ここだけレグルスに弟がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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侵害だよねえ!?


18話 必要最低限も赦されないとかそれって権利の(ry

 

レグルスはラインハルトたちとの戦闘にイライラしていた。

 

僕には攻撃が効かないということが分からないのか?

 

なかなかしぶといのも、気に食わない。

スバルがラインハルトへ叫ぶ。

 

「そいつの心臓が動いているか、確かめてくれ!」――は?

 

クソが。感情のままにスバルを鋭く睨みつける。

そこへラインハルトからの重い一撃が入る。

 

「よそ見をするなんて、頂けないね」

 

「勘違いするなよ、剣聖」

 

ラインハルトの首をぎりぎりと掴み、持ち上げながら、続ける。

「遊んでやっていたのは、僕の心の広さと余裕のおかげだ。でも、優しい僕にだって限度があるんだからさあ!」

 

 

 

「どうやら……スバルの推測は正しかったらしい」

 

レグルスが怒りながら喋っている間、自分の方が有利な立場にあるという驕りによってできた隙を利用して、ラインハルトはスバルに言われた通り剣の柄でレグルスの心臓を確かめていたのだ。

 

してやられた。

 

 

 

 

 

レグルスの心臓の鼓動を確かめた時、ラインハルトは怪訝に思った。

 

 

鼓動は、ある。

しかし、その鼓動はなんと言い表せばいいのか躊躇われるほど、歪なものだった。直感的に、何かが違うと感じる。

 

 

これは、普通では、ない。

 

 

 

今のレグルスの状態と、心臓の鼓動が一致していない。

怒りに満ちているレグルス、一方で落ち着き払っている鼓動。

 

これではまるで、彼の心臓の鼓動ではなく、他者の心臓の様だ。

 

「君の心臓は何か変わっているらしい。まるで他人の物のような……」

 

 

 

言い終わる前にレグルスはラインハルトの首を掴む手にさらに力を込めながら怒り狂った表情で、感情のままに叫ぶ。

 

「はぁ!?お前、お前、お前!!!!人様の大切な心臓の鼓動を、拍動を、好き勝手に感じとっただけじゃ飽き足らず、あまつさえ変わっているらしい、だと!?馬鹿にするのもいい加減にしろよ、剣聖!!それってつまり僕の弟への罵倒だよねぇ!?心臓が動く、なんて生きていく上で1番大切で、必要最低限の行為なのに、それすらおかしいって見下すなんて最低だ!!重篤な権利の侵害だ、人としてどうかしている!!僕の大事な家族を軽蔑して軽視して侮蔑して卑しめるなんて、最低だ!どいつもこいつも舐めやがって、僕たちを愚弄するなよ!!!」

 

 

「なるほど。どうやらスバルの言うとおり"君の"心臓はここでは動いていないらしい」

 

 

 

次の瞬間、ラインハルトはレグルスによって文字通り、"空へ落とされる"ことになる。

 

空へと投げ飛ばされたラインハルトは伝心の加護を使ってスバルに推測通り"レグルスの"心臓は動いていないということを伝える。

 

まさかあのレグルスに家族が居るとは思えなかった。

 

 

 

突然出てきた弟という存在。

それが、いったい今後の戦況にどう影響を与えるのかなんて、誰にも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

婚姻の儀がめちゃくちゃになった教会にエミリアが戻ると"旦那さま"の命令がない為、妻たちはずっと立ち尽くしていた。

 

そんな妻たちと、真摯に向き合い、あなたたちの力を貸してください、あなたたちと、今、戦っている人を助けさせてくださいと頭を下げてお願いした後、エミリアはひどく驚いた。

 

 

出てきたのは、レグルスに対するとめどない罵倒だった。

 

最初の一言は「……嫌い」というシンプルなものだった。憎悪と、怨嗟と、これまでされてきたことへの思いが、伝播していく。

「私も、嫌い」「嫌いだった」「ずっと嫌だった」「嫌い、本当に嫌い」「どうかしてる」「頭がおかしい」「誰が好きになるの」「自分が好きなだけ」「頭の中で何回も拒んだ」「泣きたかった」「でもダメだった」「嫌い」「死ねばいいのに」「大っ嫌い」「嫌だ嫌だ嫌だ、本当に嫌」「目つきが嫌」「喋り方が嫌」「歩き方が嫌」「性格が嫌」「人間性が愛せない」「昨日より嫌い」「明日の方が嫌い」「気持ち悪い」「変態」「頭が子ども」「子ども以下」「地竜の方がマシ」「比較対象がない」「生理的に無理」「嫌い嫌い嫌い」「いつも吐き気がしてた」「殴って死んでって何回も思った」「最悪」「最低すぎる」「一緒にいると反吐が出る」「触られると腐りそう」「心が死んでいく」「家族の仇」「無理やり連れ出されてどうして好きになるの?」「無自覚な悪意が信じられない」「苦しんで死んでほしい」「話が長くて回りくどい。一文字余計に喋るたびに死んでほしい」「腸が腐ればいいのに」「私の恋人を返して」「帰りたい、帰りたい……」「助けなんていいから、あいつを殺して」「ゲス野郎」「もう嫌、永遠に嫌!」「あれを好きになる女なんていないでしょ?」「男でもいないわよ」「あれを愛せる人間なんていない」

積み重なった思いを口々に、罵詈雑言を放つ。

最後に、シルフィが言う。

 

「あんな男、大嫌いでした」

 

「私たちにも協力させてください」

 

みんな耐え忍んで、押し殺して、飲み込んだふりをして過ごしていたんだ。

許せない。と、憤りを感じてグッと手に力を込める。

一刻も早く、彼女たちの為に、私が何とかしなくては。

 

 

 

 

 

 

だが、しん、と静寂を取り戻した中で、小さな呟きがこぼれ落ちる。

 

「……でも、でも、弟さまは、弟さまだけはあのゲス野郎を大切にされていたわ」「そう、ね。あんなやつにすら優しく接していらっしゃったわ」「あんなやつに笑いかける必要なんてないのに」「あいつにはそんな資格すらないのに」「弟さまは私たちの話をなんでも聴いて、覚えていてくださった」「いつもこっそり名前を呼んでくれたわ」「私の好きなものも、好きな歌も覚えていてくださった。一緒に口ずさむあの時間が救いだった」「外見だけのあいつじゃない、私の内面まで褒めてくれた」「旅先で食べたという美味しい料理を作ってくださったわ」「甘い焼き菓子を作ってくれたこともあった」「穏やかに過ぎる時間の中で、みんなで一緒に食べるあの時間が心の拠り所だった」「表情があまり変わらない人だった。でもうれしいことがあった時にはニコニコされていて」「そう、あいつと同じ顔なのに弟さまの笑顔はいつもかわいらしかった」「世話係になることがうれしかった」「朝に弱くて」「丸まって二度寝される姿が愛おしくて」「髪の毛をとくのが苦手でいつも恥ずかしそうにしながら私たちに三つ編みにして欲しいってお願いしてくれた」「なにそれ、うらやましい」「私だってあの天使の様な長くふわふわした髪の毛に触れたかった」「ちょっとぼんやりしていらっしゃって、よく転んで、手当してさしあげたわ」「身長が高くて大人っぽいのに、ちょっとぽわぽわしていて子供っぽいところがまた、かわいらしくて」「誕生日にはプレゼントを必ず贈ってくださったわ」「そう。それも、かならずお褒めの言葉が書いてある手書きのメッセージと一緒に!」「大きくて優しい手で、頭を撫でてくれた」「私だって撫でてもらったわ!」「うらやましい」「ケガをしてしまった時に治癒魔法で治してくださった」「転びそうになった時に抱きかかえてくれました」「待って、なにそれ私だってされたい」「花の甘くて落ち着く優しい香りがしました」「私だって吸いたい」「吸いたい!」「私たちの気持ちをいつだって考えてくれていました」「あのクズが機嫌が悪くなった時にすぐに間に入ってくださって」「それに何度助けていただいたことか」「素敵な魔法を見せてくれました」「そう、たくさん。見たことのない夢みたいな魔法を」「みんなの好きな魔法を覚えてくださっていて」「旅から帰られた後は、みんなで一緒にお土産のお菓子を食べました」「おいしいねぇ、って笑う姿がかわいくて」「尊い」「尊すぎて死ぬかと思いました」「食べこぼしてしまって恥ずかしそうにされていたり」「食べこぼしたカケラがうらやましい」「受け止めた服がうらやましい」「私が受け止める服になりたい」「旅先であったことを、知ったことを、たくさん聞かせてくれた」「弟さまが居る間だけ私たちは人間でいることができた」「私たちらしくいていいのだと、心まで縛られる必要のなくなる言葉をかけてくださったわ」「とても柔和で、美しい方だった」「おとなしい方で、よく本を読まれていた」「何でも知りたがって、子供の頃読んだ物語を聞かせて、とねだられたこともあったわ」「かわいい」「穏やかな方だった」「怒るなんてもってのほか、大きな声をあげることもなかった」「あのゲス野郎と同じ血が流れているなんて考えられない」「比べることすら烏滸がましい」「本当にその通りよ」「あの、中性的で甘く優しい透き通る声が好きでした」「思わず涙が出てしまった時に涙をふいてくれた」「慈悲深かくて、あたたかくて、優しかった」「よりによってなんであのクズ野郎の双子なんだろう」「私の弟でいてくれたらいいのに」「抜け駆けだなんてずるいわ、私だって弟さまが姉弟に欲しい」「私だって」「うんとかわいがってさしあげたかった」「私たちにそうしてくれた様に」

「あのクズなんかより本当は弟さまと結婚したかった」「「「「「それは本当にそう」」」」」

「あのクズが双子の兄だなんて、私なら死んだほうがマシ」「それなのに弟さまはあいつにすら思いやりを持って接していた」「あのクズが弟さまの頭を撫でているのを見たことある!?」「は?あのクズ、弟さまに触るな」「弟さまが腐ったらどうしてくれるんだ」「穢れる」「わたしが撫でてあげたかった」「みんなそう思っているわよ」「あんなゲス野郎なのに、本当によく懐いていて」「あいつ、私たちに自慢する様に弟さまと関わっていたわ」「私たちを機嫌一つで殺すのに、弟さまの前では絶対にそんなことをしなかった」「弟さまに知られることが恥ずかしかったのよ、あのクズは」「他の子たちが死んでいってしまったことに悲しみ、安寧を祈ってくださったことを知っている」「弟さまの隣にいるべきは私たちなのに」「私たちの弟さまなのに!!」「私たちだけの弟さまなのに!!!」「弟さまの、ふにゃりと笑う、安心させてくれるあの笑顔がまたみたい」「あぁ、でも弟さまは本当にいい人だから」「クズ野郎が死んでも、私たちが死んでしまってもきっと悲しむわ」「私、いえ、私たちは弟さまが悲しむところを見たくない」

 

エミリアはすごーく困惑した。妻たちから溢れてくる突然の弟への重い重い思い。

 

レグルスには弟さんがいたの?

みんなは、あのレグルスの弟さんのことをこんなに慕って、大切に思っているの?私には、分からなかった。

 

レグルスは彼女たちを妻にする時になんの罪のない村人や家族の命をも簡単に奪ったと言っていた。

それは決して許してはいけない悪虐非道な行為だ。

 

けれど、私が今からすることは、相手がいくらあの非人道的なレグルスであったとしても。

レグルスを殺してしまうことは、その、優しいと言われている弟さん家族の命を、奪うことに繋がる。

 

エミリアは自分の判断が、正しいのか、もっと良い方法があるのではないか分からなかった、スバルならもっともっといい方法を思いつくのではないだろうか。

スバルなら……

 

もし、レグルスの弟さんが、大切に思っている家族が突然殺されてしまったと知った時、私は、私はどんな顔をすればいいのだろう……?

レグルスのことを考えて、花嫁さんたちを思って、弟さんを思って、でもレグルスは……と思考がぐるぐると循環する。

 

 

 

いつの間にか再び静まり返った教会内に、また、1つの声が響く。

 

 

 

 

「でも」

 

「でも、あいつのせいで、あいつが生きているだけでこの先弟さまが少しでも辛い思いをするかもしれないと思うと胸が痛むわ」「本当に辛い」「苦しい」「そんなのひどすぎる」「悲しい」「考えるだけで反吐が出る」「そうね」「そもそも、あいつと弟さまが家族だっていうこと自体、なかったことになって欲しい」「あのクズ、弟さまに懐かれているのは、1番大切にされていて、尊敬されて、尊重されているのは自分だって勘違いして、馬鹿みたい!」「勝ち誇った顔をして弟さまを見せつけてきて」「弟さまが家族思いだった、たったそれだけなのに」「心優しい弟さまを利用して」「骨の髄まで穢らわしい」「ご飯やお菓子を食べさせてもらう時のあのクズの幸福ですよ、っていう態度!今思い出しても腹が立つ」「馬鹿らしい」「そんなことを弟さまにさせるな」「弟さまに触れるな」「それしか能がないかのように振る舞って」「弟さまの優しい声を1番聴いていたのは私たちの方なのに」「どこまでも生き恥をさらすクズ」「救いようがない」「弟さまの本当の愛を受けていたのは私たちの方なのに」「弟さまだってきっとあの下衆が居ない方が自由に生きられるわ」「あのクズが居ない方が心も体も解放されて、きっと今よりも弟さまは心から笑顔になることができるはずだわ」「そうよ」「そうだわ」「そうに決まっている」「そうに違いないわ」次々に妻たちから大きな声があがる。

 

そう、なのだろうか。

 

でも、レグルスからの圧政を乗り越えようと勇気を出して、本当の気持ちを曝け出すことが出来るようになった彼女たちがそこまで、そんなに、そんな風に言うなら、きっと、きっと、本当にそうなのだろう。

 

花嫁たちの皆の手にガラス片があった。握られたステンドグラスの、鮮やかな色がこれから起こる彼女たちの覚悟に、その行為に反応する様にキラキラと輝きを強める。

 

シルフィが、妻たちが全員ガラス片で首を突き刺そうとするのを、エミリアが制する。

「私が、あなたたちの鼓動を止めるわ。――そんなもので喉を突いても簡単に楽にはなれないから」

 

エミリアの周りに、教会内に、青い雪が降り積もっていく。それは、冷たさを増して、白い結晶へと変わっていく。

「―――ごめんなさい、こんな方法しかなくて」 

 

スバルならもっと良い案を思いついたのかな。

 

苦しい表情を浮かべたエミリアに、安心した顔の妻たちは口を揃えて最後に言った。

「謝らないで。ありがとう」

 

「それに、こうした方がもし弟さまが私たちを見ることがあるのなら、少しでも綺麗な状態で弟さまに見てもらえるわ。私たちにとってこれ以上いいことはないの。だから、ありがとう」

 

彼女たちは笑顔だった。

 

そして、教会は青白い極光に包まれた。

 

 

 

 

 

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