暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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お香というにはあまりにも大がかりですが。

高い殺傷能力も持った相手です。

それを追い払うには、相応の準備が必要だと言う事です。







2、退魔のお香

結局、お香を入れた鼎を運ぶために、新しく荷車を買う事になった。

 

実験に用いるのは、ヴァルチャーが大量に住み着いている目的の森ではない。以前から目をつけていた、十羽くらいのヴァルチャーが夕暮れ時くらいに来る、近くの森の一角だ。群れからはぐれているのか、或いは小休止なのかは分からないけれど。

 

この一角には、短時間だけ、必ずヴァルチャーが来る。

 

鼎を置いて、お香を焚く。

 

結局、どうやって問題を解決したかというと。香りの成分を抽出して、圧縮することで、対応した。

 

不思議な事で、同じ量の香りでも。

 

圧縮すると、随分と撒いたときに、違うのだった。

 

そして圧縮してみて気付いたのだけれど。

 

原初ベヒモスの香りは、威圧的だ。

 

嗅いでみて分かったのだけれど、おそらく存在そのものが最強だったから、威圧的な臭いを纏うことで、存在を誇示していたのだろう。

 

勿論現在では、最強でも何でもないけれど。

 

当時は、圧倒的な力を持って、大地に君臨していたことは。臭いを嗅ぐだけで、何となく分かった。

 

お香に火を入れると、もくもくと煙が上がり始める。

 

予定通り、周囲に煙幕が出来るほどの量だ。

 

順調に広がっていく。そして、木の枝の上にも届いた。

 

木陰に隠れて、しばらく待つ。

 

夕暮れに、ヴァルチャーが来た。その頃には、煙は一応消えていたのだが。上手く行けば、臭いが枝の上に残っている筈だ。

 

上手く行って欲しい。

 

ロロナはしばらく様子を見ていた。

 

固唾を呑むとは、このことだ。

 

側には、何時でも戦えるように、クーデリアが控えてくれている。タントリスも、今回は呼んできている。

 

数羽のヴァルチャーに一斉に襲われたら、かなり面倒だからだ。

 

近くで見れば分かるが、ヴァルチャーは翼長だけで長身のタントリスの背丈よりも、更に数割増しはある。

 

爪も牙も鋭いし、魔術まで使うほどだ。

 

なめてかかれる相手では無い。空を舞うと言う事も含めて、相応の敵だと認識すべき存在なのだ。

 

旋回していたヴァルチャーが、枝の上に降りてくる。

 

枝に、何事もなかったかのようにとまった。

 

翼を繕いはじめるヴァルチャー。魔術を飛行に併用しているとは言え、翼は彼らにとっての生命線だ。

 

地上を走るタイプの鳥以外に取って、翼は文字通り命の次に大事なものなのである。もう一羽が、枝の上に降りてくる。

 

緊張の一瞬。

 

そろそろ、臭いに気付くはずだ。

 

木陰で、ぎゅっと身を縮める。

 

上手く行かなかったら、今までの苦労が水の泡だ。天敵だった原初ベヒモス以外、ヴァルチャーを追い払える存在が、想像できない。

 

不意に、けたたましい悲鳴をヴァルチャーが上げたのは、その時だった。

 

明らかに一羽が、異常な様子で舞い上がる。他のヴァルチャー達は少し戸惑っていたが、最初の一羽に倣った。

 

慌てた、というよりも、もはやパニックに陥っている。

 

可能な限り、高度を稼ごうとしている。必死に翼をばたつかせている様子は、滑稽でさえあったけれど。

 

彼らが必死である事はロロナには分かっていた。だから、息を飲み込む。笑うことではない。

 

効いたのか。本当に。

 

数羽のヴァルチャーは、慌てて連れ立って、飛び去っていった。人間が魔術で脅かしたときの比では無い。

 

元々ヴァルチャーは、体が大きいこともあって、決して臆病な鳥ではないのだ。アードラの一族らしく、堂々たる猛禽の一種。それが、あれほど怯えて飛び去るのは、ロロナもはじめて見た。

 

呼吸を整えて、木陰から出る。

 

一旦鼎を片付ける。しばらくは、経過観察だ。数日間調べて、あのヴァルチャー達が必ず夕刻ここに来る事は分かっている。ならば数日また調べて、彼らが二度とここに来ないことを、しっかり確かめなければならない。

 

「良く効いたわね」

 

「うん。 でも、あんなに吃驚させて、可哀想だったかなあ」

 

ロロナだって、今まで何度も戦場に立って、敵を屠ってきたのだ。戦場で敵に憐憫を覚える事も、情けを掛ける事も無い。少なくとも、無力化するまでは。

 

しかし、ヴァルチャーは潜在的に危険だとはいっても。彼らと直接の利害関係はないのだし、今回の件は気の毒でならなかった。

 

一度、アトリエに戻る。

 

途中、護衛をしてくれたタントリスが、面白い話をしてくれた。

 

「これは西の方で聞いた話なのだけれどね」

 

「旅先ですか?」

 

「そうだとも。 ある小さな村に、優しい男がいた。 ある日男は凶暴なアードラを撃ちおとしたのだけれど。 そのアードラが雛のために、必死に人間を追い払おうとしていることに気付いて、情けを掛けた」

 

それから、悲劇が始まった。

 

彼らには、人間で言う情けなどと言う概念はない。

 

単に撃ちおとされた恨みだけがあったのだ。

 

数年後、村は多数のアードラに襲われた。男は後悔したが、時は既に遅い。アードラは撃退して皆殺しにしたけれど。

 

村は襲撃によって滅茶苦茶になって。人も多く死んだのだった。

 

「動物と人間の概念は違う。 ましてや、情けを掛けるなどというのは、だいたいは人間の自己満足に過ぎないのさ。 だから君も、遠慮せずに行動するといいのではないのかな」

 

「……そう、ですよね」

 

言われるまでも無く、分かっている。

 

タントリスが言ったのは、おそらく民話の類だろうけれど。それでも、真実の一端は射貫いているだろうと思う。

 

殆どの動物は、喰らい、眠り、増える事だけを考えている。

 

知能が高くても、ヴァルチャーもその例に漏れない。

 

おそらく、アトリエに戻った後、ロロナが悶々とすることを、見越してそんな事を言ってくれたのだろうけれど。

 

タントリスは冷酷だと、少し前から気付いていたからよかったが。そうでなかったら、反感を覚えていたかも知れない。

 

そう言う意味で、タントリスは或いは。とっくにロロナが、タントリスをそう見ていることに、気付いているのだろうか。

 

女子の事が大好きだから、しっかり観察しているという事なのだろう。

 

アトリエに到着。

 

タントリスは作業を手伝おうかと言ってくれたけれど、丁重に断る。クーデリアと一緒に、一旦鼎を片付けた。

 

これからは、しばらく地味な観察を続けなければならない。

 

二人で、プランを練る。

 

一応、計画は事前に作ってあったけれど。細部に問題が無いか、見直していく必要もある。

 

「くーちゃん、あんなに効くなんて思わなかったけれど。 びっくりしなかった?」

 

「数羽を撃退できただけよ。 此処にあるけれど」

 

資料の一角を、クーデリアが指さす。

 

環境アセスメントと書かれていた。

 

何かを使う場合、それが最終的にどんな影響をもたらすのか、しっかり調べていく必要がある、という概念のようだ。

 

「あのヴァルチャーが、どんな風な反応を示して、落ち着くまでどう行動するかを、しっかり見て行かないと駄目よ。 大挙してアーランドや近辺の村を襲いでもしたら、目も当てられないわ」

 

「うん、分かってる」

 

「最悪の場合、間引かないと行けないでしょうね」

 

それは。

 

分かっているけれど、避けたい。

 

戦う事は怖くは無いし、最悪の場合は間引かなければならないことも、分かっている。ただし今回は、穏便に事を済ませることが出来るカードが手元にあるのだ。ならば、使っていきたい。

 

クーデリアは、戦士として、急速にたくましくなっている。

 

それは分かっているし、頼もしくもあるのだけれど。

 

ロロナは、置いていかれているのではないかと思って、時々不安になるのだった。

 

翌日。

 

夕刻に、同じ場所に足を運ぶ。

 

木陰に隠れていると、ヴァルチャーが来るのが見えた。昨日と同じ個体だと、目が良いロロナにはすぐ分かった。

 

ゆっくり木の上を旋回する屍食漁りの猛禽たち。

 

降りてこない。

 

或いは、上空で。既に残っている臭いを、察知できているのかも知れなかった。

 

勿論、いつまでも、臭いが残るとは思えない。

 

問題は其処だ。

 

原初ベヒモスの骨は、いつまでも手に入り続けるものではない。使えば減る。一度原初ベヒモスが来たからと言って、定期的に使わなければ、いずれヴァルチャー達は戻ってきてしまうだろう。

 

今はこれで良いけれど。

 

代替の臭いを、いずれ用意しなければならないはずだ。

 

ヴァルチャー達は降りてこず、他のヴァルチャー達がいる森へと飛んでいった。合流するつもりなのだろう。

 

念のために一緒に隠れてくれていたクーデリアが嘆息する。

 

「上手く行っているみたいだけれど。 どうするの」

 

「計画の前倒し、出来るかな」

 

「やめておいた方がいいわよ。 ただでさえあんたの作るもの、毎回何かしら欠陥があるんだもの。 しっかり第一段階を確認して、それからの方が良いわね」

 

「はい……」

 

流石に親友。

 

容赦のない物言いに、ぐっさりきたけれど。

 

言われるまでも無く、その通りなのだ。今回はまだ時間もあるし、じっくり時間を掛けて検証した方が良い。

 

アトリエに戻る。

 

計画では、あと二日間、確認してから先へ進む。

 

その間に、出来る事はやっておきたい。

 

お香として焚く分は、既に充分な量を確保している。最後にヴァルチャーのいる森で焚く分、周辺の森でも焚く分は、調合済みだ。鼎についても、準備は済ませてある。

 

もし、問題があるとすれば。

 

クーデリアと話して、色々と問題を詰めておく。

 

何が起きても、不思議では無いのだから。

 

翌日、更に翌日と、観察。

 

翌日は、まだヴァルチャーも戻ってきたけれど。その次の日は、とうとうヴァルチャーは姿を見せなかった。

 

どうやら、効果はあると見て良さそうだ。

 

計画を、先に進める。

 

明日は、決戦だ。

 

 

 

王宮に行ってみたけれど。やはり、ステルクは重要な用件で、席を外しているという事だった。

 

そういえば、少し前から。王宮で、女の子が働いている姿を、頻繁に見るようになった。見間違えでは無いだろう。みんな可愛いのだけれど、何処かホムのように無表情で、周囲とも距離を置いている様子がうかがえた。

 

あれは、何なのだろう。

 

そんな中、ひげ面のベテラン騎士が一人、妙に女の子に良くしている。そう言う趣味なのかと思ったが、それにしては妙だ。好きな相手に接していると言うよりも、親子のような関係に見える。

 

騎士の部下らしい戦士達も、同じように女の子に接している所を見ると、あの集団だけは、どうしてか他とは違う考えのようだ。

 

別に何人かいる女の子の中で、特別愛想が良いわけでもないし、可愛いようにも見えないのだけれど。

 

不思議な話だ。

 

「ヴァーデン殿、次の討伐任務が決まりました!」

 

「応。 もう問題ないか? 腕の調子は」

 

「大丈夫です。 行けます」

 

「そうか、よし」

 

触るようなこともなく、ヴァーデンと呼ばれた騎士は適切に距離を保って、女の子と接している。

 

其処には思いやりを見て取ることが出来て、ほほえましかった。

 

良いものを朝から見たけれど。

 

ステルクの助力が得られなかったことに代わりはない。強化した荷車で、鼎と薬剤を運ぶ。

 

クーデリアと相談して決めたのだけれど。この薬は、香り立つ野生と名付けることにした。ちょっと格好を付けすぎかなと思ったのだけれど。原初ベヒモスの香りは、そうとしか形容の仕様が無いのだ。奇をてらっても仕方が無いし、分かり易い名前が一番良いだろう。

 

街の門には、リオネラとタントリスが、既に待っていた。

 

落ち着かない様子のリオネラは、明らかにタントリスと距離を取っている。気にもせず、ちょっと格好を付けたポーズで、挨拶してくるタントリス。

 

「やあ、おはようハニー」

 

「おはようございます。 タントリスさん、りおちゃん」

 

「あの小さな子はまだだよ。 彼女が君と一緒に来ないのは珍しいね」

 

「今日は、ちょっと用事があって、別行動していたんです。 そろそろ来ると思うんですけれど」

 

クーデリアが来る前に、作戦会議をしておいた方が良いだろう。

 

通行人の邪魔になると問題なので、ちょっと道から外れたところに移動。タントリスは、戦闘の可能性が高いと言っておいたのに、丸腰だ。

 

やはり、素手での戦闘を主体とするから、だろう。

 

「なるほど、ヴァルチャーの大群を、煙でいぶして追い払うのだね」

 

「ちょっと違いますけれど、そんな感じです。 既に効果があることは確認済みなので、今日は先に、ヴァルチャーが来ると困る場所に、煙を撒いてから行動します」

 

そのために、鼎を三つも作ったのだ。

 

一つでも結構な出費だったけれど。今回は、しっかり森に臭いを根付かせる必要がある。だから、必要なことだ。

 

勿論、上手く行けば、王宮に代金は請求できるだろう。

 

六十年も放置していた案件なのだ。これが解決すれば、多少のお金は出してくれるだろう事は、疑いない。

 

まあ、それは別に良い。

 

問題は、今、問題を解決できるか。だ。

 

クーデリアが来る。

 

かなり面倒な作業だっただろうに、押しつけてしまって、本当に申し訳なかった。

 

「やあ、小さなレディ」

 

「うっさい、色ボケ吟遊詩人」

 

「これは相変わらずの毒舌だ。 それがまた可愛らしい」

 

相も変わらず、女性に対しては妙に甘ったるい声で喋るタントリス。一度男性と話しているところを見た事があるのだけれど、声のトーンまで変えていたので、ちょっとロロナも困惑した。

 

男なんてどうでも良いと、本気で考えているタイプなのだろう。

 

クーデリアはタントリスに冷酷な対応をすると、ロロナに無言で書類を突きだしてくる。面倒くさかったと、顔に書いてあった。

 

クーデリアは、数日前から、王宮に申請を出していた。

 

近くの森で、かなり大規模に、煙をいぶすと。

 

「うん、問題無さそうだね。 ありがとう、くーちゃん」

 

「別に良いわよ。 これで騎士団にコネも作れたしね。 ただし失敗したら大恥だから、それは覚悟しておきなさい」

 

「分かってる」

 

絶対に成功させる。

 

クーデリアは多分うすうす勘付いているだろうけれど。今回の件は、上手く行けば、かなり大きな功績になる。

 

今までも、色々ロロナが作ったものが、アーランドの役には立ってきたようなのだけれど。

 

今回のが上手く行けば、六十年来の問題が解決するのだ。

 

そして、それを主体的に解決したロロナもそうだけれど。正面で動いていたクーデリアにも、良い印象が集まるはず。

 

つまり、待遇改善に向けて、必ず動きも出る。

 

アーランドでは、有能な人間は、優遇される。血筋が良くても、無能であれば良い職場にはつけないものなのだ。戦士の国だから、という事が大きいだろう。

 

クーデリアは急激に腕を上げているし、此処でコネを作っておけば、必ず将来が良い方向に動く。

 

ロロナも、この程度の計算は出来るのだ。

 

一旦、近くの森に移動。風向きなどを考えて、何処に鼎を置くかは、事前に念入りに調べてある。

 

森全体を、煙でいぶすのだ。

 

濃霧ほど視界が遮られるわけではないけれど。それでも、視界は悪くなる。今日は、新人達には、訓練を休んでもらう事になる。

 

巡回の戦士が来たので、挨拶しておく。

 

ロロナはすっかり顔を覚えられており、挨拶すると笑顔で応じてくれるのが嬉しい。

 

「よう、今日はなんか、鳥を煙でいぶして追い払うんだって?」

 

「はい。 ヴァルチャーを、今日でどうにかします」

 

「お、それは助かるな。 たまに新人があれに襲われると、怪我するからよう。 対処が面倒なんだわ。 さっさと片付けてくれな」

 

手をヒラヒラと振って、戦士のおじさんは行く。

 

どうやら、最近知ったのだけれど。

 

彼らに、ロロナの作った耐久糧食や、お薬が配られるようになり始めたようなのだ。特にネクタルを混ぜ込んだお薬は効果抜群と言う事で、非常に重宝されているらしい。自分のブランドができはじめているのだと知って、ロロナも嬉しい。

 

鼎を一つ設置。

 

火を入れると、煙がもくもくと出始めた。

 

ゆっくり、わき出すようにして煙が広がりはじめる。これを使うのをはじめて見たリオネラは、露骨に怯えた。

 

「何これ、怖い……」

 

「空気より少し重い煙を使ってるの。 だから、空に一直線にならないで、森に広がっていくんだよ」

 

「霧みたい」

 

リオネラは反応が女の子っぽくて可愛い。

 

ただ、アーランドでは、こういう脆そうな子はあまり受けが良くない。女の子でも、戦士として有能である事が求められるからだ。

 

さて、此処はこれで良い。

 

次は、此処から移動して、昼間くらいにたどり着ける村の側の森。

 

ヴァルチャーがたまに飛来する場所と言う事もある。村には既に許可を取ってあるので、鼎に火を入れて、すぐにいぶす。

 

村長を連れてきておいたのは、しっかり現場をみておいてもらいたいからだ。

 

もくもくとわき出る煙を見て、まだ若干頼りなさそうな村長は、不安そうに眉をひそめた。

 

戦士としては相応の人らしいのだけれど。

 

未知の存在が怖いのは、男女関係無し、なのかも知れない。

 

「本当にこれで、ヴァルチャーが寄りつかなくなるのかね」

 

「既に効果は実証済みです」

 

「まあ、王宮からもお達しが出ているけどねえ。 ほら」

 

村の中から、複数の視線が、此方に向けられている。

 

煙を気味悪がっているのは、明らかだ。この村は、森を守ってきた一族のもの。かなり初期に、錬金術師が緑化を行って、この森を作った。それ以来、森を大事に守り、周囲の荒れ地をゆっくり緑化して大地を整え、畑を作り、森にいる獣たちを狩って、彼らは生活してきた。

 

他の獣にも、原初ベヒモスの臭いはおそらく天敵として作用するはずだけれど。

 

ヴァルチャーと違って、彼らには居場所がない。

 

だから、何処かに逃げだそうとせず、巣穴に籠もってやり過ごそうとするはずだ。しばらくは肩身が狭くなるかも知れないが、我慢してもらう他無い。

 

「うちの村でもね、赤ん坊がヴァルチャーにさらわれかけた事が何度かあってね。 ヴァルチャーを追い払ってくれれば、感謝はするが。 ただ、錬金術師に対して、あまり良い印象がない人間も多いんだ」

 

「えっ……!?」

 

「森を作ってくれたことは感謝している。 元々アーランドでは二線級だった人間達が、開拓民として此方の村に移ってきて、その子孫が我々なんだ。 戦士として一流になれなかった者達にも生き甲斐をくれたんだから、感謝は当然だけどね。 だけど、戦士とは違う存在で、訳が分からない力を持っている君達を、怖いと思うことは、自然なんだよ」

 

そう言われてしまうと、確かにそうなのかも知れない。

 

だが、ロロナは頭を下げる。

 

上手く行くはずなので、今回は我慢して欲しいと。

 

こうしていぶしておかないと、此処に大挙してヴァルチャーがやってくる可能性がある。そうなると、ベテランの戦士達でも、対処が面倒になるだろうとも。

 

どうにか、納得してもらって。次に。

 

いよいよ次が本命だ。

 

この時間帯、ヴァルチャーはいない。その筈だ。黙々と南下して、最後に煙を仕掛ける森に行く。

 

街道を南下していくと、何処かに強力なモンスターを討伐に行くらしい戦士達の一団とすれ違った。

 

部隊の規模からして、かなりの凶悪モンスターか、或いは数が多いか、どちらかだろう。ロロナも知っているような強い戦士の顔も、見かけられた。その中に、ロロナの両親の姿もあったので、吃驚だ。

 

二人とも、少し前に重傷を受けて帰ってから、傷を無理矢理いやして、殆ど休む暇も無く彼方此方忙しく飛び回っている。

 

まさか、こんな所ですれ違うとは思わなかった。

 

軽く挨拶を交わして、すぐに離れる。

 

両親にもロロナにも、それぞれの仕事がある。どちらの仕事も、アーランドのためになるものなのだ。

 

近くの森に戻ってきた。

 

既に、かなりの煙が充満している。さあ、後はヴァルチャーの森だ。

 

これは、アーランドのみんなのため。

 

それに。ヴァルチャーのためでもある。ヴァルチャーには休憩所がなくなるかも知れないが、このままではどちらも不幸になる。

 

それだけは、避けなければならない。

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