暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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屈強極まりないアーランド人などを有する大陸南と違って、大陸北……人間が入れないような地域の更に先ですが。其方に住んでいる人間は、現在の人間よりは強度的にマシですが、そこまでは変わらない存在です。

質のアーランドと、数の北部列強。

そういう構図でした。

列強による侵攻に対応すべく、行われていたのがロロナの周辺プロジェクトだったのですが。

スピア連邦という国家が出現したことで、その計画には大きな修正が強いられる事になります。



厳密には国家ですらもはやないこのスピア連邦が。

今後アーランドどころか、世界の全てを苦しめていくことになります。





血と破滅の煙
序、スピア連邦


その大国は、決して歴史がある存在では無い。中核になった国は四つ。それらが周囲を統廃合して、勢力を広げ。そして三十年前ほどから、列強と呼ばれるようになった。スピア連邦。

 

現在、アーランドの百七十倍の人口を誇り、大陸にてもっとも勢いがある国家の一つである。

 

優れた何名かの将軍によって国土を広げていると言うよりも、物量で周囲を押し潰している印象が強い。

 

ステルクは何度かその領土に足を運んだことはあった。

 

特殊部隊と戦ったことも。

 

だが、いずれも、あまり強い印象は残っていない。アーランド戦士に対抗できる特殊部隊の人間など滅多にいないし、何より土地が豊かと言っても知れている。彼らは、何かしらの手段で食糧を生産して、民を喰わせて。その代わりに、軍事力と産業を強化しているのだ。

 

錬金術師の関与が疑われているが。

 

それも、今の時点ではよく分かっていなかった。

 

丘に上がったステルクは。星空の下で、目を細めた。下に広がっているのは、軍の野営地。

 

スピアの軍勢の中では、練度が高いと評判の、第十六閃光旅団。

 

兵員は丁度二千。

 

今回、ホムンクルス達の戦闘力を試すための相手として、丁度良いとされた部隊だ。彼らには、これより死んでもらう。

 

スピアは、あまりにも急速に領土を広げすぎた。

 

周辺への害を撒きすぎた。

 

勿論、彼らには天下統一の大望がある事も分かっている。しかし、だ。スピアの領土を見て廻る限り、彼らは人間の数ばかりをいたずらに増やしているように思えてならない。その後、数のみを生かしてモンスターを駆逐し、世界を食い荒らしていけば。結局、滅亡前と同じ世界が来るだけでは無いのか。

 

だが、それはそれ。

 

彼らを殺す事は、また別だ。

 

パラケルススは普段着のまま。他のホムンクルス達も。

 

殆どのアーランド人にとって、余程良いものでも無い限り、鎧などあってもなくても変わらない。

 

ベテランの戦士に匹敵する実力を持つホムンクルス達にとっても、それは同じ。

 

「そろそろ、攻撃を開始します」

 

「分かった」

 

ステルクも、分かっている。

 

このままだと、スピアはあまりにも巨大化し、他の国々を飲み込んでいくだろう。

 

彼らがどのような思惑なのかは分からない。分かっているのは、このままでは。アーランドをはじめとする辺境は、彼らに飲み込まれる。

 

緑化した土地は蹂躙され、戦士は戦争の道具のみになるだろう。

 

アーランドには矛盾も多い。

 

だが、他の国々を見て、ステルクは知っている。

 

貧富の差は激しく、奴隷は完全に家畜以下。軍はモンスターから民を守る事はせず、勢力を広げることばかりに腐心している。そんな国ばかりだ。

 

物資はよそから奪うもの。

 

土地を豊かにしても、その富を分かち合うことは無い。旧時代の人間と、これでは同じでは無いのか。

 

勿論、殺しの正当化にはならない。

 

この世は。いや、人間は。

 

荒野だらけの世界を見て、なおもステルクは思うのだ。このようになっても、まだ変わる事が出来ないのかと。

 

パラケルススが立てた作戦は完璧だった。

 

ステルクも、ついてきていた軍事顧問も、口を出す必要が全く無かった。

 

まず、歩哨や偵察を駆除する。

 

ホムンクルスは人を殺せない。だから、麻痺毒を塗ったナイフを渡してある。それだけではない。

 

彼らには、人体急所の突き方も教えてある。

 

アーランド戦士が相手なら通用しないが。今ステルクが見下ろしている連中程度になら、一撃必殺。悶絶させ、そのまま意識を失わせることも可能だ。

 

「敵斥候、駆除開始」

 

パラケルススが指示をすると、百名のホムンクルスが散る。

 

そして、彼女らは十名ずつ一組となって、夜の闇で、まるで実体が無い幽霊のように。敵を処理していった。

 

斥候の駆除が終わるまで、半刻も掛からない。

 

次は、敵陣への潜入だ。

 

遠めがねなど必要ない。何が行われているか、ステルクをはじめとするアーランド戦士には、直に見える。今が夜だろうと関係無い。

 

荒野に作られている陣地は相応に堅固で、見張りの櫓もあるけれど。其処に道具も無く、猿より早く這い上がったホムンクルス達が、見張りを無力化するまで、ほんのわずかな時間。

 

柵もある意味が無い。

 

内部に潜入するホムンクルス達は、場合によっては柵を跳び越えてさえいた。

 

天幕の一つ一つを、処理していく。

 

まれに起きている兵士もいるようだが。彼らが異変に気付いたときには、もう急所を一撃され、全ては終わっている。司令官も、寝ているところを容赦なく倒された。

 

夜明けまでには。

 

全てが、終わった。

 

悶絶し、気絶している兵士達を、順番に殺して廻る。

 

このために来たアーランド戦士達だが。彼らも、一様に不満を顔に湛えていた。

 

何のために来たのか分からない。

 

勿論、彼らも、ダーティワークは経験済みだ。ステルクだって、それは同じ。だが、二千を超える兵士を、十人で殺して廻るのは。あまり良い気分では無かった。せめて苦しまないように、一太刀で殺してやるのが情けか。

 

死体を陣の内部に並べると、油を撒く。

 

そして、ステルクの雷撃を使って着火。

 

まるごと、火葬した。

 

近くの駐屯部隊が駆けつけてくるまでに、全て完了。ホムンクルス達は、一名も欠けていない。

 

スピアはこれで、精鋭一個旅団を、何が何だか分からないうちに失った事になる。この部隊は、その気になれば小国を落とせるほどの戦力だったのだ。

 

登り調子の大国と呼ばれるスピアでも、常備兵は三万。

 

勿論総力戦態勢となれば、アーランドを遙か上回る兵力を繰り出すことが出来るが、質はどうしても低くなる。

 

これで、はっきりした。

 

「スピア連邦の中枢は、いつでも叩けますね。 精鋭がこの程度の練度であれば、ホムンクルスの部隊と、貴方たち騎士団が総力を挙げれば、一夜にしてスピアの首都をこの世から消す事が可能でしょう」

 

「その場合の災禍は計り知れん。 まがりなりにも大国であるスピアが瓦解したら、さらなる混沌を産むことになる。 そうならないように、これから努力していくのだ。 今回のようなことは、出来るだけないようにしなければならん」

 

人は殺せない。

 

作り手には逆らえない。

 

しかし、それでも。どれだけ残忍な提案でも、すること自体は出来る。それが、ホムンクルスの強み。

 

パラケルススの提案に、ステルクは唾棄しそうになった。

 

あの優しかった、アストリッドの師と同じ顔をしているのに。このまだ幼い娘に見えるホムンクルスは、アストリッドの合理性と狂気を、確実に内包している。手としてありならば、スピア連邦の人間を皆殺しにしようとさえ、言い出してもおかしくない。

 

それはアストリッドの望みであると同時に、復讐。

 

分かっているからこそ、ステルクは悲しい。それ以上に、怒りを覚えてしまう。

 

さっさと引き上げる。

 

作戦は成功だ。

 

スピア連邦は、これで相応の打撃を受けた。そして思い知ることになるだろう。自分たちが無敵でも最強でも無いと言うことを。

 

二千の兵を真正面から打ち破れと言われたら。流石にステルクでも、無理だ。今回のホムンクルス部隊でも、相応の損害は出しただろう。

 

だが、奇襲で、しかもこれだけ連携が取れた部隊が、綿密に動けばこうなる。

 

その事実はどうでもよい。

 

普段から、凄まじい強さのモンスターと戦って鍛えに鍛え抜かれたアーランド戦士と、事を構えるというのがどういう意味を持つか。それを、スピアに思い知らせることが出来た。それだけで充分だ。

 

国境を越えた頃、ステルクはもう一度、どうにかならなかったのかと思ったが。

 

しかし、代案は浮かばなかった。

 

情けないことに。

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