暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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街の近くに超ヤバイ遺跡がある。

アーランドの現実です(笑)。ちなみにこれは原作からしてそうです。この遺跡には原作からしてドラゴンが複数住んでいます。此処でドラゴン狩りをして、素材を集めた人も多いかと思います。一日で行けて即帰れますからね。

此処から漏れてる露骨にヤバイ廃液で、色がおかしくなってる果実とか食べても平気な顔をしているのがアーランドの住人です。これも原作からしてそうです。

こういう所から、本作の戦士の文化のアーランド人を着想したのです。






1、トラウマの地へ

錬金術を本格的に始めてから、ロロナがアトリエを出てくる事がめっきり減った。勿論朝昼晩には、食事の準備で姿を見せる。その時、偶然を装って通りが掛かって、食事を一緒にしたりもする。

 

クーデリアは、食事の際に、状況も聞いている。

 

ゆえに、ロロナが本格的に躓いたり、それから立ち直ったことも知っていた。

 

予定行程より、かなり作業が遅れてしまっているが。まだどうにか挽回できる範囲内だとも。

 

ただ、予定していた、オルトガ遺跡への遠征が遅れに遅れている。それが不安をかき立てていた。

 

本当に間に合うのか。

 

間に合うとして、ロロナはやり遂げられるのか。

 

もし駄目だったら、その時は。

 

備えておかなければならない。ロロナを連れ出して、国家機密を守るために消そうとする連中から、命に代えても守り抜く。

 

勿論戦って勝てる訳がない。

 

初動と、どこに逃げるかが大事だ。或いは周辺の大国に、何か餌になる条件をちらつかせて、保護を頼むほかない。

 

いずれにしても、味方など一人もいない。

 

クーデリアは見ている。

 

近辺の店、その全てに、国の息が掛かっているのだ。ロロナは気付いていない様子だが、全員がこのプロジェクトに関わっている。

 

勿論、必要とあれば、密告も辞さないだろう。庇ってくれる人など、誰もいない。人間の情など、そんな程度のものだ。

 

元々アーランドは、修羅が集う土地だった。

 

今でこそ国情は安定しているが。それでも、やはり根付いているのは、極端な現実主義。ロロナが親友と思っている幼なじみのイクセルさえ、いや何よりクーデリア本人さえもがこのプロジェクトの末端にいる。イクセル自身がロロナを悪からず思っているのは知っているが、国に逆らって店を潰す覚悟まではないだろう。イクセルをいざというときの同士としては、カウントできない。

 

クーデリアは、アトリエの前を通り過ぎてから、広場に。

 

今日の自由時間はもう残り少ない。

 

広場の一角のソファに座ると、じっと手を見た。

 

腕力だけは、人並み外れている。

 

だが、それも活かせなければ、宝の持ち腐れ。こんな体になった事を、今でも恨んでいるクーデリアだが。

 

情けないことに、この人並外れた瞬発力を生かさなければ。いざというときに、大事な人を守れそうにない。

 

それには、訓練が必要だ。

 

狼なんぞに手こずっているようでは問題外。もっと強く。もっと速く。もっと的確に、動けなければ話にならない。

 

自宅に戻る。

 

黒づくめのエージェント達が、既に準備を整えて待っていた。

 

クーデリアの屋敷は広い。隅には、訓練用のモンスターも飼われている。その中には、近辺ではなかなか見られない、強力な個体も姿を散見できる。

 

エージェントの中には、クーデリアと同年代の若者もいる。

 

ただし、幼さが抜けきれない顔立ちと裏腹に、目は戦闘マシーンそのものだ。傭兵としての経験もあり、当然のように人を斬ったこともあるという。故に、黒服を着込んでいると、他の本職の生体殺戮兵器どもと全く雰囲気が変わらない。

 

お嬢にありがちな、講師と恋愛ごっこなどという事は、あり得ない。クーデリアは、身をもってそれを知っていた。

 

今日は、彼が講師だった。

 

家の中庭に出る。他の兄弟姉妹達とは、今日は顔を合わせていない。まあ、顔を合わせるだけ不快な連中だし、むしろ僥倖か。

 

まず念入りにストレッチをする。クーデリアの小さな体を生かすには、その速度を武器にするしかない。

 

体の筋肉をしなやかに保ち、いつでも動かせるようにする。

 

講師の少年は、グローブを両手に持った。今日は、切り札を生かせるようにするための訓練か。

 

「いいですか、お嬢。 お嬢は速いですが、まだまだそれを生かし切れていません。 思い切って突っ込んできてください」

 

「分かったわ」

 

「不意打ち、だまし討ち、何でもありです。 良いですか、お嬢はまだまだ、正攻法なんて口に出来るほどの技量じゃありません。 どんな手を使ってでも、相手に勝ちに行く事を考えてくださいね」

 

「……分かっているわよ」

 

半人前以下。

 

訓練の度に、それを思い知らされる。

 

ロロナは錬金術を勉強する度に、相当に腕を上げてきている。それなのに自分は。近くの森に出る度に、ロロナの護衛にはつく。ロロナを守りきる事は今の時点で出来ているが、それだけ。

 

今後、もっと過酷な護衛任務が来た時。クーデリアは、役に立つ事が出来るのだろうか。不安は大きかった。

 

訓練開始。

 

真正面から突っ込み、拳を叩き込む。

 

少しずつ速くなってきているが、まだまだ。講師は同年代。それなのに、実力差は天地だ。

 

「まだまだ、もっと!」

 

言われるまま、拳のラッシュを叩き込むが。

 

相手は軽々と捌いてくる。

 

それどころか、軽く蹴りを入れられて、すっころばされた。すぐに立ち上がるが、相手は容赦してくれない。すぐに至近に迫ってくる。

 

「足下ががら空きですよ」

 

「分かってる!」

 

言われなくても、理解できている。

 

だが、思考通りに、体が動いてくれないのだ。サイドステップやバックステップを多用して、フェイントも混ぜる。

 

しかし力の差は圧倒的。

 

まだまだ、とてもではないが、顔面に入れるには到らない。

 

実戦だったら、瞬殺されるレベルの相手なのだ。

 

軽く一刻ほどもスパーリングを続けて、それでもなお、進歩が見えない。口惜しいけれど、これが現実だ。

 

「どうぞ」

 

「ん」

 

冷たいミルクを差し出されたので、一息に飲み干した。

 

訓練はずっと続けるよりも、適度に休憩を入れると効果的だ。これは今までの膨大なデータの蓄積から判明している。

 

並んで座ると、講師は言う。

 

「思うにお嬢は、もう少し強い相手と、命がけで戦うべきですね」

 

「実戦を重ねて、力を伸ばせば良いと?」

 

「そうですそうです。 何なら、エージェント達とシュテル高地辺りにでも遠征してみますか?」

 

「時間があったら、考えて見るわ」

 

シュテル高地。

 

この近辺では、訓練場として名高い山だ。環境が厳しく、住み着いているモンスターも強い。

 

特に多く住んでいる山狼は、美しい白銀の毛皮が高く売れる上、肉もおいしい。ただし、国によって保護されていて、乱獲は禁止されている。この近辺にいる狼よりも三周りほど大きくて、単独でヒグマを倒すほどの戦闘力を持っているが、やはりそれでも人間には勝てないからだ。

 

他にも、ドラゴンが時々姿を見せることでも知られている。

 

ドラゴンも同じように、国によって保護されている。もしその気になったら、たちまち狩られてしまうからだ。ドラゴンは貴重な資源なのである。乱獲して絶滅してしまったら、意味がない。

 

更に言えば、流石に単独でドラゴンを斃す事は難しい。対抗戦術が確立しているから手安く狩れるのであって、一人の戦士が余裕を持って戦える相手ではない。そう言う存在もいるが、それは例外だ。

 

一人前になった戦士達が、まず足を運ぶ場所。

 

此処で、ドラゴンと遭遇する危険を考えながら、サバイバル技術を磨く。そう言う意味でも、クーデリアはいずれ、足を運ばなければならない所だった。

 

休憩を挟んで、スパーリング。

 

クーデリアの能力は若干発動までに面倒な条件がある。ただし、発動できれば、破壊力は充分だ。

 

しかしながら、スパーリングを続けていて、それが難しい事を思い知らされる。

 

「拳が軽い」

 

全力での一撃を、押し返される。

 

相手の斜め後ろに回り込んで放った一撃だったのに。旋回しながら蹴りで足下を狙うが、余裕を持ってかわされる。

 

能力発動どころでは無い。そう言う意味で、クーデリアが得ている力は、宝の持ち腐れだ。

 

一瞬注意がそれた瞬間、容赦なく回し蹴りを撃ち込まれた。

 

ガードの上からでも、痛烈に来る。吹っ飛ばされたクーデリアは、訓練場の外壁に叩き付けられて、ずり落ちる。

 

脳天が砕けるかと思った。

 

「まだ行けますか?」

 

「平気よ……!」

 

こんな程度の痛み。あの時に比べたら。

 

クーデリアは埃を払って立ち上がると。態勢を低くして、一気に訓練相手へ間を詰めた。そのまま、ラッシュを叩き込む。どれだけ捌かれるとしても、諦めるものか。

 

 

 

昼になった頃。

 

ロロナが、屋敷に来たと知らされた。

 

丁度訓練も終わったタイミングだ。

 

「良い実戦訓練の機会が来ましたね」

 

「言われるまでも無いわ」

 

この程度の訓練で呼吸を乱すほど柔ではない。というよりも、幼い頃に散々虐められて、タフになった。

 

クーデリアが心を乱すのは二つだけ。

 

自分の弱さを嘆くとき。

 

そして、ロロナに危険が迫ったとき。

 

これ以上、クーデリアは、弱みを作りたくなかった。

 

軽く身繕いして、屋敷の門に出る。ロロナは、ここのところ遅れを取り戻すべく奮闘していただろうに。

 

疲れた様子も見せず、にへにへと笑っていた。

 

この笑顔は、クーデリアにとってはまぶしい。こんな無邪気な笑顔を浮かべられる親友を、絶対に守り抜かなければならないと、その度に誓わされるほどに。

 

「くーちゃん! あのね、これから外に出たいんだけれど、いい?」

 

「いつでも大丈夫よ。 それで、どこに行くの」

 

「うん。 オルトガ遺跡に行ってみようって思ってるの。 どうにか炭が作れるようになったから」

 

緊張が、背中を駆け上がる。

 

ついに、この時が来たか。

 

「他には誰か声を掛けたの?」

 

「うん、イクセ君に来てもらおうと思って」

 

「ああ、彼奴ね……」

 

あまり良い印象がない相手だ。

 

ロロナの幼なじみの一人。近くのサンライズ食堂で、見習いコックをしている。ただ、このサンライズ食堂、元の店主が著しく腕に欠けていて、今では実質上イクセルが切り盛りしているはず。

 

連れて行って、大丈夫なのか。

 

「あいつ、サンライズ食堂実質上仕切ってるんでしょ?」

 

「ええと、仕込みとかは全部済ませてるんだって。 だから、きっと大丈夫だよ」

 

「ふーん……」

 

或いは、酒場としての機能に限定して、店を開けるのかも知れない。

 

あの店は酒も出す。

 

酒を飲んでいる時の食べ物は、多少まずくても、誰も気にしない。だから平気という考えなのだろうか。

 

まあ、クーデリアの知ったことではない。

 

途中、アトリエに寄って、荷車を回収。

 

これから出かけるという事か。

 

オルトガ遺跡のそばには、戦士が常駐しているキャンプスペースがある。其処で一泊してから、本格的に採集を実施。

 

そして、次の日の夜には帰るというスケジュールらしい。

 

オルトガ遺跡は、地下に危険な空間があるため、戦士が見張りのため常駐している。確かロロナの両親も、仕事として常駐作業をしているはずだ。

 

救護班もいる事が多い。

 

要するに、それだけ危険な場所なのである。

 

「今回は、フェストを取りに行くんだっけ?」

 

「それもあるけれど、出来るだけ色々採集しておこうかなって。 いつ何の役に立つか、分からないから」

 

「ふうん……」

 

少し、ロロナと話して聞いているが。

 

研磨剤を作るために、フェストは必要となる。

 

フェストはどこにでも転がっている石の一種で、簡単に砕けるため、研磨剤の素材としては重宝する。

 

問題は、遺跡近辺にあるフェストは、品質がお世辞にも良いとは言えないこと。

 

だから、相応の量は拾っていかなければならないだろう。

 

軽い鉱石であるフェストではあるが。荷車に積んだとして、帰り道はかなり重くなるはず。

 

大丈夫なのだろうか。

 

不安を感じるが。今は、あまりそれに触れてやるべきではないと、クーデリアは思った。

 

街の外門に出る。

 

今回は、オルトガ遺跡に行くので、街の西門から出る。西門からは、オルトガ遺跡が見えているのだが。

 

意外に距離があり、だいたい半日ほどは到着まで掛かってしまう。

 

門の所で、イクセルが待っていた。

 

此奴もアーランド人だ。戦闘用の装備くらいは持っている。ただし、手にしているのは、フライパンのようだが。

 

「それで戦うつもり?」

 

「これは戦闘用のフライパンだよ。 アーランドの料理人の中には、傭兵と二足の靴でやってる奴もいてな。 今のサンライズ食堂の主人もそれさ」

 

見せてもらうが、確かに分厚い造りだ。

 

アーランド人だから振るえるが、そうでなければ無理だろう。振り回すことさえ出来ないにちがいない。

 

それに、そう言うこともあると噂でだけなら聞いている。そういえば料理の腕が微妙なことで知られているサンライズ食堂の主人が、どうしてやっていけているのか。元傭兵で、なおかつ人脈を生かしていて客にしていると考えれば、矛盾は出ない。

 

納得はいった。

 

それに、三人なら、地上部分のオルトガ遺跡くらいなら、大丈夫だろう。

 

此奴もアーランド人だ。二人がかりなら、ロロナを守りきる事くらいは出来るはず。クーデリアは最悪、最終的には死んでも良いのだ。勿論、イクセルにも、巻き添えになってもらうが。

 

「行こう! 日が暮れちゃうよ!」

 

ロロナは今日も、明るい笑顔で言う。

 

この子に、現実は出来るだけ、見せたくない。

 

 

 

恐怖からだけではない。ロロナは思わず口を押さえていた。

 

オルトガ遺跡の周辺は、森が黒ずんでいた。

 

昔来た時は、あまり感じなかったのだけれど。何だか嫌な臭いもする。確か師匠の話では、昔の人だったら即死するような毒がたくさん遺跡から漏れているのだとか。本当なのだろうか、ちょっと分からない。

 

というのも、この辺りで取れる露骨に変な色をしたベリーは、サンライズ食堂でもたくさん出てくる。

 

変わった味がするのだけれど、むしろスパイスの一種だとみんな言っているくらいなのだ。

 

勿論、ベリーを食べておなかを下した人なんていない。

 

「こっちにもあるぜ」

 

探し始めてからすぐに、イクセルがベリーをたくさん見つけてきてくれた。

 

すぐに油紙に包んで、荷車の隅に入れる。

 

今の気候だと、数日は保つだろう。保存については、洗った後、暗いところに入れておく、くらいで大丈夫。

 

「それにしても、凄い色だね」

 

「こっちはコバルトベリーで、こっちが三色ベリーだ。 どっちも、サンライズ食堂のメニューには、隠し味で入ってるんだぜ」

 

「ふうん」

 

クーデリアは素っ気ない。

 

というのも、採集をわいわいやっている間、ずっと辺りを見張っていてくれているからだ。

 

多分気を張っていて、会話に入る余裕が無いのだろう。

 

この辺りは、かって遺跡に押し寄せる人達のために、街道も作られていた。今では、遺跡の表部分が全て探索され尽くしている事もあって、人通りは少ない。しかし盗賊や、工場から逃げ出した労働者が潜まないように、巡回の戦士もいる。

 

先ほどから、巡回の戦士とは、二度遭遇した。

 

二回目にあった人は、隻腕の大男で。とんでもなく大きなバトルハンマーを手にしていて、威圧感ももの凄かった。あれでは、狼など見た瞬間すっ飛んで逃げていくだろう。

 

「ベリーはもう良いよ。 移動しよう」

 

「何だ、調理次第じゃ結構美味いんだぜ。 油だって取れるしな」

 

「今日の目的は、研磨剤の材料だから」

 

「そういえば、そうだったか」

 

残念そうに、イクセルが腰を上げる。

 

イクセルは料理になると、目の色が変わる。更に、脱線もしがちになる。ロロナもそれを知っているから、最初から用心していたのだ。

 

クーデリアに促して、場所を移る。

 

街道から少しずれるだけで、荷車を動かすのが、こんなに大変になるとは思わなかった。うんせうんせと言いながら、荷車を引っ張る。今度は、クーデリアが押してくれる。イクセルが見張りだ。

 

昨日、キャンプについてから、腕相撲をしてもらったのだが。

 

クーデリアは、イクセルを数秒でねじり伏せた。

 

やはりクーデリアは、腕力に関しては既に同年代の男の子よりもずっと強い。ただし、戦士階級の、力の使い方を知っている相手に対しては、どうしても無理が出てしまう。そう言うことなのだろう。

 

それで、荷車を押す方に廻ってもらっているのだ。

 

ようやく、街道に荷車を戻す。

 

まだベリーや類をはじめとする森の素材を少し採っただけだから、荷車のスペースにも重量にも、充分な余裕がある。

 

調べてある。

 

フェストがあるのは、この街道を少し行った先だ。

 

「それにしても研磨剤か。 駄目になった食器を磨くときとかに、よく使ったな」

 

「師匠が作ってくれた奴?」

 

「いいや、確か工場のだよ。 不純物が混ざってて、気をつけないと食器を傷つけちゃうんだよなあ」

 

なるほど、やはり不純物は念入りに取り除かないと駄目らしい。

 

ロロナも、失格と言われないようにしなければと思っている。こういう話は、色々と参考になる。

 

半刻ほど行くと、到着。

 

崖の下のようになっている場所だ。

 

右手には、遺跡。

 

遺跡と言っても、未知の物質で作られていて、百年も野ざらしになっていても、びくともしていない。

 

元々は山に埋もれていたのだが、今では全て土が取り除かれて、むき出しになっている。故に、アーランドからも見ることが出来るのだ。

 

それに、遺跡自体が山のような大きさである。

 

未だに生きている事を誇示するように、時々遺跡の壁面には、筋状に光が走る。触ってみると、ほんのり暖かい。

 

昔、酷い目にあったのは、此処ではない。

 

確か、足場を上がった、上の方だ。

 

彼方此方に、多数の足場が組んである。遺跡自体に傷を付けるのは難しいのだが、それでも頑張って穴を穿ったり。或いは、へこんでいる所に横木を入れたり。もしくは、地面から櫓を組んでいったり。

 

ただし、それらの足場に、今ではモンスターが住み着いている。

 

勿論定期的に巡回の戦士達が片付けているのだけれど。それでも、何が心地よいのか、モンスター達は目を離すと、すぐに住み着く。

 

「それで、フェストは?」

 

「あ、うん」

 

クーデリアに言われて、辺りを探し始める。

 

フェストはとても軽い鉱石で、灰色をしている事が多いのだが。何しろ雨ざらしだ。土に半ば埋まっている事も多い。

 

川の側にある場合は、丸くなっている事もあるが。

 

この近辺には川も無いし、だいたいとがった形状のままだ。

 

辺りを探していくと、見つけた。

 

土に半ば埋まっていたので、掘り返す。こぶし大のフェストの下には、小さな虫たちがたくさんいた。

 

土を払って、虫たちにごめんねと呟く。

 

たくさん転がっている場所を見つける。

 

工場が出来てから、フェストを使って研磨剤を作ること自体が、減ってきているようだ。だから、これだけたくさんあるのだろう。

 

ただ見ると、質が良いフェストはあまりない。

 

歴代の錬金術師達が、拾い集めていったからだろう。長い年月、拾い続ければ、数も減ってくる。

 

「ロロナ、出来るだけ急いで」

 

「くーちゃん、どうしたの?」

 

見張りをしていたクーデリアが、いつの間にか拳銃を取り出していた。

 

見ると、上にいる。

 

アードラと呼ばれる、巨大な鳥のモンスターだ。

 

翼長は大柄な成人男性ほどもある。その巨体をゆっくりと風に乗せている、この辺りではどこでも見られる猛禽。

 

主に死肉を漁る性質を持っているけれど。

 

チャンスがあれば、赤ん坊を浚っていこうともする。事実、子供が浚われそうになる事が、年に何度かある。

 

実力は狼と大差がないので、戦士階級の子供達は、此奴を相手に、対空戦闘のイロハを学ぶのだ。

 

モンスターらしく、アードラの一族は、風を操る力も持つ。

 

上級の物になると、小規模の竜巻を起こすことも出来るらしいのだけれど。

 

まあ、今上空を旋回している奴は、大丈夫だろう。

 

「分かった。 くーちゃん、見張りお願い」

 

「急ぎなさい」

 

いそいそと、必要量のフェストをかき集めていく。

 

幸い、要求されている研磨剤は、大した量ではない。しばらくフェストを集めていけば、大丈夫だろう。

 

そういえば、イクセルはどこに行ったのか。

 

少し前から、姿が見えない。いくら何でも、この辺りのモンスターに遅れを取るとは思えないけれど。

 

心配なので、フェストを探しながら、呼んでみる。

 

返事はある。

 

いるらしい。ただし、姿が見えない。

 

荷車に、かなりの量のフェストを積み込んだ頃、イクセルが姿を見せた。どうやら、足場に上がっていたらしい。

 

「上の方に、卵がたくさんあるぜ」

 

「アードラの?」

 

「多分な。 アードラは卵も美味いし、雛も肉が軟らかいんだぜ」

 

「ロロナ」

 

クーデリアが、釘を刺してくる。

 

何も言われなくても、分かる。うんと小さいとき、同じような誘惑にかられて、この上に上がって。

 

そして、地獄を見ることになった。

 

今、此処で、こんな作業をしているのも、その時の出来事が原因の一つだ。

 

「戻ろう、イクセくん」

 

「え? なんでだよ。 卵採っていこうぜ」

 

「もうフェストは手に入ったし、充分だよ。 それに時間はいくらでも必要なんだから」

 

「あ、そうか。 怖いんだな」

 

ちょっとむっとした。

 

イクセルは歯に衣着せぬ言動をする事がある。ロロナの幼なじみなのだから、知っていて欲しいのだけれど。

 

事実、クーデリアは、どんどん視線が冷たくなってきている。

 

このままだと、クーデリアがキレる。

 

「あのね、イクセくん。 わたしとくーちゃんね、この上で前に大変なことになった事があるんだよ。 だから冗談でも、そう言うこと言わないで」

 

「あ、前に遺跡でどうこうっての、言ってたな」

 

「うん。 だから今日はもう、帰ろう」

 

「いや、だったらなおさら上がってみようぜ」

 

何を言い出すのかとばかりに、見る間にクーデリアの機嫌が悪くなっていくのが、ロロナには目に見えて分かった。

 

嘲笑うようにして、上空でアードラが旋回している。

 

仲間割れなどこんな所でしていたら、血の臭いをかぎつけたモンスターが、たくさん押し寄せてくるだろう。

 

「どういうこと。 巫山戯てるんだったら、ただじゃ済まさないわよ」

 

「要するに、この上が怖いんだろ? だったらそれは子供の時の話なんだし、今行けばその怖いのも解消できるだろ」

 

「あんたねえ、簡単に……!」

 

「だからこそだろ。 これから、もっとおっかない所にも足を運ぶだろうに、こんな身近なところに怖い場所なんか遺してたら、仕事なんかできねーぜ」

 

それは、そうかも知れない。

 

クーデリアは冷ややかな目で、ロロナを見た。

 

このままだと、二人が喧嘩になってしまう。それは嫌だ。ロロナとしては、クーデリアとイクセルには、仲良くしていて欲しいのだ。

 

幼なじみ同士が喧嘩するなんて、悲しい話だと思う。

 

「分かった、ちょっとだけ昇ってみよう」

 

「ロロナ!」

 

「確かに、この上で酷い目に遭ったのが、トラウマになっているのは事実だと思うから」

 

クーデリアは何か言いたそうにしているが。

 

しかし、にやにやとしているイクセルは、ずっと余裕を崩していない。ひょっとすると、クーデリアが譲ると思っているのか。

 

予想外の事態が起こる。

 

肩をすくめたクーデリアが、冷ややかに言った。

 

「分かったわ、少しだけよ」

 

「え……」

 

「急がないと、日が暮れるわよ」

 

クーデリアが、率先して足場の上がれる場所へと歩き始める。

 

下ははしごのようになっていて、足場があるのはその先だ。まずイクセルに上がってもらって、ロロナとクーデリアは、それに続いた。

 

荷車は一旦下に残していく。

 

盗まれるようなものは積んでいないし、物陰に隠しておけば大丈夫だろう。それにしても、クーデリアが此処で許可を出すとは、どういう風の吹き回しなのだろう。

 

いずれにしても、クーデリアの気が変わらないうちに、探索は済ませておきたい。

 

さっと足場の上に。

 

一番高いところは山のようだが、壁の全てが垂直になっている訳では無い。中には上を歩くことが出来る場所も多い。

 

彼方此方に、飛び散っている肉片や毛皮。

 

この辺りで倒された狼の死体を、他の狼やアードラが漁ったのだろう。きりがないと巡回の戦士達が嘆いているようだが、それも無理がない。

 

しばらく歩いていると、くぼみに出た。

 

縄が張ってある。立ち入り禁止と書かれているところからして、此処から遺跡の中に入る事が出来るのだろう。

 

流石にイクセルも、この遺跡内部がどれだけ恐ろしい場所かは知っているらしい。中に入ってみようとか、馬鹿な事は言い出さなかった。

 

「お前らが酷い目に遭ったのって、この辺りか」

 

「ええとね……」

 

「そっちよ」

 

クーデリアが即答。

 

記憶力が優れているクーデリアだ。多分信頼して良いだろう。ロロナは手を引かれるようにして、進む。

 

壁がじんわりと暖かい。どうやら地上部分より、この辺りの壁の方が、暖かいようだ。変な音がしている。見ると、壁の一部から、風が出ていた。生暖かくて、嫌な風だ。

 

足場が途切れている。

 

腐って落ちてしまった、というわけではなさそうだ。

 

この辺りの足場は、時々修繕が入る。その時に不要と判断して、撤去したのかも知れない。

 

もしそうだとすると、大回りになる。

 

「くーちゃん、どうしよう」

 

「どうしようもなにも、この足場の下」

 

クーデリアが腰をかがめると、見るように言う。

 

少しずつ、思い出してきた。

 

確か、この足場の辺りで遊んでいた。そうしたら、アードラが来たのだ。アードラそのものは別に怖くもなかったのだけれど。

 

二人で、もつれるようにして、落ちた。

 

体を強く打った。

 

いや、そうだったか。何か、違うような気がする。

 

もしもトラウマにアードラが関わっているのだったら。アードラ自体が今でも怖いはずだ。

 

別にアードラそのものは、何とも思わない。

 

足場の下を、覗き込んでみる。

 

下は、穴のようになっていた。遺跡に小さな溝が作られている。これは、ひょっとして。背筋に、寒気が走る。

 

「分かった?」

 

「まさか、あの中に落ちたの?」

 

「おいおい、そりゃ災難だったな」

 

「ロロナ、覚えていないようだから言うけれどね。 あの時は、たまたま熟練の戦士が近くにいたから、どうにかなったの。 今落ちたら、きっと三人とも死ぬわよ。 もっとも、あの溝小さいから、今なら落ちることはないと思うけれど」

 

あの穴は、おそらく遺跡の内部に通じている。

 

だとすれば、今生きているのは、間違いなく奇跡だ。

 

あの後、病気にかかって。どうにかアストリッドに助けてもらったけれど。それは、両親がアストリッドに感謝する訳だ。

 

今頃になって、足が震えてくる。

 

何だか暗いところで、クーデリアと抱き合ってがたがたと震えていた記憶があるのだけれども。

 

無理もない。

 

遺跡の内部と言えば、アーランドでも腕利きの戦士しか入る事が許されない魔境だ。住み着いているモンスターも、アードラやら狼やらなどは問題にもならない、魔界の住人とでも言うべき存在ばかり。

 

本当に良く生きていたものだと、今更ながらに自分の奇跡を喜んでしまう。

 

無言で、その場を離れた。

 

イクセルはそれでも、平然としていた。

 

「じゃあ、卵でもとって戻ろうぜ」

 

「あんた、言うことはそれだけ?」

 

「だってトラウマって、お前らの問題だろ?」

 

いけしゃあしゃあというイクセルに、クーデリアが拳銃を抜きかけたけれど、慌ててロロナが止めた。

 

こんな所で争っても、良い事なんて一つも無い。

 

「そ、それより。 上の方に行ってみようよ。 まだ時間もあるんだから」

 

「上の方?」

 

「ここに来る前に少し調べたんだけど、アードラの羽って、衣類の材料に使えるんだって」

 

これは本当だ。

 

アードラの羽を上手に加工すると、衣類に編み込むことが出来る。元々衝撃に強い羽なので、そうすると防具としての性能を上げる事が出来るのだ。もっとも、此処アーランドの凶猛な戦士達の攻撃の前には、文字通り気休めに過ぎないが。

 

せっかくここに来たのだし、回収くらいはしておきたい。実際に手に入れることで、今後のために役立てたいのだ。

 

勿論、今後の依頼で、服を作れとか、防具を作れとか、言われる事を想定しての事だ。時間を作って、あらゆる錬金術の勉強をしておいて。不測の事態には備えたいのだ。

 

「たまごはイクセくんが持っていっていいよ」

 

「オレは質が見たいだけだからな。 別にかまわねえよ」

 

「そうなの?」

 

口々に言いながら、はしごに手を掛ける。

 

遺跡の頂上部は見えない。

 

アーランドからは、てっぺんがどうなっているかは見えるのだけれど。流石にこの至近距離では無理だ。

 

ここに来るまでは、遺跡そのものが正直いやだったけれど。

 

どこが怖いのか分かったことで、少しずつ平気になりつつある。イクセルは、或いは。ロロナに、トラウマを克服させようとして、あんなことを言ったのかも知れない。








描写から分かる通り、此処で以前ロロナはくーちゃんともども地獄みたいな目にあったことがあります。これは比喩通りの意味ですので、今後の展開をご期待ください(満面の笑み)













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