悪の手先の俺が正義のヒーロー少女に熱烈なラブコールを受けている話 作:夜行列車予行
地上の人間を征服するため、空からやって来た悪党集団。
自らを『フラスター』と名乗ったその集団は地上より遥か上空に城を構えると地上への侵攻を始めた。
それからフラスター対地上人の争いが始まったのだが、その経緯や歴史は省略させてもらう。
今回説明したいのは、フラスターにおける部隊長的存在、幹部についてだ。
フラスターは五つの部隊から構成される。その五部隊の頂点に立ち、指揮を執る存在が幹部だ。
俺ことアル・アラドも幹部ではあるのだが、かと言って俺自身が所属する部隊のトップという事ではない。
俺の幹部という称号は通称であり、細かく分類すると従幹部という立場になる。
従幹部は幹部の補助や補佐を担当する、従者のような存在だ。
つまり俺の立場は部隊内で上から数えて二番目になるという話だ。
なぜこんな説明をする必要があるか、それは俺の目の前にいる奇怪な存在を紹介するのに、幹部の説明が欠かせないからだ。
「ふむ……やはり今回もソールが現れましたか。で、どうでした?新兵器の使い勝手は?」
白と黒の奇妙なデザインの仮面をつけ、白いローブを被った大男。それが俺の所属する技術部隊の幹部、フィジ・デザイア様だった。
デザイア様は四つある腕の内一つで報告書を持ちながらそう訊ねる。俺は片膝をついた状態でデザイア様に向け、今日の戦闘の様子を語る。
「装填から発射において、不具合や問題点はありませんでしたが……肝心の弾が着弾の手前でソールの拳で払われ、その効果は発揮されませんでした」
「能力を封じたからと言って、容易に片付く相手ではありませんね」
同情しているのか、結果を俯瞰しているのか、感情の起伏が感じられない声色から真意を読み取ることは難しかった。
報告書を読み終えたデザイア様は持っていた紙を机の上に置き、それから話した。
「それにしても、最近の戦闘記録を見ると、どうも君が介入する戦闘には必ずソールが現れるようですね」
「はい。戦闘中も私のことを呼び、辞職を勧められます」
俺の返答を可笑しく思ったのか、仮面の奥から笑い声が漏れる。
「それは非常に愉快な光景ですね。ヒーローがフラスターの幹部に辞職を提案ですか……応じるつもりは?」
「ありません」
俺はきっぱりと答える。
辞めるなんて言い出せば、今この場で首を刎ね飛ばされてもおかしくない。そう言った恐怖も勿論あるが、それ以上に俺にはフラスターの一員を続ける理由があった。
「ほう……
「……俺はフラスターに忠誠を誓った従順な下僕です。辞める理由がありません」
誤魔化すように、俺は薄っぺらい忠誠の言葉を並べる。
それから数秒の沈黙が流れる。先に口を開いたのはデザイア様だった。
「心にもないことを」
その言葉を発した仮面の奥は、何故だか笑っている気がした。
――――――――――
マントと目を覆い隠すバイザーを脱いだ俺はシャツとジーンズを着た、ラフな格好で夕暮れの河川敷の道を歩いていた。
夕日に照らされた水面の上を、薄い石が飛び跳ねる。どうやら小学生達が水切りで遊んでいるようだった。
「やった!兄ちゃん、俺の石、五回も飛んだよ!」
「バカ言え!俺の方が遠くに飛んだだろ!」
小学生たちは兄弟だったらしく、互いに川を指さして言い合っていた。
しばらくその光景を見て、俺は眩しさから目を逸らすように前を向く。
現在の俺は天空城にて世界征服を目論む幹部フラスターの一員、アル・アラドではなく、仕事帰りの地上人、佐藤秋夜として住宅街付近を歩いていた。
フラスターに与する地上人は少なくない。だが、その多くは二度と地上の生活を送ることが出来ない。
例外。それが俺と弟だった。
しばらく歩き、タバコ屋の角を曲がるとアパートが見えた。
木製の、築年数が何十年もありそうなボロいアパート。そこが俺と弟の住居だった。
アパートの外階段を上る。ギシギシと金属製の階段が軋む音が響く。
俺は自分の部屋の前までやって来ると、扉のノブに手を掛けた。
開ける手前、部屋の中からこちらに近づいてくる足音が聞こえた。
「ただいま……優月」
玄関前にて待ち構える様に立つ弟に向け、俺は帰宅を告げる。
「うん!おかえり!兄さん!」
俺はなるべく自然な笑顔をつくり、手首に提げたレジ袋を優月に見せた。
「アイス、二人分買ってきたから、夕飯の後食べようか」
俺が言うと、優月は両手を合わせ、輝かんばかりの笑顔で喜んだ。
「ほんと!?兄さん、大好き!」
嬉しそうにはしゃぐ優月を見つめながら、ふと考える。
いつからだっただろうか。優月が「兄ちゃん」ではなく「兄さん」と呼ぶようになったのは。
「冷凍庫、入れとくね!」
優月はアイスの入ったレジ袋を俺の手から取ると、笑顔でそう言った。
その微笑みはどこからどう見ても、儚く美しい、
「あぁ……ありがとうな」
礼を告げると、優月は背を向け、冷蔵庫の方へと歩き出す。
その背中に俺は、懐かしいような、悲しいような、そんな匂いを感じた。