ドラゴン娘とハリー・ポッター   作:ゴールドルナ

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闇の帝王とドラゴン娘

 

俺様は敗北したとは思っていなかった。

 

あれは事故のようなものだった。

 

赤子に掛けられた古代魔法の不意打ちによって、肉体を失っただけのこと。分霊箱は問題なく効果を発揮し、魂は現世残った。意思も残った。そして、齎してきた恐怖もまた、この世界に残り続けた。

 

だからこそ、俺様は復活を確信した、していた。

 

だが、死喰い人はアズカバンに収容されたのか、それともこの俺様を裏切ったのか、誰も探しに来なかった。

 

時間はかかった。十年以上の時間はあまりにも長かった。

 

腐った森を這い、動物の血で飢えをしのぎ、情けない寄生生活を続ける屈辱。かつてヴォルデモートの名だけで震え上がっていた魔法界は、それを過去の亡霊として扱い始めていた。許しがたい。

 

クィリナス・クィレルの後頭部に寄生していた頃も、それは変わらない。この男は情けない男だったが、利用価値はあった。ホグワーツへ入り込み、賢者の石へ近づける。それだけで十分だった。

 

当初、障害になるのはダンブルドアだと思っていた。もしくは、あのハリー・ポッター、そうこの俺様を滅ぼした忌々しいガキ。予言以外にダンブルドアが執着する理由は分からない、それでもあのダンブルドアのやることだ。警戒は必要だった。

 

だがホグワーツには、もう一つ、理解不能なものがいた。そう、忌々しいあの一族、知らないうちにそこに生まれていた野蛮な娘がこともあろうにホグワーツに入学してきていたのだ。

俺様は呪った。よりにもよって、あの気狂いドラゴン一族だ。味方にしても敵にしても、どうしようもない。偉大なる始祖ですら御しえない存在。魔法界支配の暁には屈服させようと考えていたのだ。

 

 

夜の森で初めてドラゴンの姿で遭遇した時、その異様さはさらに際立った。

クィレルの身体を使い、ユニコーンの血を啜っていた時だ。あの忌々しい半巨人のせいで、森には生徒たちが入り込んでいた。

 

生徒なら普通なら悲鳴を上げて逃げ出す。

 

だが、茂みの向こうから現れた金色の少女は、こちらを見るなり目を輝かせた。

 

 

 

その瞬間、俺様は本能的な不快感を覚えた。それに従っていなければ、灰になっていたかもしれない。

 

森の木々が吹き飛び、地面が抉れ、熱風が夜の空気を焼いていく。

クィレルは半狂乱で逃げていた。俺様自身も、後頭部で歯を食いしばっていた。

 

しかし、その破壊は執拗で、大規模で、そして破滅的だった。狂気に満ちたドラゴンはハイになったのか、思う存分破壊と暴虐の限りを尽くしていたのだ。気狂いだ。ダンブルドアはポッターを俺様が復讐する前に葬りたいのか。

 

結局、賢者の石を奪おうとした時にも乱入してきて呪文を乱射しながら部屋を崩壊させようとしていた。弱った魂の俺様にとって、直接の対決を避けざるをえないというのはこの上ない屈辱だ。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ついに時は満ちた。

 

バーテミウス・クラウチ・ジュニアとワームテール。

 

俺様はついに、忠実で、それなりに使える手駒を手に入れたのだ。

 

ワームテールは臆病で卑屈だったが、それでも役には立つ。恐怖に縋りつく人間は扱いやすい。そしてクラウチ・ジュニアは素晴らしかった。狂気と忠誠、その両方を兼ね備えている。アズカバンの恐怖に耐えながら、なお自分への忠義を失わなかった。

 

あの老いぼれダンブルドアすら欺き、ホグワーツ内部へ潜り込んだ手腕は見事という他ない。

 

これで、あとはポッターの血だけだ。それさえ手に入れば、あの予言を乗り越えて完全な肉体を取り戻せる。

 

もう、森を這い回る必要もない。他人の身体に寄生する必要もない。

 

闇の帝王ヴォルデモートは、完全な姿で蘇る。

 

そうなれば、忌々しいあの一族のガキが、俺様に敵うはずもない。ダンブルドアも、魔法省も、かつて俺様を裏切った愚かな連中も、全員跪かせてやる。

 

そう、計画は完璧だった。

 

三大魔法学校対抗試合。

その優勝カップはクラウチ・ジュニアが巧妙に細工したポートキーだ。最後に優勝カップへ触れたポッターが、この墓地へ転移してくる。

 

そこで血を奪い、復活する。実に単純で、美しい計画だった。

 

……そのはずだった。

だが、ポートキーから現れたのは、ポッター一人ではなかった。

一緒にあの金色の狂ったドラゴン娘が来た。

 

 

そして、一瞬で計画は崩壊した。

 

こちらが認識した瞬間、ワームテールに呪文を乱射し始め、数秒後には肉片に変えていた。

 

そして、あろうことか、復活の儀式を継続させた。

俺様はか細い肉体感覚で、かつてない何かを感じていた。そして、それが恐怖の類であることに驚愕した。

それでも、復活の儀式は進む。次々と必要なものが鍋に入れられ、そして気狂いは鼻歌を歌っている。

 

ただ、復活してしまえばこちらのものだ。決闘で闇の帝王を倒したという称号でも欲しいのだろうが、あまりにも愚かだ。

 

そう、どんな形であろうと肉体を取り戻せるのだ。

 

 

ついに戻れるのだ。完全な姿、恐怖の象徴、そして世界を再び跪かせる存在へ。

白い肉体が鍋から立ち上がる。肺へ空気が入り、指先に力が戻る。魔力が身体中を満たしていく。

 

復活だ。

 

闇の帝王ヴォルデモートはついによみがえったのだ。

 

 

その瞬間、背後の凄まじい存在感が俺様を釘付けにする。

まだ、肉体が形作られている段階で、俺様は動くこともできない。

 

そして、戻り始めた感覚は俺様の体のあらゆる場所からの痛覚を示していた。そして、次の瞬間には首から下の感覚が無くなっていた。

 

骨が砕ける。肉が裂ける。理解するより先に、身体が噛み千切られる。

視界が流転し、頭部が切り離されたことを俺様はようやく理解する。

 

そして、そのドラゴンの黄金の瞳。

何より、その視線が不快だった。それは獲物を吟味する獣の目だ。人間が、自分より下等な生き物を見る時の目。食べられるかどうかを考える視線。

俺様に向けていいものではない。

 

だが、あの娘は本当にそう考えていた。

俺様が自然と発動していた開心術は化け物の心を開示する。その目を見た瞬間、俺様は悟った。その化け物が抱いていた感想は、恐ろしく単純だった。

 

美味しい。また食べたい。

 

ただそれだけだった。

 

理解不能だ。どうして闇の帝王を復活させたのか。それはお腹が空いていたから。根本的に、生物としての価値観が違う。

 

俺様は恐怖した。恐怖したと告白する。おそらく、それは人生で一度も味わったことのない種類の恐怖だった。

 

死ではない。俺様にとって、死は既に克服したものだった。分霊箱によって魂は現世へ縫い止められ、肉体を失っても、いずれ復活できる。

 

 

だが、だからこそ理解してしまった。もし、あの化け物に魂を捕獲されたなら何が起こるのかを。

 

死喰い人の肉、ポッターの血、トム・リドルの骨。復活の術はすでに完成している。忠実な配下が一人でも残っている限り、俺様は何度でも肉体を取り戻せる。それは本来、不死を求め続けた俺様にとって最大の強みであり、あらゆる敵に対する勝利の保証だった。

 

しかし、それは俺様の魂が自由であることを前提としている。

 

もし魂そのものが奴に捕らえられたままだったらどうなる。肉体が滅びても復活の儀式によって新たな肉体は作られる。だが復活したところで再び殺され、再び喰われるだけだ。魂が解放されない限り、その過程はいくらでも繰り返せる。俺様は永遠に復活し、永遠に捕食され続けることになる。

 

いや、それですらまだ楽観的な想定かもしれない。

 

そもそもあのドラゴンの体内から魂が抜け出せる保証などどこにもない。肉体だけが滅び、魂だけが奴の内側に閉じ込められたままになる可能性もある。そうなれば復活もできず、死後の世界へ進むこともできず、亡霊のように彷徨うことすら許されない。ただ暗闇の中で存在し続けるだけだ。

 

そして、その最悪の可能性を裏付けるように、俺様は自らの魂から魔力が吸い上げられていくのを感じていた。分霊箱によって何度も引き裂かれた魂は現世にとどめられ、完全には消化されないのかもしれない。しかしそれは救いではなく、新たな苦痛の始まりに過ぎなかった。魔力が吸われるたびに魂そのものが引き裂かれ、削り取られ、存在の根幹を抉られるような激痛が走る。その苦痛は終わらない。意識を失うこともできず、逃れることもできず、ただ永遠に続いていく。

 

そこで初めて俺様は理解した。不死とは絶対の勝利ではない。不死であるがゆえに終わることさえ許されない地獄が存在するのだと。

 

その瞬間、俺様、闇の帝王ヴォルデモートは、生まれて初めて、自らの不死を呪った。

 

 





あのお肉を食べてから、魔法が前より強くなった気がします。また食べれたらいいのになぁ。 by ラシアンナ
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