暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
昔はどこでも姥捨ての風習がありました。
そもそも三世代で人間は活動するようになって躍進できた生物だというのに、本末転倒な話ですね。
現在でも似たような事をしたがっている人がいるようですが、それを実際に自分がされる側になった場合、受け入れるとはとても思えません。
閑話休題。アーランドでも古くにはその風習がありました。
ろくでもない風習です。
なくさなければなりません。
序、孤独の末路
アーランドからそれほど遠くない場所。
労働者階級の老人達が、最後に辿り着くところがあると、ロロナも聞いたことがあった。
ここアーランドでは、他の国と違って、スラムに相当する場所は無い。昔はあったのだが、様々な歴史の変転の末無くなった。だから子供が人買いに売られることもない。もしあった場合は、厳罰に処される。
一方で、他国から人を買ってくることは珍しくないという噂も聞いたことがある。
これは、アーランドが、人材を最大の宝としているからだ。
普通、年老いて行き場が無くなった老人は、のたれ死ぬだけ。
これは、どこの国でも同じだと聞いている。
老人が辿り着く場所がある。それだけでも、アーランドはましなのかも知れない。
とにかく、この乾いた暑い谷が、そうだ。
確かに少しずつ暑くなってくる季節だが。此処はよそとは違って、少し暑いという程度の気温で、ずっと安定している。
だから、季節の変わり目に体を壊しやすい老人には、うってつけなのだ。
辺りの岩盤は非常に固くて、水を引くことが出来ない。
わずかにある井戸だけが、生命線。
ロロナが見回すだけで、数十人の老人が、黙々と何かをしていた。机上遊戯で遊んでいる老人もいる。何か、料理をしているおばあさんが、弱々しく誰かを呼んでいる。医術を使える魔術師も控えている。ロロナを一瞥すると、忙しそうに歩いて行った。
井戸の前に来た。
中を見るが、明らかに水量が足りていない。水をくみ上げていくと、あっという間に干涸らびてしまうだろう。また井戸が水で満ちるまで、どれだけ時間が掛かるか、分からない。
今回の課題は、この集落の環境を改善すること。
特に、この井戸をどうにかすることだ。
水を湧き出させる道具を作れ。
それが、今回の課題の、まずは最初の目標となる。
クーデリアが、周りを見てくれている。記憶力と観察力に優れている彼女なら、優れた分析が出来る筈。
やがて、クーデリアも井戸の所に来た。
「此処にいる老人達は、ざっと二百名。 もう長くないだろう老人も、かなりいるわね」
「こんな暑いの、つらくないのかな」
「それがね、ほら」
クーデリアが後ろ手で差したのは、洞窟だ。
非常に頑強な岩盤だけれど、所々に裂け目のような洞窟がある。入ってみると、中はとてもひんやりとしていた。
触ってみると、岩が冷たいのだ。
しかし、致命的なほどに狭い。老人達はおそらく、仕事をするためには、外に出なければならない。
実際、作業をしている老人達は、外で机を出して、なにやら細々としたことを行っている。
ただ、作業自体を強制されている様子は無い。
歩きながら見てみたが、どうやら呆け防止のためにやっている様子だ。最初は、過酷で悲惨な場所を想像したのだけれど。
介護をするための人もいるようだし、思ったほど環境は悪くないのかも知れない。
だが、子供と同時に、知恵を持つ老人を大事にするのも、アーランドの不文律だ。もっと暮らしやすくしてあげたいと、ロロナは思った。
どんな達人でも、いずれは衰える。
その時、若者に技を伝えることは、戦士の義務だ。その不文律が、ロロナに老人を大事にしようという意思を植え付けている。
一通りみて回る。
見た感触では、水が若干足りない事を除けば、それほど暮らしにくい場所だとは思えない。
問題があるとすれば、少しばかり暑い事。
これも、解決できるなら、した方が良いだろう。
渇ききった崖の上に上がって、辺りを確認。どうしてこれほど暑いのか、調べたかったからだ。
上ではさんさんと太陽が輝いている。
この辺りの土は完全に死んでいて、雑草一本見当たらない。触ってみるが、確かに異常に頑強な岩盤だ。
これでは、掘るどころでは無い。
何度か杖で叩いてみるのだけれど、跳ね返されるような堅さなのだ。
少し気になったので、水を掛けてみる。
殆ど水を吸わない。
これは、本当に土なのだろうか。少し気になったので、近くの地面に向けて、全力で魔術を叩き込んでみる。
流石に少しえぐれたので、焦げ付いた地面を調べてみて、納得がいった。
この辺りは、一枚岩。
それも、普通とは比べものにならないほど、頑強な岩なのだ。いや、岩なのかさえも怪しい。
触ってみるのだけれど。岩特有の手触りが無くて。
むしろ、金属に近いように思えた。
渇き谷。予想以上に、恐ろしい所である。老人達が最後に向かう場所としては、相応しいのかも知れない。
モンスターが寄りつかないのにも、理由がありそうだ。
ロロナの経験則から、モンスターはむしろ荒れ地や人間が入れないような場所を好むのに。この渇き谷には一切近づかないのには。やはり、何かありそうだった。
岩の欠片が採れたので、サンプルとして持っていく。
クーデリアに辺りを調べてもらったが、雑草どころか、茸さえ生えていない。この不可思議な一枚岩の周囲は、本物の死の世界だ。
この暑さも、それに関係しているのかも知れない。
医療スタッフがいたので、声を掛ける。ロロナが今回、王宮からの課題として、水を供給する道具を作るように言われたと聞くと。初老の女性であるスタッフは、皺を深く刻んだ目尻を細めた。
「そうかい、あんたが噂の」
「え? わたし、噂に?」
「何でも、怠け者だった先代と比べて、随分働き者だそうじゃないか。 錬金術師はアーランドになくてはならない存在で、私も若い頃は、随分尊敬していたものだよ。 先代と先々代がああじゃなければ、失望もしなかっただろうけどね」
そう言われると、何だか悲しい。
確かに怠け者でぐうたらな師匠だけれど。有能である事は、ロロナも知っている。本当に、どうしてやる気をなくしてしまったのだろう。
色々と話を聞いていく。
スタッフによると、この暑さそのものは、致命的ではないのだという。やはり、水を手に入れにくいことが問題なのだとか。
「普段は、彼処に貯めているんだけどね。 水を運ぶだけで一苦労なのさ」
そう言って医療スタッフが示したのは、岩陰にある壺だ。壺と言ってもかなり大きなもので、浴槽よりもかなり嵩がある。
覗き込んでみると、水が半分ほど蓄えられていた。
確かに、井戸から此処に運ぶのは重労働だ。それだけで、若い労働者を一人雇っても良いくらいである。
とにかく、色々と足りない事は分かった。
スタッフに聞くと、幾つか指折りで言われる。水、人手、涼しさ。この三つがあれば、全然違うと。
ロロナはメモを取り終えると、一礼して、谷を後にすることとした。
それにしてもこの谷。
何か、人工物か何かのような形状のようだけれど。遠目に見てみると、そんな気がする。あの異常な堅さの岩盤と言い、無理も無いか。
ただ、人工物だとすると、大きさはオルトガラクセン以上かも知れない。
過去の人類は貧弱だったという話だけれど。
技術だけは、凄かったのだろう。もしも、あれが人工物であったのなら、だが。
アトリエに戻る。
途中の街道は、モンスターも出ない。巡回の戦士もいるし、危険は小さい。何より、今のクーデリアなら、その辺りで遭遇するモンスターくらいなら対処してくれる。その信頼が、ロロナにはあった。
アトリエに戻ると、資料を整理する。
水を得るための道具、か。
今回も、難しい課題になりそうだと、ロロナは思った。
アトリエシリーズでは無茶な道具が多数搭乗しますが、アーランドシリーズなどに搭乗する水が湧いてくる杯はその最たるものかと思います。
ぶっちゃけ普通にやっても絶対に再現できない代物ですが。
ロロナはこれを再現します。
既にロロナはそれが出来る段階に到達しようとしています。