暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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トラウマを乗り越え、作りあげた水晶。

しかし、其処で一気に事態が解決するほど状況は甘くも無いのです。





3、森の悪夢

できあがった水晶は、今までに無く澄んでいた。

 

既に魔力の吸収量も、蓄積量も、現物の水晶と大差ない。量産品の此方が90だとすると、天然物は100という所だ。そろそろ、能力判断も、天然物の水晶を基準にした方が良いと思って、切り替えてもいる。

 

勿論天然物は加工が難しいという難点があるので、量産できるロロナ式水晶、つまりアーランド石晶の方が、利便性では分がある。

 

ただ、やはり可能な限り、量産の方式は確保しておきたい。

 

作り方を単純にして。

 

量産しても、品質にムラが出ないようにする。

 

まだ、納品までは時間がある。

 

それくらいのことは、やっておきたかった。

 

アトリエの戸をノックする音。

 

手が空いていないので、ホムに出てもらう。入ってきたのは、イクセルだった。

 

「よーっす、生きてるか?」

 

「うん、大丈夫だよ。 どうしたの、イクセくん」

 

「ちょいと、入手して欲しいものがあってな」

 

アトリエの中を無遠慮に見回すイクセル。

 

クーデリアは、今雷鳴の所だ。腕輪に仕込んだアーランド石晶をいきなり実戦投入するのでは無くて、ベテランのアドバイスを聞いてから、使っていきたいという事だった。

 

当然の話である。

 

ロロナだって、同じようにするだろう。

 

そして今、ロロナも石晶を用いたアクセサリを生産している、二つは腕輪に。もう二つはどうするか悩んでいるのだけれど、多分服の下に隠すタイプのネックレスにするだろう。

 

これらの石晶を利用した魔力展開で、魔術を構築するまでの時間を、理論上は一気に短縮することが可能だ。

 

こういう計算をしていると、楽しい。

 

ロロナが本質的には魔術師だから、なのだろう。

 

「やっぱり、ないか。 黒き大樹の森にならあるっていうんだけどな」

 

「何を探してるの?」

 

「夢見る王冠って茸なんだけどな。 何だか特殊な臭いを発してるとかで、豚を使って探すらしいんだ」

 

聞いたことも無い素材だ。

 

話を聞く限り、極上というべき味の茸だという。

 

しかし、黒き大樹の森は、非常に危険な場所だ。行くとしたら、ステルクも誘う必要があるだろう。

 

「彼処って、ベテランのアーランド戦士でも手こずるって話だよ。 素材のために、そんな危険を冒すの?」

 

「だからお前に声を掛けてるんだよ。 話に聞いたけど、最近大物の手配モンスターを何匹も沈めてるんだろ。 それなら、行けるかと思ってな」

 

「ううん、そうだね。 現物があれば、少しは調べられるかも」

 

「あるぜ、これだ」

 

あっさり取り出してみせるイクセル。

 

触ってみると、ひんやりとしていて、丸くて、独特の茸だった。メモを取っておく。念のためホムにも見て覚えてもらった。

 

スケッチをしたあと、臭いについてメモ。後は、何処で採れるのかも聞いておいた。

 

此奴は、或いは。

 

ロロナの性格を全て先読みして、準備をしてきたのか。何だかこれ以上踏み入ると、失礼なことを言われるような気がしたので、話を切り上げる。

 

「わかった。 森にはどうせ行く予定だったし。 ただ、イクセくんも来てくれる? くーちゃんとステルクさんと、後イクセくんで、短期決戦の構えで行くよ」

 

「え? 俺も行くのか?」

 

「うん、できれば」

 

有無を言わさぬ雰囲気で言うと、面倒くさそうだが、それでもイクセルは時間を作ると約束してくれた。

 

この間から、こういう風に、一種のネゴシエイトをする知恵がついてきた。

 

イクセルには今回は、言い出しっぺとしての責任も取って欲しいのである。黒き大樹の森と言えば名うての危険地帯だし、欲しいと言うならせめて自分も来て欲しい。イクセルも相応の使い手で、最近も修行は怠っていないというのだから、当然のことだろう。

 

ロロナとしては、何種類かの薬剤の材料が欲しい所だ。

 

せっかく出向くのだ。イクセルの用事だけで、全てを済ませる余裕は無い。

 

イクセルが帰った後、アーランド石晶の実験データをまとめる。

 

面白い事に、いろいろな素材を加えることで、できあがる結晶の質が変わるのである。

 

今の時点では、圧力を上げる方向で問題ない。ただあげすぎると、非常に汚く濁った結晶になってしまう。

 

だいたいの圧力量はわかった。

 

此処に様々な鉱物。たとえばグラビ石やら鉄やらを加えると、できあがる結晶の色が変わってくる。

 

奥が深いのは、圧力を伝導する薬剤の品質でも、透明度に影響が出てくる事だ。

 

これは考えて見れば当然で、水晶の材料になっている砂に混ざり込んでいるのだ。圧縮される際に、一緒になるのだ。水晶が固まったとき、影響が出るのは当たり前。

 

そして、品質を上げれば、この薬剤は澄む。

 

それだけ、できあがるアーランド石晶の品質も、向上することは間違いない。

 

問題が一つあるとすれば。

 

それが量産可能な素材でなければならない、ということだ。

 

危険地帯に行かないと採れないようなものでは、量産が出来ない。だから、色々高品質な素材で試しながら、周辺で容易く採れる素材に、ソフトランディングを計っていく必要がある。

 

ロロナだって、それくらいの知恵は働く。

 

量産可能でなければ、意味が無いのだ。

 

とにかく、今は。

 

クーデリアとロロナの安全を、まず確保しないと行けない。この間の一件でロロナは確信した事がある。その危険から身を守るには、まずは実績を上げていくことだ。そして三年間の課題を走りきれば。

 

実績を上げて、今後も国益になる二人を、排除する可能性は無くなる。

 

どんどん、最近頭が働くようになっている。

 

でもその一方で、パイは大好きだし、ホムも大好き。可愛いものには目が無いし、言動が時々幼いなと自分でも感じてしまう。

 

やはりこのいびつさは。

 

一生抜け出せない、枷か業のようなものなのだろう。

 

準備を終えた後、ステルクに声を掛けるべく、王宮に出向く。何だかばたばたしていた。何かあったのだろうか。

 

エスティが、苛立っている様子で、事務作業をしていた。

 

前だったら、そのまま回れ右をしていたかも知れない。

 

「どうしたんですか、エスティさん」

 

「ああ、ちょっとばかり大きな問題が起きてね」

 

「何か、手伝えることはありますか?」

 

「ううん、ロロナちゃんは大丈夫よ。 むしろステルクくんがねえ」

 

そう言われると、心配になる。

 

ただ、ステルクがいないと、黒き大樹の森に行くのは無理だろう。そろそろネーベル湖畔くらいだったら、深入りしなければどうにかなるとは思うけれど。

 

ステルクを見つけた。

 

いつも以上に顔を強ばらせて、何か騎士と話している。

 

ロロナに気付くと、此方に来た。

 

「どうした、問題か」

 

「はい。 黒き大樹の森に行く予定です。 ステルクさん、その様子だと、忙しい……ですか?」

 

「あんな危険地帯に行くのか。 しかし……そうだな」

 

しばらくステルクは渋い顔をしていたけれど。

 

ロロナがじっと見ていると、要求を呑んでくれた。忙しいというのとは、少し違うのかも知れない。

 

クーデリアにはもう声を掛けてある。

 

念のため、リオネラとタントリスにも声は掛けたけれど。二人とも重要な用事があるとかで、同行はして貰えなかった。

 

まあ、ステルクがいるならば、充分だろう。

 

黒き大樹の森は、少し辿り着くまで時間も掛かる。採取を終えて戻れば、余剰の時間はあまりない。

 

ただ。今回の場合、既に量産までは後一歩。

 

現在の状態でも、提出すれば突破できる自信はある。つまり、これはあくまで念のための保険だ。

 

ただ、この保険が後々になってきいてくるはず。

 

後は、充分な準備をしていけば。問題は、ない筈だ。

 

 

 

翌朝。

 

四人で、アーランドを出て北上。途中の街道を東に向かう。

 

この辺りは、荒野がずっと広がっている。途中の街道周辺にある村で水と食糧は補給する予定だけれど。念のために、耐久糧食は多めにもってきてある。

 

この耐久糧食が、軍で喜ばれていると時々聞くので、それは嬉しい。

 

ロロナが作ったものが認められて、多くの人がそれで助かっているとわかるのは、とても喜ばしい事だ。

 

色々計算が働くようになった今でも。素直に誰かのためにはなりたいと、思ってはいるのである。

 

カタコンベを横目に、東へ。

 

途中、乾ききった荒野を、そのまま突っ切った。かなりの数のモンスターがいたけれど、激しい交戦は上手に避けることが出来た。途中何度か大型のドナーンに襲われたのだけれど、いきなり火焔を纏った弾丸をクーデリアがぶっ放して、近づけさせもしなかった。しかも、かなり負担が小さくなっている様子だ。

 

腕輪を活用してくれている。

 

そう思うと、ロロナは嬉しい。

 

しばらく探索を一緒にしていなかったイクセルだけれど。

 

腕は、決して悪くない。

 

料理をしながら、相応に体は鍛えていたのだろう。ただ、歴戦を重ねてきたクーデリアに比べると、やはり成長はかなり遅いようだが。

 

数日かけて、幾つかの村で補給をしながら東へ。この様子だと、到着まで四日。探索に二日。それに、帰還に四日。

 

会わせて十日ほどで、全てが片付くだろう。

 

まだ最後の月に突入していなかったけれど、帰宅した頃には足を踏み入れる。

 

「途中で通った荒野ですけれど、緑化の計画は無いんですか?」

 

「現在、近くの森を北部に向けて拡大する計画はあるが、あの荒野まで行くには、おそらく百年は先になるだろう」

 

「気が長い話ね」

 

「ロロナの作った栄養剤を、ぱぱーって撒いて森に出来ないのか?」

 

無理と、イクセルに即答。

 

ロロナも緑化について学んだけれど、あれは豊富な経験を持つ人が携わり、大地に栄養を与え、少しずつ草木を生やして、最終的に大地に緑を根付かせるという、段階を踏んだものなのだ。

 

ただ、今は湧水の杯が量産できる体制に入りつつある。

 

水さえあれば、緑化の難易度は下がるのも事実だ。ひょっとすれば、あまり長い時を置かずに、緑化に着手できるかも知れない。

 

ただその時には、ロロナは確実におばあちゃんだろう。

 

「ステルクさん、そういえば、王宮で何かあったんですか?」

 

「他国の間諜が最近非常に活発に活動していてな。 国境付近で、何回か交戦が起きている。 盗賊に偽装して入り込み、かなり先進的な武器を持ち込む輩もいて、油断できない状況だ」

 

盗賊、か。

 

保護して、今では工場で働いているおじさんの事を思い出す。ああいう人は、本当にどうしようも無くて、悪事に手を染めた。

 

しかし、間諜として入り込んでくるような盗賊は、おそらく違う。

 

洗脳か何かはわからないけれど。人を殺すことに一切の躊躇もなければ、裏切る事も奪うことも、何ら罪悪感を覚えないような人達だろう。何しろ、それが仕事なのだ。

 

戦うしか無い相手だ。

 

場合によっては、殺すしか方法も無い。

 

黒き大樹の森が見えてきたのは、そんな事を考えていた、夕方の事。

 

流石にこの時間から入り込むのは自殺行為だ。

 

手をかざして見ていると、かなりの数のアードラが、上空で待っている。いや、あれはアードラでは無い。多分上位種だろう。遠く過ぎて見えないけれど、かなり危険なモンスターの筈だ。

 

それにしても、噂には聞いていたけれど。

 

森と言うよりも、巨大な木の塊。

 

しかし、其処を外れると、すぐに荒野になっている。何ともいびつな場所だ。

 

近くを流れている小川の岸周辺は、雑草も生えているのだけれど。どういっても、結局周囲は荒野に覆われている。

 

まだ、緑は少ない。

 

アーランド王都へ直接通じる街道の左右には緑があるけれど。それを外れてしまえば、この通りなのだ。

 

キャンプスペースで、一晩を過ごす。

 

イクセルはステルクに、今度作る料理について語っていた。ロロナは半分聞き流しつつ、既に横になって休む。

 

此処は危険地帯だ。

 

今は、可能な限り、体力を回復しておくのがいい。キャンプスペースだから、見張りはあまり考慮しなくても良いのが、嬉しいところだ。

 

 

 

翌朝。

 

早朝、太陽が昇るのと同時に、黒き大樹の森へ足を踏み入れる。

 

話には聞いていたが、森と言うよりも、巨大樹の体内に入っていくような感触だ。しかも、中に住んでいる動物たちが、どれも異形ばかり。リスのように見えて複眼がたくさんあったり、鼠のようでありながら節足を持っていたり。

 

虫もとても大きい。

 

毒針を持っているような虫もいた。これはリオネラに来てもらうべきかと、一瞬後悔した。

 

しかし、いない以上は仕方が無い。

 

それにしても、腕ほどもある百足や、犬ほどもあるごきぶりが闊歩しているのを見ると、流石に驚かされる。

 

この森は、何なのだろう。

 

張り巡らされている根は地面も同じで、其処からたくさんの木々が生えている。

 

巨大な木の体内には、別の木が生えて、生態系が作られている。何だかちぐはぐで、そして不思議な空間だ。

 

根が柔らかく崩れている場所があったので、掘り返してみる。

 

どうやら、これが目的の茸らしい。イクセルに渡す。掘り返すと、かなりの数が出てくるので、そのまま半分は渡した。

 

「あれ? 全部くれよ」

 

「だーめ。 持って帰ったら、調べるんだから。 高品質の素材になるかも知れないし、そうなったら色々今後の研究がはかどるでしょ?」

 

「お前、たくましくなったなあ」

 

「えへへー。 ありがとー」

 

他にも、何か無いか。

 

調べていくと、世にも奇妙な植物が、彼方此方に生えている。そして気付いたのだけれど。

 

むしろこの環境は、安定しているのかも知れない。

 

苛烈な生存競争が行われているのかと一見して思ったのだけれど。見ていると、動物はどれも動きがそれほど速くない。

 

ただモンスターが多い。

 

そして、植物の育成速度も、相当なもののようだ。

 

恐ろしくいびつな空間である。

 

ステルクが時々、行く手に雷撃を放って、露払いをしている。クーデリアも時々上を見たり、後ろを確認したりしていた。

 

「くーちゃん、ここに来たことあるの?」

 

「前に一度ね。 此処、モンスターが相当に強いわよ。 油断したら、すぐ襲いかかってくると思って」

 

それは、わかっている。

 

確かに少し前から、かなりの数の、紅いドナーンが此方を見ている。あれは噂に聞く、上位種ドナーンのサラマンダーだろう。

 

火の中で生きているという伝説を持つ強力な生物で、ドナーン種としては相当に強いと聞いている。

 

ステルクが雑草を切り開いて、路を作った。

 

広い空間に出る。

 

水たまりが出来ていて、その周囲に花畑が出来ていた。うっすら差し込んでいる光と、グロテスクな根の塊の地面が、とても印象的な対比を作っている。咲いている花々は遠目にはカラフルで美しかったけれど。近づいてみると、異形の花が多くて、苦笑いしてしまった。

 

やはりこの森は、不可思議なところだ。

 

霧が出てきた。

 

この森の中を、広範囲に覆っている。此処で少し休んだ方が良いとステルクが提案。確かに、このまま進むのは、奇襲を受けに行くようなものだ。

 

ただ、それなら一度この森を出た方が良いかもしれない。

 

森に入ってから、それほど時間も経っていない。出る事は、そう難しくないと思うのだけれど。

 

提案をしてみる。

 

しかし、ステルクは、乗ってくれなかった。

 

「霧が出ている以上、動かない方が良い。 下からさえ奇襲が考えられる魔境だ。 今は静かに、霧が晴れるのを待つ」

 

「……はい」

 

ステルクの表情は厳しい。

 

何か気に触ることを言っただろうか。クーデリアはと言うと、嬉しそうに茸を撫で撫でしているイクセルを一瞥だけして、周囲を見て廻っている。

 

ロロナもせっかくなので、水を調べて見ることにした。

 

手を入れてみて驚いたのは、非常に冷たい、という事だ。

 

触ってみてわかったけれど、これは極めて純度が高い水かも知れない。汲んでみて、密封。持ち帰った後で、調べて見ることにする。

 

他にも、珍しい素材がたくさんある。

 

オアシスのようになっている泉の周辺だけでこれだ。他をもっと探してみれば、更に色々見つかるかも知れない。

 

霧は、まだ晴れない。

 

少し座って、休むことにする。

 

クーデリアが、ステルクと話していた。

 

「サラマンダーがかなりいるわね。 攻撃してきたらどうするの」

 

「私が道を開くが。 君もかなり腕を上げている。 ロロナ君の護衛は任せるぞ」

 

「わかったわ」

 

イクセルはというと、料理をはじめていた。

 

携帯用の炭焼きを行う装置に、フライパンを乗せて。先ほど捌いていた鼠だか何だかわからない動物を焼きはじめる。

 

結構良い匂いだ。

 

内臓は全部出してしまっていたが、それは仕方が無い。訳が分からない寄生虫が、一杯湧いていたからである。

 

しっかり肉に火を通してしまえば、大丈夫だろう。

 

しばらく火を通していたイクセルが、味見。食べる事は、出来るようだ。

 

「美味しい?」

 

「うーん、正直売り物にはならねーな。 ちょっと水っぽい」

 

「どれどれ」

 

ロロナも吊られて食べてみるが、確かに少し味が薄い。

 

イクセルが調理をはじめて、それが終わった頃には、霧も少しは晴れていた。せっかくなので、皆で食事にする。

 

食べられる時に食べておくのは重要だ。

 

味付けが良かったので、少しは食べられるものになっていたが。それでも、量が少なくて、物足りない。

 

耐久糧食を出してきて、皆で分ける。

 

少しもったいないけれど。モンスターが多数いる状況なのだ。あまり惜しんでもいられない。

 

霧が晴れたので、もう少し奥へと行く。

 

何だか、動物の体内を、降っていくかのようだ。

 

不意に、土が見えた。

 

知らぬ間に、本来の地面についていたらしい。

 

上を見上げると、ドーム状に枝だか根だかわからないものが絡み合い、隙間から光が差し込んできている。

 

ステルクが顎をしゃくった。

 

地面がぬかるんでいて、歩く度にぬちゃぬちゃと音がする。

 

この不可思議なドーム空間の奥の方に、何かいる。

 

「手配モンスターの一体、ウィッチローズ。 此処に逃げ込んだと聞いていたから、今回は同行を許可した。 同じような凶暴モンスターが今、同時多数暴れていてな。 一時期の、オルトガラクセンからモンスターが多数現れてきたときと同様の面倒事になっている」

 

「それで、忙しい中、同行してくれたんですか」

 

「そうだ。 他にも倒さなければならない者が多数いる。 今回は、必ず打ち倒して、他の戦士達の負担を少しでも減らすぞ」

 

あの、ファングと同じ存在だろうか。

 

倒した時、何か体内から機械のようなものが出てきたのを、ロロナは見ていた。そうなると、この事態は。

 

人為的に引き起こされた、という事か。

 

ステルクは既に剣を抜いており、青白い光を刃に宿らせている。

 

奥の方にあるこんもりとした塊も。追跡者にとっくに気付いているようで、その異形の巨体を広げつつあった。

 

魔女のバラ。

 

そう言われる存在である事は、ステルクの放つ雷光にそれが照らされた時、納得できた。中心部には、バラのような存在が確かにある。だがそれはあくまで似ているだけ。全体は巨大な棘だらけの触手の塊で、凄まじい魔力を纏っており、その触手を用いて、動き回ることが出来る様子だった。

 

プレッシャーが、凄まじい。

 

ファングと同等か、それ以上の敵と見て良さそうだ。

 

「国境で、隣国の兵士五十名以上を殺傷して、アーランドに逃げ込んできた強力なモンスターだ。 逃がして何処かの村を襲いでもしたら、取り返しがつかん。 必ずや撃滅する」

 

「わかりました!」

 

既に、向こうも此方を敵手として認めている。

 

そして、ファングと同じように、手負いでもあるようだ。辺りには食い散らかしたらしい、サラマンダーの死骸が点々としている。

 

だが、ロロナは、不安を感じてはいなかった。

 

「くーちゃん、大丈夫?」

 

「ええ。 彼奴程度なら」

 

「わかった。 わたしが大威力の砲撃を叩き込むから、時間を稼いで。 イクセくんは守備に集中してくれる?」

 

「良いのか?」

 

問題ないと、応える。

 

今回は、ステルクの戦力を宛てにしないで戦って見る予定だ。そしてそれでも勝てると、ロロナは計算を既に済ませていた。

 

何故、そのような事をするか。

 

多分クーデリアも気付いているのだが。どうも嫌な気配が、先ほどから追尾してきている。

 

下手をすると、この強大なモンスター以上の存在と、連戦になりかねない。

 

おそらくそれは、ステルクも気付いている筈だ。

 

あまり戦いには、時間を掛けられないが。

 

しかし、やれる。

 

一瞬だけ後方に視線を向けた後、ロロナは詠唱を開始する。一気に、敵を葬る。

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