欲しいものは、ただ勝利のみ。   作:ばリオンズ

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第9話

武器。

ランクEにて解禁される、金属製の多種多様な武器。

魔力導体としてはまるで役に立たないが、その代わり刃としての性能は突出している。研ぎ澄まされた鋭利な刃文は、これまで訓練用に用いていた黒曜石の剣とは比べ物にならないほど、鋭く、重く、そして硬い。

ただそれだけ。しかし、それだけで今は十分だ。

それ以上を望むならば、勝ち続けて権利を得るしかない。

 

重傷を傷跡ひとつ残さず治し終え、アダマスは今日も闘技の修練に励む。

ランクE帯から解禁される武器指定ルール戦に対応するため、本日は師匠のもとで戦斧を扱っていた。

 

ランクEで解禁されるのは、

金属製の近距離用武器、

それを用いた武器指定戦、

そしてダンジョンモンスターとの殺し合い。

 

人対人の殴り合いで済んでいたFランク帯から、明確な殺意を伴う戦闘へと移行する段階だ。

モンスターとの殺し合いに備えるため、殺傷能力の高い金属武器が解禁されるのである。

 

ダンジョンから出土した低価値の武器も、この段階から市場に流れ始める。

せいぜい筋力に軽度の補正がかかる程度の付与が施されているだけで、性能としては並以下。数も多く、貴重性に乏しいため、まとめて投げ売りされるのが常だ。ダンジョンに潜ればすぐ手に入る雑品に、誰も価値を見出さない。

 

戦斧、バトルアックスと呼ばれるそれは、アダマスの体格には明らかに大きすぎた。

本来の運用は、重厚な鎧と組み合わせ、敵の攻撃を受け止めながら斬り伏せ、叩き潰すというものだ。

大振りで振り回す戦い方が前提となるため、動作の隙は鎧で補う。そういう武器である。

 

しかし、成長途中で未完成な体格では、鎧は噛み合わず、重量バランスも取れない。

Eランクに上がるのが早すぎたとも言える。

 

本来なら、もう少し年齢と身長を重ね、大型武器を扱うのに適した体格になってから昇格戦に挑むものだ。

そう考えれば、アダマスの立場はあまりにもイレギュラーだった。

 

つまり、戦斧は不向きだった。

 

師匠に殴られ、転がされ、叩きつけられながら、ようやく彼はその結論に至る。

自分に扱えるのは、せいぜい手斧までだろう。

重量、技能、そして他装備との兼ね合い。どこから見ても戦斧は自分の体に合っていなかった。

 

だが、殴られながらも、アダマスの頭にひとつの抜け道が閃く。

武器指定ルールとは、あくまで武器の持ち込みが禁止されているだけであり、

その武器を最後まで使い続けなければならない、という規定は存在しない。

 

素手で武器持ちに勝つなど、現実的ではない。

だから誰もが当然のように武器を手放さないだけだ。

 

しかし実際には、武器になり得るものは他にもある。

 

防具である小手。

すね当て。

靴。

そして鎧。

 

これらの持ち込みは禁止されていない。

小手を禁じるなら防具全体を禁じねばならず、ルールとして成立しなくなるからだ。

 

小回りが利き、なおかつ鋼で補強された拳。

それは、鈍重な武器持ちを翻弄するには十分な利点となる。

力を込めて叩き込めば、骨にヒビを入れることも難しくない。

 

「こんな単純なこと、誰も思いつかなかったのか」

そう問われれば、答えは否だ。

 

思いついた者は過去にもいた。

だが、誰ひとりとして実行できなかった。

 

リーチの差で斬り殺される。

鎧を貫けずに突き殺される。

鍔迫り合いも打ち合いもできず、一方的に叩き潰される。

 

武器の有無は、それだけで圧倒的な差を生む。

その差が生み出す失敗、無駄になった努力、積み重なった死の記録が、この戦法を無意味だと断じてきたのだ。

 

筋力は獣人に劣り、

敏捷性は森人に劣り、

体格は豚人に劣る。

 

只人とは、そういう種族である。

ゆえに武器を捨てての近接戦闘は、スキルツリーにすらほとんど枝葉を持たない。

 

やるだけ無駄。

いや、上位互換となる他種族が多すぎたのが問題だった。

 

鋭い爪が常に付きまとう相手。

異常な耐久性と剛腕で叩き潰してくる相手。

彼らは武器がなくとも強かった。

 

拳法も流派も存在しない。

そんなものは弱者の甘えだと言わんばかりに、天性の肉体で只人をねじ伏せてきた。

 

だから、只人から格闘技という概念は消えた。

只人同士ですら、武器での殺し合いだけが残った。

素手や格闘技に余分な資源を割く意味はなかったのだ。

 

けれど、アダマスにとっては、それが今、見えている光明だった。

使えぬ武器を振り回し、武器に弄ばれるくらいなら、失われた格闘技に手を伸ばすしかない。

 

関節技。

打撃技。

投げ技。

絞め技。

 

思いつく限りを試し、手当たり次第に身体で覚えようとする。

試合という実戦の場で、ぶっつけ本番を繰り返す。

 

最初のうちは、未熟な正拳突きで手首を痛め、

やり方も知らぬ関節技は引っ張るだけで意味をなさず、

痛打を食らってのた打ち回る。

 

当然だ。我流でどうにかなるものではない。

手本も理論もなければ、身体を傷つけるだけに終わる。

 

癇癪混じりに剣で叩き切って勝利を拾う日もあったが、納得はできない。

勝利の味は悪く、ただ腹を満たすために食事を詰め込み、眠る。

そんな日々が続いた。

 

かろうじて見えかけた光明は、吹き消えたように思えた。

 

ある朝、目を覚ますと、あの料理本が枕元に転がっていた。

殺し方ではなく戦い方が欲しいのだが、と思いつつも手を伸ばすと、本は勝手にページをめくり始める。

 

特定のページで止まることはない。

ただひたすら、高速でページが動き続ける。

 

半ば呆れ、ジト目で本を見ていると、絵が動いて見えた。

パラパラ漫画だ。

 

ページ全体を使った動作図解によって、本はアダマスに格闘技を教えようとしていた。

ページを見据え、示される通りに正拳突きを繰り返す。

 

過剰とも言える反復の中で、失伝していた基礎が、少しずつ身体に根付いていく。

そして試合という、都合のいい実践の場がある。

 

勝利をぎこちなく積み上げる手は、

徐々に正確に冷酷に、速度を増していく。

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