暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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原作でもトトリのアトリエの時代に足を運ぶんですが、アーランドの北部はまさに地獄絵図です。

人間が生きていけるとはとても思えない環境が拡がっています。

今回はそういうところに足を運びます。

アーランド人ですら、油断すれば即死しかねない危険な場所です。






2、侵食森での強運

今回の調合は、もう自分がいなくても大丈夫だ。

 

ホムと一緒に、一心不乱の作業を始めたロロナに、帰ることだけを告げて。クーデリアは、アトリエを出た。

 

ステルクが、調査作業に同道させてくれると言っていたので。今回は、お邪魔させてもらうことにしていたのだ。

 

場所は、黒い大樹の森。

 

アーランドの北西部に広がる、酷く汚染された土地に作られた森だ。正確には、森かどうかさえ怪しい。樹木らしいものがあるのだけれど、根本的に生態系が違うため、入ってみないとどうなっているかは分からないと言う札付きの場所だ。

 

昔はとにかく汚染が酷くて、アーランド人でも入る事が出来なかったのだけれど。近年は汚染がだいぶ薄れてきて、入る事が可能となってきたのだ。調査が先送りにされていたのは、他でも無い。

 

オルトガラクセンからのモンスター発生が頻出しており、なおかつ北の国境付近にある、夜の領域の存在が原因だ。

 

幸い、此処は偵察部隊が何度か入り、夜の領域ほどの魔境では無いと結論が出ている。クーデリアのような、一人前になったばかりの者が同行を許されたのは、比較的危険度が低いと判断されているから、である。

 

それでも、当然命の危険はある。

 

見ると、リオネラも同道している。彼女はクーデリアを見ると、真っ青になってうつむいた。

 

「どうしてあの子を連れてきたのよ」

 

「彼女の希望だ」

 

「……へえ?」

 

何でも、リオネラは何人かの魔術師に技を教わっているそうなのだけれど。

 

その全員から、言われたのだそうだ。

 

これ以上強くなるつもりなら、実戦の経験を積めと。

 

クーデリアがリオネラの事が気に入らないのは、こういう所で同類嫌悪を感じるからだろうか。

 

同じようなことを、クーデリアもアルフレッドをはじめとする、フォイエルバッハのエージェント達に言われる。

 

それで、実戦経験を積みたいと思って、ここに来たのだから。

 

ネーベル湖畔を左に見ながら、東へ。ネーベル湖畔にいるモンスターは、随分数を減らしたようだ。

 

容赦のない駆除作業が行われたことは、言われずとも分かる。

 

元々、少しばかりモンスターが多すぎたのだ。この間のような事故が起きなくても、いずれ駆除は行われていただろう。

 

数日がかりの行軍でも、リオネラは音を上げなくなっていた。

 

クーデリアだって余裕だ。この程度の事で音を上げるほど、もう柔では無い。ただ、黒い大樹の森を見たときには、流石に呻きが漏れていた。

 

これは、何だ。

 

草木も生えないと聞く零ポイント。緑化は散々苦労すると聞いている。

 

だが、此処は違う。

 

草木が、異常に生い茂っている。薄黒い木々が、塊のようになりながら、先を争うように空へ伸びているのだ。

 

周辺は荒野だというのに。

 

此処だけは、まるで。たとえるならば、木で出来た山だ。その木もよく見ると、尋常なものではない。

 

ねじくれ、曲がり、訳の分からない液体を垂れ流している。

 

モンスターもかなり住み着いている。此処は確か、ドナーン上位種であるサラマンダーの住処として知られているとか聞いている。というのは、此処からサラマンダーが現れる事があるそうで、それが原因だろう。

 

内部では、どんな風に住み着いているかは、まだ未知数だ。

 

調査チームは二十名。

 

何名かいる魔術師が、中に入った後、地形の探査を魔術で行う。その間、護衛をするのが、クーデリア達の仕事だ。

 

今回はリミッターを解除しているステルクもいるし、問題は無いと思うけれど。

 

しかし、どうしてだろう。

 

胃がひりつくような不安が、せり上がってくる。ステルクを見ると、他の戦士達に、油断するなと声を掛けていた。

 

そういえば、今回はホムンクルスがいない様子だが。

 

ステルクに聞こうと思ったが。チームのリーダーである初老の戦士が、手を叩いて皆を見回した。雷鳴という二つ名を持つ、熟練の戦士である。クーデリアも知るベテランで、ドラゴンスレイヤーとしても知られる猛者だが。流石に年には勝てないので、既に戦士としては現役を退いている。隠居が近いとも言われている。

 

「これより調査に入る。 今まで二度行われた調査でも、死者は出していないが、油断はしないように」

 

「アーランドのために!」

 

皆で唱和すると、調査のために森に踏みいる。

 

とはいっても、踏みいると言うよりも、木の幹を這い上がるというのが近い。最初からしてこれだ。

 

中はまさに迷路のように入り組んでいる。この有様では、以前作った地図など、何の役にも立たないだろう。

 

案の定、探索の術式を掛けた魔術師達が困惑の声を上げている。

 

「以前と地形が全く違います」

 

「調査を続行せよ」

 

不機嫌そうに、雷鳴が唸った。

 

此処は、人が入って良い領域では無いのかも知れない。リスのような小動物が、上から此方を見ていたが。

 

その顔は複眼だらけで、尋常な生き物だとは思えなかった。

 

ひょっとすると、此処は。

 

以前ロロナと一緒に見たような。悪魔達が、緑化した土地なのかも知れない。あくまで推測だが、それならば零ポイントがこうも緑化した理由の説明がつく。蛇のように巨大な百足が、足下を通り過ぎる。

 

踏みつぶそうとしたが、器用に木の根の間に逃げ込んでいった。

 

近辺の調査が終わったので、少し奥に進む。

 

それだけで、殆ど光が差し込まなくなった。

 

まるで、洞窟だ。

 

張り巡らされた枝が、陽光を殆ど全て遮ってしまっている。木は確か、日光で成長するはずで。この森の異様な木々も例外では無いとすれば。

 

此処での生存競争は、異常な次元で行われているとみて良いだろう。

 

開けた場所に出た。

 

広場のようになっていて、床とでも言うべき場所には、大きな。そう、人間大の花が、多数咲いている。

 

此処だけは光が差し込んでいるが、それは花があるから、だろうか。

 

奥の方に、サラマンダーが数体、丸くなって寝ている。此方を見ても、仕掛けてくる様子は無かった。

 

サラマンダーは全身が真っ赤で、炎の中でも生きられると言われるほど、強靱な鱗を持つドナーンの上位種。大きさも通常のドナーンの倍は標準であり、その戦闘力は尋常では無い。

 

だが、この場にいる戦士達は、それを軽々と凌いでいる。クーデリアとリオネラを除いて、だが。

 

魔術師達が、調査を続け、地図を作り上げていく。

 

まだ、モンスターの襲撃は無い。

 

だが、ステルクは、既に険しい顔で、辺りを見回していた。何かに気付いているのだろうか。

 

「どうした、ステルク」

 

「いえ。 少し周囲のモンスターが多いと思いまして」

 

「そなたも気付いたか。 サラマンダーが数百はいるな」

 

「それに加えて、大型のウォルフが、先ほどから此方をうかがっている様子です」

 

どちらにも、クーデリアは気付けなかった。

 

此処はそれだけの魔境だと言う事だ。一応一人前のアーランド戦士として認められているクーデリアでこれなのだから、普通の人間などは間違えて入りでもしたら、瞬く間にモンスターの餌だろう。

 

調査を急ぐように、雷鳴が言う。

 

此処は、長居する場所ではないと判断したのだろう。

 

 

 

地図を造りながら、奥を目指していく。

 

ステルクによると、相変わらずかなりの数のモンスターが、周囲で様子をうかがっているという。

 

時々ステルクが、雷を纏った剣を振るって、地面を爆砕する。いや、地面と言うべきなのか。真っ黒で巨大な根が張り巡らされたそれは、まるで巨大な何者かの、糞便に汚れた内臓のようだ。

 

異臭も酷い。

 

面白いのは、そういった根から、草木が生えていること。

 

植物の根から、更に植物が生えている。確かそういった寄生植物が存在することは知っていたけれど。

 

これは寄生と言うよりは、むしろ、異様な地面にたくましく生えている普通の草、という印象である。

 

所々泥沼のようにさえなっていて、瘴気が噴き出している場所さえある。

 

彼方此方に、異常な魔力の反応もあって、クーデリアは気が休まる暇が無かった。ステルクは周囲を警戒しながら、声を掛けてくれる。

 

「未熟なうちにここに来ると、発狂する可能性もあるな。 まずいと思ったら、大声で知らせろ」

 

「どうするつもりよ」

 

「気絶させる」

 

息を呑むクーデリア。

 

だが、確かにそれが一番だろう。暴れられたら面倒だし、これ以上精神的な負荷を受けないには、意識を閉じてしまうのが一番だ。

 

警戒を続けながら、奥に。

 

まるで生物の血管のように、洞窟状の森が枝分かれしている。

 

魔術師達が、ついに音を上げた。

 

「複雑すぎて、これ以上の侵入は危険です! モンスターとの交戦が起きる前に、一度引きましょう!」

 

「どうしますか?」

 

「ふむ……」

 

雷鳴が、腕組みして考え込む。

 

その時。

 

偶然。クーデリアは、それに気付いた。気配無く、何かが上から来る。叫ぶ。上です、と。

 

瞬時に反応したステルクが、上方に雷撃を放つ。

 

絶叫しながら蒸発していくそれは。恐ろしく巨大なぷにぷにだった。泡を食って、魔術師達も、攻撃術を空に放つ。

 

残骸が丸ごと焼き尽くされるが、同時に息がとまるような悪臭が、周囲を覆った。思わず咳き込むクーデリア。

 

リオネラは真っ青なまま、ひとことも口を利かない。全力で自動防御を展開して、身を守るので精一杯のようだ。

 

「防御円陣!」

 

「今のは、危なかった」

 

ステルクが言う。

 

確かにあの大きさのぷにぷにに、頭上から奇襲を受けていたら。流石に歴戦のアーランド戦士達でも、身動きできないまま一網打尽にされてしまっていただろう。クーデリアはたまたま視界に入った危険を知らせただけだが。だが、全滅を防いだことに、間違いは無かった。

 

一度引き上げることになる。

 

解毒の術を魔術師達が掛けるが、皆苦しそうにしていた。あの巨大ぷにぷには、おそらく森の主だったのだろう。こんな恐ろしい森の主となれば、全身が毒の体液で満たされていても不思議では無い。

 

ようやく森から出る。

 

魔術師は疲労困憊。

 

森の方からは、何をしに来たのだろうという面持ちで、サラマンダーの群れが此方を見ていた。

 

確かに、何をしに来たのか分からない。

 

だが、死者も出さなかった。

 

「これは、噂以上に厄介だ」

 

雷鳴が冷や汗を拭いながら言う。前に来た調査チームも、強力なモンスターに遭遇したとは報告していたのだとか。

 

ただし、あのようなトリッキーな相手では、アーランド戦士は実力を発揮できない。クーデリアが、雷鳴に呼ばれた。

 

「見事な判断だった。 君はまだ未熟なようだが、見所があるな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

敬語は使い慣れていないけれど。

 

この雷鳴は、アーランドでも上位に入る戦士で、社会的地位で言えばステルクよりも更に上だ。

 

戦士として現役であり、実力もあるステルクと違って、もう一線は退いているが。その知識と経験で、部隊の指揮なら現役時代よりも見事にこなせるはず。実際今回も、撤退の判断が速く、余計な犠牲は一切出さなかった。

 

ステルクが、クーデリアを紹介する。

 

少し考え込んだ雷鳴だが。

 

聞き捨てならぬことを言い出す。

 

「そうか、ひょっとして君は、オルトガラクセン遭難事故の」

 

「! 知って、いるんですか」

 

「知っているも何も、あれは私が引退する切っ掛けとなった、最後の戦いだからな。 あの時私は、現れたベヒモスと一騎打ちをした。 倒したには倒したが、その後に見たのは……」

 

言われるまでも無い。

 

其処で何が起きたのかなんて。ロロナは忘れていても、クーデリアははっきり覚えている。

 

「あの時、敵を倒せはしたが、衰えを実感してしまってな。 君達の事もあって、結局引退をすることにしたのだ」

 

「そうだったのですか」

 

「そうか、あの時のお嬢さんが、大きくなったものだ。 強くなりたいという話であったな。 これから、稽古を見てやろう」

 

「! あ、有り難うございます!」

 

頭を下げる。

 

これは、僥倖。

 

まさか、このような幸運が続くなんて。

 

雷鳴は、アルフレッドが引き合いに出すほどの高名な戦士。若い頃の実力はアーランドでもトップクラスで、多分今のステルクよりも強かったはずだ。

 

ひょっとすると、クーデリアは今、ものすごくついているのかもしれない。リオネラを一瞥する。

 

彼女はと言うと。意外だ。

 

先ほどのぷにぷに落下時に、最大限の自動防御を展開していたらしく、魔術師達が術をぶっ放す時間を、稼ぐのに成功したとかで。何名かの魔術師が、好意的に声を掛けている。これは、探索は失敗したけれど。クーデリアとリオネラには、どちらも良い方向に、事が転んだか。

 

とりあえず、今までよりもずっと深くまで調査できたのは事実。

 

それにこの程度のモンスターなら、外にさえ出てこなければ問題は無いとも結論。一旦調査チームは、撤退する事となった。

 

雷鳴の家のアドレスをもらった後、話を聞く。

 

何でも雷鳴は既に孫達とも離れて、老夫婦で暮らしているのだという。小さな家は寂しいとかで、時々来てくれると嬉しいと言うことだった。

 

或いは、単に孫恋しさの事なのかも知れないが。

 

だが、クーデリアにとっても好都合。歴戦の戦士に技を教わり、戦い方をアドバイスして貰えれば、ロロナを守れるのだ。

 

一人前の、上に行く機会が。思ったよりも早く、巡ってきたかも知れない。

 

街に到着。

 

必ずうかがうことを約束すると、クーデリアは自宅に戻る。途中アトリエに寄ろうかと思ったが、それは後で良い。

 

その日、クーデリアは。

 

貯めておいたお金を使って、ささやかなケーキを買い。自分だけで楽しんだ。

 

ロロナと一緒に楽しむには、理由を明かせない。それに、一度で良いから、ケーキを独り占めしてみたかったのだ。

 

寂しくて、あまり楽しいとはいえなかったけれど。

 

これは、壁を越えうる好機を掴んだ記念だ。

 

黙々とケーキを食べて、そして早めに休むことにする。

 

ロロナも、そろそろ杯の作成を軌道に乗せているはず。クーデリアもそれを補助するべく、全力で動かなければならなかった。








原作以上にロロナの事を大事に思っているクーデリアは。

ロロナの為ならそれこそ何でもする覚悟を決めています。

環境があまりにも厳しいので、それだけの覚悟が決まっているのです。

それは決して幸せではないと思いますね。
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