ハヴォック神の祝福   作:APHE

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ハヴォック8

 

帰還の命を受け帰ってきた自室。守り抜いた228基地のCブロック、30番庫内プレハブの一室。狭い部屋だが数少ない落ち着ける場所。軍曹隊と他多数が制圧した地下空間は概ね侵攻前と変わらぬ様相だった。

 

街をめちゃくちゃに破壊したジェノサイド砲はハヴォック砲で滅多打ちにされて爆発四散、残骸の雨が降り注いだ。そう、降り注いだのだ。俺の街に。

 

アンカーの残骸にα型の死骸、ドローンの落着で酷いことになっていた場所に大質量の残骸が着弾、その下に街があったことを認めたくないレベルの惨状となった。

 

撃たせる前にジェノサイド砲を破壊できていれば。その時はそう思ったが、実際やってしまったらあまり変わらない結果が待っていただろう。

撤退が早まって救われる命は2、3あっただろうが。

 

「……」

 

今回の作戦でレンジャー隊に少なくない犠牲者が出た。正史の流れで行けば元々この時点で散っていた命、基地防衛戦で亡くなっていた命だ。それでも、この手で救ったものが消えてしまうのを見るのは悲しかった。

 

酸に倒れた民間人も、もっと早く行けば助かったかもしれない。俺が吹っ飛ばなければ、あと数メートルずれていれば。

 

…こういう考えは傲慢か。

1人の働きで戦線がすべて傾いたりはしない。まして、これはストーム1ですらできなかったことなのだ。いまは世界中が戦場で、投入されたミッションでどれほど輝かしい戦果を挙げたとして他が伴わないならば戦況は好転などしない。

絶対無敵の練度を持つ彼、その唯一の弱点は1人しかいないこと、同時に1つの戦線(ミッション)にしか存在できないこと。

 

それを解決したのが彼とともに旅をするプロフェッサーであり、数々の未来知識と先進兵器だった。そうだ彼がいた。彼の力がなければ。

 

「おかしいと思ってたんだよな」

 

ハヴォック砲をかますに至るまでの数分間。ストーム1が対物ライフルを放ち始めてから違和感があった。俺はジェノサイド砲をもっとずっと早く、ストーム1の独力で破壊してしまえるものだとまで思っていた。しかし現実には2発目を撃たせるかというところでようやく、物理の神の力を借りて破壊に成功した。

武器の威力が足りない。というか彼が自前の武器を持ってきていない。

 

何度目かの周回で、プロフェッサーから最新の武器を送ったとか新世代の武器はどうだとかそういう会話があった。ストーム1がなぜだか武器を選択できたのは彼のおかげだったのだろう。しかしそれが無いとなれば、そうだな。わかってくることがある。

 

この時点で2人が接触できていない、このミッション進行、展開、やはりこれは5周目。それも()()()()()

EDF5の時間軸だ。

 

「だから何だよ」

 

分かったところで。武器が多少弱かろうと、裏でプロフェッサーが狂人扱いされようと、まずはこの戦いを生き抜いてからだ。一周を駆け抜けてからでないと物は言えない。それほどにこの戦いは絶望的だ。

コールが100回の大台を超えた両親への電話を切って、俺は命について割り切ると決めた。

 

「よ、元気?」

「…生きてたのか」

「悪い予感、当たっちまったな」

 

ノックすらせず入ってくる同僚。若干やつれているのは基地の人間なら誰でもそうだった。

 

「聞いたよ、あれがハヴォック神の祝福ってやつか。どえらい神に憑かれたな」

「おかげで助かったさ。戦車乗りからは怖がられたが」

「間違いない」

 

彼はベッドにどかりと座り、それからは他愛のない話をする。まるで戦争なんて起こっていないような、プライマーが攻めてきたことなど嘘のような。2丁目の公園にいたカラスが片翼白かった話、まずいレーションの中にアタリがあった話…30分くらい話して、最後に2人でギガンティックパンケーキ*1に挑んでみるかと約束した。すべてが終わって平和が戻ってきたら。

 

「祈れば俺も祝福されそうか?」

「分からない」

「だよな。お前がわからないって言うんだし…そうだ、お前のコンバットフレームだがほぼ無傷で回収されたぞ。演習場の端まで飛んだのに、駆動系の一部がいかれただけだった。これも祝福かもな」

 

今度こそそれで守ってくれよと肩を叩いて、彼は自室へ戻っていった。

俺のニクスB型、そうか無事だったか。乗り捨てたビークルには被害が及ばないということだろうか?謎だ。これまで色々試してきたつもりだったが、まだ3割も解明できていない気がする。

…妙に都合が良いところは本当に祝福だったりするのかな。

 

──と、もう割といい時間だ。この先ふかふかのベッドで寝られることなど少ないかもしれないし、せっかく与えられた休める機会を無駄にはできない。

俺は速やかに布団にくるまり、部屋の明かりを消した。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

『君から連絡してくるのは初めてだな』

 

ようやく繋がった秘匿回線。エアレイダーの通信装置を拝借し彼を無理やり呼びつけた。こんなことは初めてだと思う。しかしそれも無理ないほどに、今回は情勢が動きすぎている。ほとんどは自分の独断が原因だが、それを決心させたのは。

 

『聞いているよ。バルガのこと、マザーシップのこと。パラドックスを恐れないと決めたんだな。…別に責めているわけじゃない、驚いただけだ。そして、破河上等兵…彼の噂は聞いている。去年入隊したようだ。その頃から彼の周りでは"特異な現象"が起きていたと。しかし何より──』

 

()()()()()()()()()()

 

『…そうだ。前の周回に居なかった。我々が観測できない、プライマーの介入前の世界にだけ存在するのだとしたら辻褄は合うが…そういうわけでもなさそうだ』

「俺も混乱しました。でも彼のおかげで新たな選択が取れた。リスクが大きいことは把握している。しかし」

 

「──ここからどう転ぶのか、見ておきたい。可能性を見ておきたい」

『同じ思いだ。奴らの時間戦法の打開策になるかもしれない。こちらも近く行動に移すつもりでいる。遠慮をするのはやめよう』

 

全力で闘うと、そう誓う。

 

『それで、彼自身のことは分かるか?』

「あまり。まだ紹介を受けた程度でまともに話していない。戦闘力自体も平凡、同期入隊らしい隊員と同程度。しかしカンがいいのか、やりたいことを察してくれた」

『知っているという訳では…』

「無さそうだ。彼もまた侵攻に驚いている」

 

襲い来るドローンにα型に、我武者羅に引き金を引く姿にはただこの瞬間を生き抜こうとする意思のみが見て取れた。そのカンの良さが生来のものならば居てくれるだけ助かる存在だ。

 

『味方が増えるのはいいことだ。奴らの戦術のことも…話せば信じてくれそうか?』

「ダメだろう。わかりやすい根拠を示さなければ」

『難しいな。もっと大胆に動かなければならないか』

 

仲間を増やす試みは何度か試しているが、成功していない。()()()()()()()()。増やせたとて、最後の戦いまで生き残れなければおしまいだ。

 

「……誰か来た。また連絡する」

『ああ。近いうちにまた』

 

遠くからの足音に通信を終える。振り返れば警備員姿の何者かがゆっくりと近づいていた。あの背丈には見覚えがある。

 

「先輩」

「やぁ、すごい戦いだったよね…」

 

力のない笑みを浮かべ、肩をすくめてみる先輩。彼が生き残ってくれたこと、共に戦えたこと、嬉しく思っている。後者については少し強引だったかもしれないが。

変わってゆく未来に興奮していたのだ。許してほしい。

 

「こんなことになるとは思わなかったよ。それに宇宙人だって?これじゃあイベントどころか…調子狂うよね」

 

「そうだ、さっきシェルターに軍曹がやってきてね、EDFに志願しないかって話してたんだ」

「!」

 

いつも陥落していた228基地、避難中に散り散りとなる民間人。救えなかったそれらを救い、彼らの()は救えなかった今周回。彼らには新たな家が提案されたらしい。

初めての展開に胸が踊る。して、先輩の答えは。

 

「一緒に戦って、みんなの前に立って…守るのってすごく大変なことだと思ったよ。でも、この質問をされた時にはもう決めてたんだ。僕はEDFに入隊するって」

「!!」

「みんなを守ってくれた伍長…立派だったなぁ。自分も大変なのにさ、みんなを落ち着かせようとしてくれて。かっこいいって思ったんだ」

 

先輩の背中を押したのは伍長の存在だった。いつかの周回では軍曹の代わりに民間人を、自分を安全な場所へと連れて行ってくれた彼。結果的にそれは叶わなかったが、彼は最後まで努めて冷静に振る舞っていた。

そんな姿が心に響いたと。そうなりたいと思ったと。

 

「訓練は楽じゃないってね。こんな状況だし、訓練よりも先に実戦が来そうだけど…あはは。頑張ってみるつもりだよ」

「そう」

「……それでね、ここに来たのは君にも声がかかってるからなんだ。軍曹とあの狙撃部隊…ハンマーズの人たちがね、ぜひ入隊してほしいってさ。どうかな?」

 

俯いて、悩んでいる様を装う。実際のところ照れ隠しだ。答えは最初から決まっている。

 

 

 

*1
喫茶せんちねる名物。15分以内に食べきれば無料。





破(ドローンの濁流が…思ってたのと違う!死ぬ!)

嵐(ループの線は無さそうだな)
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