獣耳少女になりました(嬉しくない)   作:きし川

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獣耳少女になったら人類の存亡を背負わされる世界

 獣耳少女になりました。

 全然嬉しくない。

 生前はかなり好きだったのに。

 

 なぜ嬉しくないのか?

 それを語るには、まず獣耳少女になった経緯を説明しなくてはならない。

 

 

 私は転生者である。

 以前はしがない一般人だったが、巻き添え事故で人生に幕を下ろした。

 そして次の瞬間には、この世界で産声を上げていた。

 初めて死を経験したが、あっさりだった。

 そして転生とは、こんな部屋のスイッチを点けたり消したりの感覚で生まれ変わるものなのかと拍子抜けに思えた。

 

 今生の母に抱かれていると白衣を着た男がやってきて、母親に一言「この子には適性が確認されました」と言った。

 途端に母親は泣きはじめて、「どうかこの子だけは」と私を強く抱きしめて懇願していた。

 しかし男は「規則ですので、どうかご理解を」と私を母親から取り上げたのだ。

 男に抱えられてどこかへ連れて行かれる間、母親の泣き叫ぶ声が廊下にまで響いていたのを憶えている。

 

 親から引き離された私は小さなカプセルに入れられ、何らかの薬で眠らされた。

 気がつくと、どこかの施設にいて、そこで手厚く育てられた。

 あまりにも丁寧かつ慎重に、過保護という言葉すら温いと思えるほどに。

 しかしながらそんな扱いをされていたが自由はなく、施設には不思議なことに窓はないため景色を見ることもできなかった。

 また過剰に政府を支持するような情操教育が目立っていた。

 まるで私に政府を盲信するように仕向けるような魂胆がひしひしと感じられた。

 政府に反抗する気はないが窮屈な生活には辟易していた。

 

 施設に来て十年が経ち、私は母親から私を取り上げた男の言った〈適性〉の意味を知ることとなった。

 それは俗に〈魔法少女〉と呼ばれている存在への転換。

 私はこの時、初めて世界の実情を知った。

 この世界は未知の生命体により存亡の危機にあって、それを食い止めるないし解決するのが〈魔法少女〉の役割だと言う。

 

 〈魔法少女〉への転換は速やかに行われた。

 私の意思の介入の余地はなかった。

 有無を言わせず施術は決行され、私の身体には獣耳と尻尾が生えていた。

 身体に今までになかったものが付いている。

 その違和感に顔を顰める暇もなく、けたたましい警報が鼓膜を叩き、私は何の訓練もなしに戦いに駆り出された。

 私はこの世に生まれて初めて外へ出た。

 赤錆色の大地がずっと続く、空気が薄く、寒い場所。

 私がいるのは地球のどこでもなかった。

 太陽系第四惑星――火星。

 私は転生前の時代よりも未来の世界に生まれ落ちていた。

 

 その事実に私は動揺を隠せなかった。

 だが私の事情などお構い無しに敵は来た。

 必死に戦った。

 無我夢中だった。

 独立型戦闘補助AI〈REY〉のアドバイスを聞きながら、襲撃してきた敵〈アンノウン〉を返り討ちにした。

 死を経験したとしても人は死を恐れるものだと思い知らされた。

 

 かくして私の初陣は白星を飾り、施設の大人たちに絶賛された。

 私を指して〈次世代型の成功作〉と言っていた。

 聞くところによると獣耳と尻尾のある〈魔法少女〉は次世代型であるらしい。

 

 嬉しくない。

 全くもって嬉しくない。

 私は自分の未来を憂いた。

 この先、死ぬまであるいは戦えなくなるまで〈アンノウン〉と戦わされ続けるのだ。

 今も憂いている。

 次世代型の目的は太陽系外からやって来る〈アンノウン〉を火星で迎え撃ち地球に到達させないこと。

 そのため次世代型の数を揃えることは急務であり、次世代型の最初の成功作である私はデータを取るためにさらに苛烈な戦場へと駆り出されるというわけで、実際そうなった。

 

 

 

 今日の私もそうであった。

 初陣から八年が経過した今でも戦闘のない日がない。

 何百、何千回……もしかすると一万回を超えたかもしれない戦闘を終えて、その場に座り込み、武装である多機能大盾マルチファンクションシールドビットを地面に突き立てて背中を預けて、槍のような杖を地面に置く。

 背中に感じる盾の装甲面は度重なる攻撃を受け止めて傷だらけ。

 私を中心に周回する五基の大盾も同様の有様だ。

 自己修復はできるため次の戦闘には万全に挑めるが、いつかは戦闘中に破壊されそうである。

 この盾がそうなった時、私も同じく死ぬだろう。

 守ることしか取り柄がない者がそれすらできなくなれば当然の末路だ。

 

「おーい」

 

 頭上から声をかけられた。

 見上げると赤いマントに身を包んだ少女が降下してくるのが見えた。

 ステルス機能と多少の攻撃から身を守る性能が備わった簡易的な装備であるマント。

 

 私も同じマントを纏っている。

 彼女の華やかな赤ではなく燃え尽きた灰のようなネズミ色だが。

 

 マントのフードには穴があり、そこから情報収集のためのアンテナである獣耳が露出している。

 私と同じく次世代型の〈魔法少女〉

 名前はルミナス。

 

「どっかやられたのか? ゲニウス」

 

 私は〈魔法少女〉としてのコードネームとしてゲニウスと名付けられている。

 ラテン語で守護霊という意味を持つ。

 守りを重視したコンセプト設計のため、そう名付けたのだろう。

 願掛けの意味も込められているかもしれない。

 凡人である私に大層な名前を付けたものだと私は思う。

 私の前に降りた彼女はルビーのように赤い瞳の三白眼で私の身体を確かめるように見下ろしていた。

 

「いいえ、疲れただけです。ルミナスの方はどうですか?」

 

 彼女(ルミナス)は近接戦と格闘戦をする〈魔法少女〉だ。

 怪我をする確率は私よりもはるかに高い。

 

「アタシがあんな鈍間(のろま)の攻撃に当たるかっての!」

 

 軽く自分の胸を叩いて自慢げに彼女は言った。

 彼女は底なしに明るく気さくだ。

 私と同じく戦い続きだというのに。

 その前向きな言葉と笑顔に何度、憂鬱な気持ちが晴らされたことか。

 彼女のような〈魔法少女〉はこれからの時代に必要な存在だ。

 私はたとえ、世界中のあらゆる生命が滅びる時が来たとしても彼女だけは守り切ると決めている。

 今回も彼女の死角から放たれた攻撃をすべて防ぎきった。

 ちょっと危なかったが私の命など彼女や他の〈魔法少女〉たちに比べればどうでもいい。

 

「そうですね。でも無理をしないでくださいね――私よりルミナスになにかがあったらみんなが悲しみますから」

 

 彼女と仲の良い人が多い。

 無愛想な私なんかよりは悲しむ人が多いだろう。

 それに〈魔法少女〉としても、攻撃の面で彼女を超える〈魔法少女〉はいない。 

 守るぐらいしか取り柄のない私よりも彼女の方がこれからの世界に必要だ。

 

「なに言ってんだよ」

 

 不服そうな表情で彼女は言った。

 

「アタシはゲニウスになんかあったら嫌だぞ」

 

 彼女は私に手を差し伸べた。

 本当に優しい子だ。

 きっと気を遣ってくれたんだろう。

 

「……そうですか」

 

 私は彼女の手を取って立ち上がった。

 少しだけの休憩だったが体の疲労は幾分マシになっていた。

 

『敵機接近、敵機接近』

 

 胸元から届く機械音声。

 首からぶら下げたペンダントの赤い宝石部が明滅を繰り返す。

 独立型戦闘補助AI〈REY〉の警告。

 常に私の全身を包むように投影されている透明な全天型スクリーンに敵を示す赤いカーソルが浮かぶ。

 示された方角を見れば、エイに似た形状をした金属生命体(・・・・・)が群れをなして飛翔している。

 数は三十機。

 本当に数が多い。

 そのうえ〈アンノウン〉の後ろに広がる空を見れば赤錆の砂嵐が迫ってくるのが見える。

 できるだけ早く敵を倒す必要がある。

 

「いきますか」

「おうよ」

 

 彼女も武器である赤い刀身の大剣を肩に担ぎ、力強い眼差しを〈アンノウン〉に向けていた。

 彼女は優しいだけじゃなく勇ましい。

 私は彼女が敵に怯んだところを見たことがない。

 初陣の頃の私は死への恐怖で頭が一杯だったというのに。

 

「んじゃ、いつも通り頼むぜ相棒」

「もちろん、かすり傷一つ負わせませんよ」

 

 おそらく激化していくであろうこれからの戦場に必要なのは、彼女のような勇敢で高性能な〈魔法少女〉だ。

 私のようなロートルはついていけなくなるだろう。

 だから私は彼女達を守る。

 たとえこの身に代えてでも。

 

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