暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
休日でもできることはやっておく。
ロロナは真面目です。
ただし、その真面目体質が故に。突発的なことにも対応がしやすいのです。
六日間の休みをゆっくり満喫するわけには、いかなかった。
ロロナとしても、今後の事を考えると、のんびりはしていられなかったのである。未組み立ての湧水の杯を完成させて、王宮に持っていって。他にも納品を要求されているものを作って。
パメラのお店に行って、原液のネクタルを買い込んだ後、ティファナのお店で魔法の道具を買い込んで。
そして、武器屋に出向いて、杖を修理してもらった。
壊れていたのでは無い。
何カ所かに、アーランド石晶を埋め込めるように、調整してもらったのだ。
武器にも外付けの魔力供給装置である宝石を付けることで、更にスムーズな魔術の展開を可能にする。
この間のウィッチローズ戦で、短時間で大威力の魔術を撃ち込むことが出来た。
今後は更に時間を短縮し、消耗を抑えることが課題になる。
やるべき事は、出来るだけやっておいた方が良いのだ。
とにかく、無駄な時間は一秒でも無い。
忙しい中、六日が過ぎる。
武器屋で新しい杖を受け取った後、王宮に出向くと。すぐにステルクが出迎えてくれた。
今日も難しい顔をしている。
ただ、おそらく課題そのものは合格が出ているという確信はあった。事実、ステルクは不機嫌そうではなかった。
「まずは、課題の成果からだな」
ステルクがスクロールを広げる。この瞬間は、どうしてもいつも緊張する。
結果は、文句なしの合格。
まあ、自信はあったけれど。
それでも、やはりひやひやはした。
「既に王宮の魔術師達が、レシピの解析をはじめている。 量産体制が確立すれば、アーランドでの宝石不足は、一気に解消するだろう。 材料が材料であるから、輸出品としても今後は期待が持てる」
「えへへー、良かったです」
「それで、問題は今回の課題だ」
一気に、嬉しい気分が吹き飛ぶ。
ステルクの表情から言って、非常に難しい内容であることは、目に見えていたからだ。
スクロールを見せられて、驚いた。
夜の領域の調査を行う戦士の護衛、というのである。
いつの間にか、側に立っていたのは。
以前、ロロナと一緒にラプターステインを駆除した戦士、ジオであった。
相変わらず、上品な格好をしている。
足運びからもわかるが、ロロナではとうてい及ばないほどの力の持ち主だ。どれだけの戦闘力を秘めているやら、見当もつかない。
まさか、この人を護衛するのか。
げんなりしてしまう。
いくら何でも、無茶苦茶だ。ロロナが護衛される対象になるほどなのだけれど。しかし、ステルクは首を横に振るばかりだ。
「このお方の護衛をしてもらう事になる。 今回は私も同行するし、他にも君が同行を頼める人間全員に声を掛けた方が良いだろう」
「わかりました」
「どうした、自信が無さそうだな。 君には期待しているのだぞ」
ジオが、わかりきったことを言う。
ロロナの実力では、むしろ守られながらおっかなびっくり行く程度だ。
それにロロナだって知っている。
最近国境付近に現れた、超弩級の異境、夜の領域。中は常に夜になっていて、化け物じみた強さのモンスターが大量に闊歩し、岩が浮いていたり、歯車が空に浮いて廻っていたりと、この世とはとても思えない場所だというではないか。
生きて帰れるのだろうか。
とにかく、出発は三日後という事で、一度アトリエに戻る。
無理を言って、護衛してくれそうな人達全員に来てもらわないとまずいだろう。出来れば騎士団にも護衛を頼みたい位なのだけれど。
流石にロロナには、そんな権限は無い。
幸い、課題開始までの六日間で、可能な限りの準備は終えていた、発破の類も、できる限りの種類を集めた。
問題は、夜の領域が、殆ど未踏に近い場所だと言う事だ。
三日後までに、もう少し準備をしておかないと危ない。
最悪の場合は、何とか逃げ延びるための準備だけでもしないと。
幾つか、最悪の事態に備えた道具類を、作っておく。
それだけが、今のロロナに出来る、最低限の備えだった。
声を掛けられるだけの人は集めた。
今回は、ステルク、ジオを含めて、総勢で七人という大所帯だ。リオネラ、タントリス、イクセル、クーデリアと、それにロロナ。
これだけの人数で外出するのは、初めてである。
イクセルが来たので、渡しておく。
「はい、イクセくん、これ」
「お、なんだ」
「最悪の場合、地面に叩き付けてね」
「よくわかんねーけど、地面に叩き付ければ良いんだな」
ちなみに中身は煙幕である。
何故イクセルに渡したのか。
この中で、一番最前衛で戦う機会が少ないからだ。勿論必要なときには戦ってもらうけれど。
リオネラにも、渡しておく。
役立つだろうと思って、作っておいた腕輪だ。合計四つのアーランド石晶を埋め込んである。これを使えば、一気に詠唱や、魔術の展開が進められる。更に言えば、魔力の消耗も、押さえ込むことが可能だ。
「はい、りおちゃんにも、これ。 わたし自身で試してるから、凄く使いやすく調整されてると思うよ」
「わ、ありがと。 ロロナちゃん」
リオネラが吃驚するほど綺麗な笑顔を浮かべたので、ロロナの方が驚いたほどだ。側で見ていたクーデリアも、度肝を抜かれたようで、固まっている。以前までの恥ずかしがり屋で儚げなリオネラでは、明らかに見られなかった表情だ。
クーデリアは、大きなポシェットのようなものをぶら下げていた。
かなりの量の銃弾を用意してきたらしい。ここに来る際に、武器屋の親父さんに頼んで、更に補給までしたそうだ。
つまり、それだけの危険な探索、という事である。
「くーちゃんは、何か必要なもの、ある?」
「大丈夫、準備は終えてあるわ」
「そっか。 じゃあ、大丈夫だね」
二人の間では、それだけで通じる。
後はタントリスだが。タントリスは正直な話、戦闘スタイルが格闘技と言う事もあるし、魔術の類を使うようにも思えない。
其処で持ってきたのが、これだ。
「タントリスさん、これをどうぞ」
「なんだいハニー。 ええと、これは?」
「多分前線で格闘戦をずっとすると思って、ネクタルを濃いめに耐久糧食を作ってきました。 ただ体にはあまり良くないと思うので、ここぞと言うときにだけ食べてください」
「そ、そうかい。 嬉しいよ、ハニー」
タントリスは何故かどん引きしていたけれど、まあそれは良い。この人は何を考えているかよく分からないところがあるし、多分内心では喜んでくれているのだろう。そう信じることで、心を楽にする。
後は、ステルクとジオか。
二人とも優れた戦士だし、今更欲しいものなどないだろう。
一応聞いてみるが、特に問題は無い様子だった。
ジオは育ちが良さそうだから少し不安になったけれど。実際にはサバイバルの訓練は幼い頃からしているとかで、粗食も平気だそうだ。
なるほど。
ロロナが見たところ、相当なエリート教育を受けているという事か。戦士の中でも、特に有望だったのだろう。幼い頃から大人の戦士が受けるのと同じような訓練を、何の文句もなくこなしてきた、というわけだ。
だいたいこの人が誰なのかはもう見当がついているが。
敢えてそれは口にしない。
ただ、その地位に相応しいだけの訓練を、この人は幼い頃からこなしてきて。そしてこの年になっても、こなし続けている。
だからこそに、これだけの強さを維持できているのだろう。
アーランドの北門から出て、ひたすらに北上。
夜の領域は、近づけばすぐにわかると言う事だった。
途中、街道を警邏している巡回班とすれ違う。師匠が言うところの、ホムの姉妹達が、フォーマンセルの中に二人も混じっていた。
相当に、ホムンクルスは増えてきている、という事なのだろう。
それはおそらく、良いことでは無い。
戦争が、近いのかも知れない。アーランド戦士の数を少しでも補うため、ホムンクルスが増やされているのだとすれば。
あまり、喜ばしい事では無い。
丸一日北上して、キャンプスペースで休む。
荷車は二つ。一つは戦闘用の装備。もう一つは、素材を採集後、回収するための荷車である。
どちらもエンチャントしてあるので、運ぶのは極めて楽だ。
ただ、時々ステルクとタントリスが手伝ってくれるのは嬉しい。荷車を連結して移動させると、曲がるときなどが大変なのだ。エンチャントの補助があってもそれは変わらないので、男手が手伝ってくれるのは嬉しい。
イクセルはあまり手伝ってくれない。
というよりも、多分気がつかないのだろう。
この辺りは、幼なじみの悪い所かも知れない。ロロナの事を昔から知っているから、イクセルは遠慮しない反面、困っているときに気付いてくれない。
まあ、それは仕方が無い。
行く途中で消耗してしまっては意味が無い。
気分を切り替えて、進むことにする。
そして、その時が来た。
北上開始から、三日目。
それが、見えてきた。
噂通りというのか、何なのか。本当に、其処だけが、空が夜になっているのだ。あまりにも異様な光景に、頭を何度も振って、見直してしまったほどである。
夜の領域。
アーランドに存在する、超弩級の異界。
ロロナは、ついに其処に来たことを、その時悟った。
周囲には柵が作られ、砦のような見張り小屋が作られている。ステルクが、早速歩哨と交渉に行く。
というか、見て驚く。歩哨は、例の戦闘用ホムンクルスだ。ステルクとは、それこそ二倍近く背丈が違う子もいた。
ステルクが戻ってくると、ジオが皆を見回す。
「よし、ここから先は、何があるかわからん。 気を引き締めるように」
言われるまでも無く、わかっている。
ここから先は、死地。
少しでも油断すれば、死が待つ、悪夢の土地だ。
悪魔達の本拠地、夜の領域。
原作ではいろいろと曰く付きの場所なのですが、本作ではロロナは普通に訪れて、悪魔族と交渉することになります。
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