暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
アトリエシリーズで無理がある道具と言えばエアドロップです。
流石に巨大な魔物がいる水中に、息ができるからといって飴一つで突っ込むとか無謀にもほどが有り過ぎますよね。
だから毎回、二次を書くときにアレンジしています。
今作でもそれは同じです。
完成したマリンナイザーを三機。更に、エアドロップを充分な量詰め込んで、ロロナはアトリエを出た。
既にクーデリアにひとっ走り行って貰って、悪魔達との合流は日時をあわせてある。
後は、ステルクに出来れば護衛を頼みたかったのだけれど。
今回は無理と言われてしまったので、仕方が無い。ロロナとクーデリア、リオネラだけで行くことにする。
タントリスは父の所で大臣の修行をすることに決めたとか、この間告げてきた。今後も護衛の仕事は受けるけれど、その頻度は下がるだろうとも。勿論修行したからと言って大臣になれるわけではないだろうけれど。父を安心させる事は出来るのだろう。
良い事だと、ロロナは思う。
クーデリアの所の悲しい親子関係を見ていると、なおさらそう感じるのだ。
改善出来る関係なら、そうした方が良い。
荒野をできる限り急いで北上する。何だかおかしな事になっているようだし、襲撃を受ける可能性もあるからだ。
今なら、多少の戦力なら、跳ね返せる自信はある。
あれから杖も改良を続けている。体にも、幾つかアクセサリを付けて、それらには皆アーランド石晶を仕込んでいる。
今開発しているのは、神速自在帯とでも名付けようと思う装飾。
これは加速の魔術を極限まで掛けて、なおかつ仕込んだアーランド石晶にエンチャント持続の効果を入れることで、半永久的に戦闘での加速機動を実現するものだ。これを完成させれば、ロロナは完全に攻撃に回ることが出来、ガードが必要なくなる。
そうなれば、リオネラもクーデリアも、それぞれが攻撃に全力を集中することが可能になる。
似たような装飾は、上級魔術師が今まで作った事があるけれど。
それらは、目玉が飛び出すような高級品だった。勿論、最上位の魔術師や、とてもお金がある人、アーランドで言えば国家軍事力級の使い手にしか支給されないような、国宝だったのだ。
ロロナがこれを量産することが出来れば、戦場の歴史が変わる。もっとも、今はまだ試作段階で、問題が山積しているが。
ただ、今までに無かった技術では、ない。
単に宝石が高価で、作りようが無かったものなのだ。ロロナがアーランド石晶の量産に成功したからこそ、出来るようになっただけ。
別に凄い発明品では無いと、ロロナ自身も思っている。恐らくは、宝石がたくさん産出する国では、実用化している場所もある可能性が高い。
これはまだ実用には届いていないが、幾つか試作段階のアクセサリを身につけているし、今回の戦力は今までで最大。ステルクがいなくても、どうにかなる自信はある。ただ、それでも、万全は期したいのだ。
悪魔達と合流。
今回は荒事を想定しているからか、かなりの大型悪魔も一緒にいた。強面で、見るからに機嫌が悪い。
頭を下げて挨拶するけれど、返事もしてくれなかった。
きっと、人間を良く想っていない悪魔の一人なのだろう。
「それで、今回は問題ない、という事なのですかな」
「はい。 完成しました」
「おお……」
歓喜の声を上げる長老と裏腹に、他の悪魔達が顔を見合わせる。
それにしても、水中に伸ばせるチューブを作れるほどの技術があるのに。空気を作り出す事が出来ないというのも、どこかちぐはぐではある。
まず、ロロナ達で、チューブの最下層に降りる。
そして、マリンナイザーのバルブを捻った。少しずつ、放出する空気の量を、多くしていく。
クーデリアはしばらく無言だった。
やがて、ロロナが咳払いして、話しかける。
「どう、声、変じゃ無いかな」
「今回はまともよ」
「そう、良かった」
それなら、安心か。
更に空気の量を多くしていく。緊張の一瞬だ。ウォルフは実験の後放してあげたけれと、ぴんぴんしていた。
人間だって、平気な筈。
リオネラが、不安そうにしている。彼女は以前と違って、とても明るくなったけれど。反面、怖がったりしている様子が、非常に人間らしく出るようになった。何というか、庇護欲を誘う雰囲気である。
多分男子から見たら、以前の薄幸で影があるリオネラと。今の人間らしい優しげなリオネラとで、好みが分かれることだろう。
「ロロナちゃん、まだ、実験は終わらないの?」
「うん、大丈夫」
「アラーニャとホロホロが、気をつけろって言っているの。 念のため、自動防御を展開するよ?」
「! わかった。 お願い」
何か危険があると言うことだ。
リオネラの魔力は、ロロナよりずっと上。その分、勘も働くと言う事だ。
ここから先は何があるかわからないし、慎重には慎重を重ねた方が良い。ロロナは深呼吸すると、一旦戻る事にした。
悪魔達は、首を長くして待っていたけれど。
下の呼吸は、かなり楽になったことを伝えると、何人かが連れ立ってロロナと一緒に来た。
そして、目を見張る。
「おう。 非常に空気が濃くなっている!」
「これなら作業に支障が無い」
「気をつけてください、何だか嫌な予感がします。 奥に恐ろしい存在がいるのかも」
「わかっています。 いわゆるガーディアンがいる事は、想定済みです」
悪魔の技術者達が、さっそく作業を始める。
魔術を展開していくのだけれど、彼らのは、人間が使うものと根本的に違う。今まではゆっくり側で見ることが出来なかったので、参考になる。
人間は魔術を口で唱えたり、動作で完成させる。
いわゆる呪文詠唱である。
だが悪魔達は、同じ事を別の手段で行っている。息を吸い込むことで喉を鳴らし、魔術を詠唱するのだ。
つまり、吸うと吐くの違いである。
それに、これならば魔術が使えない理由もよく分かった。
マリンナイザーを、もう少し捻っておく。空気が更に濃くなってきて、悪魔達は喜び勇んで魔術を使う。
チューブがみしみしと音を立てながら、奥に広がっていくのが分かる。マリンナイザーが爆発しないように、バルブを再調整。
リオネラはじっと、奥の方を見ていた。
きっと、そちらに何かいるのだ。クーデリアが無言のまま、上に行く。荷車を取りに行ったのだ。ロロナも手伝う。
チューブの傾斜は激しくて、荷車を下にまで運ぶのは苦労する。リオネラには、自動防御を展開していてほしいから、そのままでいて貰う。運びながら、クーデリアは、珍しく不安げな事をいった。
「もしも何か危険があるなら、入り口の方じゃないかしら」
「うん、それはわたしも思う。 もしこの間の、夜の領域みたいな兵力で襲撃されたら、逃げ道がなくなっちゃうね」
「だから籠城に備えて、これを運んでいるのよ」
「あ、なるほど」
このチューブは、延長が出来る。
最悪の場合、入り口を閉じてしまって、別の所から脱出すれば良い、というわけだ。
最下層まで降りる。冗談のように巨大な魚が、此方を物珍しそうに見ていた。島魚でさえ一呑みにしそうなサイズだ。
ロロナと目が合う。
向こうも、目があった事に気付いたのか、じっと見つめ返してきた。
いきなり、ぱくりとしてくるけれど、チューブに阻まれる。ひれを小刻みに動かしながら、大きな魚はもやが掛かったように暗い水の向こうへ消えていった。
リオネラが自動防御を展開している横で、悪魔達が詠唱を連続して行って、チューブを延長している。
その中の長老が、降りてきたロロナに聞いてくる。
「もっと空気を濃く出来ませんかな」
「ごめんなさい、これが限界です。 これ以上バルブを捻ることが出来ないように、設計してあります。 下手をすると、マリンナイザーが爆発してしまうので」
「なんと。 なるほど、それは慎重に」
ひょっとして、勝手にいじろうとしたのか。
危ないと思ったので、マニュアルを渡す。提出分では無いので、ざっとクーデリアに精査してもらっただけだけれど。
ロロナがよく使ってしまう擬音は、できるだけ排除してある。
魔術を唱えてチューブを拡大する悪魔達の中で、監督のような仕事をしている長老が、なるほどと何回か頷きながら、目を通していた。
確かに、チューブを広げれば広げるほど、空気が薄くなっているのがわかる。
「少し休憩を入れながら作業を進めてください!」
呼びかけて、作業速度を落としてもらおうと思った。だが、悪魔達は聞いてくれない。
心配しなくても、エアドロップはたくさんたくさん持ってきている。おそらく、どれだけ乱暴に使っても、尽きることは無いだろう。
ただ、作業速度が、予想より早すぎる。
しかも悪魔達は休憩知らずで作業をするものだから、このままだと、マリンナイザーの空気供給速度が追いつかなくなる。
このままだと事故になりかねない。
長老を呼んで、今後の計画について話す。長老によると、これからチューブを一気に目的地まで伸ばしたいという。休憩無し。しかも、今日中に、だ。
「一体どうしてそんなに急いでいるんですか」
「……悪いが、安易に話せることでは無い」
「でも、此方も危険を考慮して、作業をしています。 このままだと、事故につながりかねません」
休憩を入れた悪魔達は、また考え無しにチューブを伸ばしはじめた。
マリンナイザーの二機目を起動しようかと思ったけれど。考え直さなければならないかも知れない。
湖底の洞窟が見えてきたと、前の方にいた悪魔が知らせに来た。
この洞窟を抜けた、地底の空洞に、その目的の遺跡があると言う。ロロナとしても、早めに目的は達成したいとは思っている。
しかし、今のままでは、危険すぎる。
クーデリアが咳払いした。
目が据わっている。これは、ひとこと言うつもりだ。
「計画を練り直すわよ」
「そんな、勝手な」
「そちらの方が勝手でしょう!? 危険を顧みずに作業をするなって言っているのに、どうして聞かないのよ!」
悪魔達とロロナ達の間に、険悪な空気が流れる。
悪魔の長老が、一旦作業を停止すると言うと、ようやく空気がわずかに弛緩した。ただし、作業中の悪魔達は、不満をありありと目に浮かべていた。
マリンナイザーから、空気は出したままにする。現在工事中の最深部へ置いてきたのは、其処から空気を出す事で、薄くなったり汚染されたりしている分を追うためだ。
一旦地上に出たのは、クールダウンのため。
湖底とはいえ、水を防ぐチューブの中にいるからだろうか。中は妙に暑い。それで、皆もイライラしてしまうのでは無いのか。そう思って、外に出てきたのである。
地図を広げる。
大柄な悪魔達と、面と向かって工事計画について話すのは初めてだけれど。先のようなことになると、後が大変だ。しっかり計画は練らないと危ない。
「なるほど、作業の空気消費量と、マリンナイザーの空気生成量が、釣り合っていないというのですな」
「はい。 このままだと、きっと倒れる人が出ます」
「しかし、我らにも時間が無い。 近々スピアとの戦いも控えているし、このままでは間に合わぬのだ」
「……?」
どういうことか。
この先にあるのは、兵器か何かと言う事なのだろうか。
長老は頭を振ると、教えてくれる。
「やむを得ん。 どうせ辿り着けば話す事になったのだし、貴方なら、良いだろう。 確かに噂通り極めて誠実な錬金術師のようだ。 実はな、空間転移の技術が、この先にあるのだ」
「空間転移、ですか」
「とはいっても、さほど便利なものではない。 上級の悪魔や魔術師が使うこともある程度のものだ。 使うには魔力も必要とするし、事前に転移座標を決めておかなければならない。 それほどの長距離も移動できない。 ただ短距離を飛んで奇襲したり、撤退するには有益な技だ」
確かにそう言う技術がある事を、ロロナも知っている。
同じような技術で、空中に見えない足場を作ったり、あり得ない超加速を行ったりする技もある。
ただこれらは一種のスキルに近い存在として認識されている。
つまり、万人が使えるものではない。
万人が使える技術となったら。確かに、それが産み出す利潤は、計り知れないものとなるだろう。
なるほど、悪魔達が、発掘に躍起となる筈だ。
「発掘と言っても、何かの書物として、あるんですか?」
「説明してもわからぬだろうが、そんなところだ。 とにかく、急いで進めなければならん」
地図を取り出してくる長老。
ロロナは頷くと、今までの様子から考えて、線を何カ所かに引いていく。
「此処まで進んだら、一旦休憩としましょう。 空気を入れ直して、それから続きの作業です。 後は、順次同じように」
「いいなりになるようで気に入らん」
不意に口を挟んできたのは、最初に顔合わせをした、非常に大柄な悪魔だ。
目には強い不審。怒り。
それに、自身への信頼が宿っていた。
「俺たちの屈強な肉体を用いれば、多少の過酷な環境での作業くらい何でも無い。 そもそも貴様らに力を借りる必要さえないのだ」
「ジョネフェス!」
「いいや、長老、言わせて貰うぞ。 確かに此奴は、嘘を言わずに、何だか空気が出る道具を持ってきた。 それは人間にしては立派だと認める。 だがな、そんなもの最初からいらないと、俺は言っていたはずだ。 最悪俺一人でも、発掘はやり遂げてみせる」
「ちょっとあんた、言いたい放題ね。 あんた一人で好き勝手して、失敗したらどうするっていうのよ!」
「クーデリアちゃん」
真っ青になって、立ち上がりかけたクーデリアの袖をリオネラが引く。
クーデリアとジョネフェス。二人の視線は、火花が出るほどに激しくぶつかり合っていた。
しかもロロナが見たところ、この大柄な悪魔ジョネフェスの実力は、纏っている魔力や足捌きなどから判断して、多分クーデリアと同じくらいだ。ロード級というほどでは無いにしても、相当な猛者である。
性格も似ているようだし、それならばぶつかり合うのも当然かも知れない。
「ジョネフェス、落ち着け。 ロロナ殿。 作業が遅れているのも事実なのだ。 多少無理してでも、一気に進めたい此方の気持ちもわかって欲しい」
「命を無駄にしても、ですか。 それは」
「俺たちはな、生まれたときから、命なんて無駄にしているも同然なんだよ」
怒りを込めて、ジョネフェスが声を絞り出す。
彼らの事情は、もうロロナも知っている。だから、その意味は、よく分かる。
生まれながらにして、世界に撒かれた恐ろしい毒を中和する路を選んだ一族。その過程で異形化し、生殖さえ出来ない身になり、今でも苦しみと闘いながら、世界の浄化を続けている。
元は同じ人間。
それなのに、異形から悪魔と呼ばれるようになってしまった存在。
悲劇を知っている。だから絶対に、彼らの命を、粗末になどしてはいけないのだ。
ぎゅっと唇を噛む。
此処は説得しなければならない。例え、力尽くでも。
「貴方たちの命は、無駄なんかじゃありません!」
「知った風な口を」
「知っています! だから、無駄じゃないって言うんです!」
ジョネフェスが、怒りのうなりを上げた。
ロロナだって引けない。
「止めて!」
「止めぬか!」
同時に、二つの声が、間に割り込む。
ジョネフェスの体に、光の輪が巻き付くのと。ロロナが、不意にへたり込むのは同時だった。
何だろう、今のは。
無理矢理座らされたようだった。
リオネラの目が、淡く光を帯びて輝いている。これが、或いは。話に聞いた、サイコキネシスの、本来の使い方なのか。
ジョネフェスも不満そうだけれど、そのまま無理矢理座らされる。
長老が大きく嘆息した。ジョネフェスを縛った光は、長老の魔術であったらしい。
「折衷案と行こう。 このままでは、無駄に時間を浪費するだけだ」
「……休憩時間を減らす、という事ですか」
「いや、距離を減らそう。 つまり、休憩を小刻みに多めに入れる」
長老が、地図に線を入れていく。
ロロナが引いた線の、間に一本ずつ。なるほど、それならロロナとしても、異存は無い。細かく作業をしていくことで、危険度も減らすことが出来る。
「ちっ。 まあいい、それでいいだろう」
ジョネフェスが視線をそらす。
ロロナも、少し熱くなりすぎていた。
作業が再開される。
時間が空いたからか、チューブの中はかなり過ごしやすくなっていた。クーデリアが、外に残るという。
「見張りはあたしが悪魔達と行うわ。 中は任せるわよ」
「うん、お願いね」
暗い湖底での作業が進められる。
悪魔達が息を吸いながら、魔術を展開。確かに言うだけあって、ジョネフェスの作業効率は高く、見る間にチューブが進んでいく。
湖底の洞窟に突入。
二つ目のマリンナイザーを設置して、バルブを開いた。こうすることで、毒の空気を、効率よく追い出すのだ。
一旦休憩。
やはり進む速度が極端すぎる。少し息を吸って吐いて、しばらくはマリンナイザーを動かさないと駄目だと、ロロナは判断。また、マリンナイザーに、エアドロップを追加もした。
作業を横目で見ていたジョネフェスが、語りかけてくる。
「なあ、知ってるか」
「何を、でしょうか」
「俺たちは息を吐くとき、同時に毒を吐いているらしいんだよ。 昔の人間だったら、今のこの場所にいたら、とっくに死んでいる、って話だ」
「……」
そう言う意味でも、人は強くなっているのか。
パメラに聞いた、人の罪業の歴史を思い出してしまう。ジョネフェスは、巨大な人型だが、生殖器も見えないし、角もたくさん頭に生えている。部分的には、あまり人間とは似通っていない姿だ。
しかし、そのシルエットは、翼と尻尾を除けば、人そのもの。
「俺は生まれたとき、男だったのか女だったのかさえわからん。 俺が子供を作る時は、一族の他の誰かとの情報を混ぜ合わせて、魔術で作る。 そうして出来た子供は、半分も、一年を生きられない」
命って何だ。
俺たちは、なんでこんな戦い方を、生まれる前に選んだんだ。
どんと、空気のチューブをジョネフェスが叩いた。ロロナには、応えることが出来ない。人間は罪業の時代を超えて、強くなった。
「俺は、俺たちがこんな事を続けなければならない時代を、さっさと終わらせたいんだよ」
そういうジョネフェスの顔は、ロロナの所からは見えなかった。
しばらく待つ。
空気がそろそろ充填されてきたので、作業再開の指示。
長老が監督している事もあって、今度は悪魔達も、言うことを聞いてくれる。作業は着々と、進んでいった。
無駄口は、誰も叩かない。
或いは、ジョネフェスと同じ事を。みな、考えているのかも知れない。