ドラゴン娘とハリー・ポッター 作:ゴールドルナ
第一の課題が終わって、ダンスパーティーがあると発表されてから、僕はずっと気が重かった。
代表選手は強制参加。その時点で十分最悪だったのに、異性のパートナー同伴。
周りを見れば、みんなそれなりに盛り上がっていた。シェーマスたちは誰がどうとか騒いでいたし、ディーンは余裕そうな顔をしていたし、ネビルですら必死に頑張ろうとしていた。
誰かを誘うっていう行為そのものが、僕には難しすぎた。チョウの顔は浮かぶ。でも、話しかけようとするだけで心臓が止まりそうになる。
そんな感じで数日過ぎたころには、本気でどうしようか悩んでいた。
代表選手なのに相手がいないなんて格好悪すぎるし、だからといって誰かを誘う勇気もない。食堂に行けば周囲の視線が気になるし、廊下を歩けば女子たちの笑い声に勝手に怯える。
第一の課題を終えてから、僕は卑怯者から生贄へと進化した。少なくとも周りの扱いはそうかわっていた。
だから、ラシアンナに誘われたときに、僕は本気で救われた気分だった。いや、正確には。最初は脳が理解できなかった。あまりにも自然だったからだ。
でも、その瞬間、数日間ずっと胃の奥に沈んでいた重たいものが、一気に消えた。
助かった。本当にそう思った。
でも、あとになってから、急に変なことを考え始めた。
よく考えたら…………もしかしたら、ラシアンナって普通にかわいい女の子なんじゃないかって。
いや、もちろん今までも見た目は綺麗だと思っていた。金色の髪とかは目立つし、笑うと結構柔らかい顔をする。
でも、普段の印象が強すぎる。ドラゴンに変身して校舎を毎年のように壊すし。そっちの印象が全部を上書きしていた。
でも、ふと冷静になると、同学年の女の子で、距離が近くて、よく話して、しかも僕が落ち込んでると普通に声をかけてくる。
そう考えた瞬間。急にものすごく意識してしまった。
しかも本人は全然そういう空気じゃない。友達を助けたくらいにしか思っていない顔をしている。僕だけが変にドキドキしているみたいで、なんだかすごく情けなかった。
ダンスパーティー当日、僕は大広間の入口でずっと落ち着かなかった。
正装なんて慣れていないし、周りはやたら騒がしいし、フレッドとジョージは後ろでずっと変なことを囁いて笑っているし、ロンはロンでぶつぶつ言っている。
そんな騒がしさの中でふと空気が変わった。視線が、一斉に入口へ向く。
そして、スリザリンの女子たちに付き添われて現れたラシアンナは、輝いていた。
そう。物理的に金色だった。
ドレスそのものが光を受けて揺れるたびに、まるで炎みたいにきらめいていた。二つに結んで下ろされた長い髪には、ドラゴンの翼を模した髪飾りがつけられていて、その奥には小さなティアラまで見える。お姫様みたいなドレスだった。胸元や袖には細かい金糸の刺繍が入っていて、歩くたびに柔らかく光る。
本来なら、あんな派手な格好は威圧的になりそうなのに。不思議と似合っていた。不思議と儚く感じる雰囲気のせいなのかもしれない。あの金色は、自然だった。炎とか、太陽とか、そういう彼女そのものの色に見えた。
マルフォイですら、一瞬言葉を失っていた。クラッブもゴイルもぽかんとしていたし、ロンなんて口を開けたまま固まっていた。フレッドとジョージは顔を見合わせていた。
ダンスは、思っていたより楽しかった。案の定、何回か足を踏まれた。でも、嫌じゃなかった。
音楽の中で、ドレスの金色が揺れる。笑うたびに、髪飾りが小さく光る。その夜だけは、本当にどこかのお姫様みたいだった。
だから、多分。僕は少し勘違いしていたんだと思う。このまま、しばらく平和な時間が続くんじゃないかって。
そして、その幻想的な雰囲気は第二の課題で盛大に破壊された。
第二の課題は、実力というより経験が武器だった。
課題開始直後、湖に飛び込むかどうか。
それは呪文の知識でも判断力でもなく、ただラシアンナとどれだけ長く付き合ってきたかという一点だけで決まった気がする。
クラムとフラーはすぐに飛び込んだ。
いや、正確には、課題に真面目に向き合っていたんだと思う。第一の課題でラシアンナがあれだけ暴れて、先生たちから散々怒られていたんだから、流石に今回は大人しくするだろう、と。
でも、僕は違った。
そんなわけがない。絶対にろくでもないことになる。そう思っていた。
だから、課題説明が終わった瞬間、僕はしばらく待つことにした。そして、結果的に、僕は賭けに勝った。
クラムとフラーは、気絶して波間を漂っていた。
後から聞いた話だと、ラシアンナは人質を取った水中人を脅迫するという方向に発想を飛ばしたらしい。
しかも、その脅迫方法が湖を干上がらせるぞというものだった。
意味が分からない。
さらに、その前段階として、威嚇射撃のつもりで湖にブレスを撃ち込んだ結果、水中で爆発した衝撃波が届いて、クラムとフラーがまとめて吹き飛ばされたらしい。ラシアンナ本人はちょっと脅かしただけと言っていたけど、そのちょっとで人が気絶する時点で色々おかしい。
結局、第三の課題に進めたのは、僕とラシアンナだけだった。
ムーディー先生がかなり頑張ってくれたらしく、ラシアンナはもう少しで失格になるところだったみたいだ。でも、完全失格にはならなかった。その代わり、ドラゴンへの変身と、いくつかの危険な魔法は禁止されたらしい。
正直、かなり安心した。
もしドラゴン変身ありのままだったら、僕も棄権していたと思う。だって、勝負にならないとかそういう話じゃなくて、命が危なすぎる。
でも僕にとって、このイベントはホグワーツに来てから初めてのチャンスだった。
みんなはいつも、生き残った英雄だとか言っていたけど、実際の僕はいつも誰かに助けられてばかりだった。
ホグワーツには危険が山ほどあった。でも、その危険の大半はさらに危険なドラゴンによって破壊されていった。
だったら、もし、もしも、ここでそのドラゴンに勝てたなら。初めて自分自身の力で何かを成し遂げられるんじゃないか。
そう思っていた。
だから、迷路の中を進みながら、僕は必死だった。霧の向こうを警戒して、呪文を構えて、優勝カップを探していた。
その時だった。遠くから、破壊音が聞こえてきた。
嫌な予感がした。壁が崩れる音。何かが燃える音。そして、空気が熱い。
気が付けば、迷路の向こう側で炎が高く燃え上がっていた。煙と霧が混ざり合って、視界がどんどん悪くなる。
……やっぱりだ。
ラシアンナだ。
絶対に何かやってる。そう思った瞬間、煙の向こうで、一瞬だけ光が見えた。
金色だった。霧の中で、優勝カップがかすかに輝いていた。
そして、そこからのことは、正直、あまり思い出したくない。
今でも夢に見る。湿った土の匂いと、霧に包まれた墓地。そして、額の傷が焼けるみたいに痛む感覚。頭の中を無理やり引っかき回されるみたいな痛みで、まともに立つことすらできなかったのに、それでも目だけは逸らせなかった。
ラシアンナが、全部をめちゃくちゃにしていくところを。
ペティグリューが物陰から現れた瞬間、ラシアンナはほとんど反射みたいにフリペンドを乱射した。止める暇なんてなかった。とんでもない数の呪文が一秒で何発も飛んで、ペティグリューの身体が弾ける。肩が潰れ、腕が千切れ、頭が砕けて、人間の形が一瞬で消えていった。気づいた時にはもう、そこにあったのは肉の塊だけだった。
僕はその場で吐きそうになっていたのに、ラシアンナは軽い調子で、その死体を見下ろしていた。そして、そのあとがもっと酷かった。
ラシアンナは、ペティグリューの死体だけじゃなく、あの赤ん坊みたいな化け物まで、まとめて鍋に放り込んだんだ。
骨で鍋をかき回しながら、「ちょうどよかったですね、お腹空いてましたし」とか言っていた。意味が分からなかった。怖かった。でも、その時はまだ、僕もあれが何なのか分かっていなかったんだ。
そして、鍋の中から、何かが生まれた。
それは人間みたいだった。でも、人間じゃなかった。白くて、細くて、目だけが異様にぎらついていて、存在そのものが悪意でできているみたいだった。見た瞬間、本能で理解した。あれは駄目なものだって。絶対にこの世にいてはいけないものだって。
なのに、その次の瞬間には、ラシアンナがドラゴンになってそいつにかぶりついていた。
本当に、一瞬だった。
巨大な顎が閉じる音がして、骨が砕ける音が響く。そして、ぼとり、と首が地面に落ちた。
転がった顔は、間違いなく邪悪な何かだった。見ているだけで寒気がするような、憎悪そのものみたいな顔だった。でも、その表情だけは違った。
絶望していた。
完全に、理解不能な怪物に捕食された獲物の顔だった。
「なんでこんなことになるんだ」
そう言いたげな顔だった。
そのあと、ダンブルドア先生たちから、あれが復活した闇の帝王だったと聞かされた。
ヴォルデモート。魔法界中が恐れた怪物。僕の両親を殺した男。ずっと僕を追っていた悪夢。
そのはずなのに。
その話を聞いた時、僕の中に浮かんだのは恐怖じゃなかった。
ただ、なんというか。
……ああ。
可哀想だなって。
そんなことを思ってしまった。
多分、僕はその瞬間、生まれて初めて闇の帝王に同情した。
だって、ラシアンナはそれを今までで一番美味しかったって言っていたんだから。
それにしても、ラシアンナを見ると額の傷に何かを感じる気がするけど、なんだろう。