誤字修正深く感謝します。
「ひでぇなこりゃ……」
「重機が存分に暴れてくれて助かったが、降ってきたもので基地は穴だらけだ。復旧には骨が折れるぞ」
「護送組が戻る前に仕上げたいな。綺麗な状態で迎えてやりたい」
激戦を切り抜けたベース228。交流イベントのため整備されていた表層は今やアンカーの残骸で埋もれ、それもひと山ふた山どころの騒ぎではない。ドーザを装備した戦車が束になって押しのけているが、全てを退かすにはまだ時間がかかりそうだった。
それに破壊されたアンカーの"根っこ"も問題を残している。上部がへし折れ爆散し、しかし突き刺さった下部はしっかりと残ってしまっているのだ。これを引っこ抜いて整備しなおすのはとてつもない重労働。
『持ち上げるぞ、いいな!』
「オーライ!」
「こいつ、こういう時のために作られたのかもな」
そこで持ち出されるのはやはりバルガ。
巨大なマニピュレータがアンカーの残った部分を掴み、力いっぱい引き上げる。すると"根っこ"はすんなり抜けてパラパラと土塊を落とす。通常の重機を用いれば数倍の時間がかかる作業をこうも簡単に済ませるとは。
敵を目論見ごと粉砕し、その後片付けまでやってみせる姿にバルガという"巨大クレーン"の評価は覆されようとしていた。
「超質量の鉄塊が超高
「
操縦経験があるとはいえ*1、ただの民間人が乗り込んであの戦果だ。この重機は、バルガはとてつもないポテンシャルを秘めている。
そして何より──
『EDF!』
まるで決め台詞。直後に放たれた必殺技。爆炎に沈むアンカー。雄々しい立ち姿は英雄のそれだ。それを間近で見てしまった男たちはそこに若き日の思い出を、戦隊ロボや勇者ロボの夢を見た。
「乗りてぇなぁ…」
「ああ……」
バルガの未来は明るいかもしれない。
◆ ◆ ◆
エンジンを限界までふかして出発寸前の護送隊と合流し、クソほど揺れる愛車とオサラバしてから数十分。住み慣れた町はやはり
《怪物を攻撃しろ!市民を守れ!》
既に戦っている部隊がいる。228基地が派遣した先遣隊だろうか。銃火に倒れるα型が遠くからでもよく見えた。
「やっと来たか!手を貸してくれ!」
「護送隊に加勢を頼むのもなんだが、俺達じゃ手に負えないんだ!頼む!」
《軍曹!それに伍長も!ちょうどいい、協力してくれ。被害者をひとりでも減らしたい!》
『了解した!行くぞ!』
軍曹のコンバットフレームは両腕の武装をバーナーからマシンガンへと換装。塗装は黄色いままだが、強化された火力で群がるα型の波を押し返した。
「民間人でもお構いなしかよ!」
「こんなこと、許されないぞ!国際法違反だ!」
「そうだ!俺の街から出ていけ!」
軍曹機が作った突破口へ飛び込み、襲い来るアリどもを撃ち殺す。近距離での戦闘、カービンモデルは存分に力を発揮した。これが届かないほどに打ち上げられていた事実にあとから恐怖が湧いてくるが、それは目の前で酸が乱れ飛んでいるというもっと分かりやすい恐怖に上塗りされて霞む。
228基地防衛戦では既に民間人の退避が終わり*2、誘導役の伍長とともに事務所での籠城戦を行っていたため彼ら彼女らが怪物の脅威に晒される場面を未だ直接見ていなかった。
「熱っ!うぐぁああああっ!」
「いゃっ!溶けっ!ぎゃああああっ!」
アーマーも無ければ武器もなく、酸を浴びて小さくなっていく市民たち。質量の全てを有毒な蒸気へと変えて静かになったそれらを見れば、民間人が無敵などありえないと分かる。これは現実なのだ。
いま彼らは断じて囮などではなく、守らなければならない存在だ。少しでも救うため、侵略生物をもう1匹と殺す。
『突出するな!タンクが守る!』
『歩兵は俺達の後ろに続け!』
言われたって、ここは俺の街なんだ。228基地から車で1時間、2度目の人生を育った街なんだ。めちゃくちゃになるのはいい気分じゃない。現世での両親はもう避難しているかとか、お隣さんは生きてるかとか、敢えて気にしないで振る舞っていたけれど。
それに記憶違いでなければこの展開はミッション5の『破られた平穏』。タンク小隊を言われるまま盾にしてしまうと、狙い撃ちするかのように投下されたアンカーの下敷きになり全滅してしまう。
「くそっ!ここにも塔だ!」
「超大型船がバラ撒いてるって噂だが…」
「
「そうじゃない。もっと…町ひとつを飲み込むくらい、でかいらしい。恐ろしい噂だ。この上に来てたりしてな」
この先を知っている身からすれば冗談ではない冗談が飛んでくるなか、タンクの砲撃が団地横のアンカーを破壊。それは最後に光って少数のα型を呼び寄せたが、一瞬の後に圧倒的な火力で殲滅された。第1波はこれで終了だ。
「どうやらここは安全な場所では無かったようだね。でも安心してほしい!僕らが今度こそ安全な場所に連れて行ってあげるから……」
伍長が冷や汗で曇ったゴーグルを拭きながら言う。落ち着かせるための言葉なんだろうけど、フラグ臭がすごい。当の民間人たちは完全に萎縮してしまっている。
目の前で人が溶け落ちる光景を見せられてパニックを起こさないでいられるだけまだマシなのだろうが。これで彼らもEDFの軍拡に納得するだろう。笑えないな。
《こちらは戦略情報部です。作戦をサポートします》
《ありがたい、正確な情報を知りたかった所だ。敵勢力についてわかっていることを教えてくれ。やつらは何者だ?》
《その正体は現時点では不明。しかし、複数の超大型船が敵の本体と推測されています。塔の落下地点を逆に辿り、おおよその位置を掴みました》
《超大型船か。兵士の間でも噂になっている》
《うち1隻が作戦エリア上空に
『噂では済まなかったようだ』
「嘘だろ!?」
「塔が降ってくるかもな。気をつけたほうがいい」
そう言ってなんとなく戦車の前に出てみたものの、アンカーは降ってこない。ふと隣を見るといつの間にかストーム1がいて、視線を空に向けつつ疑問符を浮かべていた。
ゲームで見た展開では今ごろ
もしや早すぎたか。
『どいてくれ民間人。前進できない』
『おい、お前はあまり寄らないでくれ。怖いんだ』
タンクからの通信を受けてストーム1はしぶしぶ、俺は反論できずに前から退いて、隊は再び前進する。アンカーの落下地点を通り過ぎたことで下敷きになって全滅する未来は消えたが、今度は挟み撃ちになるんじゃないかという心配が。
もしアンカーの落下地点がゲーム通りだとするならば、この隊は第二波の敵出現地点の真ん中へと突入してしまっている。
『民間人、やけに後ろを気にしているな』
「どうしたんだ?」
「他の民間人が気になるんでしょう」
「伍長の隊が守っている。問題はないさ」
「僕も守ってほしいな?」
後ろには伍長の隊が、避難中の民間人がいる。前方は我らが軍曹隊にタンク小隊と盤石だが、後方から襲撃を受ければ全滅しかねない状況。護衛の伍長とレンジャー小隊を信用していないわけではないが…
と、ストーム1が先輩の肩を引いて伍長の隊へ接近。二人で後方を固めるつもりらしい。直前の弱気な発言をガン無視されたあげく守る側に回された先輩に悲哀を感じる。
《続報です。超大型船の進路は作戦エリアを通過するもので間違いないようです。追加で塔の落下が懸念されます》
《最悪の予測は的中するものだな。地上部隊!ヘリ部隊を向かわせた!到着まで持ちこたえ──》
「空を見ろ!来るぞ!」
本部からの通信が終わるかというところで第2波が。
舞い散るアスファルト、弾け飛ぶ電柱。生身で感じるアンカー落下の衝撃は思ったよりも大きかった。そして案の定、敵に囲まれている。
「塔が降ってきやがった!」
『怪物を呼ぶ前に片付けるぞ!撃て!』
『タンクの力を見せてやる!』
しかし前方のアンカーはタンク小隊と軍曹隊の一斉射撃によって出落ちが決まり、α型を数匹呼んだだけで沈黙。憂うべきはやはり後方。
「うわぁ!近い!近い!」
「民間人を守れ!」
「怪物への攻撃を優先しろ!」
ストーム1は転送直後のα型を空中で撃破、アンカーを折ることよりも被害を減らすことに尽力している。先輩は半ベソで銃を乱射しレンジャー隊とともに撃ち漏らしを駆除。民間人への被害をギリギリの所で食い止めている。
そうして時間を稼いだかいあって、前方の問題を片付けたタンクの主砲が旋回、アンカーを照準する。
『てーっ!』
105mm榴弾砲が火を吹きアンカー上部の転送装置を破壊。逆流したエネルギーが塔を裂いて粉々に砕け散る。普通に危険だ。
「下がって!大丈夫!大丈夫だから!」
民間人をガレキから守るべく身を乗り出す伍長。どこか先輩と同じ雰囲気を放つ彼だが間違いなくEDFの兵士だ。おぼつかない手付きでリロードを済ませる彼を見て、当の先輩は何か考え込むようなしぐさを見せている。
《こちらホーク1!飛行物体から
《ホーク1どうした!飛行物体とは何だ!》
《円盤状の…兵器のようです。重力を無視しているような動きで…ああっ!僚機が落とされた!》
《なんだと!》
《超大型船の付近で小型の円盤が確認されています。おそらく、敵の制空兵器でしょう》
本部が送ったヘリ部隊はやはり襲撃を受けていた。が、早く出発したせいか
《作戦を中止し帰投しろ!》
《ダメです、退路を塞がれています!》
《むう…少佐、ホーク1の現在位置は?》
《作戦エリアの至近です。私からは合流を進言します。歩兵の援護があれば小型円盤を撃退できるかもしれません》
《よし、作戦は続行だ!ホーク1は突入せよ!》
どうやらこちらへ来るらしい。ゲームでは幻だったNPCヘリ部隊の登場に一瞬だけ胸が踊るも、彼らが引き連れているドローンも一緒にこちらへ来ることと、このミッションが未だ第3波を控えていることに気がついて真顔になる。そして次のミッション、『未確認飛行物体』の苛烈さも。
彼らは先のことを知らないので当然味方を少しでも助ける選択肢を取ろうとするし、それには俺も賛成の立場。しかしゲームのように途中で区切りが入って補給と武器の変更ができない
『対空戦か。ミサイルは残っている』
「軍曹はともかく、俺達の武器でなんとかなるのか?」
「対物ライフルを持ってくりゃ良かったぜ!」
《これは…!超大型船が降下を開始しました。到着予定時刻は…そんな!既に地上付近へ到達しています!》
《何っ!?かなりの高度があったはずでは…?》
《超大型船は見た目よりも素早いようです…》
そうこうしているうちにマザーシップが地上に接近。その姿は未だ雲で見えないが、確かにそこに"いる"。とても嫌な感じだ。同時に第3波が始まったらしく、またアンカーが投下された。
「塔が来るぞ!」
『何本落とそうが同じだ!へし折ってやる!』
「塔の破壊はタンクに任せて、俺達は怪物をやるぞ!」
「了解!」
そこに当初ほどの動揺はなく、積み上げた戦果から士気も高い。歩兵がα型を処理、ビークルがアンカーを処理。それで良かったのだが。
《こちらホーク1!作戦エリアに到着した!》
《後方に円盤の群れがいる!対処してくれ!》
《対地装備だ!空の敵は頼む!》
ローターが空気を叩く音。EDFの対地攻撃ヘリ"ネレイド"が4機編隊で現れた。レーダー上にはその後方に迫る大量の赤点が。下部に砲台を備えた小型円盤、タイプ1ドローンの群れだ。見た感じ50機はいる。
『了解した!対空戦闘に移る!』
「ヘリは代わりにアンカーを!」
《弾薬が少ないが、やってみる!》
ヘリ部隊は対地オートキャノンでα型を散らし、ミサイルでアンカーを攻撃。
「落としたぞ!」
「うまい!」
「まだ沢山いる!」
《すまない、助かる!》
「1個借りだぞ!」
火力が分散したせいか御しきれない。航空戦力が足された戦場は3次元の要素が強くなり、的を外して虚空へ飛んでいくものも増えてしまう。敵が入り乱れて真っ赤になるレーダーに舌打ちして、それでも
分かってはいたがフルアクティブ*4の大群を迎え撃つのは普通に辛い。味方の数も多いが、対処できる数を超えてきた。基地を早く発つことでここまで難易度が変わってくるとは。
「何だ!?レーダーがおかしいぞ!」
「空を見ろ!」
「街みたいにでかい!」
「あれが超大型船だってのかよ!」
雲を押しのけてマザーシップが姿を現す。文字通り街を飲み込むほどの、空が落ちてきたと形容したいほどの威容だ。しかしよりによってこのタイミング。まだアンカーも、ドローンも倒しきれていない。金色の装甲がこちらを嘲笑うように光っている。
程なくして各所のハッチが開放し、大量のドローンが発進。さっき落とした分もすぐに補充されてしまった。
「間違いない、これは侵略だ!」
「今なら言えるぜ、宇宙人が攻めてきたんだ!」
『うろたえるな!迎え撃つぞ!』
抑えきれぬ不安に彼を、ストーム1を見る。
「……!」
やる気の顔だ。杞憂だった。そもそもこんな序盤で、侵略初期で投げ出しているようじゃこの先の苛烈な戦場で生き残れない。入隊してから1年と数カ月、これまでの訓練の成果を見せるとき。こうやってふるいにかけられて、生き残ったものだけが次の戦場へと赴けるのだ。
「…生き残ってやる!」
「そうだな、生き残るぞ!」
「俺たちがやられたら、次は民間人だ!絶対に生き残れ!」
リロードを済ませて母船を睨みつける。
もう弱点は知っているんだ。あわよくば落としてやる。
「さっきの、すごかったよ!やっぱり経験が…?」
『民間人、バルガの操縦経験があるのか?』
「はい(定型文)」