ここだけレグルスに弟がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線 作:ねえ、おなまえは?
ボクには双子の兄がいる。
髪色以外、殆ど見分けのつかない、瓜二つの、兄がいる。
まあ、でも兄さんもボクと同じ髪色になったから、違いといえば、身長とか表情くらいか。
ボクはどうやら転生というものをしたらしい。
生まれた時から、自分というものの意識が確立されていた。
転生なんて考えたこともなかったなぁ、まるで漫画やアニメみたいだと思いながら、前世の最期の記憶をぼんやり辿る。
そうだ、ボクは会社の同僚に殺されちゃったんだ。
彼は、不器用だけど、人一倍頑張り屋で、一緒に社食を食べたり、飲みに行って会社の愚痴を言い合う仲だったのにな。
でもそれはボクの彼に対する勝手な考え方だったんだ。
みんなが帰った後の、しん、としたオフィスで彼に突然顔を殴られて、胸ぐらを掴まれてそのまま床に押し倒される。
「なあ、教えてくれよ。どうしてみんなお前ばかり贔屓にするんだ、どうしてみんなお前と同期の俺より、お前のことばかり嬉しそうに話すんだ、どうしてお前ばかりみんなと楽しそうに話ができるんだ、どうしてお前ばかり優秀だってほめられるんだ、どうしてお前ばかり大きなプロジェクトを任せられるんだ、どうしてお前ばかり信頼されるんだ、どうしてお前は恵まれているんだ、お前ばかり注目されて、俺は誰からも目をかけられなくて、お前と同期だったばっかりに、お前と同じ部署だったばっかりに、俺はこんな惨めな思いをするはめになったんだ。そうじゃなければ、こんなことにはならなかった、そうだ、そうだろ、そうに違いない。お前とずっと比べられてきた、あいつはもっと努力しているって、あいつならこんなミスをしないって、あいつだったらもっと効率よくできるって、あいつだったらもっと取引先と上手くやれるって、あいつだったらこんなつまらない企画を提出しないって。誰も彼もみんなお前、お前、お前って、俺なんか見向きもされなくなって!!それなのに、それなのに、お前は何で俺に優しく接してくるんだ、笑いかけてくるんだ、気にかけてくるんだ、助けてくれようとするんだ、飯に誘ってくれるんだ、独りで抱え込んでないかって心配してくれるんだ、いっそのこと貶して馬鹿にしてくれた方がまだマシだった。お前が嫌な奴なら、俺はまだ救われたんだ、お前を下に見られたんだ、馬鹿な奴だって嗤えたんだ。お前が俺に優しくするたびに、自分がどうしようもない人間だって再認識させられる気持ちが、お前には分かるか?分かるわけないよな、こんな気持ち。憎くて、お前がどうしようもない状況になってしまえばいいと思った。困って、焦って、辛くて、息苦しくもがく、いつも俺が感じている様な、惨めな気持ちになればいいと思った。だから、俺はお前の考えた企画を俺のものにしようとした。お前が作った資料をパクって、俺が考えたことにして、それで、それで俺が賞賛されるはずだった。だから、わざと残業して、お前はいつも仕事が遅いとか言われながら我慢して、そうして、独りだけで残ってお前のデスクから企画書をパクる、上手くやれるはずだったんだ。でも、お前は戻って来た。のこのこと、残業おつかれさま、よければ手伝うよなんて言って。いい子ぶりかよ、どこまでもお人よしすぎて反吐がでる。タイミングが悪かったんだよ、お前。見られたらおしまいだったんだ。なんで戻って来たんだよ。クソ。いや、お前は、このことを知ったところで、見たところで、俺のことを怒りすらしなかった。どのみち、俺が提出したところでこんな企画お前が考えられるはずがないって思われるんだろうな。お前が言おうが言うまいが、周りがこのことを知ればさらに俺に失望するんだ。だからもうやりたい様にやらせてもらうよ。死ねよ、死ね、死ね。死んじまえ。…クソが、俺を見るな。俺に殴られて、今だってお前の首を絞めてぶっ殺そうとしてるのに、捕まっちゃうよ、いまならやり直せるよ、だなんてお前は俺が捕まることを心配しやがる。ふざけんなよ!!苦しいくせに、辛いくせに、クソ、俺のことを憎いと、殺したいと思わないのか!!?イカれてる!馬鹿らしい、お前は、お前の心配する奴に殺されるんだぞ!?
なぁ、その目だ、やめろ。優しくて、惨めで、どうしようもない気持ちになる目で見るな!」
彼の中に溜まっていた感情が爆発するのを感じる。
デスクにあったボールペンで勢いよく片目を突き刺され、あまりの痛みに手で目を押さえて絶叫する。
今度こそ、しっかりと首に手がかけられた。
「俺は、お前とは違う。お前と出会うべきじゃなかった。こんなはずじゃなかった。俺の人生はめちゃくちゃだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前の……」
譫言の様に繰り返す言葉が聞こえる。
首がぎゅうっと音を立てて締まっていくのを感じる。
力はどんどんと強くなっていって、息をしようと彼の手を掴んでもがくけれど、首を絞める力がさらに増しただけだった。
指がしびれたようになっていって、腕に力が入らなくなって、だらりと床に垂れ下がった。
顔を伝って床に落ちる液体が、自分の目から溢れる血液か、彼の涙がなんてわからない、頭がまわらなくなって、さいごにきこえたのは、かれが、なきながらわらうこえ、だった。
くるしい、いしきがとおのく。
どっと、つかれはてて、ねむりにつくようなそんなかんじが、した。
だけれど、あ、れ……?あれ。
急に、なんにも苦しくなくなった。
あれだけ痛かった目も、痛くなくなった。
手を首にやる。苦しくない、息もできる。
意識と体が、ふよふよと漂っている。
どこかわからない場所だった。
ボクだけしか居ないと思っていたら、優しく包み込む様な声がボクを呼んだ。
ボク以外にも居たんだぁ、と思って、ぽやぽやする頭で、2人きりでお話しをした。
えっと、そうだ。
何でも"識っている"けど、"識らない"世界がでてきちゃったんだって。
だからその世界のことを何でも"識りたい"んだって。
ボクは、知らないってことを、知っているなんて、分かっているなんて、すごいなぁって思った。
ボクの、いくつかの感情とかを対価にして、大いなる力の一部を授けるから、依代が欲しいんだって。
誰かが困っているなら助けてあげなくちゃ。
だから、いいよ、と笑いながら言った。
そして、急に深い眠りから抱き上げられる様な、水中から水面へ浮かび上がる様な感覚がして、目が覚めた。
死んで、目覚める。
奇妙で、非常に貴重な体験だと記憶の大切な領域に書き留めておく。
すぐ隣で、赤子の泣き声が聞こえる。
まだ頭がはっきりとしない。
ここはどこだろう?
何人もの人がボクを怯えた目で見下ろしている。
ボクもぼんやり見つめかえす。
この人たちは誰なんだろう?
ヒィッ、と何か恐ろしいものを見た様な、引きつった短い悲鳴がいくつもあがり、泣き声に重なる。
あぁ、なんだ。
ボク、今、生まれたのか。
そうしたら、隣で泣いているのはボクの双子の兄弟になるんだな、と冷静に考える。
こうして泣き声1つあげることなく、後に"忌み子"と呼ばれるボクがここに誕生したのだった。