その後は極めて迅速に、びっくりするぐらいスムーズにことが進んだ。
最初から『ギガンティック・アンローダーを(それごと乗っているリフトを動かして民間人と一緒に)地上に送る』という方向で話が通っているおかげだろうな。
皆の足取りは軽く、俺たちは数分もかけずに件のクソデカ格納庫へと辿り着くことができた。
おまけに道中で襲撃を受けることもなく、孤立していたレンジャー隊を2、3拾って戦力もアップ中。出来過ぎじゃないかね。
そんな流れで自然に始まったストーム1と先輩の戦闘訓練。拾ったレンジャー隊が混ざってギャラリーが増えた中、洗練された動きでローリングを繰り出すストーム1とぎこちない動きでもなんとかついていこうとする先輩。彼らがアクションを取るたびに隊員たちが「うまい!」「いいぞ!」「天才だな!」などと叫ぶおかげで先輩はちょっとはにかんでいる。
彼によるチュートリアルを知っている身からすれば微笑ましい光景だ。
『なかなか筋がいい。EDFでも問題なくやっていけるだろう』
軍曹は先輩を見て微笑んでいる…と思う。今は格納庫の角に置かれていたニクス(黄色)に乗っているために顔は見えない。強力な火炎放射器コンバットバーナーを両方のマニピュレーターに装備したこのニクスなら道中どころか地上も楽々薙ぎ払えるだろう。
それに軍曹本人の操縦技量も結構高くて、俺と比べるとふた回りくらいニクスの扱いが上手い。ライセンス持ちの下士官というのは伊達じゃなかった。
『しかし、新人だという彼はもっと筋がいい。動きに一切の無駄がない…』
『もしかしたら僕らより強いかもしれませんよ』
『それでも、民間人であることには変わらん。我々軍人が前に立って守らなければ』
『その通りですね』
いくら無敵のストーム1とはいえまだ軍人ではない(当然ながらストーム1というコードネームすらまだついていないからそう呼んでいるのは俺だけだ)。常識的に俺達が前に立って守らなければ職務に反するし、これはゲームではなく現実だ。対酸機能のあるEDF製アーマーを着ていない彼らは蟻酸のラッキーヒットの一回でもあれば死んでしまいかねない。
──と、先輩が最後の的に銃弾を当てて射撃訓練をクリア。
ギャラリーから次々上がる歓声*1に顔を赤くさせながらリロードを済ませたのを見届けて、軍曹が次の行動を指示し始める。
『そろそろいいだろう。俺達は取り残された仲間を救助しつつビークル用の通路を使って地上へ向かう。破河とレンジャー7は民間人を連れてリフトで地上へ行くんだ。あとのことは事務所にいる伍長に指示を仰げ。行くぞ!』
『「「了解!」」』
ここからは軍曹と別行動だ。レンジャー隊と合流して戦力が増している状態なのと、その軍曹がコンバットフレームに乗っていることからあまり心配はしていない。
何よりこのバルガと民間人を地上へ送る作戦はストーム1提案のことだ。だからなんとかなるんじゃないかって。
そこで気になってくるのは…伍長。
居るかな、伍長。事務所がドロドロになっていないことを祈る。
さっきから通信がまったく入らないから地上の戦いがどうなっているのか全然わからない。
ガタガタと動き出したリフトの上で、俺はストーム1のどこか思いつめたような顔を眺めていた。
◆ ◆ ◆
前の周回は散々だった。
散々ではなかった周回など無いのだが、ことさらに嫌な終わり方だった。
繰り返すたびに戦況は悪化。勝つためにやっていることがむしろより絶望的な敗北を招いている気さえする。いや、正確には勝ったこともあったのだろう。しかし自分は──その事実を観測できない。
敵の手によって繰り返しを起こされた時点でアディショナルタイムは終了し、その間に起こったことは何もわからない。それが"彼"の見解だった。
そしてこれも5回目*2…消えてしまったループを含めると10回目だろうか。軍曹も、仲間たちも、見飽きた世界をまた廻る。そう思っていたのだが。
『すと──ンン゛ッ!民間人!安全な場所に送ってやるからな!可能な限り守るが、自衛はしてもらうことになる!すまない!』
ニクスB型に搭乗し、軍曹からレンジャーチームを預けられた彼を自分は知らない。破河という名前は前の周回でも、その前の戦いでも聞いた覚えはなかった。このイレギュラーな人物の介入で軍曹が
この時点で既に歴史は変わりかけていた。それならば。
「にしても、でっかいクレーンだな…」
「こんなのが役に立つのか?」
「一度も使われずにお払い箱さ。それでEDFが引き取ったらしい」
「こいつの装甲はE1合金でできてるって話だ。盾にはなるさ」
「それじゃ民間人を乗せておくのもありだな」
「操縦できないだろ。こいつの起動シークエンスは複雑らしいぞ」
巨大人型クレーン、バルガ。架橋作業や解体工事向けに建造された巨大重機のパワーはビルをたやすく粉砕し、怪生物にも同じ効果を発揮する。超質量の拳による殴打は通常兵器では効果的でない相手にも十分なダメージを負わせるポテンシャルを秘めている。
これが活躍するのはいつもずっと後になるはずだが、もうそんなことは関係ない。
「大変なことになっちゃったね…でも大丈夫。安全第一、マニュアル通りさ。だいたい10秒後には地上だよ」
後にα型と呼称されることになる侵略生物に喰らわれ、犠牲となるはずだった彼もこうして生きている。救えるものなら、守れるものなら、手の届くものなら。無残に飛び散る肉塊を幻視して、頭を振ってそれを払う。
きっと今なら、この回なら救えるんだ。
動き始めた歴史の流れに乗り、あとは行けるところまで突き進もう。
「……!」
「やけに深刻な顔してるな、民間人」
「訳ないさ、こんな状況だからな。ほら地上が見えて…何だ!?」
リフトが止まり、天板が開く。
漏れ出たのは…悲鳴、爆音、銃声。もう始まっている!
「ッ!」
「こっちにもいやがった!!何なんだこいつらは!」
「襲われているぞ!撃て!」
イベント用に陳列されたコンバットフレームをなぎ倒す怪物、それらに応戦する隊員たち。アスファルトすら焼く強酸が乱れ飛ぶ中でもEDFは戦っていた。
"いつも"より早くここまで来れたからだろうか、起動して応戦している数機のニクスにも目立った損傷は見られない。
『バルガを中心に円陣を組むぞ!敵を殲滅しつつ前進だ!』
ニクスB型を駆る彼の言葉に頷いて、一緒に来ていた隊員たちはリフトを降りるとバルガを守るように展開し火線を作る。とくにリボルバーカノンから断続的に放たれる弾丸は数発でα型の外骨格をすり潰して骸に変えていた。
「リロード!」
「だいたい片付けたな!負傷者はいるか?」
「事務所は無事そうだ、運ぶぞ!」
『救援を感謝する!ところで、この中にメカニックはいないか?駆動系を見てほしいんだ。さっきから動作が重くて…』
ひとまずの殲滅を終え、荒れた基地表層の確認を行っているとぎこちない動きのコンバットフレームが近づいてきた。見れば装甲表面にへばりついた何かが煙を吹き出している。酸だ!
「装甲が融解してるぞ!ニクスから降りろ!」
『なんだって!?うわっ!』
「くそ、奴らの体液は酸か!」
蟻酸を浴びたことに気付かずその後も戦闘を継続し、前周では戦死してしまった彼はレンジャー隊員の指摘によって愛機から飛び降り、命拾いした。
が、ニクスは程なくして崩れ落ちガラクタとなってしまった。
「俺のニクスが!」
「ニクスの装甲も溶かす酸かよ!?」
「あーっ!1台数億のニクスが!許さんぞ怪物め!」
レンジャー隊が怒りを叫ぶ。展示用のニクスが破壊されている光景に穏やかではいられないらしい。実際、この基地が放棄されたことでEDFは多数の機体と整備拠点を失うことになるのだ。
『だが助かってよかった、パイロットの無事が一番だ』
「使える機体はあるはずだから、探してみるよ……よし、こいつは動く。やれやれ、せっかく陳列したのになぁ…」
『ご愁傷さまってやつだな』
「それで、伍長はいるか?指示を仰ぎたい!」
「俺が事務所に掛け合ってくる。向こうも大騒ぎだろう」
「これじゃイベントは無理だよ…」
余裕があるせいか脳天気な発言を飛ばす先輩を横目に、228基地表層では戦後処理が始まろうとしていた。だが自分はこれで終わりではないことを知っている。その備えも。
この基地をみすみす奪わせはしない。
「うおおおおっ!ってあれ?もう終わっちまったのか!」
「俺たちの出る幕は無かったってことか」
「彼らに合流しましょう」
『いや待て!何か来るぞ!』
ちょうど軍曹たちが地表へ姿を現したタイミング。黄金の支柱に禍々しい朱をたたえた転送装置が、テレポーションアンカー*3が舞い降りた。
大地を震わせ基地のど真ん中に突き刺さるそれに瞬く間に動揺が広がる。先端が光ったと思えば虚空から怪物を呼び出したのを見て、動揺は混乱へと変わりかける。
「何だあれは!怪物を呼んだぞ!?」
「撃て!撃てーっ!」
「倒してもまた出てきます!」
『キリがない!あの塔のどこにこんな量が入っているんだ?
『…分からん!だが、そう見えるな!怪物を呼ぶたびに先端部が光っている!赤く光る部分に攻撃を集中しろ!』
「聞いたか?先端を狙え!」
とはいえ火力は十分、転送されたα型は押し寄せる前に撃破され、部隊の士気には響かない。さらに軍曹とニクスB型の彼が正解に近いやり取りを交わしたことで対処法が定まり、数秒もせずにアンカーは爆発。根本からへし折れた。
「やったぜ!」
「EDFの力を見たか!」
「気をつけろ、まだ来るぞ!」
『何本来ても折ってやる!俺たちはEDFだ!』
「EDF!EDF!」
EDFコールが響くなか、軍曹が道中で拾ったのだろう複数のレンジャー隊がビークル用出入り口からわらわらと出てくる。少々出遅れた彼等も通信で状況を察して加勢し、戦力はさらに膨らむ。
無意識に上がりかけていた口角を正して、自分もやるべきことをする。この数とはいえ、さすがに
《よくやった!残敵の掃討後、民間人を移送する!伍長、案内してやれ!残存部隊は1100までに……》
「空を見ろ!」
「なんて数だ!?」
事務所の方でもゴタゴタが落ち着いたのか、やや息を荒げた基地司令の声が響く。と、間髪入れずに降り注ぐテレポーションアンカーの雨。コンバットフレームとギガンティックアンローダーと、多数の重要目標を封じるためなのは分かっている。
それにしたってとんでもない量だ。
「これは…まずい!」
「この量はやばいぞ!?」
「基地が針山だ!」
『まっ…まだコンバットフレームがある!』
『そうだ!まだ戦える!』
『破河、物事には限度があるぞ!民間人の安全が優先だ!』
「逃げるぞ民間人!」
「待って!後輩の姿がないんだ!」
虚勢を張るコンバットフレームに活を入れる軍曹機。正常な判断だろう。しかしもう大丈夫だ。目を盗んでよじ登り、メンテナンス用ハッチからバルガ内部へ滑り込む。
「どこだ民間人!」
「おい、バルガが動いてるぞ!」
『なっ…!?動かしているのは誰だ!』
「まさか民間人か!?」
「君、もしかして建設会社の人だったのかい!?」
油圧系、電機系、四肢耐久力オールグリーン。起動シークエンスは省略、各種安全装置と衝突回避センサを切断。
ギガンティック・アンローダー、バルガ。
ディスチャージ!
ガッスン!
『ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
踏み出した1歩目は吸い込まれるようにニクスB型へ向かい、止める間もなくクリーンヒット。それはまるでピンポン玉のように吹き飛んでいった。明らかに重力を無視し、質量すらも超えて、翼を得たニクスは行きたい方向へと羽ばたく。
あまりの事態に頭が真っ白になる。
それはそうと、振りぬかれたバルガの拳はテレポーションアンカーを横から粉砕した。