駄目バンドマン製造機は脱姉したい。   作:ひつまぶし太郎

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怪文書注意。
家族愛過多女。
原作の過去編「星に手向けるあいの花」はとても感動できる素敵な話なので、この作品じゃなくてそっちを読んでください。
作者は読む度に号泣してます。


伊地知家の夜。

 

 

弟は変だ。

変だがモテる。

それはもうモテる。

その可愛らしくも、清潔感のある見た目もあるのだろう。

金髪ポニテ浮き世離れ世話焼き男の娘という属性過多によって、当時通っていた小学校の男子たちの性癖を破壊し尽くしたのも、まだ記憶に新しい。

 

本人にその気がないから刺されるような事態になっていないだけで、学内外問わずにファンは多い。

幼馴染みのリョウのような性格なら、誰彼構わず都合よく好意を利用してタダメシにありついたり奢らせたりするのだろうが、優しい弟でよかった。

 

もちろん多少…というか把握してるよりももっと複雑骨折した変な趣味があることは薄々察してはいるが、そこは姉の私が踏み入っていい領域ではない。

私だって自分の好みについてあれやこれや家族に口出しされるのは嫌だし。

 

…とはいえ、現状恋人を作ろうという気にならなければ、テレビを見たりしていてもときめくことがないので、好みなんてないんだけど。

 

だって、テレビに出ている人より弟かリョウのほうが顔がいいし。

性格なら弟のほうが断然いいし、バンドマンとしてのかっこよさならお姉ちゃんが一番だ。

最近はギターヒーローっていう動画投稿者の人もかっこいいしいつか一緒に演奏してみたいなとか思っていたりもするけれど、やっぱりそこに恋愛感情のようなものは浮かばない。

告白してくれたクラスの男子も、ピンとは来なかった。

 

優しいから好きになるなら、とっくの昔に私は弟のことを恋愛的な意味で好きになっている。

あの日、お母さんがいなくなった日。

喪った心の穴の埋め方も、悲しみの受け止め方も知らなかった私を優しく抱きしめてくれたハル。

寂しかった。

悲しかった。

もう、誰にもいなくならないでほしかった。

そんな私が口を開くまで、泣き止むまでずっと側にいてくれたハルの優しさは、何よりも暖かった。

 

───ねぇ、ハルはいなくならない?

───お姉はさびしんぼ。しょーがないからぼくがそばにいてやんよ

 

なにそれ、なんて。

泣きながら笑ったあの日、私はきっとようやくお母さんがいないことへの気持ちを受け止められた。

そのあと、覚悟を決めたお姉ちゃんのライブに感動して、夢をもらって。

 

私は今、しっかりと世界を生きている。 

 

そんな大事な家族への思いが、恋愛感情なんて赤の他人に向けるものに勝てるわけないじゃん。

 

「好きになるってなんだろう…」

 

考えてるうちにやっぱり分からなくなってしまった私のつぶやきを、目の前でカレーを頬張るハルが不思議そうな目で見つめてくる。

 

「急にどうしたのさお姉」

「あーいや、ちょっと考え事をね?なんかハルがわざわざお店に押しかけてまで告白しに来てくれた可愛い子を無慈悲に振ってるのを見て、恋愛って難しいなーって」

「ふーん」

 

ぱくり、と自分で作ったカレーを口に運びながらハルはわかってるのかわかってないのか、ひどく曖昧な顔をする。

友達としてしか見れないから、ごめんね。

なんて。

ひどくあっさりととんでもない美少女を袖にする姿は、それがもう何度も繰り返してきた行為だという慣れを感じさせた。

 

「うーんちょっとこのルーはいまいちかなぁ?安いからって買うもんじゃなかったかな」

「そう?美味しいよ?いつも作ってくれてありがとうね」

 

慣れと言うならこの食生活もそうだ。

夜遊びしがちで朝に弱い弟の代わりに私が朝ごはん。

早く帰ってくる弟が夜ごはん担当。

伊地知家のそろそろ慣れてきた食卓事情はそんな感じだった。

 

お姉ちゃんはお店の閉め作業をするとかでまだ上がってきていない。

送られてきた音源も聴きたいから先食べといてくれとのことだったので、私たちは今二人っきりだ。

 

「なんのなんの。帰宅部中学生は放課後暇を持て余すんで。バイトもできないし」

「ハルもなんか部活やればいいのにー。ほら、こないだバレー部の助っ人とかしてたじゃん?サービスエースも十本くらい取ってたし!才能あるんじゃない?」

「いやぁ自分のために時間使うとかマジ無駄。顧問の先生がダメ人間な美人教師だったらまだ許せるけど」

「…変なの」

 

やはり弟は変だ。

勉強もできて、運動もできて、料理も作れて、私と違って学内でもそれなりに交友関係をちゃんと持っていて。

 

そのくせ周りに全然興味がない。

 

「そこが僕のいいところ、みたいな?」

「えぇー?そうかなぁ…」

「僕は変なバンドマンしか愛せないのです。ついでにいうとだめな人ほど愛せるのです」

「お姉ちゃんはこの先弟の人生が心配です」

「んー、だめになった時はお姉に養ってもらう」

「ふふっ、なにそれ。その頃には私も結婚してるかもよー?」

「えー、お姉が結婚したら泣くなぁ」

 

そして、ダメ人間な年上のバンドマンが好きと言いながら、家族から離れるつもりがないところも変だ。

 

でも、そんなところに私は優越感を覚えてしまう。

 

そうだ。

例えハルがどんな女と付き合っても、結局は別れるのだ。

私とお姉ちゃんだけは、家族という繋がりで絶対に離れない。

離してやらない。

 

「ま、私の匂いが落ち着くからって私の服羽織っちゃうおこちゃまは確かに泣いちゃうかもね?」

「正直最近はお姉の匂いを摂取してから八時間くらい経つと禁断症状出る」

「そんなに!?」

 

弟が結婚?

いやいや、無理でしょ。

そもそも弟の好みの女って絶対ろくな相手じゃないし、私もお姉ちゃんも認めませんよ。

それにこんな重度のシスコン、誰が添い遂げられるというのだろう。

 

弟は、だめな人が好きといいながら、最近は私に甘やかされて自分自身が駄目な人になることを楽しんでいる。

むしろ最近は、自分がお世話をするだめな人は探せばいるのに、自分を甘やかしてダメにしてくれるのが私しかいないことに気づいて、どんどん私がいないとだめになっていっているのだ。

家にいる間私の服を上着として着るようになってるレベルで手遅れなことに気づいているのに受け入れちゃうところ、本当に良くないと思う。

そうやって何でも受け入れるから、今日の子みたいに勘違いする子が出てくるのだ。

 

トラブルにならないように私がお姉ちゃんとしてしっかり管理してあげないと。

 

生憎と私は女としては見てないのでそういう関係にはなってあげられないけど、異性愛が欲しいならお姉ちゃんがいる。

…まぁ、そういう欲を満たすくらいならしてあげてもいいけど。

私の匂いで時々とんでもなくだらしない顔してるのも、お姉ちゃんの匂いを嗅いでちょっと物足りなそうにしてるのも知ってるし。

 

とりあえず、だ

これから先もずっと、弟は私たちとだけ家族なのだ。

 

それの何が悪い。

むしろ、それでいいじゃないか。

だって、私たちは世界で一番の仲良し姉弟なのだ。

そうなるのは当然の帰結で、自然の流れだ。

 

「そうだよねー?ずうっと一緒がいいよねー」

「え、なにが?よくわかんないけどトイレと風呂は別がいいかな…」

「賃貸の話してる?」

「あ、スーモ!」

「もー、うるさぁい。情緒ってやつをさー」

 

私は、洗い物をする弟を後ろから抱きしめながら、深く。

 

ふかーく微笑んだ。

 

 

 

 

(今日もまともなふりしたお姉のどろっどろの独占欲さいこー。溺れそうになるくらいの家族愛ってなんかえっちだよな。洗脳されて弟赤ちゃんにされる。あともうお姉の匂いなしじゃ生きてけません)

 

 

ダメ人間。

人を甘やかしてダメにするのもまたダメ人間。

そんなお話。

 




今回みたいなド怪文書のときもあれば、主人公視点でいつもの作者のノリの話のときもあれば、衛宮さんちの今日のごはんみたいな平和回もある。
創作意欲回復のために妄想を垂れ流すだけの作品だから安定感とか求めないでほしいんだぜ。

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