『ア゛ア゛ア゛アッ…エ゛ッフン!』
空の果てに消えかけた愛機は落下中のアンカーに掠り、別方向のベクトルを得て激しく回転する。吐きそう。この状況を脱する方法はひとつ。
「愛機よさらばっ!」
なんとかこじ開けたハッチから飛び降りる。せっかく貰ったカスタムニクスは今や前転しつつ急降下、見ていて悲しくなる。しかし俺自身も落下中である事実にも対処しなければならない。
「備えはある!」
パラシュート展開。ハヴォック物理で俺自身が吹っ飛ぶ事は常に危惧していたゆえ、航空兵科の同僚に掛け合ってパラシュートを仕入れていたのだ。これで俺はビークルに謎挙動を起こすだけでなく肌身離さずパラシュートを身につける変人と化したが、こうして命拾いするには至った。
足元の戦場を見やればストーム1駆るバルガが大暴れの大立ち回りを披露している。吹っ飛んだニクスを見て唖然としていたのは数秒、俺が飛び降りたのを認めると戦闘継続を選んだらしい。さすが英雄、肝が据わっていて助かる。
「蹴飛ばされて飛ぶのはまぁ、想定内とはいえ…」
ゲーム内でも屈指の巨大ビークルであるバルガはこの手の吹っ飛び事件の常習犯*1。身構えていればある程度の驚きは中和できるものだ。しかしこれで外力による物理暴発事件の前例ができてしまい、冗談半分だった『アリにぶつかられた拍子に空の旅』が冗談ではなくなってくる。
「……」
明日考えよう(定型文)
まずは目下に広がる大惨事の処理から。放っておいてもストーム1が数分でやってくれそうな感じはあるが、空高く打ち上がったこの状況を活かさない手はない。俺は背負っていた銃を乱射し、1つでもアンカーをへし折ろうと試みる。
…届いていないように見えるのは私だけでしょうか。実際届いていない。これビークル乗りの自衛用カービンモデルだから射程が短いんだよね。このままじゃただの賑やかしだ。
それでもと射撃を続けていると、狙っていたアンカーがバルガの拳に粉砕された。やったぜ(ヤケクソ)
俺が上空で無意味に火花を散らす一方、地上部隊はバルガに近寄るα型を片っ端から駆除しストーム1の大暴れに貢献中。愛機を破壊され再びコンバットフレームに乗り込んだあの隊員は今やリボルバーカノンの掃射でアンカーを破壊してさえいる。
「民間人がまたやったぞ!」
「バルガが役に立つなんてな…」
『塔を破壊!』
「やるな!次だ!」
「うおおおお!」
と、バルガがアンカー破壊の手を止め、マニュピュレータを回転させポージングする。大技の前触れだ*2。ストーム1もノッて来たのかもしれない。
『EDF!』
小粋なEDFコールとともに繰り出すのは、上半身をまるごと回転させ広範囲を薙ぎ払うローリングパンチ。残っていたアンカー数本をすべて巻き込み、等しく粉々にして爆炎に沈めた。
これで基地に突き刺さっていたアンカーはゼロ。さっきまで針山の様相だったのが嘘のようだ。
「基地の防衛に成功!」
『EDF!EDF!』
「うおおおおおっ!EDF!」
「君、すごいね…」
《これは現実か?》
これで基地は奪還もとい防衛成功。侵略が本格化するまで、しばらくの間は拠点として機能してくれるだろう。家を失わずに済んだ。
とんでもないことになったと思えばバルガが動き始めてさらにとんでもないことになり、数分で敵が殲滅されて基地司令は混乱している。
『認めたくはないが現実のようだ。これは明らかに基地への……いや、全世界への無差別攻撃だ。今通信が入った。複数の都市、軍事拠点が同時多発的に攻撃を受けている』
《なんだと!?敵性勢力の正体は!》
『不明の一点張りだ*3。本部も大慌てらしい』
本部もといEDF日本支部からの通信を受け取った軍曹が侵攻の事実を肯定する。そして敵性勢力の正体についてはやはりはぐらかされている様子。
《むぅ…こちらでも問い合わせるとしよう。君たちは民間人の護送を。しかし至るところでこの様相だというならば、戦力がもっと要るだろう。伍長とタンクの小隊を随伴させよう》
『基地の防衛戦力はどうするんだ?』
《君たちのおかげで余裕がある、戻る頃には戦後処理も終わっているだろう。コンバットフレームの整備は必要か?》
『弾薬が底をついた。ひと通りの補給は受けたい』
《よし、エンジニアを向かわせる》
通信を聞いた感じ、思っていたよりも基地の被害が少ない。表層に展示されていたコンバットフレーム及び戦闘車両は3分の1くらいがバラバラ、ほか少数が酸を被る被害を受けているもののおおむね健在。
一時的に歩兵として戦っていたらしいニクスパイロットたちもそれぞれの機体に乗り込み始めている。ゲームでも序盤の防衛戦で活躍してくれたイオタチームだろうか。
地下に格納されていたものについてはほとんど無事らしい。今まさに司令の言葉を受けた戦車小隊と整備士の団体様がビークル用出入り口から吐き出されてきた。
そういえば軍曹は道中を掃討しながら上がってきたんだった。そこで拾ったらしい部隊がすごい量いるし、基地内部の敵は早い段階で殲滅されたのか。さすが軍曹としか言いようがない。
…………さて。
「よっ、と!」
ローリングで衝撃を殺す。ようやく地面と再会できた。パラシュートを切り離し、皆の元へ足を進めようとしたところで距離の隔たりを再確認。かなり離れている。
すぐに飛び降りたつもりだったが実際はだいぶふっ飛ばされたようで、今いるのは基地の周りに広がるだだっ広い演習場の1角。飛び降りたときに慣性はリセットされたハズなんだけどな。風で流されたのか。
とにかく、これから避難を始めるであろう彼らについていかなければならない。さもないと死ぬ。俺が。どこへ行っても激戦のプライマー戦役を駆け抜けるためには
『そういえば、破河はどこだ』
「山の方に飛んでいったのは見たぜ」
「レーダーに反応があります。生きてはいるでしょう」
「あの段階で周辺の怪物は駆除し終えていたからな。襲われてはいないだろうが…」
「伍長が来た、5分以内に出るぞ」
ああ待って行かないで。無線を飛ばして状況を伝えようとするが応答が無い。これ送信機能だけ壊れてるな。飛び降りるときにぶつけたのが悪かったっぽい。
《軍曹、どうした?》
『
《飛んでいった?ああ、彼か。こちらで捜索させる。本部から民間人の移送指示が出ている》
『…本部の指示か、了解した。では我々は行こう』
「待ってやらないんですかい?」
「きっと追いついてくるさ」
待って待ってマジで待って。せっかくいい感じだったのに置いて行かれそうだ。吹っ飛んだのが初めてだったなら驚きとともに待ってくれたんだろうけど、俺の引き起こす謎挙動はこの基地のメンバーに知れ渡っている故に話が自然に進んでしまっている。
走れども走れども間に合いそうにない。こういう時にこそビークルがあれば。恨むぞハヴォック!
物理の神への怨嗟を散らすがそれでどうにかなる問題ではない。何か使えるものはないかとダメ元で見回していると、何か自然に似つかわしくない存在が視界を掠めた。車だ。木に引っかかっている。なんで?
「俺の車じゃねぇか!!」
見れば見るほどマイカーそのもの。今朝吹っ飛んでいった自家用車に他ならない。車種も塗装もブレーキランプのへこみ*4も記憶の通り。墜落がうまくいって奇跡的に爆散を免れたのか。
「ッよし!よぉし!」
だいぶ傾いていたマイカーはぐいっと謎の力で持ち上がり、まっすぐに接地。今は亡き
挿しっぱなしの鍵を回すと問題なくエンジンが始動、ハンドルもブレーキも生きていた。行ける。これなら間に合う。
「しゃあ!」
俺は狂喜してアクセルを思い切り踏み込んだ。
「あばばばばばっばばばば」
はまり復帰の際に勢いよく落下したせいでサスペンションがイカれていたらしく、とんでもなく揺れた。
やはり恨むべきか、ハヴォック。
書き溜めが消失したため再装填に入ります。
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