暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ステルクは舌打ちした。
リミッターはとっくの昔に解除している。調査に来ただけ。
それなのに、被害が大きすぎる。
負傷者多数。
このままだと、死者も出る。
あまりにも、この夜の領域は、人外の土地過ぎる。それほど広くもない空間だというのに、重力を無視してそそり立つ岩壁。そして、明らかに異常すぎるモンスター。そして何よりも、昼間なのに真っ暗な空。星も見えず、異常な構造物が点々としている所が、更に神経を削る。
此処の危険度は、オルトガラクセンの深部並だ。
周囲に点々としているモンスターの死骸は、どれもこれもステルクが倒したものだ。ただし、どいつもこいつも、簡単には勝たせては貰えなかった。他の戦士達も奮戦しているが、これ以上進むのは無理だ。
また、岸壁の向こう側から、新手が現れる。
ドラゴンだけで、今日四体も倒したが。敵の戦意は旺盛で、次々に新しい戦力を繰り出してくる。
部下達の疲弊が濃いことを見て取ったステルクは。
一旦司令部にまで引き返して、王に対して頭を垂れた。
「陛下、撤退を」
「やむを得ぬか」
ジオは怪我の一つもしていないが、それでも不快そうに舌打ちする。
剣を振るって血をおとすと、撤退を指示。退路を確保していることだけが救いか。結局、これだけのベテランを連れてきたのに、外側から確認できた地域の半分しか踏破できなかった。その上、この奥には、さらなる強力なモンスターがいる事確実である。
巫山戯た話だが。
夜の領域を出ると、いきなり昼になる。この空間では、空までもがおかしいのだ。呆然としている戦士達を叱咤して、後方拠点まで移動。けが人だらけだ。中には手足を失っている戦士も、珍しくない。
二度目の探索で、これだ。一回目は更に被害が大きかった。
オルトガラクセンの方も、放置はしておけない。押さえの戦士を置いて、内部には踏み込まないのが最上だろう。
そうステルクは判断した。
実際、夜の領域からモンスターは出てこないのだ。
全員の撤退が終わった所で、幹部が招集される。夜の領域の外側に作られている監視小屋の中での会議が行われた。ステルクは王に進言。これ以上の探索は不可能。撤退すべしと。監視を置くだけで、しばらくは放置するべきだと。
王は腕組みして考え込んでいたが。今回から参戦しているアストリッドが、挙手した。
「ホムンクルスの部隊を予定より増産して、監視に当てましょう」
「いや、それは駄目だ」
王は即時で拒絶した。
現在、1500を目標としている生産数だが。だれもが警戒しているのだ。ホムンクルスが増えすぎると、この国を乗っ取られるのではないかと。
実際、ベテラン戦士並みの実力を持つアストリッドのホムンクルスを、懸念する声は高まっている。
今回の探索でも、命を省みない戦いぶりで、多くの戦士の命を救った。
感謝している者もいる。
だが、ステルクは分かる。
あれはそう言う命令だから、動いているだけ。人間の事が好きなわけでも無いし、もし裏切るようアストリッドが指示したら。
いや、其処まで簡単な問題ではないだろうけれど。事実、天才とはいえどアストリッドには、幾つも鎖が付けられている。簡単に反逆など出来るはずがない。
しかし、アストリッドには、致命的に人望がない。
本人も、それを努力で埋めようとまったく行動しない。
だから、彼奴はいつ裏切ってもおかしくない。
そう考える戦士は、いるのだ。
アストリッドが排斥されないのは、アーランドで最も尊ばれる、強い存在だからだ。そうでなければ、とっくに居場所など無くしていただろう。
「とにかく、監視所には相応の人員を配置せねばなるまいな。 予定以上の増産は許さぬが。 これから生産するホムンクルスの一部を、此処に廻すほか無いな」
「分かりました」
アストリッドが薄笑いを浮かべて引き下がる。
此奴も、今回の戦いでは、群がるモンスターの群れを多数なぎ倒した。王とステルク、それにアストリッドだけで、半分は敵を倒したかも知れない。
だが、夜の領域にいるモンスターは無尽蔵だ。
此処は魔界ではないかという噂さえあるそうだが。それも、あながち嘘ではないように思えてきた。
「陛下、よろしいですか」
挙手したのは、ロロナの父親であるライアンだ。
国家軍事力級の使い手ではないが、今回も夫婦そろっての息があっての連携を見せて、多くのモンスターを打ち倒した。此処で幹部として呼ばれているのも、確かな実力があってのことだ。
「この訳が分からん場所は後回しにしましょう。 またアーランドの方で、モンスターがオルトガラクセンから出てきているという報告もあります。 そっちを先に処理すべきかと」
「私も同意見です。 これ以上の探索は被害を増やすだけです」
ロロナの母親であるロアナも、意見を同じくしているようだ。
王はしばし考え込んでいたが。
やがて、意を決したようだ。
「いずれにしても、この疲弊度では、此処の探索は進むまい。 一度戻り、戦力を立て直す必要がある以上、此処で議論しても始まらぬ。 引き上げるぞ」
肩の力が抜けた。
これで、これ以上負傷者が増える事は無い。回復の術を使える魔術師達が、フル活動している中。撤退が始まる。
確かに、アーランドの近辺が危険な状態なのだ。
夜の領域が、これだけ危険な場所だと分かっただけで、今はよしとするべきだろう。
撤退は、数日がかり。
ステルクは最後尾に残って、夜の領域からモンスターが出てこないことを確認。
その後、追加できた部隊に、監視小屋を設置させる。小屋と言っても、砦ほども規模があるものだ。
夜の領域のモンスターの実力を考えると、それくらいは当然である。
後から来たエスティが、建設途上の砦を見て、嘆息した。
「やっぱり、こうなるわよねえ」
「先輩はこの事態を見越していたのですか」
「何となくはね。 女の勘って奴よ。 とにかく、砦が出来るまではあたしが見張るから、あんたは戻りなさい」
そう言われても苦笑するしかない。
女子力とやらの不足を常に嘆いているエスティだ。多分それは女の勘と言うよりも、熟練戦士の経験だと思うのだけれど。口に出すと殺されそうなので、ステルクは黙っていた。
エスティに引き継ぎを済ませると、最後まで残っていた部隊と一緒に、アーランドに戻る。
今回は死者こそ出なかったが、惨敗と言って良い。
足取りは、決して軽くなかった。
王宮に戻ると、ロロナの仕事の成果を聞かされる。
今回も、見事な働きぶりであったそうだ。禿鷹の森から、ヴァルチャーは全て追い払われ。近隣の森にも、姿を見せていないという。
あれだけの数のヴァルチャーがどこに行ったのか。調べて見ると、かなりアーランドから離れた湖の側にある森に移動したようだった。
何度か戻ってこようとしたようだが。しかし居着くことはなく。あれから何度かロロナが煙を追加で焚いた結果、ヴァルチャーは二度と近くの森に近寄らなくなった。
繁殖地だったら、それでも必死に居着いていたかも知れない。
だが、ヴァルチャーは岩山で雛を育てる。
そもそも、どうしてあの森に居着いていたのかが分からないのだ。それに、場所を変えたと言うことは。
別に、あの森でなくても、良かったのだろう。
ステルクはほっとした。
今回の、夜の領域調査作戦が散々だった事もある。半ばほどまでは調査隊を進めることは出来たが、それだけだ。
最深部には一体何がいるのか、見当もつかない。
エスティの部下が来た。無言で手紙を渡していく。
ざっと目を通すと、夜の領域の近辺にある隣国が、警戒しているとの事だ。さもありなん。アーランド戦士でもどうにもならなかった魔境である。幾つかの隣国では、パニックに陥っている事だろう。
今後、一気に周辺の勢力図が動く可能性もある。
既に王宮からは、隣国へ使者も出ているようだ。夜の領域の危険性を告げるものである。アーランド戦士が苦労したという一文だけで、隣国は事態を理解するだろう。間違っても制圧しようと兵を進める、などと言うことはしないはずだ。
ステルクは頭を抱えたくなる。
これで、更に周辺の状況が混沌とするのは確実。
夜の領域が不可侵となるのはいい。
逆に言うと、それだけ国境が変動すると言うことになる。アーランドも幾つかの隣国も、夜の領域に少なくない戦力を貼り付けなければならなくなる。更に言えば、今の時代、どこの国でも人手は足りない。
このようなことをしている余裕などはない。
一体どうして、この世界はこうも過酷なのか。
気分を変えようと思い、ロロナの所に出向く。課題の結果は既に確認している。これならば、合格としても良いだろう。
まだ二週間ほど残っているが、別に構わない。
アトリエに出向くと、ロロナはいた。
なにやら調合を行っている。ドアはノックして開けたのだが。ステルクには気付いていなかった。
だが、すぐに気付いた。
「あ、ステルクさん! おはようござい……ます。 徹夜ですか?」
「ああ、そんなところだ」
目の下に隈でも出来ていただろうか。
ステルクはまだ若いと思っていたのだけれど。そろそろ、数日の徹夜で目の下に隈ができるようになる年ではある。
元々ステルクは体の頑強さには自信があった。
若い頃はもっと長い期間無茶な労働をしても耐えられた。その代わり、二日三日丸ごと眠ったりもした。
今は、少しずつだが。
加齢の影響で、無理が利かなくなりつつある。
これが、年を取ると言うことだ。
ネクタル入りの栄養剤を渡されたので、飲み干す。耐久糧食でネクタルが如何に有用かと言う事は分かっているが。あまり濃すぎると妙な影響も出るようだし、ほどほどにしないと危険だろう。
「無理をしては駄目ですよ」
「分かっている。 それよりも、課題をよくこなしてくれたな」
「有り難うございます。 本当に、一時はどうなるかと思いました」
ロロナはへらへらと笑っているが。
一時は本当に焦り、相当に苦労していたという。だが、それでもこの娘は乗り切った。
自分は知らないだろうが。
中々、普通の人間には出来ることではない。
八年掛けて調整された。それを、今後この娘は、知る事があるのだろうか。もし知ったら、どうするのだろう。
正式に課題の達成を伝えると、ロロナは肩の荷が下りたとはにかむ。
前ほど、ステルクの事を怖がらなくなってくれたのは、嬉しいが。
「何の調合をしていたのかな」
「ええと、今後の事を考えて、火薬の調合を。 発破の中でも、実戦投入できそうな小型のものを作っておこうと思って」
「目を離して大丈夫なのか?」
「平気です。 まだ、危険な調合はこれからですから」
何種類かの薬剤が、乳鉢に入れられ並べられている。
これらを調合して、火薬にする。
多くの錬金術師が研究してきた爆薬は、様々な使い道に、それぞれ特化している。発破のように、岩を砕くことを専門としているもの。戦闘で用いる小型のもの。ロロナが作っているのは、戦闘用だろう。
「わたしも、大火力だけじゃなくて、小回りが利く攻撃手段が欲しくて。 でも、使うとすぐになくなっちゃうから、量産もできないと行けないし。 難しいですね」
「なるほど、な」
「今作ってるのは、メテオールって爆弾です。 空に打ち上げて、頭上から火の雨を降らせるんですよ。 上からの攻撃で、高い制圧力があります」
そう語っているところを見ると、やはりロロナもアーランド人だと分かって、安心できる。
とりあえず、用事は済んだ。
どうしてだろう。
ロロナと話した後は。少しは、気分も晴れていた。
サンライズ食堂で、料理をかなり多めに注文した。激しく戦った後で、あまり食べていなかったので。
腹が、かなり減っていたのだ。
アーランド戦士は一般的に大食いだが、特に戦いの後は、誰もがそれに拍車が掛かる。
ステルクも例外ではない。
大皿に盛られた料理が、見る間に消えていくのを見て。
たまたま居合わせたタントリスと名乗っているトリスタンが、呆れたように言う。
「良くもそれだけ食べますね」
「そうだな。 多くのモンスターを斬った後だ。 体が栄養を欲している」
「そうですか」
トリスタンが声をおとした。
そして、状況報告を受ける。
此奴は少し前から、ロロナの友人ポジションにあるリオネラを精神的に突いている。そうすることで、ロロナに精神的な負荷を掛けるのが狙いだ。
勿論、そのほかにも、色々と行っている。
クーデリアにも、声を掛けているようだ。嫌がっているようだが、今後ある策を実行に移すという。
不愉快な話だ。
ロロナは確かに今後、ストレスをはねのけられる強さが必要とされる立場にいるが。上手く行っている人間関係をかき乱すのは、見ていて気分が良いものではない。リオネラのように精神が脆い娘を嬲るような真似は、なおさら好かない。
「それで、君自身はロロナくんをどう思っている」
「僕ですか? 乳臭すぎてまだストライクゾーンには入りませんよ。 ただねえ、光るものはありますね。 手を出して良いと言うのなら、僕好みに磨いてあげるんですけれど」
「止めておけ。 アストリッドに殺されるぞ」
「それは流石に遠慮したい。 あの御仁にだけはかないそうにない」
冗談めかしてトリスタンは言うが、これは実は本当だ。
トリスタンはアストリッドと昔確執があり、半殺しにされた事がある。しかも時期が最悪だった。
丁度アストリッドの師が亡くなった頃、ある理由で突っかかったのだ。
ステルクが止めに入らなければ、原型がなくなるほど挽きつぶされ、殺されていただろう。
それ以来、トリスタンはアストリッドにだけはかなわないと認識している様子だ。トラウマになっているのだろう。
事実、トリスタンの実力では、アストリッドには勝てない。
他にも、幾つかの報告を受けておく。
ロロナがめざましい活躍をしている事は、既に話題になり始めているという。おそらく、幾つかの国が目をつけはじめるまで、そう時間は掛からないはずだ。勿論プロジェクトMに気付かれるわけにはいかない。
「まだ草はいませんけれど。 見つけたら、消しますか」
「消す前に捕らえてくるように。 私が取り調べる」
「貴方が直接? それは恐ろしい」
「無体な真似はしないさ」
相手次第だがと、口中でステルクは付け加えた。
いやだが、拷問の心得くらいはある。あまり表沙汰には出来ないような任務も、ステルクはこなしてきた。
その中には、敵国の人間の口を割らせたり、洗脳したりして使うようなものもあった。専門にしているエスティほどではないし、実際にやりたい仕事ではない。だが、騎士らしくありたいと願うことと、民の最大幸福を求めることは、どうしても時に路が交わらない。汚れ仕事は、多くの人々のために、時に必要になるのだ。
流石にステルクくらいの実績を積み上げると、ある程度は自由も利くようになってはきたが。
それでも、時々汚れ仕事は回ってくる。
敵を殺すだけのものもあるけれど。
スキルを使う必要に迫られる場合もある。唾棄すべき仕事だとは思う。だが、どうにも出来ない部分も大きい。
「あの子のおかげで、この国の未来の道筋も見え始めているでしょうに。 何だか同時に、加速度的にアーランド周辺がきな臭くなっているように思えますが。 僕の気のせいですか?」
「さあな。 ただ、覚悟は決めておけ」
「分かっていますよ……」
元々、大陸中央部での戦乱は、加速が予想されていた。その予想は、ほぼ確実に当たると見なされていた。
そして、それが予想通りに当たった。
或いは、それ以上かも知れない。
アーランドが、大陸中央部にある強国の侵攻に耐えられる国力を身につけるのが先か。大国同士での仁義なきつぶし合いが、一段落して、最強の統一国家が出来るのが先か。いずれにしても、多くの血が流れる。
人間は、最盛期とは比べものにならないほど減ってしまった。
それなのに、未だ。
人間は、殺し合いを止めることが出来ない。
ロロナは光になれるのだろうか。
まだ、ステルクには、分からない。
クーデリアが会議に出向くと、皆が小声で話し合っていた。
ロロナによるヴァルチャーの撃退作戦は見事に成功した。その成果については、誰も疑っていない。
それなのに、この空気の悪さは、どういうことか。
着席して、耳を澄ます。
だが、どうにも聞き取ることは出来なかった。
王が来ると、一気に場の空気が引き締まる。
クーデリアも、この間の夜の領域調査が失敗したことは知っている。その事かと思ったのだが、違った。
まず、メリオダスから現状の説明。
この間のロロナによる緑化計画が成功したことで、アーランドの南部における開拓計画のモデルケースが完成した。
今まで、いろいろなパターンの荒れ地を緑化してきた歴代錬金術師達の技術が、此処で集大成を得た。
アーランドはこれより、時間さえ掛ければあらゆる荒れ地を緑化できる。かの悪名高いゼロポイントでさえ緑化に成功している事例があるのだ。しかも、その技術をパッケージ化して、辺境諸国に売り込むことも可能だ。
更に、今回ロロナが実用化したモンスターの駆除技術は、かなり大きい。
この駆除技術を応用することによって、群れになっているモンスターを、追い払う事が可能となる。
勿論効かない相手はいるだろう。
だが、天敵を有するモンスターには通用するとみて良い。
これらの技術は、外交の武器になる。
更に、今回は、次の段階に課題を進めることとなる。
「前回の会議で告げた通り、アーランドの少し南にある孤立集落、乾き谷にロロナを派遣する」
「かなり前倒しになりますが」
「何、今までも二回前倒しにしているのだ。 元々、次の課題は、上手く行かないときに備えたクッションだったのだ。 取り払うことは問題あるまい」
「分かりました。 それでは、乾き谷の水源確保を、次の課題といたしましょう」
メリオダスが資料を配る。
クーデリアも、課題の流れについては理解していた。だが、こうも前倒しが進められるという事は。
周辺の国々の動きが、それだけまずいということなのだろう。
乾き谷は、名前の通りの場所だ。
谷状の地形になっていて、その中に人々が住んでいる。元々は刑務所として活用されていたのだけれど。今は一種の貧民窟だ。監視の櫓が近くに一つあるが、それ以外には戦力は無い。
谷の中では、労働者階級の中でも貧しい者達が、身を寄せ合うようにして暮らしている。彼らの殆どは、身寄りの無い老人だ。肉体労働が出来なくなって、此方に移ってきているのである。生活保障はきちんとされていて、餓死の怖れはないけれど。とても陰鬱で、寂しい場所だ。
険しい地形のため、モンスターに侵入されることは無い。彼らは此処で暮らしながら、時々アーランドから持ち込まれる加工や細工などの作業をこなし、日銭に変えているのだ。
他国のスラムと比べるとましだけれど。恐らくは、アーランドでももっとも貧しい場所の一つ、だろう。
そういえば、ロロナの所に出入りしている行商の一族も、此処で仕入れを行っているはず。
此処が一種の沈鬱な貧民窟になってしまっているのには、理由がある。
近くには、川がある。
しかし岩盤が非常に硬く、どうしても水を直接引くことが出来ないのだ。
井戸はあるにはあるのだが。かなり水量が少ない。
其処で、この井戸の改良を行いつつ、抜本的な問題の解決を図る。それが、ロロナに次に与えられる課題である。
更に、もう一つ、乾き谷には大きな問題がある。
とにかく暑いのだ。
一度クーデリアも下見に行ったことがあるのだが、吹き込む風の影響なのか、水分が少ないからなのか、よく分からないけれど。とにかく暑い。
この暑さも、出来るだけ緩和したい。
そう課題にはある。
アバウトな対応が、ロロナには任されている。実力がついてきたロロナだが。今回は、大丈夫なのだろうか。
前回の課題を、出来るわけが無いとクーデリアは思った。
だから色々と裏で手も打った。
しかし、ロロナは苦労をした末とは言え、見事に解決して見せた。正直、クーデリアはロロナを低く見積もりすぎていたのかも知れない。
今回は、ロロナを信頼するべきなのだろうか。
「ステルク、次よりリミッターを一段階外せ」
「分かりました」
「え……?」
「聞いていないのか。 次の課題には、アストリッドの話によると、ネーベル湖畔での採集が必要不可欠だそうだ。 彼処で採集を行うとなると、少なくとも島魚やイグアノスを蹴散らせるだけの実力が必要になる」
クーデリアも実力はついてきたが、確かにロロナを中級モンスターの巣窟であるネーベル湖畔で守りきるのは厳しい。
ステルクがリミッターを解除すると言うことは、それだけ激しい戦いが想定されるという事だ。
まだ、強さが足りない。
銃を改良しただけでは、駄目か。
腕を磨き続けていても、まだまだ届かない。
何か、強くなる手は無いのか。
決定的な方法が欲しい。
ロロナは着実に腕を上げている。その隣を歩けるだけの実力を得るには、どうすれば良いのか。
エージェント達に教わるだけでは駄目なのか。アルフレッドに毎日徹底的に鍛えてもらっているが、まだ足りないのか。実戦も豊富に積んできているが、それでも足りないとすれば、どうすればいい。
会議が終わった後も、クーデリアは悶々としていた。
次の課題は、更に厳しい内容になる。ロロナを信頼するのは、別に良い。
どうすれば、強くなれる。
クーデリアは。自問自答することしか、出来ずにいた。
(続)
ロロナの周りの状況が徐々に可視化されていきます。ロロナはあまり頭がよくありませんが、それでもとても危険な状態になっていることは少しずつ勘付き始めています。
そもそも本作のアーランドはかなり危険な状態にあるのです。
それがやがて、アーランドどころではない世界規模の危機に発展していくことになります。
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