暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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苛烈なスピア連邦の走狗との戦い……

そして人間()のアーランド王と魔族の王が。

今邂逅します。





3、王と王

ロロナは焦りを押し殺しながら、手当を進めた。

 

よく分からない勢力に追撃を受けている以上、ゆっくりはしていられなかった。書状をジオが渡すのが今回の探索の目的だというのなら。可能な限り、急がなければならないだろう。

 

皆に耐久糧食を配って、その後医薬品を出す。

 

幸い、重傷者はいなかったけれど。

 

問題は、魔力の枯渇だ。

 

特にロロナは、持ち込んでいるアーランド石晶の魔力を、殆ど使い尽くしてしまった。これから補充するとなると、数日はかかる。

 

耐久糧食を、少し多めに食べる。

 

体の中から、力が湧いてくるのがわかるけれど。それでも足りない事も、よく分かってしまうのだ。

 

物資は既に相当量を浪費した。

 

このままだと、次の襲撃があった場合、支えきれないかも知れない。

 

ステルクが戻ってきた。

 

先には、待ち伏せの類は無いという。一度丘の上まで行ってみて、周囲を確認。それから、奥に行くのが賢明だろうと。

 

ロロナも同意見だ。

 

ジオが音頭を取ってくれる。

 

「そろそろ行くぞ。 忘れ物はないか」

 

誰も、文句は言わない。

 

坂を上がり始める。ロロナの側に来たリオネラが、小声で不安そうに言う。

 

「大丈夫、ロロナちゃん」

 

「うん、何とか。 でも、もう一度さっきの敵に襲撃されたら、厳しいかも知れない」

 

「無茶、したら駄目だよ。 いざというときは、私がどうにかするから」

 

リオネラの魔力は、ロロナよりもずっと上だ。

 

しかし乱戦では、出来れば自動防御を頼りにしたいのである。先ほどの戦いでも、リオネラに助けられた部分は、非常に大きかったのだ。

 

地面に点々としている死体が、減り始める。

 

乱戦の場を抜けたという事だ。

 

細切れにされ、散らばっている悪魔の死骸を見て、ロロナは目を背けた。明らかに洗脳されている様子だったし、助ける方法は無かったのだろうか。クーデリアが首を振る。きっと、無かったのだろう。

 

先ほどクーデリアが捕らえてきた男は、無言で歩いている。

 

側を離れないように言ってある。此処は魔境だ。アーランド人でも危ない場所。そうで無い人なんて、下手をすれば瞬時に命を落としてしまう。

 

モンスターが散見されはじめる。

 

先ほどの戦いの様子を、うかがっていた者達だろう。

 

気が早いモンスターの中には、死骸を貪りはじめている者達もいた。なんと言うことの無い、自然の摂理だ。

 

丘の上に、出た。

 

なにやら、巨大な目のようなものが見える。

 

洞窟状になっている場所があって、その真上。

 

ひょっとすると、あれが中心部だろうか。

 

かなりの数の悪魔が飛び交っているのが見える。おそらくは、ひょっとしなくても、その筈だ。

 

最大限の警戒を払いながら、進む。

 

ジオが、側に来た。クーデリアが、不安そうに眉をひそめるけれど。ロロナは、この人が無茶な事はしても、理不尽なことはしないと思っている。

 

「ロロナ君、少しばかり良いかな」

 

「はい、何でしょう」

 

「この探索が終わったら、君に同行して欲しい所があるのだ。 何、すぐに終わる程度の事だよ」

 

「わたしだけに、ですか?」

 

そうだと言われる。

 

何だか嫌な予感がしたが、話を最後まで聞く事にした。

 

「先ほど逃げていくモンスターどもの退路を、視線で追っていたが、どうやらアーランド側からではなく、隣国から入り込んでいるようでな」

 

「……なるほど」

 

まあ、当然だろう。

 

アーランド側は、砦も同然の監視施設で、がっちり固められていた。歴戦のアーランド戦士も、相当数が詰めているはず。

 

あのようなモンスターの群れが、通れるはずが無い。

 

「そうなると、謎が生じてくる。 連中は、どうして此方の動きを読めていたのか、わからない」

 

「つまり、見張りがいる、ということですか?」

 

「そうだ。 それをこの後、潰しに行く」

 

そうさらりと言うジオ。

 

相手を皆殺しにする気満々だとわかって、ロロナは眉根を下げた。だが、この人の言う事も、正しいとは思う。

 

不意に、大きな気配。

 

空から舞い降りてくるのは、非常に巨大な悪魔だった。今まで見た最大級のベヒモスよりも大きい。

 

思わず戦闘態勢を取る皆を、前に出たジオが制する。

 

「貴様らは何者か」

 

「招かれた者だが」

 

「証を、見せてもらおう」

 

ジオが取り出したのは、恐らくは髑髏をかたどった水晶だ。

 

それを悪魔の掌に置く。まるで豆粒のような水晶を、悪魔はしばらく見ていたが。ついてこいと言った。

 

どうやら、洗脳はされていないらしい。

 

ほっとため息をつくのもつかの間。

 

左右に、ずらりと悪魔が並んでいく。数十体はいるだろう。彼らがその気になったら、きっとジオとステルク以外は、誰も生き残ることが出来ない。悪魔達が路を作ったその間を、黙々と進んでいく。

 

生きた心地がしない。

 

ロロナは、悪魔は人間と同じだと思っている。

 

だからこそに、こういうときは怖いのだ。相手がその気になったら、此方はひとたまりもなく鏖殺されてしまう。

 

洞窟の入り口には、明かりを放つ、不思議な花がたくさん植えられていた。

 

それも一種類では無い。赤青緑、様々な色が重なり合って、幻想的な美しさを造り出している。

 

荷物を預かると言われた。

 

不安だったけれど仕方が無い。その場に荷車を置いて、ジオと一緒に中へ。他の皆は、此処に残るようにとも。

 

いざというときの人質、という扱いなのだろう。

 

洞窟の中は良く整備されている。鉱山などで見かける小型の悪魔が、隅々まで飛び回って、綺麗にしているようだ。

 

所々にあるろうそくは、火を出さず、魔術で明かりを灯している様子。

 

中には、小さな噴水もある。

 

だけれど、多分湧水の杯を使っているのでは無い。洞窟の中の、地下水をくみ上げているのだろう。

 

悪魔達の生活水準は、予想以上に高い。

 

いや、そうとも言えないだろう。

 

此処が悪魔達にとっての王宮だとすれば。或いは、これが精一杯、なのかも知れない。

 

奥に、広い空間があった。

 

天井が高い。

 

というよりも、天井そのものがなくて、岩が空に浮き上がっていたり、謎の歯車が廻ったりしている、謎の空間が直に見えている。

 

玉座に腰掛けているのは、何だろう。

 

今まで見た悪魔の中で、最大級のプレッシャーを感じる。腕が4本。骨をかたどった仮面を付けていて、タキシードのような、豪奢な衣服を身につけている。

 

あれが、悪魔の王の中の王なのだろうか。

 

腰掛けて此方を見ていた悪魔の王だけれど。

 

ジオが歩み出ると、立ち上がって、出迎えた。

 

これで確信できた。

 

ただの使者に、こんな風に接するはずが無い。ジオは。

 

「アーランドの王よ。 招きに応じていただき、感謝している」

 

「悪魔の王よ、途上の路で襲撃を受けたのだが」

 

「すまぬ。 此方もこの空間を維持するので手一杯でな。 襲撃に気付いたときには、既に貴殿らが撃退した後だった」

 

やはり、そうか。

 

アーランドでも最高位の人だろうとは思っていたけれど。王宮で見かけた騎士団長が名誉職的なお爺さんであった事や、働いている騎士の中にジオがいなかったこと。それに何より、今の悪魔の王の態度から言っても。

 

この人が。アーランドの国王である事は、間違いなかった。

 

まあ、もっとも。だいたい見当はついていたので、驚きは無かった。記憶がしっかり戻ってからというもの、頭が冴えている。他にも色々と推理できていることはあるのだけれど、まだ状況証拠が足りない。それらについては、仮説の域を出ないので、口にはしないことにしていた。

 

悪魔の王が、姿を変える。

 

人間になった。

 

それも、妙齢の女性にだ。ロロナよりも少し年上で、銀髪の美しいとても上品な女性だ。

 

「相手の警戒を買わぬ姿を取らせてもらっている。 不快であれば言って貰いたい」

 

「いいや、問題ない」

 

書状が、交換される。

 

ロロナは立ち入って良い話では無いので、少し距離を置いて、じっと見ていた。悪魔の中に、以前沼地で話をした、ひれの生えた姿がある。ロロナがにこりとすると、向こうも一礼してきた。

 

王同士の会話は、順調に進んでいるようだ。

 

少なくとも、ロロナの位置まで、険悪な雰囲気は伝わってこない。

 

「なるほど。 以前はスピアに与していた事を、認めるのだな」

 

「大陸を早期に統一した後、緑化を効率よく進めるという条約を結んでいたのだ。 スピアが抱える錬金術師に、技術も提供した。 だが、彼らはそれを兵器転用し、我らの技術者まで捕縛し、生物兵器に変えてしまった」

 

「なるほど、アーランドにここしばらく潜入していたモンスターがそれか」

 

「そうだ。 アーランド戦士の戦闘力を利用して、試行実験していたのだろう。 我らはスピアの凶行を、これ以上放置することは出来ぬ。 アーランドがスピアの中枢に打撃を加えるというならば、できる限りの手助けをしよう」

 

戦争に、なるのだろうか。

 

聞こえてくる話の断片だけでも、かなり物騒だ。

 

しばらくは、細かい部分の交渉が続く。今までの会話は、それぞれの認識についての確認のようだった。

 

ロロナは少し居心地が悪くなったけれど。

 

不意に、袖を引かれる。

 

悪魔の一体が、こっちに来て欲しいと言っているのだ。

 

言われたまま、少し距離を取って、壁際に。

 

見かけからして、沼地の悪魔の眷属だろうか。

 

「以前はお世話になりました。 提供していただいた物資で、無事に緑化作業を終わらせることが出来た事、感謝します。 我らが族長も、礼を述べていました。 今は忙しくて、直接話す事が出来ないのが、残念ですが」

 

「いいえ、役に立ってよかったですよう」

 

「其処で、お話しがあるのですが」

 

ジオの方を見た。

 

まだ、話はまとまっていないようだ。まとまるにしてもそうでないにしても、ロロナにはどうすることも出来ない。

 

それにあの様子では、交渉決裂したとしても、双方殺し合い、という事態にはならないだろう。

 

「わかりました、後で聞きますね」

 

「お願いいたします」

 

きっと、緑化についての話だろう。そうでなかったとしても、ロロナの力を宛てにしてくれるのは、嬉しい。

 

頭が冴えている今でも、人の役に立ちたいという気持ちは変わらないのだ。

 

ジオが何か書類を出している。悪魔の王がそれを見て、驚いているようだった。

 

「これを何処で手に入れた」

 

「うちの間諜は優秀でね。 それに、此方としても、スピアの中枢に探りは入れていたのだ。 一部の議員は、どうも急激な拡張策を好ましく思っていないようでな。 内通者を作る事にも成功している」

 

「むむ……」

 

「悪いが、もう少し、譲歩してもらおう。 君達の緑化技術の一部を、提供していただきたい。 残念ながら、スピアを潰しただけでは、アーランドの平穏は保てそうにもないのだ。 列強の信奉する経済主義は、最近拡大する一方。 スピアの急激な拡張も、それに基づいている部分が大きいのでね」

 

なにやら、悪魔側に都合が悪い資料が提供されたらしい。

 

露骨に困り果てている悪魔の王。

 

それに対して、攻勢に出たジオ王は、色々と条件を提示しているようだ。

 

見ていると、悪魔達は、大変素直だ。アーランド人も素直だけれど、それ以上に純朴なように思える。

 

だから、なのだろう。

 

話の断片を聞く限り、北にあって急成長しているスピア連邦に、騙されたのは。

 

一度、休憩が入った。

 

悪魔の王が、側近達と話を整理したいのだという。ジオとしても、それを受けるつもりのようだ。

 

ジオが、外に行って、ステルクと話をしてくると言う。ロロナが頷くと、口の端をつり上げるジオ。

 

「私の素性を知って、驚かないのだね」

 

「ここに来る前には、もう見当もついていましたから」

 

「そうかそうか。 最初に君を見た時は、とにかく頼りない錬金術師の卵だと思ったものだが、やはりアーランド人だな。 戦いを通じて、大きく成長する。 君が成人した頃には、アーランドの柱石になっている事を、祈っているよ」

 

此処に取り残される。

 

ジオは、ロロナが成長したと、素直に喜んでいたけれど。

 

それで、確信できてしまったこともある。

 

きっとあの人は。

 

いや、それを今恨んでも仕方が無い。ロロナとしては、今はとにかく、立場を少しでも良くすることだ。

 

クーデリアの立場を改善すること。それが当面の目標の一つである事は変わらないのである。

 

「そろそろ、よろしいですか?」

 

「あ、はい。 行きます」

 

悪魔に促されて、奥へ。ロロナとしても、話は早めに済ませておきたい。

 

広い空間からは、幾つかの通路が延びていて、その先に小さめの部屋があった。其処には地図が広げられていて、長老クラスらしい髭の生えた小型の悪魔達が、何名か話し合っていた。

 

ロロナを見ると、彼らは不安の光を目に宿らせたけれど。

 

ロロナが丁寧に頭を下げて礼をすると、少し緊張を和らげてくれたようだ。

 

地図には、失われた民の都、とある。

 

「貴方が、アーランドで噂になっている錬金術師、ですな。 鉱山にいる長老からも、良い評判を聞いております」

 

「ありがとうございます。 あの長老さんは、とてもいい人で、いつも助かっています」

 

そう言うと、悪魔達は、微妙な顔をした。

 

やはり、そうか。

 

今の反応で、一つ確信が持てた。

 

でも、敢えて自分からは言わない。言っても、やぶ蛇になるだけ。その程度の知恵は、今なら働く。

 

「実は、少しばかり手伝って欲しい事があるのです。 このいにしえの都は、今封印されているも同然の状態でしてな。 我らの大事な技術を、どうにか回収したいと思っているのですが、中々上手く行かない状態なのです」

 

「わたしは、何をすれば良いんですか?」

 

「空気を造り出す道具を、造って欲しいのです」

 

悪魔達が言うには、現在魔力でチューブを造って、中に入り込もうとしているらしいのだけれど。

 

どうしても、新鮮な空気が不足して、活動時間が足りないのだという。

 

話を聞いていくと、驚く。

 

なんとこの都、ネーベル湖の地下にある、湖底洞窟から行けるというのだ。

 

完全に水没してしまっていて、普通ではどうやっても行く事が出来ない。しかし、悪魔達の手助けを受ければ、或いは。

 

ロロナとしても、様々な湖底の素材には興味がある。

 

それに、悪魔のほしがる技術とは何だろう。

 

一応、皆には話した方が良いとは思うけれど。最悪の場合、その場で止めれば良い。ロロナも立ち会うつもりだ。

 

「わかりました。 わたしと、仲間達も其処へ出向くという条件で、何とかします」

 

「助かります。 それで、具体的な話ですが……」

 

幾つか話をして、それで頭を下げて部屋を出る。

 

外では、クーデリアが待っていた。

 

「そろそろまた始まるらしいわ。 急いで」

 

「うん。 それにしてもわたし、どうして呼ばれたんだろう」

 

「さっき小耳に挟んだんだけれど、悪魔の王が貴方に興味を持っているらしいわよ。 王同士の交渉の後、声が掛かるかもね」

 

「ふうん……」

 

ロロナの業績は、悪魔達にも認められている、という事なのだろうか。

 

いや、それはあまりにも、楽観的にものを考えすぎだ。

 

誰もいないことを確認してから、ロロナは声を落とす。

 

「もう確信できたことがあるんだけど」

 

「何」

 

「悪魔って、きっと人間そのものだった人達が、何かのきっかけで変わってしまった存在なんだね」

 

「……やっぱり」

 

クーデリアも、それは感じていたのだろう。

 

話を総合すると、人類が滅びかけた時代、世界にはあまりにも危険な何かがばらまかれた。

 

それを命に代えて回収しながら、世界を少しでも良くしようとしている人達が、今の悪魔なのだろう。

 

それならば、人間の姿のままでのうのうとしていると、激高した悪魔の若者達の事も、理解できる。

 

多くの悪魔が、人を恨む事も。

 

「帰ったら、パメラさんと、師匠に聞いてみるつもり」

 

「そうね、それがいいわね。 今のあんたになら、きっと教えてくれるわよ」

 

「うん……」

 

知恵がつくと、わからない方が良かったことが、どんどんわかってきてしまう。

 

ロロナには、クーデリアが。周辺を取り巻くこの異様な環境を作ってきた立役者の一人である事も、もうわかっている。

 

だけれど、それでも関係なしに、クーデリアは大親友だ。

 

何かあったら、まずクーデリアに相談する。何か発見があったら、二人で共有する。今後も、それに変わりは無いだろう。

 

広い空間に出ると、ジオが丁度来たところだった。

 

悪魔の王も、既に側近達との話を終えたらしい。休憩は終わりだ。これから、実際に刃を交えるのと変わらない、激しい戦いが、また始まるのだ。

 

 

 

二度の休憩を挟んで、ロロナは荷車の方へ一度戻った。

 

現在の戦力を、確認して起きたかったから、である。

 

発破の類は、半分以上を使ってしまっている。

 

ただし、耐久糧食はまだ充分にある。

 

イクセルは悪魔達に断って、堂々と辺りで食べられそうなものを探しているようだ。茸をたくさん見つけてきては、素材回収用の荷車にどっさり入れている。タントリスはと言うと、悪魔に可愛い女の子はいないかと聞いて、どん引きさせていた。

 

彼らのようなたくましさが、ロロナにも欲しい所だ。

 

リオネラは荷車の影で座っていた。

 

やはり、不安なのだろうかと思ったけれど。違う。

 

アラーニャとホロホロと、自分の中で会話しているようだ。奇襲を受けたらどうするか、最悪の事態はどうしたらよいのか。そんな風なことを、詰めているらしい。

 

邪魔しては悪い。

 

そう思って、そっとロロナは側を離れた。

 

ステルクはと言うと、堂々と皆が見える位置に立って、警戒を怠っていない。

 

最悪の場合は、自分が盾になって、皆を逃がすつもりなのだろう。縛られたまま憮然としている間諜のおじさんは、何も喋らない。もう、観念しているのかもしれなかった。

 

「ロロナ君、交渉は順調に進んでいるか?」

 

「はい。 ええと、陛下は」

 

「あの方も、趣味が悪い。 君がとっくに気付いているのを理解した上で、同じように呼ばせていたからな。 わかっているとは思うが、よそでは陛下と呼ばないように。 あれでもお忍びのつもりなのだ」

 

「はあ……」

 

確かに今考えて見ると、色々とおかしな事が多すぎるけれど。

 

まあ、言われなければ、それほど目立つことは無いだろう。

 

ステルクはと言うと、そんな王様に、腹も立てているようだ。自覚を持って欲しいとか、もっと民のために働いて欲しいとか、ずっとぶつぶつ言っている。

 

ひとこと断って、交渉の場に戻る。

 

そろそろ、始まる頃だと思ったからだ。

 

代わりに待っていてくれていたクーデリアが、交代して荷車の所に戻る。交渉はもう大詰め。

 

だいたいの話に妥協点が出たようで、ジオは満足げに頷いていた。

 

「うむ、これなら良いだろう」

 

「我らも世界のために生きているのだ。 それを忘れないでいてほしい」

 

「わかっている。 やがてこの大陸が再び緑に包まれるときには、貴殿らも人と呼ばれる存在に戻れることを、祈りたいところだ」

 

王二人が、握手を交わす。

 

ロロナが拍手すると、見ていた他の悪魔達も、それに倣った。

 

ジオは少し驚いたようだが。

 

悪魔の王は、もっと驚いていたようだった。

 

帰りには、護衛を付けてくれると、ジオが話してくれた。行きの際の襲撃を考慮して、ロード級の悪魔数体が、一族を連れて護衛してくれるという。

 

ジオが、声を落とした。

 

「それでは、夜の領域を出たら、クーデリア君とステルクに荷物を預けて、後は別行動だ」

 

「わかりました。 でも、発破は持っていっても良いですか?」

 

「そうだな。 しかし、奇襲をするのに邪魔にならぬか」

 

「大丈夫です。 何とかします」

 

ジオの目的が読めない以上、怖い事には違いない。

 

だが、此処を無事に出られる事の方が、今は嬉しい。

 

数体の巨大な悪魔が、周囲を飛び始めた。彼らが護衛だろう。あまり此方を良く想っていない悪魔も多いだろうけれど。王の命令だ。少なくとも、此処を出るまでは、しっかり仕事をしてくれるはずだ。

 

クーデリアとステルクに、話はしておく。

 

「せめて、あたしが残りたいんだけれど」

 

「ううん、陛下が駄目だっていうから」

 

「そう。 万が一は無いと思うけれど、気をつけて」

 

クーデリアが、荷車を持ち帰ってくれることを約束。彼女に任せておけば、仕分けも問題なくやってくれるだろう。

 

帰り道、珍しい素材をあらかた回収。

 

これで、今期の課題は終了、と言うことになる。王の護衛が出来たかはわからないけれど。

 

いや、違う。

 

これはきっと、何か別の目的があっての事だったのだろう。

 

一度だけ、悪魔達の王宮になっている場所を、振り仰ぐ。

 

やっぱり、わかっていたけれど。

 

悪魔とは、人間だった。

 

人間が、悪魔に一番近い存在だと言う事はわかっていたけれど。

 

こんな皮肉。一体、世の中は、どうなっているのだろう。

 

それに、ロロナが知る限り、人間の方が、余程悪魔らしい。胸の中のもやもやを、はき出す手段が無いのが口惜しい。

 

リオネラが心配そうに、ロロナを見ている。

 

心配させてはいけないなと思って。ロロナは、無理矢理に、笑顔を作ったのだった。






今までロロナがしてきたことが、交渉の切り札になります。

それは決して偶然ではありません。

必然です。



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