ドラゴン娘とハリー・ポッター   作:ゴールドルナ

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ハリー視点です。





ハリー・ポッターと賢者の石、あとドラゴン

自分が魔法使いだと知らされたあの日。

世界の輪郭が一度、静かに崩れ去ったあの日。

 

その余韻を胸に抱えたまま、僕はダイアゴン横丁へと足を踏み入れた。

 

未知への期待と、拭いきれない不安。その両方を抱えた場所で、僕は一人の少女と出会った。

 

陽光を弾くような金の髪。同じ色を湛えた瞳は、どこか自信なさげに揺れていた。

 

彼女は「ハリー・ポッター」を知らなかった。それが妙に嬉しかったのを覚えている。自分と同じ側にいる人間なのだと、勝手に思い込めたからだ。

 

優しそうな子だし、仲良くなれればいいな。

 

そう願った記憶は、今となっては少しばかり滑稽だ。

 

その印象は、ホグワーツに入学してから、ほんの数日で粉々に砕け散った。

 

最初に違和感を覚えたのは、彼女の出自だった。彼女はマグル生まれではない。

 

ではなぜ魔法界の常識に疎いのか。理由は単純だった。

興味がなかっただけだ。

それだけのことだった。

 

だけど、本当に異様だったのはそこではない。

 

ホグワーツ特急の車内で、彼女は何の前触れもなく守護霊の呪文を行使した。しかも、それは成功と呼ぶにはあまりにも完成されていた。ネビルのペットのトレバーを見事に探し当てていた。

 

後にハーマイオニーから聞いた話では、守護霊は熟練した魔法使いでさえ容易には扱えない高度な魔法らしい。卒業までに習得できれば優秀というものみたいだ。だけど、その時点でそんな知識がなくとも、ロンの反応を見れば十分だった。

 

あれは、常識の外にある魔法だった。

 

じゃあ彼女は選ばれた才能なのだろう。そう考えるのが自然だったが――それもまた正しくはなかった。

 

彼女は、基礎的な呪文ですら安定しない。むしろ魔力の暴発を繰り返す、不器用な魔法使いですらあった。

 

そして、その理由はほどなくして明らかになる。

 

いや正確には。

理由などどうでもよくなるほどの現象が、目の前に現れた。

 

彼女は変身する。

 

人の姿を捨て、理性を保ったまま、巨大な黄金のドラゴンへと。

 

城壁すら比較にならない質量。黄金の鱗に覆われた巨躯。吐き出される炎は、単なる火ではなく、空気そのものを焼き尽くす災害だった。

 

あれは、生物というより災害みたいなものだと言って、言葉を失ったマルフォイが正しかったのかもしれない。ホグワーツ特急で恐怖に沈んでいた理由も、後になって理解した。

 

僕の中の「ホグワーツ驚愕リスト」は、その日以来更新されていない。彼女が、常に一位に居座り続けている。

 

 

ロンの話では、ラシアンナ・ファタルストーン家は代々ドラゴンの力を継ぐ一族らしい。魔法界では広く知られた存在であり、かつてヴォルデモートですら積極的に関わることを避けたという。

 

それだけで、十分すぎる説明だった。

 

もっとも、本当に異常なのは変身後だけではなかった。彼女は人の姿のままでも、既にいろいろとおかしい。

 

トロールに殴られても傷一つ負わず、 校内の構造物を偶発的に破壊していた。

悪い子ではない。性格は穏やかだし、むしろ臆病なのかもしれない。だけど、その行動は時折、倫理や常識といった枠組みを容易く踏み越える。

 

この一年で、彼女による死者が出なかった。それは幸運にはおさまらない奇跡だったかもしれない。

 

 

そして、その認識を決定的なものにした出来事がある。

ラシアンナとロン、ハーマイオニーと共に、ハグリッドの小屋に長居したせいで、僕たちは夜の森へ向かう罰を受けた。

 

月明かりすら頼りない森の入口で、ただ一人、ラシアンナだけが、明らかに浮かれていた。そんな気がする。

 

その様子を見て、蒼白になっていたマルフォイ。

 

僕にとっては、自分の額の傷が疼くことよりも、よほどはっきりとした“予兆”だった。

嫌な予感がした。それも、どうしようもなく確信に近い形で。

 

やがて森の奥で、ユニコーンの亡骸が見つかった。その血を“何か”が啜っていた。

人の形をしている。だが、人ではない。その異様な光景を目にした瞬間。

 

ラシアンナのスイッチが、入った。入ってしまった。

次の瞬間には、彼女はドラゴンへと変身していた。

 

咆哮。空気を震わせるどころか、空間そのものを歪めるような音。黄金の巨体が夜の森を踏み潰しながら顕現する。そして、凄まじい勢いで突撃していく。

戦い、と呼ぶのは正確ではないと思う。

 

それは一方的な破壊だった。

 

彼女はただ、その人影を取り押さえようとしているだけだった。と思いたい。だけど、その過程で発生するものは、災害以外の何物でもない。

 

吐き出された炎が森を照らす。夜は消し飛び、視界は昼以上に白く焼ける。逃走経路にあった大木は、 へし折られるか、燃え尽きるか、いずれかの運命しか与えられなかった。

 

地面は抉れ、空気は焼け、音は遅れてやってくる。

僕はそのとき、初めて理解した。

 

彼女にとっての加減とは、 人間の尺度には存在しない概念なのだと。

そして同時に、ユニコーンの血を啜っていたあの存在に、心の底から同情した。

ただ、災害に遭遇しただけだ。

 

世界で最も恐ろしいものの一つとは何か。もし問われるなら、僕は迷わずあれだと答えられる。ヴォルデモートからは生き残った僕、こと生き残った男の子だけど、怒り狂ったラシアンナ相手にはどうにもならないに違いない。

 

まあ、あの存在がどうなったのかは実際分からない。普通の人間なら焼け死んだか、踏みつぶされただと思うけど…………途中からラシアンナは目標を見失って所かまわず突進していった。終いには湖にまで炎をまき散らし、反撃しようとした巨大イカを尻尾で叩き潰していた。

 

ちなみに、あの存在は力を失ったヴォルデモートだったらしい。復活のために、ホグワーツに保管されていた賢者の石を狙っていたのだという。

 

そして、僕らがニコラス・フラメルのヒントとハグリッドの言葉から賢者の石が校内にあると確信するに至ったのは、ラシアンナによって四階の一部が吹き飛ばされた、という話が広まってからしばらく後のことだった…………と思う。何しろ彼女による校舎破壊には皆慣れていたので、それがそんなに重大な出来事だとは思っていなかった。

 

そして、僕たちはラシアンナの四階の破壊くらいのタイミングからクィレル先生がいなくなっていたことを、クィレル先生がスネイプに消されたせいだと思っていた。けれど真実は逆で、クィレル先生こそがヴォルデモートに取り憑かれていた。

 

そしてそのクィレル先生は、ラシアンナに消し飛ばされたのだという。ついでに賢者の石も彼女に壊されていた。

 

必死に「賢者の石が危ない」と校長に訴えに行ってそれを知ったとき、僕たちはもう笑うしかなかった。

 

でもそんな彼女もホグワーツの一部だし、最初にできた友達の一人だ。寮こそスリザリンだけど、それは朝起きたら寮が崩壊しているという確率がすこし小さいという点ではいいことかもしれない。

 






なんだこいつ…………
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