暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
近年のアトリエではかならずしもそうではないですが、ゼッテル(紙)の作成は序盤のアトリエシリーズの定番の一つですよね。中和剤や最初のお薬を作った後に、インゴットやクロースと同時期に作れる事が多かったりします。
本作のロロナは最初から天才ではないので、ゼッテルも四苦八苦しながら作っていく事になります。
ましてやアーランドシリーズの錬金術は、近年のシリーズで主体の才能依存型ではなく、どちらかというとレシピ依存型の科学に近いものですので(あくまで近いだけ)。
序、つまづき
ロロナは額の汗を拭った。
ゼッテルの作成が軌道に乗り始めたからだ。箱に入れて成形した後、渇かして、そしてなめす。
なめした後は、何度か中和剤を重ね塗りして、紙そのものの質を上げる。
最後に、水分を飛ばしきると。文字を書くことも充分に出来る、手触りが良い紙に仕上がるのだ。
強度も申し分ない。
また、触っていて分かるのだが、工場製の紙と違って、ほんのり暖かい。これは魔力がたっぷりゼッテルに籠もっているからだ。
必要とされるゼッテルの量は膨大。今はまだ、その半分も出来ていない。
ただ、何度か近くの森に行き来して、必要とされる材料は採集を終えている。問題は、他の納品物だ。
ゼッテルを最初に全部仕上げるか。
それとも、炭と研磨剤についても、考えるか。
ロロナはゼッテルをなめしながら考えたが。どうも良い結論は出なかった。
気がつくと、夜になっていた。
仕込みもあわせて、今日だけで三十枚のゼッテルを仕上げた。最初の内は、ゼッテルの縁の処理が上手に出来ず、どうしても均一な紙として作れなかった。だが、参考書を見て、その通りに仕上げることで、何とかこなせるようになってきた。
どうにかゼッテルだけなら、納品は間に合いそう。
アストリッドが帰ってくる。
まだ明かりがついているので、驚いたようだった。
「なんだ、まだ起きていたのか」
「はい。 ゼッテルを仕上げていました」
「どれ……」
アストリッドはできあがったゼッテルを、何枚かつまんで確認していく。ぐうたらで怠け者でも、錬金術師としては超一流の師匠だ。緊張する。
アストリッドはしばらくゼッテルをめくって見ていたが、小さく嘆息した。
「まあ、この辺りで取れる素材では、こんなものだな」
「だ、駄目ですか?」
「泣くな。 まあ、私から見れば駄目だが、商売ものにはなるだろう。 今後は、もっと良い素材を厳選して、質を上げていかなければならないがな」
「はい!」
師匠が、そう言ってくれたのは嬉しい。
だが、ゼッテルを最初に仕上げきると言うと。師匠は、あまりいい顔をしなかった。
「それは危険だな」
「どうしてですか?」
「お前は生真面目に、私が言うとおり一つずつ作業をしている。 つまり、まだ炭も研磨剤も、手を付けていないだろう」
「はい、そうですけど」
もしもトラブルが起きた場合、まずいと、師匠は言う。
確かに。ロロナも、その事は考えていなかった。
「致命的なトラブルが起きても、日にちがあれば対応できる可能性が高くなる。 既に納品量の三割以上は出来ているようだから、一段落と判断して、次に掛かれ。 それと、完成品は万が一を考えて、コンテナに入れておけ」
あくまでアドバイスだから、どうするかはお前の自由だ。
そうアストリッドは言うと、寝室に直行した。本当によく寝る人だ。お風呂にも入らないのだろうか。
ロロナは頷くと、次の作業の準備に入る。
炭の準備はしていたのだ。
今、仕上げているゼッテルが終わったら、次は炭に取りかかる。炭が一段落したら、最後は研磨剤だ。
研磨剤は、作業リスクよりも、むしろ採取リスクが大きい。
どうもあのオルトガ遺跡は、行くのが怖い。
地上部分は大した危険があるわけではないと分かっているのだけれども。それでも、どうしてか、足が竦んでしまうのだ。
クーデリアは、どうなのだろう。
頭を振って、雑念を追い払う。
まずは、手元にある作業。それをこなしてから、次へ行くべきだ。
結局、夜半前に、今行っているゼッテルは、仕上げることが出来た。これで四割という所だ。
開始してから、二週間ほど。最初のペースでは危うかったが、今なら行けるかも知れない。
しかし。
翌日の昼には、その考えは、無惨に打ち砕かれることとなった。
唖然としたロロナは、炭に適当と書いてあった植物、アイヒェの末路をもう一度見つめた。
アイヒェは近くの森に群生している木で、薪として良く用いる。まるまると木の枝を広げる、オーソドックスなもので、ロロナが知る限り十種類以上が存在している、どこにでも生えている木だ。薪に用いるだけではなく、家の素材になったり、時には武器にも用いる。お酒を入れる樽にすることもある。生活に密着しているし、ロロナだってはじめて触るものではない。家事をしていれば、嫌でも触る程度の存在。
今までの経験通り、というよりも参考書に書かれている通り、乾燥している薪を拾ってきた筈なのだ。
言われたとおり、炉に投入して、蒸し焼きにし始めたのだが。
その途端にはじけて、割れてしまったのだ。凄い音がしたので、びっくりした。薪として用いているとき、こんな現象は起きたことがなかった。
これでは、売り物には出来ない。
国に納品するなんて、もってのほかだ。焦りが、体中をわしづかみにする。どうしよう。どうすればいいのだろう。おろおろしていると、師匠と目があった。
冷や汗を流して、泣きそうになっているロロナを、面白おかしく観察していたらしかった。
「し、師匠ー!」
「悪いが、資料は渡してある。 その中に答えはあるから、自分でどうにかしろ」
言い残すと、師匠はさも楽しいものを見たと言わんばかりに、寝室に戻ってしまった。昨日遅かったとはいえ、どれだけ眠れば気が済むのだろう。
だが、師匠はああなると、これ以上ヒントなどくれない。
というよりも、ここ二週間苦労していて、昨日と最初の、一回ずつしかヒントなどくれなかった。
後は失敗したりおろおろするロロナを、楽しそうに見ていただけだ。それか、出かけているか、寝ているか。
とりあえず、炉の火を止める。
本来、炭を作るのには、七日から八日かかると、参考書にはある。つまり錬金術では、その行程を大幅に縮めるだけではなく、品質も高めることが出来るのだ。ただし、技術が相応にいる。
慌てて、参考書を読み直す。
何か見落としているものはないか。
まず、どうしてはじけたのかが分からない。炭についての参考書は、そもそも種類がとても少ないのだ。
全部見直してみるが、トラブルシューティングの類は、殆ど書いていなかった。
嗚呼、どうしてだろう。
もちろん、イクセルから貸してもらっている本も目を通す。使い込まれている、とても良い本だ。料理についての知識も、読んでいると身につく。
しかし、参考になりそうな事は、書いていない。
今日は丸一日を捨てて、読書に費やすべきかも知れない。そう思ったのは、既に夕方を廻った頃だった。
夕食の準備をして、一旦頭をクリアにしようと試みるけれど。
上手く行かない。
はじけてしまったアイヒェは無惨な姿で、とてもこれ以上は行程を進められない。薪の方に混ぜながら、ロロナはごめんねと呟いていた。
もう一度、炭の作り方を復習する。
錬金術で炭を作る場合は、炉を用いるだけではなく、その中に充満させる蒸気に中和剤を用いる。
まず炉に炭にする木材を入れた後、中和剤を炉に投入。
徐々に熱を上げていって、中和剤が炉の中に充満するようにする。この中和剤を入れるタイミングについては、検証してみたが間違いはない。そうなると、間違っているのは、おそらく。
何度か考え込んだ後、他にもヒントはないだろうかと、もらった資料を総ざらいに見ていく。
夕食の時間も、ずっとその事を考えていた。
師匠は珍しく、何も話しかけてこない。普段はロロナをからかったり虐めたり、触ろうとしたり膝に乗れといったり、ろくなことをしないのに。
今日は珍しく、いわゆる空気を読むという行動をしてくれたのかも知れない。
しかし、その日のうちに、解決策は見つからなかった。
もはや絨毯爆撃しかない。
順番に、資料を見ていく。ようやくそれらしい記述を見つけたのは、読書を始めてから、三日目の事。
全く関係ないと最初考えていた道具の作成工程の過程に、記載があった。
「これだ……」
見つけ出した嬉しさからか、ロロナは思わず呟いていた。
既に夕食の後だけれども。やっと、光が見えた気がした。
資料には、こうある。
炭に関する失敗で侵しやすいのは、錬金術で行程を縮めているという事を、忘れがちだと言うことだ。
つまり、薪と同じ感覚で乾燥させてはいけない。
乾燥させるために、火を通すくらいの覚悟が必要になる。天日で干す程度では、適切な状態とはならない。
そう言うことだったのだ。
ロロナは大きくため息をついた。きっと炭の参考書を書いた人は、錬金術を知っているから。知らない人向けには、書いてくれなかったのだろう。
参考書に、紙を差し込んでおく。
そして、自分は、新しく得た知識を、そのまま試してみることにした。
いずれ自分で参考書を書くときには。
炭を作る時に、もっと乾燥させなければならないと、記載する必要があるだろう。
そんなときが、来るとは思えないけれど。
まず乾燥させる方法。
これも参考書を確認する。薪を炙るようにして焼くと良いとある。なるほど、これも炉を使うべきか。
慣れた人であれば、或いは。
そうなると、参考書にある行程を変えなければならない。
まず炉で薪を乾燥させる。これについては、方法も分かった。
その後一旦薪を炉から出して、冷やす。これについては、手探りでやっていくしかない。つまり、作業工程が増える分、必要時間も増えると見て良い。思った以上に状況が悪いことにロロナは気付いたが。こればかりは、どうしようもなかった。
諦めずに努力を続けていて、良かった。
ロロナは頷くと、早速翌日から。再構成した行程で、作業を開始したのだった。
※アトリエシリーズの錬金術について
初代の頃からアトリエシリーズには大まかに二系統の錬金術があります。手順を間違わなければ(後技術があれば)出来る科学に近いタイプ。才能依存で、才能がないと何一つ出来ない才能依存型の魔法に近いタイプです。
アーランドシリーズの錬金術は前者ですね。これはトトリのアトリエの時に、ロロナ先生がマーク先生(野良の科学者)に対して丁寧に説明しています。
一方魔法型の錬金術は、不思議シリーズやアーランドシリーズなど、近年のアトリエシリーズでは一般的になってきています。ユミアに至っては錬金釜すら必要としていませんからね……
黄昏シリーズのように、科学型と魔法型が一緒にあるアトリエ世界もあります。ただはっきりしているのは、どの錬金術も使い方を間違えれば世界を滅ぼしかねないと言う事です。
近年ではそういった悪徳錬金術師の悪行が、比較的分かりやすくクローズアップされています。ライザシリーズの鬼畜外道錬金術師集団である神代……万象の大典を作った連中などは顕著ですね。