ここだけレグルスに弟がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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短編 死に戻りについて

 

野営中、珍しくスバルとボクだけが起きていた。

 

パチパチと音を立てて、ゆらゆら不規則に揺れる炎を見ていると、安心するよねと、くだらない話をしていた。

スバルは眠いのか、こっくり、こっくりと舟を漕いでいて、ボクにもたれかかってくる。

 

この状況、ゆっくりとスバルの記憶だけ、楽しめるんじゃない?

 

さぁて、"識る"時間だ。わくわくしながら権能を発動させる。

効果範囲を極限まで狭くしたから、これで隣に居るスバルの記憶を見られるはず。

 

 

 

瞬間、視える彼のこれまでの記憶。

 

あ、と思った次の一瞬で頭にとんでもない衝撃が走る。

 

 

なん、っだ、これは!

興味深い!面白い!!うわぁ!!!!死んで戻るとは!!

脳に負加がかかりすぎているのか、つぅ、っと鼻から血が溢れ出す。

繰り返される理不尽な死に戻りの苦痛など気にしている場合ではなかった。

 

痛い、痛い、痛い、辛い、投げ出したい、もう終わりにしたい、嫌だ、絶望、少しの希望からの絶望、死にたくない、理不尽だ、助けてくれ、と繰り返していく記憶の奔流。

頭に叩き入れて、記録して、書き留めて、焼き付けて、刻みつけて記憶していく。

 

 

面白い、面白い、面白い、面白い!!!!!

 

 

何か非常に強い誓約がかかっているのだろう。

"識りたい"僕に抗うようにゴポリ、と血が迫り上がってきて笑った口の両端から顎を伝ってぼた、ぼたと白い服に落ちて赤い染みをいく。

 

口の端から流れる血をペロリと舐め取りながら満足げに笑顔を浮かべる。

これは、とても、とても有意義な記憶だ!すばらしい!!

 

こんなに"愉しくて面白い事"を彼はずっと抱えていたのか!

 

 

ボクはヨグちゃんのおかげで身体、精神負荷が軽減されている。

 

 

 

だからこそ、スバルのその精神性には万来の拍手を贈りたい。

 

こんな面白い事、試さずにはいられないだろう。

ねぇ、ヨグちゃんもそう思うよね。うんうん、そうだよね!!!

 

すぐにヨグちゃんの時空を歪ませる魔法の高度な応用と、自身の死んだ、そして生まれ変わった時の記憶を組み合わせていく。

ああ楽しい、楽しくて愉しくて仕方がない。

 

ほら、出来た!

 

急に血を流したボクを見て、スバルが覚醒しておい、大丈夫か!?と慌てる。

ハンカチで拭いてくれようとする優しい優しいスバルの手を取り、ぐいっと引き寄せてそっと耳元で囁く。

 

 

 

「ねぇ、スバル。君はボクが死んだら、やり直す気はあるのかな、それともボクが死んだくらいなら、やり直さないのかなぁ?」

 

 

あ……?え……?と声にならない声を出し、目をこれでもかと見開いて動揺しながらこちらを見つめるスバル。

瞳孔が散瞳している、驚いて交感神経が過剰に興奮しているんだね。

呼吸も荒い、掴んだ手首から感じる脈動もどんどん早くなる。

 

あぁ、そんな顔しないで、思い詰めすぎだよ。

 

失敗したら、そうだね、たかだか、ボクが"死ぬだけ"なんだからさ。

コレは賭けだ。

 

じゃ、やってみるね、ばいばーい。

にっこり笑って、手を振る。

 

さよならの時はやっぱりばいばいしないとね。

 

スバルが止める間もなく、指を横に引く。

魔法によってボクの首は捻り切れる。

 

ごとり、と床に頭が落ち、打ち付けられる。視界の端でスバルが取り乱したように泣きながら頭を抱えて(あ、ボクのじゃないよ、ふふ、生首ジョーク)何で、何で、どうして、とか何か呟いているのが聴こえる。

 

 

さあどうなるかな。

暗転していく視界の中、思うのはただただ事象の結果を気にする好奇心だけだった。

 

次の瞬間、閉じていた目が、ぱちりと開く。

呼吸をするのを忘れていた。

思わず、はく、と喘ぐように息を吸う。

意識清明。しかし、暗転から急に目が覚める感覚を味わう。

どんどん記憶に刻んでいく。

 

横を見ると、目をこれでもかと見開いてこちらを見つめるスバルが固まっている。

あぁ!成功だ!!!!おもわず祈るように手を組み、歓喜する。

 

スバル、ボクの勝ちだ。

戻ってきたよ、と手を振りながらにっこり笑いこてん、と首を傾げる。

 

あは、ねぇ、やり直すかどうか、考えてくれた?

あぁでも一瞬だから、思慮深い君にはそんなこと考える間もなかったかなぁ。

その感情も、その思考も知りたいなぁ。

 

でも、残念。もう時間。

 

スバルは理解が追いつかなかった。

何だコレは。

 

戻れるか分からない状態で、その知識欲を満たす為に、試す為だけに、自分から死んだのか?

意味が分からない。理解できない。頭がおかしいとしか言えない。

 

そもそも、なんでコイツは俺の死に戻りを知って…いや、権能のおかげか、俺は、もし、コイツが本当に死んでしまっていたなら、"やり直し"していたのだろうか……?

 

嬉しそうに笑いながら満足げに、これは面白いなぁ、スバルのとは違うね。

死ぬ直前に、ほんの数秒前に戻れるのか、まあ、数秒あれば対処出来るから大丈夫だねと、口早に言いながら魔導書を虚数空間から取り出してガリガリと書き込んでいく。

 

名前は、そうだなぁ。無難に帰還の魔法、にしようっと。

 

まだ固まっているスバルに、いい経験に付き合ってくれてありがとう。

君じゃないとダメだったんだ、君だったから作り出せたんだ。

でも、きっと嫌な思いをさせたよね、ごめんね。じゃ、これで無しって事で、と言いながら指を鳴らす。

 

スバルがこっくり、こっくりと舟を漕いで、僕にもたれかかってくる。

スバルが体験した30秒にも満たないボクとの会話を、目撃した死を、帰還の記憶を時空を捩り切って消し飛ばした。巻き戻したと言う方が正しいかな。

これでスバルはこの時間軸ではまだ何も見ていないし聞いていない事になる。

でも過去の時空で、ああして僕が自ら死んだ事実は無くならない。

そして戻って来た事も。

けれども僕は死んだ先の未来から戻って来たから、時間軸が混線して僕が作り上げた帰還の魔法は無くならないんだね、不思議だなぁ、面白いなぁ、嬉しいなぁ!

 

この巻き戻す魔法、ほんの少しの時間の分、何秒か前の記憶しか、無かった事に出来ないから、使い勝手が悪いかも〜って思っていたけれど、そんな事は無かったね。

 

やっぱり何事も経験しておくべきだし、体験して記憶しておく事が大事だよね。

知識欲が満たされていくのを感じる。

 

あぁ、とても、本当にとても有意義な記憶だった!

 

うぅん、と頭を押さえながらスバルが目を覚ます。何か、悪い夢を見ていた様な、と呟く彼に、大丈夫?疲れが溜まっているんじゃない?と声をかけて、横になって休んだ方がいいよ、と伝える。

 

あぁ、サンキューな、と笑うスバルに、こちらこそ、と笑顔で返す。

 

そんな、ある日の出来事のお話し。

 

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