―――親の事はよく覚えていない、だって物心付いた頃には私は既に実験施設にいたから。悪魔に殺されたのか私を金で売り飛ばしたのかそれ以外の理由なのか、でもそんなの考えたってもう会う機会なんて二度と無いのだから意味はないと思う。ここは家族以外でも学校や友達や恋人など数多くの人間にとっての当たり前なんて一つも存在しなくて、ただひたすら訓練を積み国の為に生き国の為に死ぬ人生。操り人形に過ぎない。
同じ境遇の子達の中には耐え切れなくなる子も沢山いたけれど、私は違う。ずっと感情を殺し続けて教わった事も全て完璧にこなした、研究員達に言わせてみれば優等生だったのだろう。
「上もお喜びになる」「この調子で更に数を増やしていく」
―――そんなとき、他国のジャーナリストがこの実験施設を突き止め世間へ存在を明るみにした。私を含めて被験者にされていた子供達の写真も公開されて、これでこの日々も終わる。施設か少年院に入れられるのかは分からないけど今よりはマシだ、そう思っていた。
「レゼ、お前にはこれから爆弾の悪魔と契約し武器人間ボムになってもらう。そして祖国に尽くせ、死ぬまで……いや死の概念はないか。何せ血を与えれば復活するもんな?ハハッ」
心を殺さなければ生きていられなくて、それが自衛であり正しいと信じていたのに結果的には自分を永遠と苦しめる羽目になってしまった―――私、間違ってたのかな?
武器人間になって分かったのは、不老性があるとしても痛覚は同じように存在する事。最初は痛くて痛くて意識が何度も飛んだ、でも今となってはもう慣れてしまい……きっと私は心まで人間じゃ無くなっちゃったんだ。
「チェンソーの悪魔と契約した男、チェンソーマン……ホント変なの」
雨が降る中、ターゲットの元へ向かいながら思わずボソッと口から漏れ出た言葉―――チェンソーの心臓を手に入れろ。そう国から命令が下ったのは少し前の事だ。日本の公安に所属している男、名はデンジ。彼の心臓は自分の物ではなくて、代わりにチェンソーの悪魔を宿していると。どうして国がそれが欲しいのかなんて心底どうだっていい、何故なら私にとってはいつもと変わらない任務なだけだから。最も……こういうハニトラまがいは初めてだけど、短い期間だったけど頬を赤らめる訓練なんてのもしちゃって。自分ながらにやってて馬鹿らしいと思った。
年齢は16歳、それに写真で姿も見た。相手の情報を知るのはいつもの事だから、でもどうしてだろ……彼を見たとき心が凄くザワザワした。こんな気持ち初めてで、それが何かはまるで分からない。
「まぁ知った所で別にどうだっていい事だろうけど……それにしても16歳、か」
普通なら高校に通っている年齢だ、彼の経歴からして恐らく学校自体に通った経験もないはず。つまり私と同じ―――君も当たり前を知らないんだね。
そんな中、ターゲットが現在雨宿りしている公衆電話ボックスが見えてきた。らしくない感傷に浸っていた私はすぐに心を切り替え、全てが偽りの私になったのを自らで認識すると……電話ボックスの中へと入った。
「―――どうもどうも、いやいや凄い雨ですね」
「ああ~?」
彼に接近し、チェンソーの心臓を奪う。そしてそれを持ち帰り、また次の命令が下る。無限の繰り返しだ。もし幸せになれるなら?誰かを好きになってその人と一生を共に過ごせるのなら?
その問いに対しての答えは一つ……私がそんな感情を抱くなどあり得ない。
「天気予報は確か―――えっ」
彼の顔を見た瞬間、私の心臓がバクバクと音を立てて鳴り出した。写真を見たときと同じ、いやそれの何倍も……どうして?
「あ?」
「やっ、こんなはずじゃなくて……」
目つきが悪く不良っぽい顔、それが写真で抱いた第一印象だった。でも何だか間近で見ると、それも悪くないような。というか……むしろ。
「何かお前様子おかしいけど、どうしたんだよ」
声色からも明らかにこちらを不審がっている、これはプラン通りじゃないし初手で躓くわけにはいかない。彼を見て心臓がドキドキするのは私の体がどこかおかしいに違いないんだ……武器人間だけど。
言わなきゃ「アナタの顔……死んだウチの犬に似ていて」って……冷静さを欠いた私は至近距離にも関わらず彼の顔をマジマジと見てしまった。そして口に出た言葉は。
「アナタの顔―――凄くカッコいいね」
「オレん顔がすごくカッコいい、その意味っつうのはつまりデンジ君の顔がすごくカッコいい……はぁ!??」
「い、今のは違うの!?」
頬を赤くするのは訓練で得たものなのに、それを関係無しに顔が熱を帯びているのを感じる。こんなの初めて……私、一体どうしちゃったんだろ。