悪の手先の俺が正義のヒーロー少女に熱烈なラブコールを受けている話 作:夜行列車予行
突然だが俺の最近の悩みを聞いて欲しい。
毎朝六時起床、それから六時半には家を出て、出勤する。これが俺の日常。
一般的な人と異なる点は、出勤先が会社やら学校ではなくお城だと言う点だろう。
お王子様やお姫様の居る華やかなお城ではない、魔王城みたいな、ゲームの敵みたいな奴らが集まる悪党のお城だ。
日夜世界征服を目論む悪党集団の住まう天空城。それが俺の勤務地だ。
活動内容は単純で、強盗やら街の治安悪化活動やら多岐にわたるのだが、やはり一番は対ヒーローとの戦闘だろう。
俺がゲームや漫画の悪役だとすれば、ヒーローは正義の味方って奴だ。
世界征服を目標に活動する俺達を止めるため現れた対抗勢力だ。
現在俺に与えられた命令はこのヒーローの撃退である。あるのだが……
えっと、何の話だっけこれ?
あぁ、そうだそうだ。悩み相談と言う名の現実逃避中だったか。
「お兄さん!あなたは本当は優しい心を持ってるはずなの!私と一緒に来てください!」
俺の部隊の戦闘員たちを蹴散らしながらそう叫ぶヒーロー少女。
あ、お兄さんってのは俺ね。どこに逃げても俺の方向に向かって来るからその事実は明白だった。
「ええい!いい加減しつこい奴だな!」
「今日こそ貴様を倒す!覚悟しろソール!」
「我らが幹部、アル・アラド様が貴様を滅する秘策を持ってきたのだ!」
おぉ!と戦闘員たちが歓声を上げ、その視線が俺へと向けられる。
光のヒーロー、通称ソールが不安そうな瞳で俺を見つめる。
「お兄さん……もうやめて、これ以上抗うのは……お兄さんが傷つくだけだから!」
最後の一言に、俺のこめかみに血管が浮き出る。
「ははは……俺がお前の撃退のためだけに何度辛酸をなめたか……ソールよ!今回傷つくのは、貴様だ!」
俺はマントを翻し、懐から秘密兵器を取り出す。
秘密兵器は一丁の銃で、それを見た一人の戦闘員が口を開く。
「あ、あれは昨夜アラド様が徹夜で制作なさっていた高反射性ピストル!」
「アラド様、出撃前に嬉しそうに設計の説明してたよな……確か……」
俺は不敵な笑みを浮かべ、ソールと戦闘員達に説明するよう声を上げる。
「こいつは対ソール用に俺が寝る間も惜しんで考案し制作した特殊銃……ソールの扱う光を跳ね返す特殊弾を放つ銃だ!」
「おぉ!!」
戦闘員達は喜びの声を上げ、ソールも何故か少し嬉しそうな顔で頬を染めていた。
「お兄さんが私の事を寝る間も惜しんで考え続ける……ちょっと嬉しいかも……!」
なんてふざけた台詞を放つソールに向け銃口を向ける。
「下手に抗おうと能力を使えば怪我をするぞ……喰らえ!俺の徹夜の成果!」
俺はピストルの引き金を引き、銃口の先から特殊弾が放たれる。
そのままソールへと迫った弾丸は後少しで弾着だった。
いける!あの弾は弾着と同時に弾けて中の全身の筋肉を麻痺させる液体が浴びせられる仕組みだ!
今回こそソールの無力化に成功し、俺達は大手を振って天空城へ帰るんだ!
そう希望を篭めて放った弾丸はソールの顔の前まで近づき、もう三秒後には麻痺液がソールへ浴びせられる。
「えい」
その弾がソールに当たる直前、横振りに放たれた拳が弾を襲う。
俺が丹精込めて制作した特殊弾くんは弾けるよりも速く空へと吹き飛ばされ、空中にて麻痺液をまき散らした。
「「…………」」
俺と戦闘員達の間に気まずい沈黙が流れる。静寂を裂いたのはソールの声だった。
「お兄さん!これからは私も倒す事じゃなくて……わ、私の幸せとかを考えて過ごしてください!!」
言うや否やソールによる
俺は次々に倒されていく部下に向け、言い放つ。
「総員!撤退!!」
「あ!待ってお兄さん、まだ言いたい事が――」
ソールの言葉を待つことはなく、俺達はそそくさと撤退を開始した。
――――――――
俺の名前は
「いやぁ……今回もボコボコにされたな……」
「やっぱし強すぎだろ……ソール……」
「光の能力もだけど、本人の戦闘能力が高すぎる……」
天空城へと転送された戦闘員達は本日の感想を口にする。
光のヒーロー『ソール』。光を操る能力を持つ、新進気鋭の正義のヒーローだ。
まだ子供の、恐らく中学生くらいの年齢のヒーロー。
しかし活動歴の浅さとはかけ離れた強さと本人の容姿と愛嬌の良さも相まって、現在地上で大人気のヒーローだ。
「にしても、今回もソール相手に無事に逃げ帰れてよかったなー」
「この転送装置のおかげだよな。これのおかげで弱い俺達でも無事に活動できるぜ」
「知ってるか?この転送装置作ったのアラド様なんだぜ?」
で、そんな大人気ヒーローの少女が、ここ最近俺への呼びかけ、ラブコールをし続けてくると言うのが悩みだ。
理由やきっかけはよく分からない。
上司の命令で撃退に向かったら、何故かソールが俺の事を熱烈に勧誘し始めた。
年下の美少女に愛を囁かれると言う状況だが、全く喜べない。
理由も分からない上、相手は俺の部下をボコボコにしながら愛を叫んでくるのだ。
喜びより遥かに恐怖が勝る。
「……今日の活動、終わり。戦闘員諸君は体を休めて、明日以降の戦闘や活動に備えてくれ。以上」
俺は部下たちが全員集まったのを確認すると、そう命令を下してその場を後にする。
「あ、あの!アラド様も徹夜続きですし、休んだ方がいいかと!」
戦闘員の一人が去り行く俺に意見する。
俺は今日使用した特殊銃を取り出し、部下たちに見せつけるようにして言う。
「俺は
俺はそう言ってその場から去る。背中に同情やら哀憐の視線を感じた。
これが今年で二十四歳、家族に弟を一人もつ、職業が悪の手先の男の日常の一ページだった。
「マジで疲れた……頑張れ、気張れ俺……!」
誰もいない廊下にて、自身を鼓舞する声が小さく響いた。