仕様なのか慈悲なのか、ハッチを開いて乗り込んだとたんに裏世界に行きかけていたニクスは浮上して落ち着きを取り戻した。その際に何かが高速でぶつかるようなゴガガガガッ!という音が響いていたが狂った
俺はゲームでそういうおもしろ挙動が起こるたびに爆笑していたような男だった気がするが、いざ現実に起こってみるとそれはもう恐怖でしかない。
だが軍曹たちと交わしたすぐに戻るという約束と、B3倉庫付近の民間人…先輩と未来のストーム1が気がかりだったために全力でスラスターをふかして移動*1する。
直線通路はバニーホップで高速移動し、方向転換のみ足をつけて…もた…もた…
ああ、こうしているうちにも軍曹たちは…!
コンバットフレームは堅牢かつ汎用性の高い兵器であり、強力な火力をどこへでも持ち込める優秀なプラットフォームだ。しかし一部のモデルや上位のものを除いて若干の鈍重さが目立ち、特に方向転換が苦手で小回りを求められる閉所では辛い。
だが嘆いている暇もなく、通路の先から銃声が聞こえてきた。
「下がれ民間人!怪物と一緒に撃っちまうぞ!」
「あいつの言ったとおりだったな!俺たちが来なけりゃどうなってたか…」
「こいつら、どこの動物園から逃げ出したんだ?」
俺は巨大なアリ型の侵略生物、
改めてこの世界で起こっていることが現実なのだと思わされる事実だ……俺の周辺だけ
折り重なった死骸の向こう側に立っていたのは自動小銃を構えたEDFレンジャー4人と丸腰の警備員2名。軍曹チームとストーム1、そして先輩。良かった、先輩は無事だ*2。脳天気な先輩のことだから助かるかどうかは完全に運。できればこの戦闘が起こる前に駆けつけて、避難誘導をしたかったのだが…さすが、軍曹たちは強かった。
「コンバットフレームだ!」
「乗っているのは…お前か!大丈夫なのか?」
こちらに気づいた軍曹チーム。俺が乗っているのを察して労いの言葉をかけてくれるがまだ何も終わっちゃいない。むしろ、今からすべてが始まるのだ。
「このバカでかいのは危険だ。俺たちに何かを吐いてきた!」
「あちこちでバケモノの報告が上がってる。その様子じゃ、来る途中では遭遇しなかったのか」
『ええ、とにかく宣言通り追いつきましたよ。何が来てもニクスB型の火力でなぎ払ってやります』
「心強いな、俺もコンバットフレームを探すとしよう。確か上の階に格納庫があったはずだ」
軍曹は俺の乗るニクスを見て誇らしげに胸を張る。そんな俺達を見て混乱するのは民間人組。
「待ってくれ!乗っているのはまさか…」
『俺だよ、先輩』
「僕は君の先輩じゃ…じゃなくて!やっぱり君だったんだね…」
パイロットが俺だと知って安心した様子の先輩。俺としちゃ先輩が無事だったほうが安心なんだけどね。…確かに先輩は俺の先輩って訳じゃないんだが、もうその名称で馴染んでいるのでこれからも先輩と呼び続けることにする。
「このニクスのパイロットと知り合いなんですか?」
「彼の入隊試験のときに、ちょっとね。イベントでもたまに会ったことがあるんだよ」
「………?」
こちらをまじまじと見つめるのは未来のストーム1。この反応を見るに、彼はすでに訳アリらしい…
ストーム1はそりゃもうとんでもなく強い、鬼神の如き活躍をするのだがそんな彼も最初は民間人だった。そう、"最初"は。彼は
これが何度目の周回かは分からないが、『こんなやついたか?』という反応は間違いなく一周目ではない。
若干警戒されているが変に不信感を持たれてもイヤな俺は素直に自己紹介をする。
『あー、俺は去年入隊した
「そうですか…ありがとうございます」
とりあえず納得してくれたみたいだ。よかった。
して、これからどうしようか…
「…あの、提案があります」
次の行動を考え始めてから、最初に口を開いたのはストーム1だった。
「下の階に大型のリフトがあったはずです。あれならコンバットフレームも運べます」
ン?ン??
「あ、ああ!よく知ってるね!確かあそこには大型クレーンが…」
先輩がそこまで言葉を繋いだところで察しがついた。
ストーム1、お前さん……今、ここで、欲しいのか!?
バルガが…!?
全身を覆うE1合金の防御力と堅牢性、質量は凄まじいレベルであり、同等かそれ以上のサイズの怪物と殴り合うこともできる超兵器なのだが"重機である"というイメージが先行しすぎて、『正史』においてはほぼ毎回、そういう用途に駆り出されたのは侵略者との戦闘が佳境に入ったあたりだった。
周回を繰り返す上でその有用性を知っているストーム1ならこれを欲しがるのは当然と言えることだが、この段階からというのは相当な思い切りを感じる。
確かに『正史』でも彼はこの段階でのバルガ持ち出しを実行したが、目の前のストーム1は先程から誰かと通信している様子はなく一緒に時間を旅したお仲間から何か言われたわけでもないようなのだ。
「民間人、今は緊急事態だ。リフトが動くとは言い切れない。まっすぐ地上へ向かったほうが安全だ」
「この化け物があちこちに居るんだぞ!俺たちと一緒に来い!」
「コンバットフレームの掩護もある。俺達と一緒に来るんだ」
軍曹隊はまぁ当然反対する。
せっかく助けた民間人がリスク先行の提案をしたら何を言っているんだとなるのが正常な反応。
…だが俺は、ストーム1に、この世界の主人公に賭けたくなった。
『化け物が地上にいないとも限りませんし、
「お前…!?」
「危険だぞ!」
『承知の上です。ですがそのためにコンバットフレームがあるようなものです』
軍曹は何も言わずにこちらと民間人組を見比べ、小さくため息を吐いてストーム1の肩を叩いた。
「民間人、やる気があるのか」
「はい*3」
「…今は緊急事態だ、自分の身は自分で守れ。今から戦い方を教える…君にもだ」
「ええっ!僕にも!?」
なし崩し的に巻き込まれてしまった先輩には涙を禁じ得ないがこうなれば最後まで付き合ってもらおう。もう逃げられないぞ。逃げたところでアリの餌だし…
「バルガのある格納庫はこの下だ!ついてこい!」
「了解!」
「民間人!遅れるんじゃねぇぞ!」
そうえいば外は、地上は今ごろどうなってるんだろうか。ゲームでは隊員たちが最初の襲撃を捌ききったあたりで地下を脱出し戦闘に参加、その後何回かに分けてアリの大群が攻めてくる。手元の短波無線では通信がつかなくなっているあたりもう迎撃戦が始まっていそうだ。
巨大生物の酸は装甲もドロドロに溶かしてしまう。コンバットフレームがあっても正直どこまでやれるかわからない…けど。
『正直なところそれよりもハヴォック物理学が怖い』
「破河、何の話だ?」
『いえ、なんでも』
アリにぶつかられた拍子に空の旅とかシャレにならんし。
今のうちに祈っておこう。