「こちらハンマーズ!配置についた!」
「装甲車も貫く対物ライフルだ!撃ち落としてやる!」
威勢のいい狙撃部隊が戦列に加わる。場にある長射程の武装は軍曹機のミサイル及びマシンガンだけだったので非常にありがたい。しかしまぁブルージャケット*1といい彼らといい、EDFの狙撃部隊はみなそういうテンションなのが普通なんだろうか。
「右だ!」
「回避しろ!」
「無人機は条約違反だぞ!クソッ!」
「そんなもの、宇宙人が律儀に守るわけがない!」
して、戦況は芳しくない。火力優勢は覆り、ほぼ無傷だったレンジャー隊にも死傷者が出始めている。ドローンがばら撒く熱線はアーマーを穿たずとも着弾面を強力に熱し、数度受ければ体が蒸し焼きに。
護送中の民間人への被害は奇跡的に抑えられているが、肉盾となる隊員がいなくなった場合にどうなるかは容易に想像できる。
「命中!ざまぁみやがれ!」
「落ちるぞ!気をつけろ!」
「うわぁ車が!」
「あれうちのじゃないか?」
撃墜しても残骸の落下という2次災害が街を襲う。反重力で飛び回っていたそれらは実際かなりの重量で、動力を失った途端に質量兵器と化してインフラを破壊する。推定マイカーが落下に巻き込まれた市民が青い顔をして言うが、逆に無傷で残っていたのがあの車くらいだった。
周りはみんなボコボコだ。どうすんのこれ。初めてα型と対峙したときから思っていたことだが、死骸や残骸の影響が無視できないほど大きい。
「副次被害は気にするな!政府が補償する!」
「人殺しのドローンを1機でもやれ!」
落下の被害は大きい。大きいが、今は無視するしかない。殺意を持って動いている敵よりも物言わぬ残骸の方が片付けやすいのは言わずもがなだ。フラフラと接近してきたそれにフルオートの斉射を浴びせて墜とす。
装甲を剥げさせ穴だらけとなったドローンは小爆発の後に四方の発光部を暗くして、電線をちぎり家屋を突き抜け路地に埋まったあげくに爆裂。アスファルトの欠片を雨と降らせた。
勝っても減給かな。
《全てのアンカーを破壊した!》
《対空支援に感謝する!》
《着陸点を確保してくれ!》
と、対地支援を全うした攻撃ヘリが煙を吹きながら降下してくる。3機に減ったそれらは機体の各部が焼け焦げ、搭載武装は撃ち尽くしと満身創痍。それでもこの間α型の対処とアンカーの破壊までやってくれたのは非常に助かった。
そこで大手を振って彼らを迎え入れたいのは山々なのだが。
「道はメチャクチャだ!飛び降りろ!」
《機体を捨てろって言うのか!?》
《墜とされるよりマシだ!やるしかない!》
数々の
《空軍はまだか?》
《超大型船は他の地域でも同様にドローン兵器を展開しているようです。方面軍はこれの対応に追われ、支援ができない状況です》
《独力でやるしかないのか…地上部隊、対空兵装のコンバットフレームを向かわせている!》
『予定到着時刻は!』
《妨害がなれけば1130だ!》
10分後。それまで持つだろうか。援軍のコンバットフレームはゲームでも現れたが、ほとんど殲滅し終わった頃にやってきたのを覚えている。しかしマザーシップはドローンを濁流のように吐き出し続けているし、殲滅の目処は立ちそうにない。
到着前にこちらが殲滅されてしまいそうだ。
それに下部の砲台、先端を潰した円錐形のそれが光を帯び始めている。シリーズ恒例のジェノサイド砲、
俺の街が消える。
「光ってる!何かの装置が起動したようです!」
《超大型船の下部に高エネルギー反応!》
《大砲のように見えるぞ!地上部隊を退避させる!》
《いいえ、情報収集を最優先してください。本部の意向です。下部構造物の発光現象は他の戦線で確認されていません》
「俺たちは実験台かよ!」
「逃げたほうがいい!」
「あっ、おい!返してくれ!」
と、混乱の最中に大口径の発射炎を纏い飛翔する弾丸がひとつ。ジェノサイド砲にぶつかって火花を散らし、僅かに損傷を与えた。振り返ればハンマーズから引ったくった対物ライフルを構えるストーム1の姿が。
厳しい視線で母艦を射抜き、しかし口元には自信に満ちた笑みを浮かべている。
「超大型船にダメージ!」
《何!?》
「なにっ!?」
『なんだって!?』
ここぞと煽る。彼は正解を知っている。なら俺が、同じく正解を知っているものがそれを支持してまぐれではないと証明する。全てがそういうわけではないが、EDFは現場においてノリと勢いの軍隊。1度流れに乗せることができれば…
「EDF!」
意図を察したのか定かではないが、ストーム1が再びジェノサイド砲へ一撃。何かの回路が弾けたのか着弾点が発光し爆発。それは誰が見ても有効な1撃。
なおもドローンを発進させ、主砲のチャージを続けるマザーシップ。この場において絶望の2文字を象徴するそれに有効打を与えられたことは大きな希望となった。
俯瞰してみればジェノサイド砲の破壊はこの場で取りうる最良の選択。主砲を破壊され大慌てで逃げていくマザーシップの姿を覚えている。ドローンの対処で手詰まりになりつつある今、その供給を断つことができれば戦況はいくらか好転するはずだ。
「下部には攻撃が通るようです!」
「大砲を破壊できるかもしれない!」
『狙撃部隊は攻撃を集中!』
《少佐、これは…》
《重要な情報です。空軍の情報では"超大型船の装甲は強固"ということでしたが…下部構造物はその限りではないようです。地上部隊は退避しつつ攻撃を続行してください!》
そうと分かれば。優先事項が変わり、退避が許された。攻撃もジェノサイド砲へと集中。しかしチャージは継続しているし、見立てではもうすぐ完了する。
「下がれ!よく分からんが危険なことは確かだ!」
「ダメージはあるが…あんなもの、破壊できるのかよ!」
「いいから撃て!母船をやれば艦載機も…!」
《高エネルギー体か発射されました!》
やはり、間に合わなかった。
この場にたどり着いたのは正史より早かったが、想定外の苦戦で結局は後手の対応となった。発射されてしまったものを止めるすべはなく、黄緑の極光を放つエネルギー球が輪状に広がっていくのをただ見ているしかない。
すぐに着弾しないのは恐怖を煽るためか、そう邪推したくなるような間をおいてそれらは着弾。極大の威力を開放し、全てを耕し無に帰した。爆炎と衝撃波が街を構成していた何かを遠くに吹き上げて煙の中に照らし出す。
《…下部構造物は砲台。この情報を本部と共有します》
《地上部隊、無事か!》
退避が許されたために、あの時点で落伍していなかったものは全員無事だ。しかし街は。
「チクショウ!」
「おい、届いてないぞ!」
怒りに任せてジェノサイド砲を狙うが、射程が足りない。なんだって俺の銃はカービンモデルなんだよ。ビークル据え付けの自衛用を持ち出したからか。クソッ!持ち替えのヒマは…無かった。吹っ飛ばされて合流に手間取ったから。ああもう!
と、射程の不足を指摘した隊員を見れば彼の得物はショットガン。EDF標準モデル、ポンプアクション式のスローターE20。お前のも大概だと指摘しようとして、思考に電流が走った。
「それ貸せ!」
「なっ、何だよ!これも届かないぞ!」
いいからと彼の手から得物をもぎ取り、残弾を確認し敵を見据える。行けるはずだ。物理の神が微笑んでくれさえすれば。これまでツンケンしてばかりだったが、この時ばかりは力を借りたい。
「また光りだしたぞ!」
「もう1発かますつもりだ!」
「街がなくなっちまう!」
『本部、コンバットフレームはまだか!』
《向かわせている!》
ストーム1は正確無比な射撃でジェノサイド砲を射抜き続け、ついでに周囲に張り出したチャージ装置を破壊してさえいる。ハンマーズ隊員も彼に続き、軍曹もドローン撃墜の傍ら何発かミサイルをねじ込んでいる。が、いまだジェノサイド砲本体の破壊には至っていない。
しかし、もう大丈夫。
「おい、ポストなんて撃って…」
道端の郵便ポストを斜め下から接射。
刹那、ポストは飛翔した。
文字通り目にも止まらぬ一閃。紅い何かがとんでもない高速回転を纏い過ぎ去ったかと思えば、ジェノサイド砲が激しく発光し損傷。
今度は電柱横の配電盤を接射。
散弾のそれぞれが運動エネルギーを渡し、加算で異次元の推力を得たそれはバラバラになる暇もなく飛翔。数ミリ秒の後にはジェノサイド砲を突き抜け激しい損傷を負わせる。
今度は自販機を射出、ブロック塀を射出、バイクを射出、その辺にあったオブジェクトを片っ端から射出。それらは全て弾丸となり、ありえない勢いで砲台を解体していく。飛ばすものがなくなって顔を上げればジェノサイド砲の構造耐久は限界に見えた。
「何をしたんだ!?」
「軌跡が見えたぞ!吹っ飛ばして当てたんだ!」
「自分が吹っ飛ぶなら他もできるってか!?」
ショットガンで物体を射出するテクニック、ハヴォック砲とでも呼ぼうか。軍曹爆弾*3という鬼畜の
煙を吹き今にも壊れ落ちそうなジェノサイド砲。ストーム1は俺を見て、ジェノサイド砲を睨んで、もう一度俺を見て、最後の一撃を叩き込む。
それは悲鳴のような金属音を発して本体から外れ、激しく爆発。真っ赤な爆炎が辺り一帯を照らし、風圧が体を押し付ける。俺の街を破壊し尽くした大砲は今や無数の残骸となって降り注いだ。
主砲を破壊されたマザーシップは急激に高度を上げて逃げていく。伴って閉まるドローン出撃ハッチに、もう増援が無いことを悟る。
無数の残骸にα型の死骸、溶けたアスファルトと散らばった電線。巨大構造物が去ってしまって周りが鮮明になれば酷い有り様が浮かんでくる。それでも。
《超大型船、戦域を離脱。成層圏まで上昇します》
『逃げた…のか?』
「つまり、勝ったんだよな?」
「超大型船を撃退したぞ!」
隊が歓声に沸く。レンジャー隊の何人かは飛び跳ねて喜び、ストーム1はハンマーズ隊員に狙撃手の卵だと持て囃されている。
まだドローンは残っているが、物の数ではない。それにこのタイミングでコンバットフレームが到着、掃討戦を始めた。先陣を切るのは基地防衛戦を生き延びたイオタ隊だ。
『時期を逃したようだが、残った飛行ドローンを掃討する!アームズ隊も続け!コンバットフレームの力を見せてやる!』
《軍曹、この場はコンバットフレームに任せろ。1度基地に戻り、部隊を立て直せ。今後の対応は追って指示をする》
『了解した。帰還するぞ!』
「とんぼ返りかよ…」
「ここは安全な場所じゃなかったんだ、仕方ないさ」
「いちど基地に戻るよ!大丈夫、基地にはシェルターもあるし、僕らがいるからね!じきに安全な場所へ行けるはず!」
民間人たちは伍長の言葉に渋い顔で頷く。交流イベントで来ていた彼らはこの街に住むものが殆どだ。多くが帰る場所を失い、むしろ基地に戻る以外の選択肢が無い。
「車の保健下りるかな…」
「俺んちが…」
「ケンくん無事かしら…」
「ガス栓閉めたかな…」
彼らが口々に心配事を述べるなか。
「あるのかなぁ、安全な場所…」
先輩の発したひと言には、ただ俯くしかなかった。