ここだけレグルスに弟がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線 作:ねえ、おなまえは?
やっほー!みなさん、お元気ですか?
ボクは今、奴隷商のでっぷり太った脂ぎっとぎとのおじさんに「お前は顔が整っているし、珍しい髪色だ。たっぷりとした、天使の羽の様な白髪に金の瞳。神秘的だと欲しがる奴も多いだろうよ。それに加えてお前を売った母親からは、高度な魔法も使えると聞いたぞ。喋れないということもな。魔法は重宝されるし、喋れないということは、何をされても口答えすることもできない。いいこと尽くしだ。なによりお前はおとなしい。従順で利口だ。今までの暴れるだけの馬鹿とは違う、おとなしくて、かしこくて、かわいいやつだ。反抗する様子もないし、金持ちに気に入られるぞ。きっと高値で売れるだろう。いい子だ。そのまま大人しくしていればもっといいことがあるからな」とニタニタ笑われ、檻の中で鎖をつけられてここ3日ほど過ごしています。
今日のご飯もカチカチの石みたいなパン一切れでした。
ケチ。
ボロボロの、服、とぎりぎり呼べる半袖の服に、裸足。
この時期にこの格好は寒いよ、風邪ひいちゃうじゃん。
裸足だから石畳が冷たい。
そうか、奴隷は靴も履けないんだなぁ。
"識る"ことができて、よかったような、よくないような?
ちなみにもう少ししたら他にもたくさん同じ様に売られた子供たちが集められて、1週間後に競売にかけられるそうです。
というか、いや、何この状況。
珍しく、うーん、珍しいどころじゃないね。人生で初めて母さんと一緒に近くの町に買い物に来たと思ったら、ごめんね、ごめんね、仕方がないの、あなたが悪いの、私は悪くないの、と泣かれながら流れる様に売り飛ばされたんだけれど。
あっという間だったな。
売られちゃったけど、それでも家族だったんだからばいばいって、お別れの1つくらいしたかったな。
母さんは振り返ってくれなかったなぁ。
記憶に淡々と記録する。
さて、ボクについて、いくつか訂正しておきたい。
ボクは喋ることができる。
もちろん、相手に言われたことも理解できる。
ボクは産まれた直後から自分という存在を認識して、村人たちや両親から投げかけられる言葉、視線、態度その全てを理解していた。
喋らなかったのは、馬鹿にしてくる村人たちと同じ様に話す、という行為がくだらないなと感じてしまって、話したくないな、というか、喋っている暇があったら本を読んだりして知識を得たいなと思っていたからだ。
なんでも"識り"たかった。
そうしたら、周りが喋れない奴なのだと、言われたことも分からない様な奴だと勘違いしたらしい。
ボクにとっては都合がよかったし、どう言われたってどうでもよかった。
そして喋らないことが普通になったのだ。
ボクの双子の兄、レグルス兄さんはボクの分まで、というレベルでよく喋った。
気味が悪い、不幸を呼ぶとか、よく嫌味を言ってくる人に、他の人たちと違ってボクの気持ちを慮ってかわりに怒ってくれる優しい兄さんだった。
それから、幼馴染のあの子も(ボクは勝手にお姉さまと呼んでいる)何も喋らないボクを奇特な目で見ずに兄さんと同じ様に、優しく接してくれた。
だからそれでよかったんだ。
ボクの世界はそれで完結していた。喋る暇があれば、2人と居るか、本を読んでいたい。
"魔法"というものが存在する、この世界のことを識りたかった。
知識欲を満たしたかった。
あぁ、文字の読み書きを教えてくれた両親には感謝している。そうでなければ本が読めなかったからね。
ボクの双子の兄、レグルス兄さんだけは、他の人たちと違って、家族の中でもボクに話せないのはなんで?どうして?喋れないのは変だよ!としつこく関わったり、怖がったり、腫れ物の様に扱わないでくれた。
何も言わずに、そっと側に居させてくれた。
村の人たちも、家族も、ボクを忌み子、忌み子とひどく怖がった。
でも、兄さんや、お姉さまは家族たち、村の人たちと違ってありのままのボクを受け入れてくれた。
忌み子と言われてきたボクにいい意味で干渉し過ぎなかった。
それが心地よくて、2人と一緒に居ることが好きだった。
どうにも転生した時に僕には、外なる世界の神さま、この世界とは隔絶された大いなる存在、えっと、確かヨグ=ソトースさまだって名前を教えてくれたっけ。
だからボクはヨグちゃんって呼んでいるけど、知識欲がすごくて、知識の化身で、なんでも"識って"いて、時空を操って、魔術がたくさん使えるこの世とは違う隔世のすごーい神さまの様な存在が混じっているらしい。
でも、ヨグちゃんはこの世界のことをよく分からないんだって。
知識の範囲外だったみたい。次元が違う、とかいうレベルじゃないくらい世界が違うから、手出しができなくて、とかそんな感じの理由だった。
だから、この世界のことを一から十まで全部、全部、全部"識り"たかったんだって。
"識り尽くしたい"そんな知識欲の塊、それがボクに反映されていたみたい。
依代になったから、ヨグちゃんの力を不完全ではあるけれど使わせてもらえる様になった。
かわりにボクの感情は、うれしいという感情を残してあとは殆どヨグちゃんがもらっていっちゃって(うれしい、は新しいことを識った時に感じられる様にって、残してくれた。優しいね)感情を表に出さない無機質な人間になった。
驚くとかはかろうじてほんのちょっぴりあるけれど、なかなか顔には出ない。悲しいとかはもっとすごい希薄。怒るのはどうだろう、呆れ、諦めに近い感じだからそれも殆どないのかもしれないね。兄さんたちに何かあれば別だけれども。
でもね、ヨグちゃんが知識に満足していくと少しずつ返してくれるみたい。
わーい。
精神は前世があるから成熟していたけれど、人の子とは、無邪気なものであろう?って歪に、弄られて大人と子供のごちゃ混ぜな、ちぐはぐな人間になった。
村で起きた不幸なことは全部ボクのせいになった。
作物の育ちが悪い、家畜が死んだ、流行病が蔓延した、魔獣が出た。
小さなことから大きなことまでぜーんぶ。
そんなくだらないことやるわけないし、そもそもできやしない。
村人たちも分かっていてボクのせいにしていたんだろうなぁ。
あ、でも1つだけ村人たちが正しいことを言っていた。
そう、村の人が突然消えたやつね。
あの日、兄さんを愚弄して、乱暴なことをした村人たちは、空間ごと捻り切って、綺麗さっぱり消した。
ボクのことなんて、いくらでも、なんとでも言えばいい、だって、そんなのくだらないから。時間の無駄だから。
でも、大切な兄さんにあんなに酷いことをしておいて、へー、あー、そうですかなんて、できるわけないよね。
気分転換に、たまには森でゆっくりと本を読もうと思っていたところに、楽しそうな声が響いていて、そっちを見て、それで、あんな光景がとびこんできちゃったから、思わずヨグちゃんの力を沢山使わせてもらって捻り切っちゃった。
ボクはこの世界の魔法も使えるけれど、焼いたり、凍らせたりしちゃうと痕跡が残るからね。
ヨグちゃんの力は制限がかけられているらしいけれど、時間や空間に干渉できて、この世界の魔法の定義に当てはまらない力だから、何かと便利だった。
気絶した兄さんに治癒魔法と、破れた服なんかを直す為に時間遡行をかけて、おんぶしてこっそり部屋に戻って、ベッドに寝かせてあげた。
穏やかな表情になった時には安心したよ。
さて、これからどうしようかなぁ。
とりあえず村の方に戻ってみようかなぁ、でも戻ったらまたうるさく言われるからなぁ、こっそりいけばいいか、とぼんやり考えた。
狭い檻の中で、猫の様に、ん〜っと伸びを1つして、面倒臭いから、ベラベラ喋っている奴隷商の首を悲鳴をあげさせる暇もなく空間ごと捻り切る。
檻をひん曲げて、足元に転がる死体が邪魔だなぁと思いながら外に出た。
どこか知りもしない遠くの国に売り飛ばされなくてよかったな、と思う。
ボクが使っていた、書庫の様に本が積み上げられた部屋はきっとまだ手付かずだろう。
兄さん以外は誰も入りたがらなかったから。
まだ読んでいなかった魔導書が家にあるから、とりあえず時空をちょい、とやって村まで飛んで、魔導書をこっそり持ち出して、それから空間転移で村に行ったことを"なかったこと"にしよう、と決めて村の近くへと転移する。一応、村の人とか、家族に見つからない様にする為にね。
もしあの部屋に家族が居たら、しょうがないけど魔導書は諦めようと思う。
村の外れをイメージして空間転移をする。
指を縦に動かして、空間に裂け目を作り出す。
裂け目に向かって歩き出すとぐにゃりと視界が歪んで、瞬きを1つした。
さぁ、行こう。
感想、評価ありがとうございます!
とてもうれしいです…!!
追記
文中に出てくる、喋れる、についてご指摘ありがとうございます。調べました所、所謂"ら抜き"言葉ではなく喋ることができる=喋れるという可能動詞で使用できるとのことでしたのでそのまま使用させていただきます。丁寧に対応してくださりありがとうございました。優しい方ですね、いいことがありますように!