ここだけレグルスに弟がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線 作:ねえ、おなまえは?
詠唱部分はFate/Grand Orderのアビゲイル・ウィリアムズちゃんの台詞を一部引用させていただいております。
予想通り、両親に話が回って来たらしい。
それも、悪い方に脚色されているお粗末な噂として。
両親は弟を一層腫れ物扱いし、僕以外の兄弟は怖がって喋りかけるのを辞めた。
弟といえば、変わりなく過ごしていた。
本に囲まれて、食事をとって、また本を読んで寝る。
毎日飽きないものだと、逆に感心する。
ただ、1つ変わったのは、レグルスが幼馴染と一緒に遊ぶ時に弟も雛鳥のように着いてくるようになったことだ。
幼馴染は、忌み子と呼ばれる弟を見ても、わぁ!双子だから、やっぱりレグルスにそっくりな顔なのね、2人並ぶと見分けがつかないかな、あ、でも弟くんのほうがレグルスより少し雰囲気が柔らかいというか、ちょっと穏やかな印象なのね、それにレグルスは表情がコロコロ変わるから分かるわね、とニコニコ笑って気にしない様子だった。
てとてとと、レグルスと幼馴染の横にくっついてきて、3人で何をするでもなく木陰で過ごしたり、僕たちが話しているのを穏やかな笑みを浮かべて眺めたり。
平和な日々だった。
弟はいつ習得したのか分からない魔法を気まぐれに見せる時もあった。
昼間なのにレグルスたちの周りだけ包まれるように月夜になって、色とりどりの綺麗な流れ星をふらせて見せたり、真紅や深い青色、キラキラと輝く黄色の美しい宝石のカケラを空中に生み出してみたり。
この美しいカケラは、弟があげる、という様に微笑みながらぐいぐいと渡してきたので、レグルスと幼馴染の宝物に加わった。
そんな日が過ぎていった。
何年も経って、成長しても、生活は変わらずに続いた。
いつも通り魔導書を読み耽って喋らない弟と、弟を無視する兄弟と、それを見て見ぬ振りする両親。
弟に構うのはレグルスと幼馴染だけだった。
非常に、非常に不服だが、身長を弟に追い越された。
相変わらずぼんやりとした瞳をしていて、同じ顔のはずなのに、弟の方がどことなく柔和な感じがして、変な感覚になる。
髪の毛はだれも、両親すらも切ってやろうとしなかったから、その癖のある髪は長く伸ばされ、後ろで、大雑把に1つに結ばれている。
前髪は鏡を見ながら1人でざく、ざく、と切っていたのを見たことがある。
本を読むのに邪魔になるからだろう。
弟は誰に言われるでもなく、魔法で村の壊れた物を直したり、困りごとの手伝いをどこからともなく現れてはしたり、村の近くに魔獣が出た時には退治したりしていたが、みなお礼の言葉の一つも言わず、村人たちからの軽蔑と侮蔑と悪意のある目線は変わらずに続いていた。
そんなある日。
レグルスは馬鹿な村の奴らと言い争いをしていた。
レグルスから始めたわけじゃない。
何か気に食わないことがあった後だったのだろう。
夕暮れに村の外れを歩いていたら、それを見つけた奴らが僕を囲っていつもより一層喧しく騒ぎ出したのだ。
「よう、かわいそうなレグルス、人を見下すことしかできない、あわれなやつ!それに加えて、弟はあんなで、"忌み子"だろ?あんなバケモノが弟だなんて、考えたくもないよ!お前みたいな奴にはバケモノの弟がお似合いだ、ざまぁみろ!」
鬱陶しかった。
蹴散らしてやりたいと思った。
でも、僕はこいつらとは違う。
やり返したら同等の頭の作りです、と言っているようなものだと言い聞かせて我慢して家へと踵を返した時、後ろから石が投げられて、頭に当たった。
それを皮切りに、殴られ、蹴られた。
日頃からレグルスは自分たちを見下していたのだろう、という考えから来る劣等感と、弟に対する恐怖が入り乱れて、それが村人たちを掻き立て、そうなったのだ。
レグルスはどんどん人目のつかない森の方へと追いやられていった。
「あのっ、さぁ!君たち無抵抗の人間に、それも何も悪いことをしていない人にそんな風に暴力を振るうなんてよく出来るよね!頭がどうにかしちゃってるとしか思えないよ!あぁ、そもそもそんなこと考えられるような頭なんてないのか。やっぱり君たちは能無しということの証明になったじゃないか。よかったね、自分たちの無能さに気がつけてさ!僕に感謝して欲しいぐらいだよ」
口はいつもの調子で回る。
クソ、と心の中で悪態をつくが状況は好転しない。
殴られ、視界が揺れる。
視野がどんどん暗転していく。
意識が離れていくレグルスをなおも殴り、喧騒が激しくなる中。
―――突然、女とも男ともとれる、中性的な、まるで幼い子供みたいな、甘く、優しい声がした。
「ねぇ」
「何をしているの?みんな楽しそうに笑っているけれど、ボクには全然分からないなぁ」
レグルスを殴る手が、その甘美な声に、思わず止まる。
しかし、すぐに怯えた声があがる。
ヒッ!こいつ!いや構わねぇ、こいつもやっちまおう、と次々に悪意が波及していく。
くすり、と小さく笑う声がする。
「あのね、もう、おしまいなんだよ」
「いぐな、いぐな、とぅふるとぅくんが」
銀の鍵はここに。さあ、扉は開かれた。
意識が落ちる、最後に、そんな声が聞こえた気がした。
次に目が覚めた時、傷ひとつない状態で家のベッドに寝かされていた。
何が起きたのか、理解が追いつかなかった。
僕は、確かにあの時村人たちに、認めたくはないがボコボコにされたはずだ。
それにあの声は一体なんだったのだろう?
誰かがレグルスを助ける、なんて考えられない。
幻聴だったのだろうか。
夢でも見ていたのだろうか。
分からなかった。
だから、考えるのをやめた。
分からないことを考え続けるなんて自分の貴重な人生の時間を浪費するにほかならない、無駄な行為だったからだ。
それから2、3日後、村は大騒ぎだった。
ある日を境に村人たちが何人も消えたのだという。
それも、僕に一方的な暴行を働いた村人たちだけが、跡形もなく。
僕はあの場に誰が居たから覚えているけど、他の村人たちにはそんなことが分からないから、無作為に消えた様に見えて、より一層怯えていた。
そして、村人たちは、これも忌み子の仕業に違いない、と決めつけた。
この前にも、家畜が続けて死んだり、疫病が流行ったり、魔獣が現れたりした時も忌み子の仕業だ、忌み子の仕業だと騒いでいたが、ついに人が消えて居なくなってしまったから、村人たちの恐怖と我慢の限界が来たのだ。
殺すか、この村から追い出せと何度となく両親に迫っていた。
ある夜、酒に溺れた父が、母に向かって「あいつを奴隷商にでもなんでもいいから売っぱらっちまえ!あいつは疫病神だ!あいつのせいで俺たちがどんな目で見られてきたか、どんな言葉を投げかけられたことか!!産んだお前にも責任がある。だからどうにかしてこい!!」と怒鳴る声が眠る直前に聞こえてきて、どうしようもない、救いようもないクソみたいな奴らだなと思った。