「―――冷てぇ!でも気持ちいいぜー!レゼも早くこいよ!」
「……」
「ヤベ、そういやオレ泳げねぇんだった……あっ体が沈んでいくよオ~!?レゼ!助けてくれねぇか!?」
「……変態デンジ君は少し頭でも冷やした方がいいんじゃないですか~」
「ヒドオ!?」
先ほどの出来事から未だに顔の熱が引かなくて、そのせいか頭も上手く回ってくれない。元のプランではお互い裸のつもりだったし、それに対して抵抗や恥じらいなんて何も無かったのにな……溺れかけたデンジ君を救出しながら私はこの感情の答えを必死に探していた。
でもどうしてだろ?いくら真面目に理由を探しても結局思い浮かぶのは、水着と一緒にズリ下がったデンジ君の下―――ホント何でかなぁ!?
「マジで溺れるかと思ったぜ」
「全く、デンジ君は私の存在に少しは感謝してほしいものだね?」
「レゼ!あんがとな!」
「う……」
表裏など一切ない、純粋そのものな彼の笑顔。物心付いた頃から実験施設で散々人間の醜い部分ばかり見てきた私にとっては……その笑顔がとても不思議なものに感じて、真正面で見ていると自分の歪みが浮き彫りになってしまいそうだから思わず目を逸らしてしまった。
これから私も更衣室で水着に着替える、ここがデンジ君を堕とす絶好の機会。ただせっかく決意を固めてもこの始末、正直に言うと私は完全に自信を無くしてしまっている。もう根本からプランを変更し、ボムになって心臓を強引に奪い取ってしまおうかとも考え首元のチョッカーへ手を伸ばしたものの……躊躇ってしまいそれも出来なかった。
もう―――何もかもめちゃくちゃすぎるよ。
「……ちょっと時間かかっちゃった、待たせちゃってごめんね」
「あ?オレは別に気にしない、ぜ……?」
「それじゃあ行こうか、私が泳ぎ方教えるね。必ずキミを泳げるようにしてみせるよ」
「おー……」
私が選んだのは黒のビキニ、シンプルに男の子が好きそうな感じ。というか耐性が無いデンジ君には特に刺さりそうなんだけど、彼の薄い反応からしてダメみたいかな。
とっくに知ってたけどね?私を女として見てないぐらいは……とりあえず今日は堕とす事について考えるのはやめにして、帰ったら改めて自分自身の感情を整理し今後の策を練ろうと決めた。
最近は知らない感情が襲い掛かってきてばかりで大変だった、まぁスパイとして最悪なのは自覚してるけど―――任務について考える必要のない今は少しだけ楽な気がする。
「な、何かよく分かんねーけどレゼが「デンジ君」
また明日からはキミを狙う、それは絶対に変わらないよ。でも今は。
「デンジ君の知らない事、出来ない事、私が全部教えてあげる!せっかくのプールなんだぜ~?一緒に楽しも!」
「……楽しむ」
「じゃあまずは簡単な息継ぎからね、ほらほらデンジ君!私の手握ってくださいよ~」
「……握る」
―――少しぐらい楽しんじゃっても文句は言われないよね?
デンジ君の手を握るとまた私の顔は熱くなって、心臓の鼓動も鳴り止まないけどやっぱり楽しかった。だってチェンソーマンで悪魔を倒してきたくせにプール如きで必死に苦労しながら泳ぐ姿がおかしくて、でもそんな純粋でまっすぐな彼は私にとって眩しい。それに可愛いしカッコいい、し……?
「……私、今何て思ったの?」
「雨降ってるのに屋上で座り込むなんて、我ながらちょっとバカすぎかな」
デンジ君を先に教室へ戻らせて、私は大雨にも関わらず屋上へ上がっていた。彼にはトイレに行くと伝えてあるから問題はない―――どうしてこんな事をしたかと聞かれれば強引にでも頭を冷やしたかったから。
気が抜けた中で頭に浮かんだ彼への印象、それは初対面のときにも一度口を滑らせたものだった。でもあれはただの気のせいだと思っていたし……なのにまた、しかも今回は。
「気のせいだとか、そんな事全然思えないよ」
雨に打たれれば馬鹿な考えも一緒に流れてくれると思った、でも流れるどころかむしろ明確に認識してしまう。ここを選んだのは完全に失敗だ、そう思い戻ろうと立ち上がった瞬間階段の方から足音が聞こえて。
「デンジ君……?」
「そーそーデンジ君だよ、俺も屋上に来ちゃったあ」
「―――ナイフ!?アナタ一体何なの!?」
「そういう事聞く自分こそ己が何者なのかわかってるのか、俺はお前を知ってるぜ……お前はチーズだ。ネズミを表におびき寄せるためのチーズ」
刃物を構えた男、見た感じでどこかの国の殺し屋だろうと判断した。わざわざ演技して合わせて様子を見てるけど、どうやら私を知らないみたい……馬鹿だね。それに何でこのタイミングで来ちゃうんだろ、こっちは色々悩んでる最中なのにさ?
「何を言ってるの……?お願いやめて」
こんな奴にわざわざボムになるまでもない、それにデンジ君が音で異変に気付いてしまったら全てが終わってしまう。だから近づいてきたら足を絡めて態勢を崩し首を絞め息の根を止める。
ただ無感情で相手の殺し方を定める、こんなの何度もやってきた。
「これからお前の皮を剥いで」
無感情。
「目をくり抜いて」
無感情。
「チェンソーに見せつけて……って何かお前顔真っ赤だな、おいおい大丈夫か?まるで恋に落ちちまった乙女みてぇな顔してるぜ?」
……は?
「ポカーンとしちまってんな~自分の気持ちを自覚してませんってか!?そういうはっずい青春はさ、せいぜい俺のいない所でやれっての!さっきチェンソーの男と何があったか知らねぇけどよ~この状況に陥っててもまだ引きずってんの笑えるぜ!」
今目の前の男は何て言った、私が恋に落ちた乙女。つまりこの理解できない感情は―――デンジ君への恋心??
「……違うから」
「あ?」
「……ふざけるのもいい加減にしてもらえるかな!?わわっ、私がデンジ君の事を好きとかあり得ないよ!?」
「きゅ、急に何だお前「ぶっ殺しコースかな!」く、首がッ!苦し……」
ジタバタと抵抗を示したものの、全力で締めたのであっという間に男は動かなくなった。死んだのを確認すると私は立ち上がり。
「嵐で学校に閉じ込めたのキミでしょ!台風!」
「レ、レゼ様ガイタトハ知リマセンデシタ」
「ねぇ今の会話聞いてた?聞いてたよね??」
「アッハイ……」
「こ、この男の死体を処理してさっさとどっか行って!」
「ゴメンナサイデシタ……」
恋、そのワードを当てはめると初対面のときから胸の内で抱いていたモヤモヤが腑に落ちる気がして。
「そんなわけ……ないよ」
口に出た言葉は驚くほど弱弱しいものだった。
「レゼの水着姿めっちゃ可愛かったなァ、それによぉ?プールでのレゼはいつもと雰囲気違って見えたぜ。何かドキドキすんだけど……どうしてか分かんねぇな」
何やらデンジ君の様子が…?
重要シーンである田舎のネズミと都会のネズミの流れは次回やります!