにかく凄い量の骨だ。そして、時々、パメラの姿が不意に浮かび上がってくる。どれも、悲しそうな顔をして、何かの説明をしているようだった。
大きな骨が見つかったので、呼ばれて出向く。
これは、ひょっとして。
非常に古い骨だ。しかも、幾つかの特徴が、原初ベヒモスのそれに一致している。骨としては肋骨だけれど。ロロナの背よりも、少しあるくらいの、巨大なサイズである。
「これ、もしかして」
「うん、間違いなさそう。 運びだそう」
あった。
本当に。
良かった。これが効果を為さなかったら、完全に詰む。だが、希望の一つは、これでどうにか得ることが出来た。
途中、また映像の一つが浮かび上がった。
白衣のパメラが、誰か男性と一緒に並んで立っている。恋人だろうか。寄り添う姿は、とても幸せそうだ。夫婦かも知れない。
何より古い幽霊だ。
かって、恋人や夫がいても、不思議では無いだろう。
パメラは、姿形からして、きっとこの白衣の頃から、あまり年を経ずになくなっているはずだ。
ならば、恋人とも死に別れた可能性が高い。
もし、そうならば。
パメラは、どうして笑っていられるのだろう。
どうにかカタコンベから、骨を運び出す事には成功した。全身が埃まみれだ。何より、超危険地帯のシュテル高地に出向かずに済んだことは大きい。
カタコンベを出ると、疲れ果てていることに気付いて、腰が抜けそうになった。やっぱり、ずうっと監視されながら作業をするのは、かなりのストレスになる。
ため息が漏れた。
村に一度寄って、夕方からぐっすり休んだ。
タントリスは平気な顔をしていたけれど。これから、調合もその後の作業も強行軍になる。クーデリアにもリオネラにも、手伝って欲しい所だ。
朝方には目が覚めた。まだ疲れているリオネラの回復を待ってから、村を出ることにして。ロロナはまだ肌寒い中、外に出て、荷車をチェック。何かを取られているような事は無かった。
ふと気付くと。
リオネラが、宿を出て行くのが見えた。
村の外に出ると、其処にタントリスが。二人が何か話しているのが聞こえる。隠れてしまったのは。雰囲気が、あまり良くなかったからだ。
「まだ、僕を恨んでいるのかい?」
「当たり前だろう。 あんな街の連中の言うとおりに、悪行に荷担しやがって」
「危うくリオネラは焼き殺されるところだったのよ」
穏やかではない話だ。
多分、後ろ暗い仕事もしているだろう事は知っていた。だが、まさかリオネラと、命のやりとりに近い事までしていたとは。
リオネラは青ざめている様子だ。
しかし、タントリスには余裕がある。
「僕も仕事で食べていかなければならないからね。 それに僕が追い出したから、死なずに済んだのでは無いのかな」
「巫山戯るなよ、てめー」
「やめて、ホロホロ。 タントリスさんは、そうやっていつも立場が弱い人を、追い出しているんですか?」
「難儀な仕事だと言う事は、僕も理解しているよ」
聞こえてくる話を総合する限り。
タントリスは、どうやら追い出し屋と呼ばれていたようだ。聞いたことが無い仕事だけれど、話の内容から察するに。
厄介者を、村の人などに頼まれて、追い出すのだろう。
或いは力尽くで。
若しくは、いろいろな手管を使って。
なるほど、優男できざなのに、腕が立つのはそれでなのか。吟遊詩人というのも、武器の一つにしているのだろう。
彼方此方に出向いても不思議がられないし、何より目だっても不審ではない。
「ロロナちゃんも、そうやって……」
「彼女に手を出す気は無いよ。 それに……」
これは、気付かれているとみて良さそうだ。
一瞬だけ、タントリスは此方を見た。
まあ、熟練の戦士なら当然か。ロロナの技術では、ハイドなど出来るわけもない。
「まあ、昔は昔、今は今だ。 君も昔より多少は丸くなっているじゃないか。 例の仕事も、もうやっていないんだろう?」
「その事は、ロロナちゃんには言わないで」
「おや、口調が変わったね。 嫌われるのが怖いのかい? その程度の事を打ち明けられないのなら、友達とは言えないよ」
冷酷な物言いだ。
リオネラが非常に臆病だと言う事を、全く配慮していない。
ロロナがタントリスにあまり魅力を感じないのは、きっとこういう冷酷さが、にじみ出ているからではないのだろうか。元々、裏家業の人だろうと言う事は分かっていた。それに、アーランド戦士は冷酷でなんぼだと言う事も理解している。だが、それでも、人間味は欲しいとロロナは思うのだ。
タントリスが、宿に戻っていく。
立ち尽くしていたリオネラは、何度か乱暴に目を擦ると。しばらく風にでも当たりたいのか。
夜明けの村の中を、ぶらつきはじめていた。
何だか悪いことを聞いてしまったかも知れない。
リオネラは、大丈夫だろうか。
宿に戻った後も、リオネラが帰ってくるまで、結局眠ることが出来なかった。せっかく求めていたものが手に入ったのに。
結局、大げさな準備はしたものの。アトリエに戻った時までには、さほどの交戦は行う事も無かった。多少ウォルフに纏わり付かれたくらいである。勿論、問題なく追い払う事が出来た。
隣の親父さんの店から、お香を入れるための金属台を回収。
全部で三つ。
これは、ヴァルチャーのいる森。近くの森。それに、少し離れた所にある村の周辺に広がっている森に、置いてくる。
特に、今回煙でいぶす対象になる森の側の村は厄介だ。なにしろ、もろに森の中にあるのだから。元々、緑化した地域を管理するために作られた村なのだ。此処にヴァルチャーが大挙して押しかけると面倒な事になる。
次は、お香の準備だ。
以前使った幻覚作用のあるアロマと違って、今回のは少し派手に煙が出るようにする。そしてその煙は、軽すぎず重すぎず。
重すぎれば、地面に留まってしまって、ヴァルチャーがいる辺りまで届かない。
一方で軽すぎると、そのまま上空に立ち上ってしまって、ヴァルチャー達の殆どが気付かなくなるだろう。
それでは困る。
レシピを見ながら、調合を進めていく。
勿論、事前にレシピは組んである。今回は、調べることが色々出来た上。以前の幻覚作用がある薬を作成した際に、資料を見ているから、ノウハウもある。
幸い、持って帰った原初ベヒモスの骨は非常に大きいので、多少削ったくらいではなくならない。
お香の主成分は、これで確保できる。
問題は乗せる煙だ。
これは、木のものを使う。
つまり、一旦、骨の香りを抽出して、これを液状化する。
そして事前に集めておいた木材に、しみこませる。
木材は運びやすいように、チップ状に砕く。そして燃えやすいように、何種類かの薬剤と混ぜる。
その中には、事前に作ってある、錬金炭もある。
そして中和剤を此処で投入。
煙と香りを親和させる意味がある。魔法陣の上で、幾つかの要素を、中和剤を媒介して親和させて。
半日ほどおけば、完成だ。
まずは、初回。
いきなり最初から上手く行くとは、ロロナも思っていない。
近くの森で、小規模に焚いてみて、状況を見る。
一回目は、案の定駄目だった。
煙があんまりにも、しょぼいのだ。鼎に入れて焚いてみると、煙が筋状には上がるのだけれど。これでは、ヴァルチャーは驚きもしないだろう。
部屋に閉じこもって使う薬剤だったら良かったのだけれど。これでは、あまりにも意味がない。
しかし、だからといって、煙の臭いが強すぎるとなると。原初ベヒモスの要素が消されてしまう。
煙は、かなり臭うものなのだ。
材料に使う木はこれで問題ないはず。ならば、煙を爆発的に出せるようにすれば良い。資料を漁って、いろいろな木を確認。
近場にあって、大量の煙を出す木は。
木が無いのだとすれば、薬剤で補えば良い。最初に見つけた薬剤は、かなり臭いが強いので、却下。
一応レシピは組んであったのに。
実際に動かしてみると、駄目。こういう自分が未熟なところを見せつけられると、かなりへこむ。
だけれども。
いつまでも、へこんではいられなかった。
第二弾が出来たのは、四日後のこと。出来れば、可能な限り早く仕上げたかったのだけれど。
近くの森に試作品を持ち込んで、焚いてみる。
かなり煙が出る。
これならば、鼎に入れて焚けば、相当量の煙が蔓延するだろう。ただし、臭いを嗅いでみて、失敗を悟る。
殆ど原初ベヒモスの香りが、消されてしまっていた。
何となく理由は分かった。使った木に、消臭剤の効果があったのだ。実際に焚いてみるまでは、これは分からなかった。
意外な苦戦。
だが、一番の難関だと思っていたものは、手に入っているのだ。
それならば、いつまでも足踏みはしていられない。さっさと片付けて、次に行かなければ。
気分転換をしよう。
そう思い当たったのは、第四弾が失敗した辺りである。
どうも、煙を強くすれば香りが消えてしまう。香りを残すと、煙が弱くなってしまう。そのジレンマが、克服できない。
まだパメラのお店に行けていないことに気付いたので、行ってみることにした。どうせ、すぐ近くなのだ。
イライラしたままでは、失敗だってする。
気分転換をした後なら、レシピの調整だって、上手く行くに違いない。
クーデリアを誘ったのは。以前、そのお店に幽霊の噂があったから。本物の幽霊が今は住み着いているし、噂は師匠が作った嘘だとは分かってはいるのだけれど。怖いものは怖いのだ。
苦手意識が、あるのかも知れない。
クーデリアは呆れた様子だったが、それでもつきあってはくれた。
すぐ近所のお店は。中ががらんとしていた。一応商品は陳列されているのだけれど。魔法のお店と言うよりは、怪しいものばかりを置いている変なところになっている。外側から中を確認しただけでこれだ。
お客は案の定、殆ど入っていなかった。
入り口から入ると、すっと奥からパメラが姿を見せた。
あれ、歩いている。足もあるし、空中に浮かんでもいない。
何処かで、肉体を得たのだろうか。
「あらー、いらっしゃい。 やっと来てくれたのね」
「開店おめでとうございます。 これ、差し入れです」
無駄になるかと思ったのだが、念のためパイを焼いてきた。以前から作って見ようと思っていた、ベリーを中心にたくさんの果物を使った、豪華なパイだ。クリームも甘さを少し抑えた、皆が楽しめる味になっている。
だが、パメラが実体を得ているのなら。
幸い、無駄になることは無さそうだ。
販売している品を見せてもらう。驚いたことに、ネクタルを売っていた。工場に提供しているのだから、売り出していてもおかしくはないと思っていたのだけれど。まさか、本家本元であろうパメラが販売に乗り出すとは、思っていなかった。
他にも、魔術の籠もった品が、かなり置いてある。
気味の悪い人形は、触ろうとしたら噛みついてきた。
びっくりして手を引っ込めると、また動かなくなる。しかし、クーデリアが触ると、何も起こらないのだった。
「ああ、それはねえ。 臆病な子には強気に出る人形よぉ」
「ええー」
「面白いわね」
意外にも、クーデリアは気に入ったらしく、その場で即金にて買っていく。
魔術の籠もった品はいくらでも見た事があるが。此処に置いてあるのは、数こそ少ないが、とても珍しい品ばかりのようだった。
地下の方で、何か大きな気配がある。
だが、パメラは其処までは見せてくれなかった。まあ、お店のバックヤードにお客が入れる場所は、あまりない。
ロロナも、こんな不思議な品をどうやって作るのかは興味があったし。何より、どうやってネクタルを作っているのかは知りたかったけれど。だが、流石に見せてと言うのもぶしつけなので、黙っていることにした。
とりあえず、パイを引き渡すと、一旦引き上げた。
クーデリアも、自宅に戻る。
栄養ドリンクを飲むと、少し寝ることにした。お昼寝のような形になるが、気分転換は出来たのだ。
また、此処から、気合いを入れて望むには。
休憩は、必要不可欠だった。
臭いがない煙で、なおかつ丁度木の上くらいに留まる重さ。
なおかつ量が出て、元の臭いを消すこともない。
最初に組んでいたレシピでは、これを実現することが、どうしても出来なかった。素材を色々変えてみても、中々難しかった。
重い煙そのものは、研究を始めてしばらくして、ようやく実現できた。
時々来る行商の男の子が売ってくれた木材で、燃やすと非常に重い煙が留まるものがあったのだ。
コオル君という背の低い男の子なのだけれど。
確か彼らは、非常に背が低い一族で、アーランドに限らず各地で行商を行っているのだという。
噂によると、異世界にまで足を伸ばしているとか言うけれど。まあ、話半分に聞く方が良いだろう。行商のネットワークがそれだけ凄いという事で、ロロナは納得していた。
話によると、この木材は、占いなどをする一族が、雰囲気作りのために用いるのだという。
元々の木ではこうは行かず、特殊なタールと混ぜることによって、重い煙を造り出すのだ。
とりあえず、言われたとおりに試してみて、重い煙そのものは出来た。
臭いもない。
ただし、これに原初ベヒモスの香りを乗せることが、中々出来なかった。
煮詰まってきたと思ったので、大広場に出向く。
リオネラが久しぶりに、人形劇をやっていた。以前は人の視線を浴びるだけで青ざめていたのに。
今では、多少は営業スマイルを浮かべるようにはなっていた。
この間、タントリスとリオネラが話していた事が、気になる。一体彼女は、以前の住処で、何をしていたのだろう。
だが、とても悲しい過去なのは、間違いなさそうだ。
人形劇が終わって、逃げるように広場を後にするリオネラを。先回りして、捕まえる。アトリエに呼んで、一緒に食事にした。
ロロナも煮詰まっていることを話すと、リオネラは寂しそうに笑った。
「そうか、ロロナちゃんも、そんな風に苦労はしているのね」
「それはそうだよ。 というよりも、わたしなんて、いつも苦労ばっかり。 いつかは、迷い無く動けるようになりたいって、思ってるよ」
一緒に食事をするだけで、随分気が楽になる。
少し気分も晴れたので、リオネラに手伝ってもらって、資料を整理。
もう、時間はあまり残っていない。
ぶっつけ本番にならないためにも。
余裕を持って、お香を完成させなければならなかった。
どうにか発見できた天敵の骨。
これを利用して香を作ります。
もっとも平和的な相手の遠ざけ方です。実際に傷つけるわけではないのですから。
感想評価などよろしくお願いいたします。励みになります。