暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ロロナの前にも当然錬金術師はいました。アストリッドさんと、その前のアストリッドさんの師匠が、錬金術師として分かりやすい業績を上げなかった。ただそれだけの話です。

今回赴くのは、過去の錬金術師の業績の果て。

文字通り死の湖だった場所が、緑化され命を吹き返した土地です。







2、魔の湖

ネーベル湖畔。

 

アーランドから北上し、旅人の街道から東に逸れたところにある、円形の湖だ。いわゆる零ポイントの一つで、昔は魚どころかボウフラさえ泳いでいないという湖だったらしいのだけれど。

 

錬金術師による緑化が成功して、今ではいろいろなモンスターが住み着いている。これは成功かどうかはよく分からないけれど。魚も捕れるし、地元の人達は戦士の護衛付きで、漁をすることもあるそうだ。

 

そもそも、緑化をしたのは件のミスグリューン。彼女は緑化そのものには興味があっても、入植については今一つ食指が動かなかったそうで。この湖が緑化したことに地元の人達が気付いたのも、随分後だったそうだ。

 

ただ、緑化に成功しても、しばらくはやはり人を寄せ付けないほど環境が悪かったそうなので。

 

或いは、仮説が裏付けられる、実例となるかも知れない。

 

「確認しておく。 あの危険な湖に、何を探しに行くのかな」

 

「ええと、泡立つ水に星の砂、それと緑結晶と呼ばれるものです」

 

「ほう」

 

泡立つ水。

 

これは、ある特殊な用途に用いる、非常に純度の高い水だ。

 

水なのだけど、飲むと喉がしゅわっとする。ロロナもちょっとだけ口にしたことはあるけれど。あれは確か、師匠が持ち帰ってきたものだったように思える。クーデリアほど記憶力が良くないので、覚えていない。

 

そして星の砂。

 

これは、黄金に輝く砂で、ネーベル湖畔をはじめとする幾つかの土地でしか手に入らない。

 

文字通り、星のような形をした砂粒で、いろいろな用途に用いる事が出来る便利な素材だ。溶かして武器の素材にしたり、あるいはそのまま砕いて用いる調合も存在している。いずれにしても、たくさん手に入れる必要がある。今回は、荷車がかなり重くなるまで、帰らないつもりだ。

 

そして最後に、緑結晶。

 

これはネーベル湖の側に点在すると言われる、強い魔力を秘めた石だ。

 

魔力が強いと言っても、所詮は石。砕く事も簡単なのだけれど。この石は、元からため込んでいる膨大な魔力に、存在意義がある。

 

これが、湧き水の杯の中核になる。

 

最低でも、緑結晶は三十は手に入れたい。その内五つは、上質なものを入手して行きたいけれど。

 

はてさて、上手く行くかどうか。

 

うまく行かせなければならない。

 

「まず、ネーベル湖近くの村で、買えないか調べて見るつもりです」

 

「恐らくは無理だろう。 特産品になっているのなら、アーランドに持ち込んでいる商人がいる筈だ」

 

ステルクがずばりという。

 

確かにその通りだけれども。だが、危険なネーベル湖畔に踏み込むよりも、先に可能性を探った方が良さそうだとも思うのだ。

 

何より今回は、ほぼ間違いなく長丁場になる。

 

今までとは格が違うモンスターとの戦いをこなしながら、採取を行うのだ。クーデリアも強くなってきているし、何より今回はステルクがいてくれるが。それでも、油断できる場所ではない。

 

ならば、少しでも、危険を避ける方向で動きたい。

 

旅人の街道に入った。

 

耳ぷにがかなりの数群れている。近くの村の人達が、駆除を怠ったのだろうか。いや、これから駆除するところだったらしい。

 

遠くから飛んできた火球が、耳ぷにの群れを吹き飛ばす。

 

蹴散らされた耳ぷにが逃げ散り、残敵の掃討作戦が開始される。流石に慣れているらしい巡回の戦士達は、見る間に耳ぷにを片付けていった。

 

加勢するまでもない。

 

ステルクが、巡回の戦士と何か話をしている。

 

ロロナは遠くで見ていたけれど。

 

何か、嫌な予感がした。

 

ステルクが戻ってくると、その予感が的中したことが分かった。ステルクはいつも難しい顔をしているが、機嫌が悪くなると、眉間に皺が露骨に寄る。視力には自信があるロロナは、その辺り、つまり相手の変化には敏感だ。

 

「良くない情報だ」

 

「モンスターですか?」

 

「いや、違う。 ネーベル湖畔近辺の村で、大規模な密猟者の集団が出ているらしく、しばらくよそ者の逗留が出来なくなったそうだ。 村を拠点にして、採取作業をすることは無理だな」

 

ステルクの話によると。いつも現れるような密猟者とは、今回は格が違うらしい。

 

数にしても装備にしても、普段とはまるで段違い。辺境の戦士並みの実力を持つ人間もいるとかで、王宮に近々大規模な討伐申請が出る可能性が高いとか。

 

アーランドの珍しい動植物には、それだけの価値がある、という事なのだろうけれど。

 

妙な違和感を覚えるのは、ロロナだけだろうか。

 

後は無言のまま、旅人の街道を北上する。

 

牧歌的な風車が回っているのが見えた。

 

風の力を利用して、穀物を挽いたりする便利な建物。機械化が進んでいるアーランド王都ではもう殆ど見られないが、村々にはまだ現役で残っている。省力化という点では、此方が優れているという意見もあるそうだ。

 

夕方近くまで、街道を行く。

 

途中グリフォンを見かけたが、ステルクと目があった途端に、逃げて行ってしまった。何度か小競り合いに等しい戦闘はあったけれど。いずれも、ロロナが介入する暇も無く終わった。

 

考えて見れば、この時点で敵に苦労するようであれば。ネーベル湖畔などに行ったら、ひとたまりも無い。

 

日が暮れてから。街道沿いの村に。

 

街道沿いということもあって、宿泊施設も相応に充実していた。今回は予想よりも状況が悪そうだし、ゆっくり休んでおくことは、絶対に必要だった。

 

宿代は割り増しで高くついたが、贅沢は言ってもいられない。

 

早朝まで、あまり質が高いとは言えない宿に泊まった後。日の出と同時に出発する。少し北上した後、立て看板を東に。

 

途中、巡回の戦士とすれ違った。

 

前も思ったのだが、やはり小さな女の子の戦士が混じっている。これは、どういうことなのだろう。

 

「ステルクさん。 何だか、小さな女の子の戦士を、巡回班によく見かけますね。 実力的には問題が無さそうですけれど」

 

「国家機密だ」

 

「え……」

 

「その内、君がもっと重要な仕事を任されるようになったら、きちんとした形で話そう」

 

そう言われてしまうと、ロロナとしても、何も言えない。

 

昼少し過ぎに、ネーベル湖畔が見えてきた。

 

この辺りになると、街道も整備されていない。街道の左右には雑草が生えている場所と、荒野になっている所がまばら。

 

旅人の街道の近辺は、アーランドの力を見せる意味もあって、優先的に緑化がされているという話だったけれど。

 

流石に、主要道から外れてしまうと、見栄を張る余裕も無いという事か。

 

ざっと見た感触では、この辺りの土は、緑化がされる前の、他の荒野と同じ状態だ。モンスターの姿も散見されるのは、それだけ土地が痩せているから、という意味も強いのだろう。

 

小高い丘に出たので、一旦休憩とする。

 

遠巻きに此方を見ているモンスターが、かなりの数いる。ステルクが怖くて仕掛けてこないのだ。

 

これがステルクでは無くタントリスだったら、ほぼ間違いなく、まとめて襲いかかってきただろう。

 

軽く食事にした後、東へ。

 

もう、ネーベル湖畔は、目と鼻の先だ。

 

 

 

ネーベル湖は、ほぼ正確な円形をしていると、話には聞いていたけれど。近くで見てみると、噂以上にまん丸だった。

 

真ん中辺りには、大きな浮島が複数見える。

 

緑は相応に豊かだけれど。群れを成して闊歩しているイグアノス達と、我が物顔に日光浴している島魚が、牧歌的な雰囲気を台無しにしていた。イグアノスはブレス能力を持つ上に群れを成し、なおかつ一体一体が下位種のドナーンを数段上回る実力を有している。島魚はその巨体がひたすらに脅威だ。圧倒的な実力は、巨体に裏打ちされたものである。その上、陸を積極的に這い回り、獲物を襲うのだから始末におえない。

 

水辺がきらきら輝いているのは、星の砂だ。

 

ただ、近くで見てみると。

 

なんと言えば良いのか。非常に汚れているのが分かった。

 

これはおそらく、砂が濾過装置の役割を果たしているから、だろう。寄せて帰す湖の水の汚れが、星の砂に吸い取られているのだ。

 

とりあえず、汚れは後で洗い落とせば良い。

 

持ってきたスコップで、桶に星の砂を入れていく。

 

湖に浮かんでいる船が見えた。護衛の戦士らしい人達と一緒に、漁師が網を使って、魚を捕っている。

 

いきなり、戦士の一人が、攻撃術を水面に叩き込んだ。

 

理由はすぐに分かる。

 

白い腹を見せて、船より大きな魚が浮かんで来たのだ。

 

しかも、そのお魚は、見る間に他の魚に食い荒らされて、骨になっていった。

 

恐ろしい、食物連鎖の現場。

 

「島魚には気をつけろ。 此処で一番の厄介なモンスターだ」

 

容赦なく周囲に視線を向けながら、ステルクが言う。

 

確かに此処で油断したら、一瞬先には死だ。

 

漁師達は、離れるかと思ったら、とんでもない。今の大型魚の死を奇貨にして、むしろ漁に精を出している。

 

つまり今のは撒き餌という訳か。

 

たくましくて、感動した。此処まで血の臭いがするような凄惨な光景だというのに。此処には強い生命力が満ちている。

 

ロロナも、あそこまでたくましくなれたら。

 

きっと、残りの課題も、滑るように突破することが出来るだろう。

 

とにかく、採取を済ませていく。

 

イグアノスの動きを見ながら、慎重に湖岸に近づいた。既にリオネラには、自動防御を展開してもらってある。水中から、島魚なり水生モンスターなりに、強襲されたときに対処するためだ。

 

網を持ってきたので、それを使って渦巻き貝を捕る。

 

幾つか手に入れた後、先に汲んでおいた清水の中に移した。まだ生きているうちに持っていけば、鮮度は問題ない。

 

渦巻き貝は、かなり硬い殻を持っていて。湖底にぴったり張り付く。

 

普通だったら手を入れないと取れない。

 

だから、ロロナは隠し技を使う。

 

網に魔力を通すのだ。一気に、かなり激しく。そうすると、感電したように、気絶した渦巻き貝が岩から外れるのである。

 

湖を覗くと、凄い速さで深くなっている。

 

これは足を踏み外して落ちたら、かなり危ない。砂浜のように、なだらかに水深が増していくような場所では無い。

 

此処は、半円形にえぐれた土地に、水が溜まった場所なのだ。

 

水自体はかなり澄んでいるけれど。少しひしゃくで掬って口に含んでみると、妙な違和感がある。

 

側の地面に吐き捨てて、口を拭った。

 

いきなり飲むことは流石にしない。

 

「何だかびりびりします」

 

「此処は元々零ポイントだったのよ。 水がどれだけおかしくても、不思議じゃないわ」

 

「……」

 

クーデリアの言葉を聞いて、青ざめた様子で、リオネラが一歩下がる。

 

ミスグリューンが緑化したこの場所は。今では、命溢れる湖になったけれど。何もかもがたくましすぎて、ロロナにはまだ早かったかも知れない。

 

急いで、採取を進めていく。

 

湖岸に、珊瑚の欠片が多数散らばっていた。虹色に輝いていて、とても美しい。大きな魚の鱗らしいものもある。珍しいものは、どんどん拾って荷車に入れて行く。後で、まとめて解析すれば良い。

 

イグアノスが唸り声を上げている。

 

これ以上近づくなと、警告しているのだと思うけれど。その証拠に、近づいてこない。どうやら今は、好戦的な気分ではないらしい。ステルクが剣に手を掛けるが、首を横に振る。

 

無駄な戦いは、できるだけ避けた方が良い。

 

湖岸を廻っていくと、浮島との間に、橋が作られている場所がある。なるほど、利便性を上げようとした人はいたのか。

 

しかし、経験を積んだ戦士でも、此処に橋を作るのには、苦労したはずだ。

 

見ると、石で作られた頑丈な橋だ。橋の上には、イグアノスの群れが雑多に寝転がって、ひなたぼっこをしていた。

 

これでは本末転倒である。

 

イグアノスにひなたぼっこをさせるために、石の橋を作ったのではなかろうに。まあ、使うべき存在がその時々で使えばいいのかも知れないけれど。ただ、獰猛なイグアノスの群れも、目を閉じてひなたぼっこをしていると、かわいい。ただ、群れのリーダーらしい大きな個体は、油断無く周囲に目を光らせていたが。

 

木の実なども、収穫していく。

 

荷車は今回、二つ連ねて持ってきた。経済的に余裕が出てきたので、連結式のものを買ってきたのだ。

 

採取を急いでいるので、すぐに二つとも一杯になりそうだけれど。転倒に強いように、底が深い構造にしてある。見た目よりも、ずっと多くの素材が入る。

 

吹いてきた風が、涼しくて気持ちよい。

 

これならば、ひょっとすれば。モンスターの脅威さえなければ、避暑地になるかもしれない。

 

ただ、モンスターが、此処の美しい自然を守っているのも事実だ。

 

妥協しながら、共存していくしか無いような気もした。

 

イグアノスが騒いでいる。

 

なにやら、大きなものが地響きを立てながら歩いてきた。あれは、非常に巨大なイグアノスだ。いや、ドナーンの超大型個体かも知れない。全身には無数の傷があって、顔立ちも精悍。

 

見るからに、歴戦の猛者の雰囲気を、全身から漂わせていた。

 

近寄らない方が無難だろう。

 

「泡立つ水が欲しいんですけれど……」

 

ロロナは地図を広げる。

 

丁度浮島の一つで、入手できるとある。泉のようになっている場所で、すくい取ることが出来るようだ。

 

ただし、ロロナには確信もある。

 

多分この湖の水、全部が泡立つ水だ。煮詰めれば、恐らくは泡立つ水になるとみて良いだろう。

 

ただそれは、あくまで実験して、確認してから。

 

仮説を元に、話を進めるのは、あくまで追い詰められたときだけ。普段は、仮説は仮説。分かっている事から、順番に進めていくのがセオリーだ。

 

幾つかの橋を見て廻る。

 

一つ、イグアノスが群れていない場所があった。急いで渡る。石橋だから、強度は問題ない。

 

殿軍をステルクに、先陣をクーデリアにして。一列縦隊で、出来るだけ素早く渡りきる。

 

渡りきった後が、一番危ない。クーデリアが警戒しているのが見える。もしも仕掛けてくるなら、今だ。

 

ロロナも、橋を渡りきる。一瞬遅れて、リオネラも。

 

ステルクが追いついてきた。

 

どうにか、渡りきったか。

 

浮島はたくさんある。地図を見る限り、泡立つ水を手に入れるまでの道のりは、まだまだ遠い。

 

ゆっくりしている暇は無い。

 

いつどこからモンスターが襲ってきても、おかしくない状況なのだ。

 

呼吸を整えて、周囲を確認。囲まれていても不思議では無い。ステルクが、進むように、ハンドサインを出してきた。頷くと、ひとかたまりになって、行く。

 

中級レベルのモンスターになると、頭脳も狡猾になってくる。

 

罠を張るくらいは当たり前にやるし、イグアノスに到っては集団での狩りを巧みにこなすと聞いている。

 

昔は、集団戦は人間や狼の専売特許だったのだけれど。

 

今では、集団戦をこなせるモンスターは、いくらでもいるのだ。

 

影が傾いてきた。

 

あまり長引くと危険だ。出来れば陽が沈む前には、泡立つ水を回収して、一旦ネーベル湖畔を離れたい。

 

少なくとも、夜のネーベル湖畔で一晩過ごすのだけは避けたかったけれど。

 

しかし。その願いは。

 

叶わぬ事となった。

 

 

 

予想よりも、目的地と距離があった事が第一だが。

 

恐らくは、これも全て、計算尽くだったのだろう。ただ、イグアノス達は寝ているだけで、包囲網を完成させていたのだ。

 

泡立つ水は、入手できた。

 

湖の真ん中にある浮島の、さらに真ん中。

 

其処にある泉には、不思議な泡立つ水が、こんこんと湧いていたのだ。

 

事前に準備した桶に汲み取って、厳重に蓋をして。なおかつ、封印の魔法陣を書き込んだゼッテルで、二重三重に覆って。

 

どうにか、最大の目標は入手できた。

 

後は緑結晶だが、それはネーベル湖畔の反対側の岸。元から、明日入手に向かう予定だった。

 

だが、帰ろうとして、気付く。

 

今まで開いていた橋で、我が物顔にイグアノス達が居座っていたのである。それも、十や二十では無い。

 

イグアノスの群れは、遠巻きに此方をうかがっている。

 

「見えている範囲だけで、八十七」

 

クーデリアが数え上げると、リオネラが小さな悲鳴を上げた。

 

見えている範囲だけで、である。

 

あの様子だと、上手く行けば人間を食べられるかも知れないと思って、集まってきた個体が殆どだろう。

 

つまり、あの群れている連中は、さほどの脅威では無い。

 

そう思って、ステルクに聞いてみると。わずかに笑みを浮かべて、頷いてくれた。

 

「その通りだ。 良く分析できたな」

 

「えへへー」

 

「だが、問題はその先だ」

 

おそらく此方を狙ってくるのは、イグアノスだけでは無い。

 

島魚が、先から見えない。つまり、此方が弱るのを待ってから、仕掛けるつもりだとみて良いだろう。

 

ロロナは大威力の魔術を使えるが、燃費が良いとはお世辞にも言えない。

 

それならば、だ。

 

荷車から、ありったけの発破を取り出す。

 

大火力で、敵陣前面に打撃を与えて、一点突破。後は最短距離を、直進するのみ。それで湖畔を抜ければ、逃げ切れる。

 

ステルクは頷いてくれた。

 

それで良いと言うのだろう。一旦地図を広げて、退路を確認。イグアノスの群れがいるけれど、充分追い払えるだけの実力はある。

 

ただし、見えている範囲は、だ。

 

この湖畔に生息しているイグアノスがどれだけいるか分からないけれど、流石に万は超えないだろう。

 

正面突破はステルクに任せて。

 

後方、左右からの襲撃を、クーデリアに対処してもらうしか無い。遠くにいる間は、ロロナが発破で蹴散らす。

 

自動防御がいつまで保つか。

 

それが突破の鍵になるだろう。ただ、リオネラは完全に青ざめてしまっている。彼女はもともと戦士ではないし、仕方が無い所はあるのだけれど。クーデリアの冷たい視線も、分かる。

 

いい加減成長して欲しいと言うのだろう。

 

クーデリア自身は、もう一人前と呼べるところまで来ているのだし、言いたいことは分かるけれど。

 

ロロナは、フォローしたい。

 

人の成長には、個人差がある。ロロナだってクーデリアだって、成長が早い方では無いのだ。

 

「りおちゃん、大丈夫?」

 

「やだ……怖いよ……! あんな数のモンスター、どうにか出来る訳が無い!」

 

泣きそうになっているリオネラ。

 

嘆息すると、クーデリアは弾丸の数と、リボルバーの状態を確認しはじめる。強行突破をするなら、夜になる前がいい。だから急げというのだ。クーデリアが言いたいことは、別に直接言葉を交わさなくても分かる。

 

「うん、怖いよね。 だから、こっちに乗って」

 

荷車の空きスペースに、リオネラを押し上げる。

 

其処で目をつぶったまま、自動防御を展開していて欲しいと言うと、リオネラは驚いた様子で、ロロナを見た。

 

流石にこれは想定外だったのか。

 

「大丈夫。 実戦でのフォローは、ステルクさんと、くーちゃんがしてくれるから」

 

「で、でも」

 

「いつもつらいお仕事ばかりでごめんね。 でも、これがアーランドなの。 此処で生きていくなら、強くなくちゃいけないの。 だから、りおちゃんも頑張って。 いつかは、此処に、わたし達の側以外にも居場所が出来るように」

 

取り出した何種類かの発破。

 

戦闘用に加工したものを、荷車の中で整理しておく。いつでも使えるように、だ。

 

後は、敵の包囲が乱れる切っ掛けが、何かあれば。

 

如何に前面を蹴散らすのが難しくないといっても、走れば走るほど分厚い敵の壁にぶつかることは、ほぼ疑いない。

 

このまま突破を決行するのでは無くて、もう一工夫欲しい。

 

しかし、もたついていると、夜になってしまう。

 

夜中の突破戦だけは、避けたい。

 

「そろそろ時間的にも限界よ」

 

クーデリアが釘を刺してくる。

 

頷くと、ロロナは覚悟を決めた。

 

「ステルクさん、走ります。 お願いします!」

 

「分かった。 任せろ」

 

投擲可能な発破を二つ同時に取り出すと、魔術を使って着火。

 

フラムと呼ばれるものだけれども。複数個を束ねて、威力を倍加してある。ロロナの腕力でも、石橋の上に投げることが可能な程度の重さだ。

 

投擲する。

 

イグアノス達が、何だろうと、発破を見ていて。

 

そして、次の瞬間。

 

橋の上空に出現した殺戮の光に、なぎ倒された。

 

「突貫っ!」

 

阿鼻叫喚の中、突入を開始する。

 

わっと逃げ散るイグアノスと、踏みとどまってブレスを連射してくるグループに別れる。

 

ロロナは自動防御の中から、連続して発破を投げつける。狙いは、混乱している方では無くて、踏みとどまっている方。

 

石の橋とは言え、直上で爆破すると、流石に強度が心配だ。だから、直接ぶつけるのでは無くて、頭上で爆発するように調整して投げる。荷車を引きながらだから難しいけれど。どうにかこの程度なら、ロロナでも出来る。

 

ブレスを自動防御が弾いていくけれど。何しろ、数が数だ。

 

ステルクが、敵の群れの中に突入。

 

頑強なイグアノスの鱗も、ステルクの剣に掛かってしまうと、脆い紙細工のようだ。一刀両断された同胞を見て、わっと散るイグアノス達。橋の上の敵の前線が、一気に後退する。

 

そこを、走り抜ける。

 

前にいる敵を、ステルクが片っ端から斬り伏せる。

 

追いすがってくる敵が、大量のブレスを放ってくる。どれもこれもが、異常なまでに正確に、自動防御を打ち据えてくる。

 

逃げながら、牽制の発破を後ろに何度も投げた。

 

クーデリアが、至近にまですがってくる相手を、片端から撃って、一瞬でも動きを止める。動きさえ止められればそれで良いのだ。荷車は走り抜けているのだから、敵の追撃を、充分に阻止できる。

 

爆発。

 

荷車が激しく揺動する。

 

イグアノスの群れが、自動防御では無くて、荷車のわずかに側面や後ろを狙って、ブレスを放ちはじめたのだ。

 

当然爆破で、車輪が激しい負担を受ける。

 

爆風は、自動防御で防げるが。

 

地面の状態までは、どうにも出来ないのだ。

 

二つ目の石橋。

 

発破を後ろに投げながら、ロロナは見る。何かに祈るようにして、ぎゅっと目を閉じているリオネラ。

 

何となく、ロロナには分かってきている。

 

彼女が昔、どんな仕事をしていて、どんな境遇にいたのか。

 

アラーニャとホロホロの性質から考えれば、それほど難しい事でも無い。

 

石橋を、一気に走り抜ける。

 

もう二つ突破すれば、湖岸にまで出る。

 

遠目に見かけた、あの大きなドナーンは仕掛けてきていない。これなら突破できるかと思った、その時だった。

 

ステルクが叫ぶ。

 

とまれ。

 

慌てて、急ブレーキ。そのままではとまりきれないから、ドリフトして強引にとまる。そして、とまれと言われた意味が分かった。

 

地面が大きくへこんでいる。

 

これは、地面に至近からブレスを撃って、即席の落とし穴を作ったのか。

 

既に周囲は暗くなり始めている。そのまま突っ込んでいたらどうなっていたか、恐ろしくて寒気がした。

 

大量の火球が、四方発砲から飛んでくる。

 

動きが止まったのだから、当然だ。慌てて穴を迂回しに掛かるけれど、横殴りに叩き付けられた十以上の火球が、大きく荷車を傾けた。

 

慌ててタックルしたクーデリアが、横転だけは止めるが。

 

頭を抱えて悲鳴を上げたリオネラが、一瞬だけ自動防御を解除してしまう。目の前が真っ赤になったかと思った。

 

爆圧に、強かにたたきのめされる。

 

ああ。

 

これは死んだなと、ロロナは思った。

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