暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
本作シリーズの悪魔族は、何度か説明していますが人間の亜種です。
彼らは独自の行動理念を持っていて、力も極めて強いため、人間に恐れられていました。
ですがそれが故に、一族でまとまって行動しなければならず。
ずっと苦しい立場にあり続けた存在でもあるのです。
序、闇の集い
其処には、人に似て人にあらぬ者達が、多数集まっていた。
悪魔。いつしか、そう呼ばれるようになった者達である。
いわゆる悪魔の一族は、大陸の全域に分布している。本来は、大陸の環境修復が目的の一族だ。ただし、現在は一族の殆どが人間との戦いに明け暮れ、本来の作業が出来ないのが現実である。
悪魔達の長と言えるのは、すなわちロードオブロード。存在そのものが王である故に、短縮してロードと呼ばれる。ロードは、現在、急ピッチで配下の悪魔達の再編成を進めている。その過程で、嫌でも悪い報告は入ってくる。主にその報告の殆どが、スピア連邦に関係するものだった。
敗走して、夜の領域に逃げ込んできた一族があった。
以前から、さほど数は多くない一族だったのだが。逃げ込んできたときには、既に四半減していた。
無念だと嘆く族長。傷だらけで、興奮は収まらず、まともに会話にならなかった。
ロードは、まずは回復の術を周囲の悪魔達に使わせた。落ち着くように言うと、食事も取らせる。
しばらく待つと、族長は、何があったのか話し始める。
「スピア連邦と呼ばれる国の走狗となった同胞達が、襲ってきたのです。 勿論我らもあらがいましたが、緑化作業を行っている最中に奇襲を受けたこともあり、何しろ相手の数が多かった事もあって、多くの一族が囚われてしまい……」
「そうか。 お前達も、やられたか。 生き残りの者達を休ませ、再戦の機会を待て」
「我ら以外にも、多くの悪魔が狩られたというのですか」
「そうだ。 スピア連邦は、悪魔の頭脳を改造し、人間の走狗にする技術を編み出したらしいのだ。 軍事利用が目的だろう」
怒りの雄叫びを上げる族長を下がらせる。
玉座にて頬杖をついたロードの元に、人間との交渉を進めていた部下が戻ってきたのは、入れ違いだった。
此方は、朗報である。アーランドの王は、交渉に応じるという事だった。
周りの部下達は、決して気分が良さそうでは無い。
だが、今のままスピアを放置することは、この大陸そのもののためにならない。錬金術の使い方を間違えた連中に、この世界を預けるわけにはいかないのだ。
「アーランドの王ジオは、ロロナと呼ばれる錬金術師を伴って、ここに来るそうです」
部下の言葉に、一瞬悩む。
そういえば、ロロナという名前に聞き覚えがあった。少し前、此処に侵入を企てたスピアのホムンクルスを尋問して、聞き出した名前だ。
そのホムンクルスは適当に痛めつけた後、記憶を消してアーランドに放り込んでおいた。今頃普通の労働者階級の子供として、扱われているだろう。アーランドは奴隷制が無い希有な国だし、ストリートチルドレンもいない。扱いは、充分に慈悲を伴ったものだったはずだ。
そいつだけでは無い。
何体かの長老級悪魔から、ロロナという名は聞いていた。直にあったと話している者もいたはずだ。そう、鉱山の悪魔の長や、沼地の悪魔の長だ。
「ロロナと言えば、近年、めざましい業績を上げている錬金術師だな。 鉱山の方にいる一族の長からも、話を聞いている」
「そういえば、私もこの間、鉱山の一族の長から話を聞きました。 大変評判が良い錬金術師のようですね」
「大丈夫、なのでしょうか。 スピアではなく、今度はアーランドが我々を虐げるのではありますまいか」
「アーランドは敵手として我らを認めている。 スピアはもはや、我らを狩りの獲物としか考えていない」
部下達が、わいわいと好き勝手なことを話し始める。
ロードは誤った。
以前は、スピアこそが、この混迷した大陸に一定の秩序をもたらしうると思ったのだ。その秩序の下であれば、緑化政策も効率的に進められると。
だが奴らは、旧時代の人類と同じだった。
森を見れば搾取し、大地を見れば略奪する。おのれを万物の霊長などと錯覚し、他の動物に敬意を一切払うことは無い。
そのような連中に、もはや与するわけにはいかない。
しかし、アーランドの王とて聖人君主では無い。
今までスピアに与していた事を当然責めてくるだろうし、共闘するにしてもどんな条件を出されるかわからない。
ロロナという錬金術師も、実際に会ってみないと、どんな存在かはわからない。それに人は変わるものだ。
長い時を生きて来たからこそ、よく分かる。
「静まれい」
皆が黙り込み、一斉にロードを見た。
立ち上がると、ロードは他の悪魔に比べて、さほど背が高い訳では無い。だが、その威圧感は、他を屈服させるには充分だ。
「とにかく、余はそのもの達に会ってみようと思っている」
「それは本当でありますか」
「危険なのではありますまいか」
「危険は承知だ。 今はとにかく、どのような手を用いてでも、スピアの異常な勢いを止めなくてはならん。 このままスピアが列強諸国を併合し、大陸を統一しても、長期的には悪いことしか起こらぬ」
悪魔達が顔を見合わせる。
彼らの中には、大局が読めない者も多い。わずかな数の一族を、魔術の力で維持しながら、ほそぼそと緑化を続けている者達。
大地の汚染を身に引き受けることで、異形化することを。かって祖先が犯した過ちの罰として受け取る思想にどっぷりと浸かっている者も多いのだ。そう言う者は、だいたい目の前の出来事を、現実的に処理できない。思想を一種の宗教にして、敬虔に守る事を生き甲斐としてしまっているのだから、無理もない。
勿論ロードも、祖先の悪行を償わなければならないとは思っている。
しかし、それには現実的な対処が必要不可欠なのだ。
部下達を解散させると、玉座にて考え込む。
どうも嫌な予感がしてならない。
スピアは本当に、自分だけの力で此処までの技術を手に入れたのか。優秀な五人の錬金術師がいるという話は知っているが、そいつらだけでどうにかなるものなのか。
錬金術は、方法さえ確立すれば、誰にでも出来る。しかしながら、その方法を確立するまでが、才能に左右される学問だ。
しかも、全分野に跨がる才能などと言うものは存在しない。五人程度の錬金術師が揃ったところで、此処まで急激な技術革新が出来るとは思えない。それを言うならば、ロロナもおかしい。まだ十代半ば程度だと聞いているのに、達成した業績が、あまりにも常識離れしすぎているのだ。
一体何が起きている。
ふと思い当たることがある。
もしそうだとすると、非常に面倒な事になる。
そういえば、奴は悪魔という存在そのものを、よしとはしていなかったはず。もし次の手を打ってくるとすれば。
最大級の警戒をしなければ、ならないだろう。
ただ、ロードも悪魔達の長だ。
生半可な相手に敗れるような、柔な存在では無い。大概の罠なら、正面から喰い破ることも出来る。
玉座にて、ロードは大きく息を吐いた。
敵がどこにいるのか。
手札が何なのか。
全く見えてこないこのもどかしさ。あまり、気分が良いものではなかった。