暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
原作では最強の反面足下がお留守なところもあるお茶目なジオ王ですが。
本作のジオ王は冷徹かつ計算も出来る有能な王です。
ただやり口を選ばなすぎるので、全方位から敵意を買っています。
それでもこの人が王をやれるのは、王として文句をつけられないくらい有能だからですね。
脳筋になりがちなアーランド人の中で、最強かつ頭が回る人は、貴重なのです。
老紳士は、とても歩くのが速かった。
ロロナも相応に鍛えてはいるけれど、しかし、ついていくのがやっとだ。見ていると、歩く際に、独特な歩法を使っている。体重が殆ど足の裏に掛からないように歩いているようで、まるで雲の上か何かを進んでいるかのようだ。
クーデリアと、小声で話す。
「あの人、凄い使い手だね」
「……そうね」
クーデリアの反応が、歯切れが悪い。
街から西に向かって、丸一日。
キャンプスペースで、一晩を過ごす。考えて見れば、クーデリアが一緒とは言え、見知らぬ人とこんな遠出をすることになるなんて。しかも、相手はラプターステインである。何だか、無茶にもほどがあるような気がした。
ただ、どうしてだろう。
殆ど、不安感は無い。
耐久糧食を出すと、老紳士は平然と平らげる。
「そういえば、お名前は」
「私はジオという。 ロロナ君と、クーデリア君であったな。 以降は呼び捨てにしてくれて構わない」
「いえ、とんでもないです、はい。 ジオさんは、やはり騎士団に所属しているんですか?」
「そのようなところだ」
圧縮パイについて聞かれたので、応える。
パイが大好きなのだというと、ジオはなるほどと呟いた。
「この耐久糧食は評判が良くてな。 今までのまずい缶詰と違って、これを食べる事が遠征の楽しみの一つだという戦士までいる。 君はパイが好きで、その愛情が籠もっているのだとすれば、納得も行く話だ」
「いえー、そんなー」
照れているロロナに、ジオはストレートに褒め言葉を言ってくれるので、気恥ずかしくて仕方が無い。
巡回の戦士が来たので、ジオが席を外す。
戦士が敬礼をしているのを見た。やはり、相当に偉い人なのだろう。
クーデリアは口数が少ない。銃を確認しているが、いつもより更に寡黙な気がする。そういえば、クーデリアはロロナの側以外では口数が極端に減ると聞いたことが以前あった。或いは、緊張しているのか。
ジオが戻ってくる。
「ラプターステインはまだいる。 退治の好機だ。 明日の朝、仕掛けるぞ」
「分かりました。 作戦は」
「まずは、君達二人で仕掛けて欲しい。 機動力をつぶせるか」
「そのつもりで、準備してきました」
用意してきたものを見せる。
まずは、据え置き式の発破。
テラフラムと名付けようと思っているのだけれど、それにしてはまだ威力がささやかだ。だから今の時点では、メガフラム、くらいか。
箱詰めした発破で、此処までラプターステインをおびき寄せてから、着火。
それから、もう一つの秘密兵器を用いる。
それが、荷車から出したもの。
星形の爆弾だ。
メテオールという。
一度滞空してから、爆発するという、二段式の発破だ。対空の仕組みは、単純な魔術で、少しの間、上空に留まる。
爆発力は相応だけれど。
鳥もグリフォンも、翼は極めてデリケートだ。特に、翼を広げたところで爆破すれば、ひとたまりもない筈。
勿論斃す事など出来ないだろう。
ただ、足止めなら、これで充分の筈だ。
問題は、ジオの実力。
足止めさえ出来れば、倒してみせるとジオは言うけれど。クーデリアに意見を聞いてみると、遠くを見るような目をされた。
「それで問題ないわよ、きっと」
「あれ? どうしたの、くーちゃん。 いつも戦術を凄く丁寧に練ってくれるのに、投げやりだね」
「大丈夫、それでいけるわ」
「? うん」
まあ、クーデリアがそういうなら、大丈夫なのだろう。
しかしラプターステインと言えば、相当な強者の筈。クーデリアの投げやりっぷりは、何故なのだろう。
ジオが、それだけの使い手、という事か。
とにかく、さっさと眠ることにする。
この間のスカーレット戦以来、このアーランドにいるモンスターの実力を、ロロナは改めて思い知らされている。
明日は早くから体調を整えて。
戦に備えなくてはならないのだ。
早朝。
準備を整えると、戦地に赴く。
ラプターステインは、普段村の側にある泉に姿を見せるという。グリフォン種は、基本的に広い縄張りを造り、その中で餌を調達する。多くの場合、餌は鹿や野生の牛などの、大型草食獣。
特に馬を好むのが、グリフォンが嫌われる理由だ。
馬は今や稀少な家畜なのである。
かっては戦に使われたともいうけれど、馬はもう人間が保護しなければ、この過酷な世界では生きていけない存在になってしまった。それを狙うとなれば、グリフォンが嫌われるのも、当然だろう。
勿論グリフォンは人も襲う。
ただ、アーランド人には自衛能力がある。グリフォンよりも危険なモンスターもいるし、その点ではさほど問題視はされない。
泉の側の茂みで、様子をうかがう。
いた。
丁度、大きめのヘラジカを、貪り喰っているようだ。
ラプターステインは、体が金色に近い、かなり大きなグリフォンだ。そして、これがどうして討伐対象になっているか、見てようやく理解できた。
非常に強い魔力を、身に纏っている。
大きさもそうだが、問題はこの魔力だ。恐らくは相当に長生きして、知恵と魔力を蓄えたのだろう。
人間を翻弄するほどの知恵。
危険視されるのも無理はない。これは、相当な強豪モンスターだ。ただ、ベヒモスやドラゴンと比べると、戦闘力はどうと言うことも無さそうだ。やはり空を飛ぶと言う事と、その機動力、知恵が危険視されている、ということだろう。
打ち合わせ通りに。
クーデリアはに頷く。
既に、フラムは仕掛けてある。爆発のタイミングは、ロロナの方でコントロール出来る。そして、メテオールも、準備万端だ。
ジオは。
気配が無い。いや、姿は見えるのだけど、気配は全く無い。
ロロナも少しは気配が読めるようになってきたから、分かる。このハイド技術、桁外れだ。その気になれば、相手に姿を見せたまま、正面まで行って、そのまま斬り伏せる事も、出来そうだ。
達人の中には、そうやって暗殺をするものもいるという。
「もう、気付かれてるわよ」
「分かってる」
食事中の獣に手を出すと、激高する。
それはロロナもよく知っている。だからこそ、それを利用する。
激高すれば、どれだけ知恵が回っても、削ぐことが出来る。力だけなら、どんな猛獣だって、そう怖くは無いのだ。
カウント。
ゼロになったところで、仕掛けた。
茂みから立ち上げると、低威力の魔力の矢を放って、ラプターステインの背中に直撃させる。
凄まじい雄叫びを上げて、ラプターステインが跳び上がった。
威圧感が尋常では無い。
さすがは、グリフォン最強と言われる存在か。残像を残しながら、見る間に迫ってくる。クーデリアが発砲。弾が、残像を抉った。速い。走りながら、フラムの場所へ、誘導する。すぐ至近。
後ろで、太い前足が、降り下ろされる気配。
振り向きざまに、大威力の術式を、ぶっ放す。
ラプターステインが、恐らくはその生体魔力を利用して、壁を造り、はじき返してくる。さすがは上級モンスター。このくらいの芸当は、朝飯前か。
だが、時間は稼げた。
クーデリアが更に発砲して、ラプターステインの目に命中。視力を奪うことまでは出来なかったようだが、一瞬だけでも、時間が出来る。
走り抜ける。
ラプターステインは相当に頭に来ている。
食事を邪魔された上に、それをやったのがロロナとクーデリアのような未熟者、だからだろう。
ただ、知恵がある分、早めに片を付けなければまずい。もしも罠に気付かれたら、飛ばれて、逃げられてしまう。
不意に、ラプターステインが足を止める。
やはり、何かおかしいと気付いたか。だが、間髪入れず、ロロナが振り返って、魔術を叩き込む。
ラプターステインが、鬱陶しそうにくちばしをふるって、はじき返してきた。凄まじい魔力が産み出す、圧倒的な防壁だ。
クーデリアがわざとらしく大きな動作で、弾を再装填。連射して、弾丸を叩き付けに掛かる。
ラプターステインは動かない。もう少し、前に出させれば、一気に罠に填められるのに。それなら、ロロナが、相手の動きを引き出す。
詠唱開始。
ロロナの周囲に魔法陣が出現。それぞれが別の要素を秘めており、相乗効果で強化しながら、ロロナの魔力を高め上げて行くのだ。
流石にラプターステインが、瞠目する。
迷うはずだ。
引くべきか、その前にロロナを仕留めるべきか。
だが、ラプターステインは、獣の習性で。引くことを選んだ。そしてそれが故に、歴戦のモンスターである事も証明して見せた。
分からないものとは戦わない。
リスクは可能な限り避ける。
しかし、ロロナもそれくらいは想定済みだ。そして、隣で、不意に弾丸装填を即時完了させるクーデリアも。
多少威力をおとしながらも、ロロナが光の槍をぶっ放す。
ラプターステインの、直上へ。
身を思わず伏せるラプターステインの左右に、クーデリアが今までとは比較にならない大威力の弾丸を叩き込む。
炎の魔術を乗せた弾が、地面を爆裂させた。既に、リミッターを解除していたのか。
大きな隙が、此方に出来る。
ラプターステインに生じる、わずかな迷い。
それが致命打になった。
「ジオさん、今です!」
真後ろ。
今まで、完全に気配を消していたジオが、ラプターステインの背後から、蹴りを叩き込む。
不意を突かれたラプターステインが、地面に突っ込んだ。
そして、起爆。
ラプターステインが、メガフラムの火力で、空に打ち上げられた瞬間。
ロロナは、メテオールを投擲していた。
空に、火花が咲く。
濛々たる煙が、辺りの視界を容赦なく奪う。
地面に激突する音。
翼が折れているのが分かった。だが、ラプターステイン本体は、殆ど無傷も良い所だ。しかし、この瞬間。勝負はついた。
ジオが抜刀する。
赤が、世界に満ちる。
翼が両方とも切断されて、傷口から血が噴き出したのだ。
「長い間、手こずらせてくれたな」
後は、あまりにも凄惨な光景だった。
地面でもがくラプターステインに向けて。ジオは、まるで何事でもないように。これから行われる事が、些事であるように。
ただ、近づいていった。
「死ね」
ジオはそれだけ告げた。
斬る。
ラプターステインの前足が、丸ごと斬り飛ばされた。脇腹が抉られ、血が噴き出す。その血の奔流さえ斬られ、次は内臓が飛び出す。
悲鳴を上げたラプターステインの喉が、大きく抉られる。
ジオの姿は四方八方に見えた。
あまりにも動きが速すぎて、残像しか捕らえられない。その残像も、一度に十以上は出現していた。
そして残像が消える度に、ラプターステインが切り裂かれる。
斬られる度に、手足が吹っ飛び、体がきざまれ、血が噴き出し、飛び出した内臓さえ抉られていく。
程なく、グリフォンの王は。
悲鳴も残せないまま、ただの肉塊と変わり果てた。
そしてジオは返り血一つ浴びていない。
あまりにも、強すぎる。この人は、修羅が集う土地アーランドでも、おそらく最強ランクの使い手だと、ロロナは悟った。
「此奴を、地面に縫い付けさえ出来れば良かった。 良くやってくれたな」
「はい、その……」
「ついでだ。 君が救った村の様子を、見て行くと良いだろう」
なんと言って良いのか、分からない。
残忍さを責めるつもりは無かった。殺すのであれば、どうしようと同じ事だ。人を襲うモンスターを許すわけにはいかない。モンスターはモンスターの居場所で、人間は人間の居場所で。それぞれ暮らすべきだ。
勿論人間がモンスターの住処を侵しているのは事実だが、その代わり居場所も提供している。
そしてモンスターの側も、人間の理屈に従う謂われは無い。
双方の理屈が相容れない状況では、殺し合うしか無い。ロロナもそうして、今まで多くのモンスターを殺してきたのだ。
ただ、ジオの技は。
あまりにも、圧倒的だった。感想さえ浮かんでこない。
とりあえず、ラプターステインの亡骸を検分。拾うべきものは、全て拾っておくこととする。
皮も骨も、綺麗に切断されていた。
特に頑丈な骨が、一刀に斬られていたのは凄まじい。ジオの剣撃の前には、分厚い鋼鉄の壁程度では、まるで役に立たないのではないのか。
必要な分は肉も皮も切り取って、荷車に積む。
グリフォンの肉はあまり美味しくは無いけれど。皮はとても有用で、様々に活用できる。特にこのラプターステインは強い魔力を持っていた。皮は煎じても良いし、なめしても良いだろう。
クーデリアに手伝ってもらって、血抜きも済ませる。
何種類かの内臓も切り取って、積み込んだ。
ただ、あまり多くは積み込めない。
要所は切り取ったし、後は良いだろう。
少し離れたところに、小さな村。一応、アーランド戦士もいるが、どうもラプターステインには手を焼いていたようで。倒したことを告げると皆喜んでいた。
村は小高いところにあって、森を守るように配置されている。
全体的に寂れている理由は、すぐに分かった。
井戸が涸れてしまっている。
森そのものも、元気が無い。
山の中腹にあるこの村は、おそらくは山頂近くにある水源から来た川に沿って、水を得ていたのだろう。
しかし、その川の流れが、何かしらの理由で変わってしまった。
土砂崩れか、何かは分からない。森には注ぎ込まれているようだけれど、村には水が来なくなってしまった。
だが。
村の真ん中には、五つの湧水の杯。
水を提供し続けているそれは、間違いなくロロナが作ったものだ。こればかりは工場では生産できない。
水の殆どは、村のため池に流し込まれている。
村の人達は、生活用水を、杯の側。丁度石で作ってある水路から、くみ上げているようだった。
「あっ! 錬金術師だ!」
いきなり、若い女の子が声を上げる。
同時に、村の人達が、一斉にロロナを見た。青ざめて一歩下がるロロナに、どっと人が殺到してくる。
「錬金術師様!」
「奇跡の杯を作り出してくださった方だ! もしや、ラプターステインを倒してくれたのも、貴方でしたか!」
「おお、ありがたやありがたや! 生き神様だ!」
「ちょ、ちょっと」
クーデリアは、あっさりと逃れて、少し遠くでじっと見ている。
ロロナならどうにか出来ると判断しての事なのか、それとも。助けを求めれば、助けてくれる確信はあるけれど。
しばらく、村人達にもみくちゃにされて。
ついでに、万歳万歳と胴上げされて。
ぐしゃぐしゃになって、ようやく逃げ出してきたロロナを見て、クーデリアは大きく嘆息した。
「まさか、こんな事になっている、なんてね」
「うう、確かに」
「ほら、男手はラプターステインの亡骸を処理しているみたいだし、今のうちに離れるわよ。 またもみくちゃにされたくないでしょ」
「はい……」
げんなりしたロロナは。
手を振って、ロロナを見送る村人達に、無理矢理笑顔を作って手を振り返すと、そそくさとその場を後にする。
ジオは。
帰り道に、いた。
村の戦士達と、なにやら話していた。
「なるほどな。 村への侵入は食い止めていたが、此奴のせいで水汲みにも支障をきたしていたのか」
「はい。 ですが、湧き水の杯と森の泉で、今後はどうにでもなりそうです。 もう一個配備してくれれば、風呂も作れそうなのですが」
「すまぬが、他にも水が足りない村が多いのだ。 今、足りない村に優先的に廻している所でな。 それらが済んでから廻す。 今は耐えてくれるか」
「耐えるなんてとんでもありません。 生活は劇的に改善しましたし、水を奪い合って醜い争いが起きることも無くなりました。 本当に、感謝の言葉もありません」
話を聞いている限り。
やはり、相当に偉い人なのだろう。
アーランドでは、単純に強い人は、偉くなる。ステルクやエスティをも凌ぐ強さとなると、国でも上位の偉い人である事は、間違いなさそうだ。
ロロナが近づいていくと、ジオは気付いて、此方に来る。
いや、とっくに気付いていただろう。それで、わざと聞かせるために、あんな会話をしていたとみるべきだ。
ロロナにだって、それくらいは分かる。
「どうだったね、歓迎は」
「も、もみくちゃでした」
「そうかそうか。 それでは、引き上げよう。 あまり時間も無いのだろう?」
試運転さえ上手く行けば、ある程度の時間は作る事が出来る。
だけれども。
嫌な予感が、ずっとしているのだ。
ロロナに出されている課題は、ひょっとして、何かとんでも無く巨大な流れの中の、一部では無いのか。
元々錬金術は、この国を発展させてきた、礎の技術。
歴代の資料を見れば見るほど、それを実感できる。緑化の根幹にも関わってきたし、人々の生活を支える技術も、錬金術から来た。
今街を支えている工場だって、錬金術師が技術を再生しなければ、動く事さえ無かったのだ。
結果、アーランドは豊かになった。
人手はどこでも足りていないけれど。みんな過不足無く生きることが出来ている。それだけで、噂に聞く、周辺国よりもずっとましだ。
だが、ロロナの手で、誰かが救われて。
いや、それだけで済んでいるのだろうか。
そして、今回ロロナと関わってきた、このジオさん。こんな強い人が、本当に偶然で、ロロナと関わったのだろうか。
嫌な予感が消えない。
二日掛けて、アトリエに戻る。
とても良い素材が手に入ったというのに。全く、心は晴れなかった。