俺は死んだ。
原因は今となっては分からないが、おそらく生活習慣病か何かだろう。実際問題、思い出せる範囲でもインスタント食品まみれの献立でまともな食事をとっていなかったし生活リズムもメチャクチャだった。因果応報。
それはそれとして、今の俺はどういうわけか生きている。
なんと現代日本にもう一度生を受けたのだ。もう歓喜の極み。
記憶を引き継いで人生二週目など何たる祝福か。そう思っていた。前世で果たせなかった夢を、今でなら考えられるあれこれをやってやろうと激しく息巻いていた。だが暮らすうちにこの日本、いや世界に違和感を感じ始めた。
前世と細かい部分が異なることは世界線をまたいだのだから仕方がないと独自に解釈していたがそれでもおかしい部分がある。それと少しの既視感を覚える部分も。
そして第二の人生における21歳の誕生日を迎えた日、ついにその既視感、違和感の正体に気が付いた。
「これEDFの世界じゃねーか!」
街を歩いていて漠然と感じた既視感、それは看板に描かれた文字であり、商品名であり、景観そのものであった。
『ぬっくぬく亭』、『アシッドベーカリー』、『こいわ商店』、『七福庵』…どれもEDFのマップ上に存在する店舗たち。ただの背景ではなく実際に営業していることが決定的な違いだが…
てかアシッドベーカリーの名物商品のソラスパン*1、こんなのはもろにEDF世界を匂わせる存在だったにもかかわらず昨日までの俺は美味しい美味しいと何も考えずに頭からモグモグしていた。
自販機に書かれた宣伝文句(?)『男なら、クロだろ』とか道端ののぼりの『泣いた赤蟻』とかも町マップでよく見るプロップだったはず。
今まで何で気づかなかったんだ!チクショウ!
そういえば俺はろくにニュースも見ていなかったし通学以外の外出も少なかった。見事にEDFという単語から離れて躱して、違和感をぬぐって生きてきた結果こんな中途半端な時期に気が付いてしまったのだろうか。いや理由とかはもういい。
そうと気が付いてしまったならばやるべきことは決まっている。
「入隊…入隊!!EDFに入隊しなければ…!!」
EDFの世界ということは侵略者がやってくるのだ。おちおちしていたらある日突然巨大なアリに出くわしてサンダー*2してしまい死亡、なんてこともあり得る。一抹の希望、民間人でいる限り無敵という可能性も考えたがそんなことはおそらくこの世界では通用しない。
この世界の住人は普通に人間だ。いや当たり前なのだが、本当に普通の人間たちで、NPCではない。だから普通に死ぬ。ある時下校途中に交通事故の現場に出くわしてしまい凄惨なご遺体を見た日のことを思い返せば一瞬で民間人無敵説などは引っ込み、なんとかしなければという感情が湧き上がってきた。
EDFに入隊すればひとまずの衣食は保証され、基地という安全地帯を住居にできる。それに最低限の戦う力は授けてくれるし最悪侵略を受けることになってもそうなったと知ることができる。民間人のままでいるよりは数百倍マシなはずだと考えた俺は迷いなくEDFの門を叩いた。が、当然こちらの世界にも家族というものがいる。二度目の生を授けてくれた肉親が。
「EDFに入るなんてな。父さん驚いたぞ」
「でも立派なことよね。ご近所さんに自慢できるわ」
父母ともに首を縦に振ってはくれたが、それでも少し不安の色が見て取れた。
EDFは世界規模の軍隊。紛争地域の鎮圧や戦争回避などに尽力しているが、ここ日本の隊員もそうした任務に頻繁に招集されている。家族は俺がそういった戦場で殉職し、海の向こうで埋められることを少なからず危惧しているみたいだ。だがそんな心配はご無用。この世界で死ぬとしてもそれは異星の侵略者の手にかかった結果であり、きっと死体は残らないからだ。ハハハ(定型文)
ハァ…
俺は無理に明るくふるまって家族の心配を押し切り、EDF日本支部ベース228にて入隊試験を受けることになった。"あの"ベース228で試験を受けるというのはなかなかに感慨深いことだ。が、その立地を確認した俺は再びため息をついた。ベース228、こっちの世界の実家から車で1時間くらいの距離にあったのだ。マジか。なんで気が付かなかったんだ本当に。
「通学路が反対方向だったし…リクルート看板がこの辺になかったし…俺は超絶インドアだったし…いや、なんかもう悲しくなってきたな」
基地を前にして1人でさめざめと泣いていると後ろから声をかけられた。
「入隊希望者ってのは君かい?さあ、こっちに来て!案内するよ!」
振り返るとそこには警備員の男性が立っていた。胸元には『SecurityService』のバッジが光る。いや、まさか。
「せ、先輩…?」
「…?僕はただの警備員だよ。先輩ならあっちの隊員たちになるんじゃないかな」
当然の反応。少し恥ずかしくなりつつも彼の指示に従って会場へと向かう。先輩とはストーム1、EDF5、6の主人公が警備員としてこの基地を訪れた際に仕事の要領を教えてくれる、チュートリアル役のパーソンであった。歩いたり跳ねたりするだけでバッチリ褒めてくれる気のいいお兄さんだ。
そんな彼とこの場で合うことになるなんて。本日執り行われる入隊試験の応対役として雇われたのだろうが、まさかの巡り合わせだ。後々カギになる存在でもあるし、今のうちに仲良くなっておきたい。
そういう下心を持ちながら様々な質問や話題を投げかけてみたが、先輩はニコニコしながら答えてくれた。やはり人となりはかなり良い。少し…かなり能天気な所はあるがいい人には間違いない。*3
…こんなにいい人でも、いざ侵略が始まれば否応なしに怪物に食われて死んでしまうのだ。悲しいね。
俺はそういう事態を減らせるかもしれないという希望も抱いている。EDFの職務は地球を、市民を守ること。その一環として彼のような民間人も守れるかもしれない。
あわよくば、俺も時間旅行に…
「さあ、着いたよ。後は…大丈夫そうだね。頑張って!」
先輩の見送りを受けて、俺は入隊試験に挑む。
結果は…
──合格。
名前を書いて、運転免許を見せて、身体検査を受けただけで合格だった。
もしかしたら名前を書いた時点で合格だったのかもしれない。EDFは巨大組織であるがそれゆえ常に人手不足だとかそういう話を先輩から聞いたが、ここまでとは…
実感がなさすぎる事実に呆然とする俺は試験に立ち会った曹長と先任軍曹の拍手を素直に受け取ることはできなかった。
若干げんなりしつつも俺はEDFの制服に袖を通し、これから起こりうる未来をキッと睨みつけた。これで俺もEDF隊員、燃えたぎる闘志のタフガイだ。
前世において、EDFは俺の大好きなゲームだった。せっかくその世界に来れたのだから好きなように生きたいというもの。この物語を俺の望む結末に持っていきたいという気持ちもある。
だから俺はこれからEDF、全地球防衛機構軍のいち隊員として全力を尽くす。たかが1兵卒にやれることは少ないかもしれないが、それで少しでも物語に貢献できるのなら迷うことはない。
「おい新入り!ビークルの移送を手伝ってくれ!」
と、入隊して一時間の俺に初任務が回ってきた。
「このグレイプ型装甲車をE-1区画の車庫まで運転してくれ。駐車は俺がやるから着いたら乗り捨てていいぞ。ああ、でもできるだけわかりやすいところに頼むな」
「これって大丈夫なんですか?免許とか」
「グレイプは普通免許持ってりゃ運転できるよ。後は慣れだよ慣れ。俺も2ヶ月かそこらで慣れたんだ」
頑張れよと先輩隊員からキーと228基地のマップを投げ渡された。なんというか、本当にEDFって感じのラフさと適当さだ。嫌いじゃないしむしろ好きなんだけど、この空気に慣れるにはだいぶ時間が掛かりそう。
「まぁ仕事はちゃんとやりますよっ…と、本当に普通免許持ってりゃ運転できるなこれ」
グレイプはわりとすんなり運転できた。何度かぶつけることはあったが道行く隊員たちが笑っていたのを見るに新人へこの仕事を任せるのは恒例行事であるらしい。
E-1区画も基地の一番端の方にある区画なので行って戻るまでに基地の構造も覚える、と。しっかり考えられている。運転の方も目的地に近づいてくるにつれまともに走れるようになってきて、ある程度スピードも出てきた。
…っと、あっ、待って、待って!!止まらねぇ!!!
ガッツーン!!
速度の出たグレイプは通路の壁にぶつかって跳ね返り、派手に回転してひっくり返る。俺は中で衝撃に耐えつつガクンガクンするしかない。
グルングルンと頭にきて吐きそうだ。誰か助けてくれ…
いやちょっと待て、回り過ぎじゃないか!?
俺はシートベルトを外して半開きのハッチへ飛び込む形で脱出する。
入隊後真っ先に教えられた伝家の宝刀、陸線歩兵お得意のローリングをかまして衝撃を吸収しヨロヨロと立ち上がる。グレイプはというとまだ回り続けている。
グルングルンというレベルではない。ギュルルルルルルッ!って感じだ。何トンもあるはずの装甲車がキリモミ回転しながら直進していくという常軌を逸した状況に思わず笑い出しそうになるが、あることを思い出して真顔になる。
これはEDFをゲームとしてプレイする中で幾度となく見た光景、とあるゲームエンジンにみられる特徴的な挙動である。
そのゲームエンジンは物理を司り、使用にあたってのお手軽さ、なにより動作の軽さから様々なゲームに組み込まれ…EDFも例外ではなかった。
重戦車が空を飛び、バイクが縦に吹っ飛び、蹴られたヘリが空の彼方に消え、人型兵器が地面に埋まる。物理的に開放されたラグドール状態のモノ、例えばやられた人間などに至ってはとんでもない吹っ飛び方をしてマップ端に挟まってしまうこともあり…
それら超常現象を司る神の名は…
「ハヴォック…!?」
俺の言葉に反応したように、回転していたグレイプが落ち着きを取り戻して地に足をつける。一瞬タイヤが地面に埋まったようにも見えた。
俺はこの出来事からあることを理解し頭を抱える。
「この世界、ハヴォックで動いてやがる……!!!!」