ここだけレグルスに弟がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線 作:ねえ、おなまえは?
戦いの後、教会に着いて、美しく閉じ込められていた花嫁さんたちの氷をエミリアさんにお願いして溶かしてもらって彼女たちが目覚めるのを待つ。
ブランケットを虚数空間から取り出して、一人一人にかけてあげる。
流石に数が足りなかったから屋敷に戻って、洗いたてでもふもふのそれを持って教会へと帰ったボクが見たものは…いや、なかなかにすごかった。
それは兄さんに権能を使わせない様にスバルくんやラインハルトさんが見張って、彼女たちが1人ずつ"気持ち悪い"とか"死んで当然だったのに"とか"このクズが、生きている価値が無いのに"だとか、そんな言葉をかけながら兄さんを振り上げた手でビンタしている姿だった。
ぽつんとブランケットを持って立つボクに気づいた花嫁さんの、えっと、リーアさんが、弟さまよ!!と声をあげる。
それまで罵詈雑言の嵐だった教会内が一瞬、キン、と耳鳴りがするほど静かになってれからが、もう大変だった。
ドドドドッとこちらへ駆け寄って来る花嫁さんたち。
弟さま!弟さまが無事で良かった、私たちの氷漬けの姿いかがでしたか?弟さまに見ていただくのにピッタリだったでしょう?そのブランケット、私たちに持ってきてくださったんですね!足りないからってわざわざクソみたいな屋敷に戻ってまで!私たちの為に!あぁ、弟さまをもう一度見られると思わなかった、嬉しい、嬉しい!抱きついて良いですか?良いですよね!?困惑する顔も可愛らしい、やっぱりあのクズとは違う!生きていて良かったって、もう思えないと思っていたけれどそんな事無かった!だって弟さまに会えたのだから!あぁ、感謝いたします!これまでのクソみたいな人生が報われる時が来て、弟さまにも会えて、私は幸せです!
よ、ヨグちゃん…ヨグちゃん、人は抑圧から解放されるとどうもこうなるらしいよ、識れて良かったね、ボクは押しかけて来る花嫁さんたちにみんなが無事でボクも嬉しいです、よかったぁと言いながら兄さんの後ろへ隠れる様にして息を整える。
兄さんの肩に両手を置いて、そおっと花嫁さんたちを見ると、口に手を当てて、ブルブルと震えていた。
え、っと、大丈夫ですか…?と尋ねると、だ、だ、だ、大丈夫じゃないですっっっっ!!!!と声を揃えて返される。
それは大変!あの、具合が悪いのならボクが治します、だから、と言い切る前に、わなわなと怒りに震える様子で、このクズが!弟さまに触るんじゃない!!!!そうよ!!!汚される、穢らしい、嫌ッ!!と言われて、ぽかん、となる。
兄さんは、ビンタで腫れた顔で喋りにくそうにしながら、あのさぁ、君たちに弟に触るんじゃないとか言われる筋合いもないし、そもそも僕が触られているんだ、この場合君たちから逃げている様だけれど?と挑発的に、そしてなんだかドヤァ、と効果音が聞こえてきそうな、いや、顔はボクが背中側に居るから見えないのだけれど何だかそんな感じで返事をしている。
ーーーぷつん、と何かが切れる音が聴こえた気がした。
はぁ?ふざけるのも大概にしろクズ!!!!弟さまは私たちの弟さまなんだから今すぐその肩を削ぎ落とせ!!!温もりを感じるな!!!!!私たちの弟さまなんだから!!!!!あぁ、はっきり分かりました、やっぱり弟さまは私たちの弟で、そして運命の相手なのだと!!!そう、そうよ!!!こんなクソ男とじゃなく、弟さまと結婚したかったの!ずっとずっと思っていた!なんでお前が家族なの?あり得ないから死んで欲しい、私たちの弟になるにはまずお前が死なないと、クズが兄に、うわ兄とか言っちゃった、後で口を濯がないと!兄になるって最低で悍ましい事になるのだから!!!!いや!いやいやいや!!!耐えられない!!!!だから一刻も早く私たちに詫びて死んで、謝罪の言葉なんて要らない、早く死になさい。そして弟さまと幸せな結婚生活をみんなで、そう、みんなで送るの!それって何て素敵なんだろう、夢物語みたい、小さい頃に憧れていた王子さまって、弟さまの事だったのね!と、とめどなく溢れる何だかおかしな言葉の数々にボクは圧倒されて、きゅっと縮こまって兄さんの背に隠れる様にしてひっつく。
ヨグちゃん、兄さん、ボクどうすれば良いのでしょうか…。
いやぁ!!!ダメダメダメダメ!!!!!弟さま、今すぐそいつから離れてください!!!腐ります!!!腐りますから!!!さぁこちらにいらしてください、ね、大丈夫ですよ?怖くありませんよ?ほら、みんな待っていますよ?弟さまの事を、弟さまが旦那さまになる事をみんな待ち望んでいますよ?
彼女たち、ニコニコしながら、でもすっごく"逃さないです"って顔に書いてある表情で、手を広げてボクを待っている。
ボクにそんな資格はありませんよ、もし必要ならボクも兄さんと一緒に貴女たちの制裁を受け入れます、貴女たちは兄さんから、えっと、解放、されて少し気が動転しているのではないでしょうか…そうでなくちゃ、ボクを弟に、とか、だ、旦那さまに、なんてボクには勿体無い位の言葉をかけてくれていますから、あの、落ち着いてください、どうか落ち着いて、みなさまがそうしてくださると、ボクは嬉しい、な?と首をこてん、と倒しながらお願いの為に兄さんの肩から手を離してお祈りするみたいに手を組んで、ゆっくりと喋る。
……弟さまがそうおっしゃるなら、と椅子に座る彼女たちにとりあえずブランケットを配り終えて、ヨグちゃん、と呼びかけて温かいお茶を取り出して渡す。
そっと心が穏やかになる魔法をかけて、話し出す。
ボクと兄さんはこの方たちにお願いして、同行を赦してもらいました。
だから、貴女たちとはここでお別れになります。
でも、これからの事は心配しないでください、ボクは色々な所で顔馴染みの人が出来ましたから、その人たちにお願いして貴女たちの仕事や衣食住を確保します。
これはずっと兄さんの事を、貴女たちの事を見る事しか出来なかったボクの謝罪の気持ちです。
それから、弟、の件ですが、ボクは兄さんとみなさまが結婚を解消しても、どれだけ離れていても、ずっと貴女たちの事を家族、家族と呼ばせてもらって良い立場なのか分かりませんが、ボクにとって大切な家族、お姉さんの様な存在として記憶に残しておきます。大切な記憶として。
約束します。
彼女たちにふんわり笑いかけると、ぱた、ぱたりと倒れていく人が1人、2人、と増えていく。
え、え、何かまずかったかもと思って駆け寄ると、尊い…尊い…かわいい…うっ…とみな一様に口にして椅子に伏せている。
そんな様子を見て、ひーひー言いながら笑うスバルくんと、ほら!僕の弟は僕のものなんだから!君たちなんかにくれてやるもんか!と胸を張る、顔を腫らせていなければもっとかっこよかっただろう兄さんを見て、兄さんの方に歩いて行って、ボクの大切な兄さんがこうして一緒に居られる事、それがボクの中で1番大事、これからもよろしくねぇ、とぎゅっと抱きしめる。
少し間が空いて、背中にぎこちなくまわされた手が温かくて、ボクの胸に顔を埋めた兄さんが、僕もだ、と小さく呟く。
嬉しい、嬉しいなぁ、改めて、本当にありがとう、スバルくん、エミリアさん、ラインハルトさん、と笑いかけると、おう!と元気な返事をもらって、こっちも元気が湧いてきてさあこれから忙しくなるぞ〜!と気合を入れ直す。
ありがとう。本当に、本当にありがとう。
そんなある日の出来事のお話。