暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
クーデリアが王宮に出向くと、エスティが既に資料をまとめてくれていた。
頼んでいたのだ。今後の事を考えると、必要になるから。
リオネラの話を聞いて、幾つか腑に落ちない点があった。
クーデリアは以前、聞いたことがあったのだ。リオネラの悲惨な暗殺者家業の裏に、アーランドの関与があったと。
というよりも、そうでもなければ、リオネラはこの国に来なかっただろう。ずっと彼方此方をさまよいながら旅芸人の真似事を続け、暗殺家業からも足を洗えず。最後はきっと、道ばたでゴミのようにのたれ死にしていたに違いない。
「それにしても、どういうつもり?」
「ロロナの理解力と推理力が、どんどん鋭くなっているのよ。 このままだと、近いうちに、プロジェクトの事にも勘付くわ」
「ふうん、それでその時のために」
「ええ。 あたしにとっては、あの子は世界そのものよ。 あの子には嘘をつけないし、つきたくも無いの」
これは文字通りの意味だが。
エスティがそれを知っているかはわからない。肩をすくめたエスティの前から、資料を借りて、図書室へ移動。
そして、資料を見ていった。
リオネラについての情報が、まとめられている。まとめたのは、エスティの先代にあたる、諜報の元締めだ。
アーランドが、よその国で、使えそうな人材を拾ってきていることは、クーデリアも知っている。
純粋な労働力として奴隷を買い、アーランドに連れてきて労働者階級として地位と権利を保護している事は、クーデリアもよく知っているのだが。それだけではなく、この資料を見る限り、別の国で迫害されているような能力者にも、唾を付けているようだ。
リオネラもその一人だった、とある。
資料によると、リオネラは、アーランドとは大陸の反対側にあるほど遠い国の出身である。
彼女は今でもその国では、史上最悪の大量虐殺犯として、指名手配されているという。しかもデッドオアアライブで手配されていて、報酬額は小さな屋敷が建つほどだ。理由は、彼女自身が言っていたとおり。二百三十人に達する殺害に関与するという、レコードクラスの殺人犯だからだ。
ある村で生まれたリオネラは、その閉鎖的な風習から、能力の覚醒時期以降軟禁。殺される予定だったようなのだが、偶然発生した火事に乗じて脱出。
その際、火事の原因はリオネラだと勘違いした両親を含む村人全てに殺戮を目的とした攻撃を受け、返り討ちにした、という。
リオネラの能力は、魔力そのものを手足のように使う力で。古い言葉では、サイコキネシスとかいうそうである。魔術の極めて古い原型となった能力であり、単純であるが故に力も極めて強いという。単純なら制御も簡単そうなのだが、リオネラは精神が極めて不安定だから、難易度を自分で上げてしまっているのだろう。記憶の混乱も、おそらく其処から来ているに違いない。
それから、村を脱出したリオネラは、犯罪組織に目をつけられ。其処の暗殺者として、多くの人を殺した。
この辺りで、アーランドの諜報員が目をつけたのだという。
諜報員はリオネラと接触すると、少しずつ能力の使い方を教え、脱出を誘導。追ってきた犯罪組織の半分はリオネラが片付けたそうなのだが。
残りの半分は、諜報員が彼女が知らぬ間に、消していたのだそうだ。
それで、ここに追っ手が来ないわけだ。
勿論、その国としては、リオネラの事を掴んではいたのだろう。だが、何しろ大陸の反対側にあるほど遠いアーランド。しかも、最強の戦士を有することで有名な武闘派国家だ。敵に回す勇気も無く、今ではほぼ沈黙しているという。
諜報員は何年か掛けて、リオネラを育てながら、大陸南部へ誘導。
ただこの過程で、幾つもトラブルが生じた。別の組織内で動いていた「追い出し屋」トリスタンとの確執も、此処で生じたらしい。
組織内で、情報伝達が上手く行っていなかったため、危うくリオネラはトリスタンが扇動した民に、焼き殺される所だったそうだ。
なるほど、それでは仲が悪いわけだ。
そして今回、プロジェクトのメンバーとして相応しいと判断。この国に招き入れたのだとか。
嘆息する。
最悪の予想だけは免れた。
最初の火事にも、アーランドが関与していたのでは無いかと、クーデリアは疑ったのだ。
だが、どうやらそれだけは無いらしい。単純な失火に過ぎなかったという事だ。
ただし、もしもリオネラの事を、アーランドの諜報員が察知していたらどうなっていただろう。
その場合は、座敷牢だけを破壊して、リオネラを救い出していただろうか。
それとも。
咳払いの音。ステルクだった。
「リオネラ君のことを調べて、どうするのかな」
「あんたには関係無いでしょ。 ロロナのためよ。 何もかもね」
「……君に、つらい仕事を王が申しつけるそうだ」
ぞくりと、何か嫌な予感がした。この不快なくらい善良で真面目なステルクがこう言うのである。碌な事でないのは確実だ。
言われるまま資料をしまい、王の元へ出向く。
ジオ王は、王座で退屈そうに肘を突いていた。側では、無表情のまま、パラケルススが控えている。
パラケルススが指揮するホムンクルスの数は、増える一方だ。
巡回などで経験を積んでから、順次前線に向かっているホムンクルス達は、既に相当数に達している。前線の拠点によっては、既に百を超える数が配属されている場所もあるそうだ。
おそらく近いうちに、パラケルススは歴戦の武人達や、将軍と肩を並べる発言権を手にするはず。
その時、此奴が豹変したら、誰が止められるのだろう。
王には勿論止められる。
だが、人間を殺す以外のことは大概出来るとも聞いている。本当に、大丈夫なのだろうか。
跪くと、王は言う。
「ロロナは順調に育っているようで、何よりだ」
それを確認するために、この間わざわざ様子を見に来た、と言うわけだ。
戦闘面での力量も確認したかったのだろう。だからわざわざ、その気になれば単独で瞬殺出来るラプターステイン程度との戦いに誘ったという訳か。
「此処で、強くたくましく育てるための、最後の試練を課したい。 クーデリア、君が思いつく限り最悪の理由で、ロロナと喧嘩するように。 それも、絶交するレベルでだ」
「えっ……」
「いやかね? フォイエルバッハ家で不要なお家騒動を君が起こしたことは、とうの昔に掴んでいる。 返答次第では、国が介入せざるを得ないのだが」
それは、困る。
まだ父と戦うには早いし、国に介入されると面倒な事も多いのだ。
しかし、ロロナと喧嘩するなんて。
頭の中が、真っ白になった。
「これは命令だ。 すぐに実行に移すのだ」
「わ、わかりました……」
「陛下!」
ステルクが、声を強ばらせる。
だが、ジオ王は、一瞥だけで黙らせる。
ステルクでは、王には勝てない。エスティと一緒に戦っても、勝ち目は無いだろう。そのくらい、この男は桁外れに強いのだ。
この大陸における戦士としては、間違いなく最強。
悪魔やドラゴンを勘定に入れても、その地位が揺らぐかどうか。
「何、私としても無茶を言っているわけでは無い」
玉座から立ち上がった王が、歩み寄ってくる。
震えているクーデリアの顎を掴むと、視線を無理矢理合わせた。
「見たところ、君達は一度離れて、互いを見直した方が良いだろう。 今の関係は、多少いびつに思える。 勿論プロジェクトとして、ロロナを鍛えるのが最優先なのは事実だが、な。 これは私からのアドバイスだ。 関係を一度見直しなさい」
冷や汗が、全身を伝う。
あまりにも力が違いすぎる相手に、視線を合わされるのは、これほどまでに怖いのか。
気がつくと、王はまた座に戻っていた。
うなだれると、クーデリアは謁見の間を出る。
ロロナは、ひょっとすると。気づきはじめているかも知れない。あの時、何が起きたのかを。
気付いているのなら。
頭を横に振る。
ロロナに嫌われるのは、死ぬよりつらいことだ。だが、今王に逆らうわけにはいかない。ふと気付くと、タントリスが青ざめた顔で、メリオダスの執務室から出てきたところだった。苦笑いするきざ男。
「どうしたんだい、小さなレディ。 相談だったら僕が乗るが」
「あんたこそ、相談が必要なんじゃ無いかしら。 エスティさんにでも相談したら」
「これは手厳しい」
肩をすくめると、タントリスはその場を離れる。
大股で歩きながら、クーデリアは悟る。自分がかってない窮地に立ったことに。
ロロナを守るためなら、クーデリアは死んでも良い。
だが、ロロナがそれを拒否したら。
心は強くなったと思ったのに。
絶望の黒い染みが、広がっていくのを、クーデリアは感じていた。
(続)
本作のジオ王は極めて冷徹な策士です。
まあ状況が状況だというのもあるのですが、それでも確定で一線を越えています。
そんなジオ王なので、ロロナとクーデリアの仲を裂くような事も平気でやります。
今後のためになればいいからですね。
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