暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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原作でも特大の爆弾を抱えているリオネラさん。

ロロナのアトリエで出て以降とんと出番がなくて心配していましたが、なんとルルアのアトリエに登場して嬉しかったですね。

ちなみにこの人、元々は人見知りじゃないです。

そんだけのトラウマを抱えるだけの目に会ったということです。

これについては、ロロナのアトリエ原作でも同じです。結構リオネラさんのイベントは闇が深いですよ。






2、分かたれしものの統合

仲が良い親子と、そうではない家族。

 

ステルクは、その実例を見ていた。

 

たとえばロロナの場合は、両親と上手く行っていると言える。両親は一定距離を置きながらも、ロロナのためなら、いざというときに命を投げ出すことを躊躇わないだろう。

 

王についても、それは同じであると、ステルクは知っている。

 

天才的な素質を持っていたジオに、あらゆる英才教育を、先代の王夫婦は惜しまなかった。その結果、アーランド史上でも屈指の怪物的実力を持つ王が誕生したのだ。

 

それに対して、ステルクやクーデリア、タントリスにリオネラ。両親と、上手く行っていない者もいる。ステルクやリオネラは、そもそももはや溝を埋めることが不可能。ステルクの父は死んだし、母だって生きているかはわからない。リオネラは両親がいたとしても、近寄りたいとさえ思わないだろう。

 

プロジェクトの進捗会議では、ずっとクーデリアとフォイエルバッハ公の対立が続いている。

 

前は冷戦だったのだが。

 

最近は、会議場で殺気を飛ばしあっていて、心が痛い。

 

クーデリアはもはや、父への敵意を隠そうとしていない。充分な実力がつけば、おそらく手袋を叩き付けるだろうと、ステルクは見ていた。

 

そして、タントリスも。

 

以前は目立たなかったのだが。最近は、父であるメリオダスとの対立が、ステルクにもわかるようになってきた。

 

「ロロナ式大砲を量産するためのラインは確保できました。 魔術部門は何名かの魔術師に協力を仰ぎます。 試作品として納入された一機をコピーし、最初の量産機が出来るまで、二ヶ月は掛かるとみて良いでしょう」

 

「二ヶ月か。 その後はどの程度のペースで作れる」

 

「年内に三十機は。 国境線に配備することが出来ます」

 

「うむ。 ペースをおとさず、来年以降も生産を続けよ」

 

王の命令に、メリオダスはかしこまりましたと応えるが。

 

しかし、今回は珍しく、否定的な材料を出してきている。潰すラインが多いというのである。

 

工場のライン数には限界がある。

 

そして、その中で、生活必需品も含めて、多くの品を生産しているのだ。大砲は軍需製品であり、しかも戦士達の評判が悪い。

 

この世界の人間は、今だ銃火器を遙かに凌ぐ性能を誇る。

 

当然とも言える。

 

腕組みする王に、大臣は恭しく提案した。

 

「そろそろ、工場の拡大が必要な時期だと思われます。 アーランドの西にある、ヘル荒野を利用できないでしょうか」

 

「今はまだならん。 状況が落ち着いた後だ」

 

「しかし、どうラインの不足を補いますか」

 

「スピアとの対立に加えて、どう動くかわからない「邪神」の存在がある。 それに夜の領域の悪魔共も、どう動くかわからん。 今はこのまま、現状を発展させて、状況を改善する努力を続けよ」

 

工場以外で出来る作業は、そちらに回すように。

 

そうすることで、雇用も作れ。

 

王が指示すると。不満があるのか無いのか、大臣は黙ってそれに従った。ステルクは見ていて冷や冷やさせられるが、エスティは平然としていて、流石だ。

 

実際問題、工場は極めて便利だが。

 

それ以外で、生産が可能な生活必需品は存在するのだ。確かにそれを工場以外で生産すれば、雇用を作る事も出来る。

 

労働者階級の中には、中々安定した仕事が得られずに、苦労している者もいる。そういった者達には、むしろ丁度良い仕事となるだろう。

 

エスティから、次に報告が為される。

 

スピアがどうやら悪魔を改造した生体兵器を、実用に移したという事。その性能が、下手をするとロード級の悪魔に匹敵するという内容である。

 

皆がひそひそと言葉を交わす。

 

「それは、スピア連邦が悪魔と手を結んだという事か」

 

「いえ、悪魔は同胞とのつながりを大事にする種族です。 同胞にこのようなことをされて、黙っているとは思えません。 恐らくは、かっては手を組んでいた、というのが正しい認識でしょう」

 

「ふむ、ならばおそらく、悪魔側には此方に対する同盟を結ぼうという機運が生まれるのではあるまいか」

 

「調査中です。 まだ、判断できる状態にはありません」

 

エスティが席に着く。

 

ジオ王は、立ち上がると、皆を見回した。

 

「ここに来て、また多くの問題が持ち上がっている。 だが、予定通りプロジェクトが進んでいることで、確実に一つずつの問題が解決する兆しもある。 今後は森を増やし、人を増やし、戦士の質を維持しながら、この国を保っていく。 列強の侵攻に対しては、辺境諸国が一丸となる態勢が、いよいよ整おうとしている。 希望は見えている。 各人、光に向けて努力するように」

 

会議が解散される。

 

ステルクは嘆息すると、無言で席を立ったリオネラを呼び止めた。

 

「リオネラ君。 少し良いか」

 

「はい……」

 

相変わらず、臆病な様子でリオネラは言う。

 

彼女は既に元暗殺者だと言う事が、ロロナに露見している。それ以降も普通につきあいは続いているようだが。

 

何か変化があったかと聞くと、首を横に振った。

 

「ロロナちゃんは、私を怖れもしないですし、変に扱ったりもしません」

 

「そうか。 それならば、今後も問題は無さそうだな」

 

「でも、ひょっとしたら。 ひょっとしたらですけど、ロロナちゃんは、私の秘密に気付いているかも知れません。 もしそれを気付かれたら、私……」

 

秘密とは、何だろう。

 

しかし、リオネラは首を横に振って、ステルクの前から姿を消した。

 

何だか嫌な予感がする。

 

ロロナは大変善良な娘だ。それはステルクもよく分かっている。戦士としての力量と、性格はあまり関係が無い。このアーランドで暮らしている中では、例外的に優しく、他者を思いやれる性格だとも言える。

 

だが、それでも。人間は完璧では無い。

 

リオネラは、その過去がトラウマの塊だ。もしも下手なトラウマを刺激すると、人間関係が暴発しかねない。それくらいはステルクもわかっている。

 

しかしながら、ロロナが怖いところは。

 

それを全く怖れないで、真っ正面から突っ切りに行くことだ。ステルクも、その危うさは、見ていて冷や冷やさせられる。

 

地下を出る。

 

冬の空気が冷たい、とはいかない。

 

アーランドの機構は温暖湿潤で、冬でもさほど過酷では無い。騎士として新米の頃は、彼方此方の国に出かけたから、知っている。冬が過酷な地域もあるし、夏が地獄になる国もある。

 

アーランドをはじめとする辺境は、そういった意味で、どんな生物にも優しいのかも知れない。

 

一度、宿舎に戻る。

 

ここのところ、ハードな作業が続いていた。これからロロナには更に強くなってもらうつもりでもあるし、倒す手配モンスターを見繕っておかなければならない。いずれにしても、休憩が必要だ。

 

帰り道、ロロナが荷車を引いているのに出くわす。これは、王宮から宿舎への路が、ロロナが住んでいる職人通りに通じているので、仕方が無い。今までも、良くあった。

 

挨拶をした後、気付く。かなりの量、不可思議な薬品を積んでいる。

 

「どうした。 君が薬品をよそで買うとは珍しいな」

 

「ええと、どれも魔術で作ったものです。 大半は水晶を作るためのものなんですけれど……」

 

「水晶を作る?」

 

「はい。 鉱物資源としては、それが一番有効そうだと思いましたから」

 

はにかむロロナだが。

 

目に入った薬品は、それだけでは無い。精神に作用する、危険なものも幾らか含まれているようだ。

 

それについて聞こうとするが、ロロナは急いでいるという事で、そそくさと行ってしまう。

 

何とも言いようのない不安がわき上がってくるが。

 

ロロナは多くの実績を積み上げてきた、優秀な錬金術師だ。あまり無茶な追求も出来ない。

 

相手を大人として、ステルクは扱っていきたいのである。ましてやロロナは、今回のプロジェクトの関係で、本人は気付かないだろうが、多くのものを失っている。多少は温情を持って接したい。

 

だが、とにかく今はどうにも出来ない。

 

一度宿舎に戻る。

 

嫌な予感が図に当たったのは、翌日のことである。

 

騎士の一人が、朝早くに、ステルクの宿舎の戸を叩いた。彼はリオネラの監視を任されている。

 

「ステルク殿!」

 

「急用か」

 

「はい。 リオネラ殿が、取り乱しているようです。 普段とはまるで、様子が違っています」

 

「わかった、すぐに向かおう」

 

リオネラはここに来た頃、何度も取り乱しては、脱走を図った。ロロナは知らないが、元々あの子は精神が不安定だった時期の方が長いのだ。今は落ち着いてきているが、時々発作を起こすこともある。

 

その時は、暴れる。

 

取り押さえる必要が生じたことも、何度かあった。

 

すぐに騎士と一緒に、現場に向かう。

 

リオネラが今いるのは、騎士団の宿舎の近く。国が公認の宿だ。その二階の奥の部屋に、リオネラは泊まり込んでいる。これは言うまでも無く、監視が容易で、脱走しづらいからである。

 

彼方此方を点々としたリオネラは、結局この宿に落ち着いた。

 

何名かの魔術師に教えを請いながら、技を磨いている彼女は。最近はぐっと落ち着いてきたと、評判だったのだが。

 

泊まっている部屋の外では、女騎士が青ざめたまま立っていた。ステルクを見ると、敬礼してくる。

 

「状況は」

 

「かなり手酷く取り乱していて、部屋に入ろうとしたら枕を投げつけられました。 今は静かですが、いつ暴れ出すか」

 

「何か刺激するようなことはしたのか」

 

「いえ、ただ。 ぬいぐるみが動かないと、本人が叫んでいたようです」

 

「……っ」

 

なるほど、そうか。

 

ついに、来るべき時が来たというわけだ。

 

リオネラが、いきなり部屋を出てくる。真っ青になっていて、両手には大事そうに、大きな猫のぬいぐるみを抱えていた。いつもは浮いているぬいぐるみ達は、ぴくりともしない。毒舌のホロホロも、おしゃまなアラーニャも、何一つ言わない。

 

唇までリオネラは真っ青だ。

 

下手をすると、このまま首をくくりかねない。

 

「どいてください。 ロロナちゃんの所に、行きます」

 

「どうするつもりだ」

 

「ロロナちゃんなら、きっと直してくれます」

 

薄ら笑いを浮かべるリオネラの体からは、途方も無い魔力がダダ漏れになっている。この娘は、凄まじい魔力の持ち主だ。その魔力量は、上位の悪魔にも匹敵すると、師になっている魔術師から聞かされた。今までさほど強くは無かったのは。魔力の扱い方が、わかっていないからだとも。

 

付き添おうと言うと、無視してリオネラが歩き出す。

 

毛布を掛けてやると、鬱陶しそうにステルクを見る。その目には、強い闇が宿っていた。暗殺者をしていた頃は、こんな目をしていたのだろうか。

 

「いつから、ぬいぐるみが動かなくなったのだ」

 

「朝、起きたらです。 昨日の夜は、あんなに色々、話してくれたのに。 二人とも、私が嫌いになったのかな」

 

外に出たリオネラの体から、禍々しいまでに黒い魔力が溢れている。

 

それだけではない。精神が混濁しているからか、目の瞳孔が完全に開ききっている。危険な状況だ。この魔力量、アーランドに来た頃とは比べものにもならない。

 

もしも暴発したら。

 

一つや二つ、区画が更地になる。ステルクは、ついてきた女騎士に、防御の魔術が使える人間を呼んでくるよう、小声で指示。これは、下手をすると、最悪の事態もありうる。ステルクもその場合、リオネラを斬る必要が生じるかも知れない。ロロナには一生恨まれるだろうが、街に暮らす人々を守るのが、ステルクの仕事だ。

 

それにプロジェクトは。

 

リオネラがいなくても、進展はするのだ。

 

無情な言い方だが、ステルクもこのプロジェクトがどれだけ大きな意味を持っているかは知っている。

 

「ロロナちゃん。 助けて。 二人を、助けて」

 

「案ずるな。 まずは、ロロナの所へ行こう」

 

涙を流しているのかと思ったが。リオネラは、焦点の合わない目で、ぶつぶつと呟いているだけだ。

 

しかも、声のトーンや口調も、喋るごとにかなり変わってきている。

 

変な方に行こうとしたりするリオネラを、必死に誘導。職人通りについた頃、やっと術者が来た。

 

しかも、アストリッドである。

 

「ほう、なるほどな。 こういうことか」

 

「何が、こういうことだ。 お前、何か知っているのか」

 

「知っているもなにもな。 ロロナでさえ、もううすうす気付いていただろうよ」

 

明らかに楽しんでいる口調のアストリッド。ステルクは苛立ちが募るのを感じたが、今は喧嘩している場合では無い。

 

リオネラの体から漏れる魔力は、更に酷くなってきている。

 

彼方此方でスパークが起きているのは、あまりにも高密度の魔力が、空間に干渉しているからだ。

 

平然としているアストリッド。

 

此奴は、爆発が起きて、人々が死んでも平気だとでも言うのか。

 

いや、愚問か。

 

今のアストリッドは、そう考える人間だ。何しろ、彼女を追い詰めたのは。

 

「ついたぞ。 アトリエだ」

 

まるで客がついたように、ドアを無遠慮にノックするアストリッド。

 

そして、リオネラの手を引いて、アトリエの中に入った。

 

既に通行人の避難は完了している。両隣にある店。武器屋と、ティファナの雑貨屋からも、人間は皆避難させた。

 

外では魔術班が待機して、爆発が起きたときに備えて、結界を張る。

 

冷や汗が流れるステルク。

 

まだ、アストリッドの余裕の理由は、わからない。

 

一体リオネラには、何があったのだろう。

 

 

 

アトリエに入ってきたリオネラは、酷い状態だった。目の焦点もあっていないし、ダダ漏れになっている禍々しい魔力の恐ろしさといったらどうだ。ロロナを見ると、ようやくリオネラは、声を絞り出す。

 

アストリッドが見ていることなんて、お構いなしだ。

 

「ロロナちゃん、助けて」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「二人が、動かなくなっちゃった」

 

差し出されるアラーニャとホロホロ。

 

確かに、動かない。いつもの陽気な猫たちは。今は、物言わぬ、抜け殻になったかのようだ。

 

触ってみて、確信できたことが一つある。

 

そして、この時のために、準備してきたものもある。それにしても、どういう皮肉だろう。昨日念のために、その核となる素材を準備してきたのだ。リオネラの精神が限界近いことはわかっていた。

 

だからといって、この偶然は酷すぎる。

 

毛布は誰が掛けてくれたのだろう。アストリッドは、違うか。師匠は心底楽しそうに、様子を見ている。

 

わかっているのかも知れない。

 

ロロナが、この件を、解決できると。

 

まずはホムにお茶を淹れてもらう。鎮静剤も入れておいた。飲ませると、リオネラは少しは落ち着いたのか。体からダダ漏れになっていた黒い魔力も、少しずつ量が減っていった。

 

だが応急処置だ。

 

ロロナはすぐに、調合をはじめる。リオネラについては、今までの情報から、わかっていたのだ。

 

何が病根か。

 

どうすれば取り除くことが出来るのか。

 

ならば、ロロナは。彼女を救う。そうすることで、大事な友達の一人を苦しめている、鎖を取り払うのだ。

 

何種類かの薬品と、薬草を混ぜ合わせる。

 

ホムが不可解そうに小首をかしげた。

 

「マスター、その薬は」

 

「大丈夫。 量さえ間違わなければ、大丈夫だから。 ね、こなーが怖がると思うから、側にいてあげて」

 

「わかりました」

 

ホムをアトリエから出す。

 

そして、調合が終わるまでの間に、アトリエの四隅に行って、防爆の仕組みについて、再確認。

 

最悪の場合でも。

 

アトリエが吹っ飛んでも、周囲が大火事になるような状態だけは、避けなければならない。そんな事になったら、ロロナもリオネラも死んでしまうかも知れないけれど。関係の無い多くの人を巻き込むよりも、ずっとマシだ。

 

こんな時にクーデリアがいてくれれば。

 

いや、リオネラと相性が悪いクーデリアでは、いても力になれないかも知れない。

 

ソファに座っているリオネラは、寒いのか、そうではないのか。じっと焦点の合わない目のまま、肩を掴んで震えている。

 

「二人は、助かるの?」

 

「うん、大丈夫。 大丈夫だよ」

 

何か、とても嫌な言葉が聞こえた。

 

だが、聞こえないふりをする。わかっている。だから、それを受け止める。

 

薬品が仕上がった。

 

幾つかの試薬を通してみて、大丈夫である事を確認。

 

リオネラをなだめながら、説明する。

 

「いい、りおちゃん。 この薬を、りおちゃんが飲むの」

 

「……どうして?」

 

「わたしを信じて。 大丈夫だから、ね」

 

リオネラが暴れ出したら。

 

いや、どうにかなる。リオネラは、ロロナを信頼してくれている。ロロナも、リオネラを信頼している。

 

大丈夫。

 

自分に言い聞かせる。

 

緊張の瞬間。

 

リオネラは。薬を口元へ持っていった。

 

 

 

目を見開いたまま、ソファにぐったりと転がっているリオネラ。

 

漏出魔力については、ある程度落ち着いた。

 

くつくつと笑う師匠。

 

「いつから、気付いていたんだ」

 

「確信が持てたのは、最近です。 前にも、何度かそうだとわかる出来事はあって。 わたし、頭が悪いから、やっと最近わかりました」

 

「ふむ、まあ良いだろう。 で、どうするつもりだ」

 

「ホロホロちゃん、アラーニャちゃん。 もう、演技は良いよ。 もう、わかってるの、二人が、りおちゃんの心の一部だって事は」

 

「何だ、ばれてたのか。 よっと」

 

ホロホロが、ぬいぐるみではなくなる。

 

正確には、元の姿に戻る。

 

光を放つ、魔力の塊が、ホロホロのあった場所で、浮遊し続けていた。更に、アラーニャも、同じ事になる。

 

「リオネラ自身もわかっていなかったのに、どうしてばれたの?」

 

「それは、色々、そうだと分かる事があったから」

 

そもそも、だ。

 

この二人は、ぬいぐるみと言うにはあまりにも無理があった。

 

自動防御の際の機動。あれは、完全に元の姿、つまりリオネラの魔力に戻って、一種のシールドを張る機能だったのだ。

 

それに、以前見た切り札。

 

巨大化して大暴れするというのも、元がぬいぐるみでは厳しい。

 

何より、おそらくロロナなんて比べものにもならないほど過酷な人生を歩んできただろうリオネラが。

 

こんな大きなぬいぐるみを二体も、幼い頃に手に入れるのは難しい。

 

他にもおかしな点は、まだまだあった。

 

幼い頃から大事にしているわりには、ホロホロもアラーニャも綺麗すぎる。どんなに洗濯しても繕っても、ぬいぐるみだ。汚れはどうしても付着するものなのだ。それなのに、二人とも新品も同然。

 

それに、決定的なのは。

 

リオネラが喋っているとき、二人は一切口を利かないこと。

 

そして、リオネラの中に、明らかに幾つかの人格がある事。これは、カタコンベなどで、ロロナも実際に目撃している。

 

幼い頃に悲惨な目に遭うことで、人格が分裂することがある。それは、ロロナも聞いたことがあった。実例を見るのは初めてだけれど。実在する病気だと言う事は、知識として持っていた。

 

だから、結論できたのだ。

 

リオネラは、涙を流している。今飲ませたのは、意識を保ったまま、身動きできないようにする薬。

 

こうしないと、リオネラは。

 

真実と向き合えないと、ロロナは思ったからだ。

 

「どうする、俺たちから、全部話すか?」

 

「いえ、リオネラに話させましょう。 リオネラ、ロロナちゃんは、貴方の全てを知っても受け止めてくれるはずよ。 だから私達は、力だけを残して消えようと話し合って決めたのよ」

 

リオネラは応えない。

 

解毒剤を飲ませる。しばらくして、体が動くようになっても。

 

リオネラはさめざめと泣いていた。

 

落ち着くまで、待つ。今日の作業は、一段落している。時間は、充分に残っている。だから、リオネラの。

 

ロロナにとって、大事な親友の一人の悲しみを聞く事は、出来る。

 

一刻も過ぎた頃だろうか。

 

ようやく、リオネラが喋りはじめる。

 

彼女の、血塗られた、過去の物語を。

 

「私、魔女なの」

 

「それって、確か魔術師とは少し違う系統の、魔力を直接用いて奇跡を行う術者の事だよね」

 

「そんな風に考えてくれるの? 私の村では、魔女というのは災厄の象徴で、悪魔の手先というべき存在だったわ」

 

最初は、手を触れずに、ものを動かしたりするくらいだった。

 

その気になれば、自分が飛ぶことも、姿を消すことも出来るようになって。それを無邪気に使っていたら。見る間に、周囲の態度が豹変していった。

 

父も。母も。

 

優しかった周囲の人達も。

 

リオネラを、バケモノとして扱ったのだ。

 

「村にいる魔術師が作った、結界を張り巡らせた小屋の中に閉じ込められたとき、どうしていいか本当にわからなくなったの。 真っ暗な中に入れられて、どれだけ泣いても叫んでも、絶対に出してくれなかった。 ごめんなさい、許して。 なんで閉じ込められたかもわからないのに、謝り続けたの。 出てくる食べ物は必ず傷んでいて、虫が湧いていて、何もかも垂れ流しで」

 

リオネラが、涙をぼろぼろこぼしながら、悲惨な過去について語ってくれる。

 

ロロナは黙って、話を聞くしか出来なかった。

 

ロロナも聞いたことがある。

 

特に辺境の中の辺境では、特殊な信仰や、偏狭な思想が蔓延することがあると言う。リオネラのいる所では、特殊な能力者が、魔女として迫害される土壌があったのだろう。それはとても悲しい事だ。少なくともアーランドに生まれていたら、むしろ能力持ちのエリートとして、英才教育を受けられたかも知れないのに。

 

泣いているリオネラは、それでもお父さんとお母さんを憎みきれなかったと言う。幼子には、親を憎むことが出来ないのだ。そんな幼子を信仰と恐怖心から虐待した村の人達に、ロロナは心底悲しみを覚えた。

 

いつまでも続く闇の世界。どうして生まれてきたのだろうと、リオネラは後悔さえ覚えた。

 

何時からだろう。

 

誰か、話し相手が欲しいと思ったリオネラは。

 

話し相手を、作った。

 

最初は、自分の外に。これが、アラーニャとホロホロだ。何故ねこのぬいぐるみだったかは、自由で好きなように生きているねこが、羨ましかったからだろう。人間の文化圏でしか生きられない脆弱な生き物だけれど、それでも図太くやっている姿が、リオネラには羨ましかったのだろうなと、ロロナは推察した。

 

そして、次は中に、話し相手を作った。

 

「それが私よ」

 

不意に、リオネラの雰囲気が変わる。

 

蠱惑的で妖艶で。それでいて邪悪な。そう、カタコンベなどで表に出てきた、リオネラの別人格の一つ。

 

くつくつと笑っている彼女は、リオネラの闇そのものだ。

 

「貧弱な檻をぶっ壊したのは、村が火事になったとき。 理由はわからないけれど、何かの理由で、村が火事になって。 それで、力尽くで檻をぶっ壊して逃げたの。 その時、両親とか近所の奴らとかが、鬼みたいな形相で追ってきたから、ぶっ潰しちゃった」

 

「……っ!」

 

「しょうがないわよね。 そうしないと、殺されたんだから。 元々彼奴ら、近々私を殺すつもりだったんだし、ね」

 

不意に、リオネラが元の人格に戻る。

 

真っ青になったリオネラ。

 

ひょっとして、知らなかったのか。暗殺をしている事は知っていたけれど。その最初が両親や故郷の村の人達だったなんて、思いもしなかったのか。頭を抱えるリオネラを抱きしめて、背中を撫でる。

 

「大丈夫。 大丈夫だよ」

 

漏出する魔力が凄まじい。

 

アトリエが吹き飛ぶかも知れない。

 

だが、逃げる選択肢はない。リオネラを放っていくわけにはいかないからだ。

 

「それから、どうしたの。 わたしは、りおちゃんの全てを受け止めるよ。 だから、話して」

 

「……」

 

もう服はぐしゃぐしゃだけれど、気にはならなかった。

 

闇のリオネラが、出てくる。くつくつと笑いながら、世にもおぞましい話をしてくれる。

 

「逃げ出してすぐね、馬鹿な私ってば、両親の所に行ったの。 何をされたかも忘れ果ててね。 そうしたら彼奴ら、知らない子供と一緒にいた。 後で家の中を漁ってみてわかったんだけど、私の妹と弟を奴隷に売り払って、毛並みのいいのをよそから買ってきたみたい。 弟と妹は、顔が気に入らなかったから売ったんだって」

 

けらけら。

 

笑い声は、ロロナにはそうだとは聞こえなかった。

 

それは、血涙。

 

リオネラがずっと流してきた。心に溜まった、血だ。

 

「開口一番に、彼奴ら、私を見てなんて言ったと思う? バケモノが出てきた! みんな来てくれ、だって! きゃははははははは! それでさ、更に私に石投げてきたよ。 両方揃ってね。 毛並みの良いのも、笑いながら石投げてきた。 だから、力を使って、果実みたいに三人まとめて、頭を潰してやったの。 楽しかったわ」

 

「そう。 つらかったよね」

 

「なんでさ、あんなに楽しかったのに」

 

独白は、まだ続く。

 

村では、見かけた人間全てが襲ってきた。鍬を振るって、鎌を振るって、剣や槍で。魔術で。

 

ただの山火事だったのに。

 

この火事は、お前のせいか、バケモノ。そう罵られた。

 

本気で殺すつもりで、村人達は襲ってきた。

 

「リオネラってば、多分村を追い出されたとか売り飛ばされたとか都合良く思ってるんだろうねえ。 あはははは、つらい記憶は全部私に押しつけてさ。 村の連中は、全部自分で殺したのにね! 首を捻ったり頭を潰したりしてさ! 気がつくと、村には家畜も含めて、生きた奴は残ってなかった! みんな、私が殺したんだ!」

 

鋭い痛み。

 

漏出した魔力が、ロロナを傷つけているのだ。

 

でも、離さない。

 

リオネラを今離してしまったら、何もかもが台無しになる。

 

「村の外に出てもおんなじだった! ストリートチルドレンの餓鬼にどの大人が優しくするもんか! 奪うしか生きる方法はなかった! その内悪い奴らに声を掛けられて、暗殺をするようになった! 上手く行けば美味いものが食えたよ! 今から考えると、残飯同然だったけどな! アラーニャ、ホロホロ、あんたたち、何人殺したっけ?」

 

「俺は三十五人」

 

「私は二十九人」

 

「アハハハハ! 聞いての通りよ! いい加減にいやになって、犯罪組織から逃げるときも、追っ手を随分殺したっけ! アハハハハ、トータルで二百人は軽く超えてるね! 多分あの国じゃ、私は今でも見つけ次第抹殺するレベルの凶悪犯罪者よ!」

 

それでも、私を受け止めるとか、好き勝手なことを言うのか。

 

吐き捨てられた言葉。

 

人一倍優しかった女の子が、殺戮の権化に変わっていった、悪夢の生。ただ、他の人とは、少し違う能力を持っていただけだったのに。

 

ロロナは、もう良いんだよと、もう一度言う。

 

リオネラは、明らかに怯む。

 

恐怖が、目に宿っていた。

 

わかっている。わかっているのだ。

 

リオネラはそうやって、ずっと自分を傷つけてきた。身を守るために戦って、それが多くの人間を殺す事になった。暗殺だって、生きるためにしていたことだ。彼女が吐き捨てたように、結果として凶悪犯罪者になったが。

 

それは、周囲が、そうさせた結果ではないのか。

 

此処で、心の膿を全部出さなければ、リオネラは今後、生きていけない。そしてロロナは、今までの事を、許すつもりだ。

 

誰かが、リオネラを許さなければならない。

 

生きるために殺さなければならなかった。それを心の底から苦しみ、傷ついている、ロロナの友達を。

 

誰かが許さなければいけないのなら。ロロナがそうする。

 

リオネラは、なおも言った。

 

「其処の馬鹿二人はね。 あんたがいるから、もう自分たちは消えた方が良いって考えたのさ。 心が幾つもあって、その全てが人格を持ってるなんて、本人のためには良くない事だってね。 本物の友達がいるなら、俺たちはいない方がいい。 そろそろ頃合いだってね」

 

「そうさ。 そいつ、昔は人とろくに口もきけなかったんだ。 それがあんたと出会ってから、どんどん喋るようになって。 苦しんだり悲しんだりもしたが、それでも自分でどうにか乗り越えて。 最近なんか、魔術師に弟子入りなんて真似まで」

 

「信じられなかったわ。 だから、決めたの。 貴方がいるなら、もう消えるべきだって」

 

「……っ」

 

唇を噛む。

 

リオネラは毒を吐ききったからか。もう、ぐったりしていた。

 

体から放出される魔力も、収まりつつある。

 

リオネラは、不意に元に戻る。

 

青ざめているが。しかし、もはや悲しむ力も、使い果たしているようだった。

 

「ロロナちゃん、血だらけ……。 私のせい……ごめんなさい……」

 

「うん。 でも、いいよ。 りおちゃんのこと、わかったから。 このくらいの傷なんて、何でもないよ」

 

消えるか、消えないか。

 

そんなのは、リオネラが自分で決めることだ。

 

ロロナがどうこう言うことでは無い。だが、ロロナは思う。まだ、アラーニャとホロホロが、リオネラの側にいてあげれば。それはとても素敵なことだと。

 

いずれは、消えなければならないのかも知れないけれど。

 

しかし、リオネラの孤独は、完全に癒やされたわけではない。

 

「大丈夫。 わたしは、りおちゃんの側にいる。 ホロホロもアラーニャも、黒いりおちゃんだって。 だから、今は休んで」

 

そう告げると。

 

リオネラは。精根が尽き果てたのか、その場で意識を手放した。

 

何故だろう。

 

意識を失ったリオネラを抱きしめながら。ロロナも、涙が止まらないことを、自覚していた。

 

痛みからでは無い事は、確かだった。

 

 

 

家を出ると、ステルクがいた。それだけではない。防御結界を得意とする、ロロナも知っているような有名な魔術師が何人も。

 

ひょっとして、騒ぎになっていたのか。

 

それは、そうか。

 

あの状態で、此処まで来れば。

 

「酷い傷だが、大丈夫なのか」

 

「はい、何とか。 これくらい、唾でも付けておけば、治ります。 それに応急処置も、しましたから」

 

「そうか。 リオネラ君は」

 

「疲れ果てて眠りました。 大丈夫、わたしに全て打ち明けてくれました。 だから、もう平気だと思います」

 

ステルクが、念のためと言って、魔術師達をアトリエに入れる。

 

非常に強力な魔力が、漏出を続けていたのだ。アトリエ自体に大きな傷がなかったのは、師匠が処置してくれたからだろう。

 

魔術師達は、暴発の怖れなしと結論。

 

ステルクは、大きく嘆息した。

 

「無茶をしたな。 傷が残っては大変だ。 すぐに手当をするとよい」

 

「……りおちゃんは、どうなるんですか?」

 

「どうなるとは?」

 

「何処だかはわかりません。 りおちゃんは、生きるために、酷い虐待を受けていた故郷を滅ぼしたみたいなんです。 その後も、ずっと暗殺のお仕事を」

 

流石にステルクも驚いたようだが。

 

しかし、約束してくれた。

 

「騎士団の方で、預かりの調査としよう」

 

「他に方法はなかったみたいなんです。 りおちゃんに酷い事をしないって、約束してくれますか」

 

「彼女は臆病だが、何度も君を守って獅子奮迅の活躍をしてくれた。 今後も、有能な魔術師としての未来が期待出来る。 それならば、アーランドには居場所がある。 心配はしなくても良いだろう」

 

胸をなで下ろす。

 

此処は、アーランド。修羅の集まる国。

 

だからこそ、救われる存在もある。

 

ステルクは嘘をつかないはずだ。ロロナは一安心すると、アトリエに戻る。正直、不安な部分もあったのだ。だけれど、リオネラを助けたいという気持ちの方が、より強かった。

 

リオネラは完全に力を使い果たして眠っている。

 

ロロナは寝顔を見ると、手当をはじめた。さっきしたのは応急手当のみ。漏出した魔力に晒されている間、ずっとカミソリで体を削がれているようなものだったのだ。体中は傷だらけ血だらけ。深い傷は全て塞いだけれど、まだ血が止まっていない場所もある。

 

薬を塗りおえると、すぐに耐久糧食を口に入れた。

 

ネクタルをそのまま飲んでも良いかと思ったが、流石にそれはやめておく。原液のネクタルが危険な薬品だと言う事は、ロロナも幾つかの実例を見て、身に染みて知っているからだ。

 

ホムに戻ってもらった後は、背中を見せて、傷を確認してもらう。

 

薬が塗れていない場所があったので、ホムに手伝ってもらった。耐久糧食を口に入れた後だから、体がぽかぽかしている。すぐに、傷は治るだろう。ただ、今晩は痛みが酷くて、苦しむことになりそうだ。

 

「無茶なことをなさいますね、マスター」

 

「りおちゃんを、助けたかったの」

 

「わかりません。 どうして他人のために、其処まで必死になれるんですか」

 

ホムは心底から分からないと言う風情で、そう言う。

 

でも、ロロナだって知っている。

 

「もしもこなーがモンスターに襲われたら、ホムちゃんはどうする?」

 

「モンスターを倒します」

 

「わたしもそう。 りおちゃんは大事な友達だから、助けたかったの。 自分が危ない目に遭うことくらいは、怖くなかったよ」

 

「……」

 

やはりわからないと、ホムは視線をそらした。

 

服を着直そうとして、盛大に破れてしまう。ちょっと恥ずかしい。まあ、あれだけズタズタになったのだ。服だけ無事で済む筈もない。

 

お気に入りの服だったけれど。これはもう駄目だろう。新しい服を着直した後、ひょっとしたら可能性があるかも知れないから、繕ってはみる。

 

ロロナ自身も、疲れた。

 

とりあえず明日休んで、リオネラが無事に起きてくるのを確認したい。

 

リオネラは、もう大丈夫の筈だ。

 

それは、ロロナにとっても、とても嬉しい事だった。








リオネラさんの血塗られた過去の話です。

原作でもかなり闇深いですが、本作ではそれをある程度脚色しつつ仕上げています。

このような人生を送ってきた子です。

どれだけの闇に落ちていても不思議ではなかったでしょうね。



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