やめろ!神様!ぶっ飛ばすぞ!   作:舞楽

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簡単に終わらせるつもりが何故か一万字を超えてしまいました。なぜこうなった。


間幕 ~各陣営の思惑~

ヘラス帝国

 

 皇宮の謁見の間は静寂で静まり返っていた。必勝を誓って送り出された軍団は物資と兵器の全てを失い、大量の脱走兵と捕虜を生み出してウェスペルタティア攻略戦は失敗の終った。

 その事に事前に話を聞いていたとはいえその場に居合わせた絶句していた。しかも、たった一人が呼び出した召喚獣に無傷で蹂躙されたなど考慮していなかった。例え、話として伝わっていたとしても相手の情報操作であると思っていたのだから。だが、嘘だと思われていた事が事実であった事に彼らは真実を受け止める事が出来なかったのだ。

 

「何という事だ!ここまでの被害をこうむろうとは!貴様は何をやっていたのだ!」

「さよう!この被害を立て直す事は容易ではではありませんぞ!年単位の修正が必要だ!」

「まったく、ここまで無能だとは思わなかったぞ!」

「貴様一人の首で済む問題だと思わぬ事だ!」

「どうせ幻術にでも惑わされたのでしょう。もしくは、虚偽の報告をしているかのどちらかか」

「閣下、いかがいたしましょうか?」

 

 非難の視線が目の前で跪いている司令官だった男にそそがれている。そんな中、皇帝である男が口を開く。

 

「レグスよ。この報告に一切の虚偽は無いのだな」

「ハッ、その通りです。我が軍団はたった一人の人間に敗北しました。正確には呼び出された召喚獣であろう存在によって」

「この様な報告をすれば、貴殿の首は飛ぶ事がわからないはずあるまい。それでも、なぜ報告したのだ」

「呼び出された召喚獣にはこちらの攻撃が全く効きませんでした。もし、あの召喚獣クラスのモノを複数呼び出す事が出来るのだとすれば、帝国はあっという間に蹂躙される事でしょう」

「その様な存在があるはずなかろう!だいたい、それが事実だとすれば、貴様も死んでいる事になるのだぞ!寝言は寝て言え!この愚か者が!」

 

 その通りだと周りが非難する中、皇帝が一括した。

 

「静まれ!余はレグスに尋ねているのだ!勝手な発言は許さぬ!」

 

 その言葉に一同静まり返る。そんな中でレグスは言葉を続けた。

 

「我々全員が幻術をかけられていたとすれば、それはそれで大変な事です!何万という人数に一瞬で幻術をかけれ事が出来る存在だという事は脅威以外の何ものでもありません!」

 

 その言葉にその場に居合わせたのも達は苦虫を噛み潰したような表情になる。向けたくもなかった現実だからだ。

 戦艦にはあらゆる防御手段を取られている。相手の幻術はその防御をすり抜けて乗組員にかけた事になる。それは、帝国にはこの者の幻術を防ぐすべが無いという事に他ならい。

 

「それに私にはあれが幻術であったとはどうしても思えないのです!あの時味わった体が焼かれていく苦痛も生命が途絶えていく感覚、そして、息絶えていく者達の断末魔も!全ての事が現実であると訴え掛けています!」

 

 男は震える体を抑え込み皇帝に訴え掛けた。国を思う一人の男のその迫力に皇帝は事実として受け止めた。

 

「その国を思う気持ちは理解できた。虚偽を申していない事も理解できた。だが、それでも貴君はこの戦いの責任を取ってもらわねばならん!」

「理解しております!」

「この者を牢へ!追って沙汰を言い渡す!」

 

 その言葉に周りに控えていた衛兵が男を取り囲み連行して行く。その様子を皇帝は黙って見送った。そして、近くで控えていた男に声を掛けた。

 

「リグレスよ。諜報を担当する者として真実だと思うか?」

 

 白髪を長く伸ばした獣の耳が生えた男が答えます。

 

「閣下、情報収集の結果なのですがどう考えても幻術ではないと思われます」

 

 その言葉に周囲はどよめいた。

 

「どういう事だ」

「戦闘があった地点は焼け野原となっています。そして、それ以外の戦闘の跡はありません。破壊されたであろう艦などの残骸が何一つ残っていません。幻術であれば、ここまで完璧に隠蔽する事は不可能です。むしろ、報告にあった通りに炎で焼き尽くされたと考えた方が納得できます」

「そして、その後に全員が蘇生されたということか?」

「はっきり申しますがその部分のみが納得できない事です。はたして、どのような力が働けばそのような事が出来るのか。見当もつきません」

「だが、なぜそのような事をしたのか、見当は付くがな」

「はい、目的は上方の拡散が目的だと思われます。メガロメセンブリア連合は情報の隠蔽に努めている様なのですが・・・・・・」

「数が数だけに上手くいっていないか」

 

 皇帝の言葉にレグレスが頷いて答えました。

 

「脅威だな。真実味を出す為とはいえ、蘇生などという奇跡を容易く行うとは。スケールが余達とは違うな」

 

 その言葉にこの場にいる者達は顔を青くします。1人の兵士を創り上げるには時間が掛かる。だが、戦争ではその兵士を消耗品として使用しなければならない。戦争は数で決まるととあるアニメに中将は言っていた。人的被害だけとはいえ、それを無くす事が出来るという事の危険性をここに居る者達は正しく認識した。

 もっとも、『大嘘憑き』(オールフィクション)は物的被害も無くす事が出来る権能の為にあらゆる被害を押さえる事が出来るモノだと知れば絶望しただろう。

 

「とは言え、蘇生した者達を直ぐに戦場に立たせる事は無理なようだがな」

「その様です。蘇生された者達は死の記憶が強く残っていました。余程の者でないと直ぐに戦場に立つ事は不可能でしょう」

 

 皇帝は先ほどのレグスの様子を見てそう希望的な観測をする。心の底ではその記憶も消す事が出来る可能性を考慮しながら。

 

「どうやら善良な人物の様だ。黄昏の媛御子を助けるために国と敵対したのだからな」

「気が付いておられたのですか?」

「当然だ。報告からは塔にいた様だからな。しかも、戦線が塔に達する前にいたとなると急患か、重体者がその場にいたか。いや、戦線が其処まで到達していたとしても死者の蘇生が出来るのだ。問題なく怪我人など対処出来よう。余程厄介な症状でもなければな。ならば、該当する者として黄昏媛御子ほどの該当者はいまい」

「諜報員の情報では黄昏の媛御子らしき人物を連れていたそうです」

「やはりか」

 

 皇帝の推測に周り者の達は感服した様子になっている。

 

「しかも、その際に紅き翼と戦闘になり、仲間と合流して戦闘に勝利しどこかに去った様です。報告にあった召喚獣に乗り」

「そうか、朗報だな」

 

 その言葉にどよめきが走る。

 

「閣下!なぜそのような事を!」

「そうです!紅き翼を超える敵が現れたのですぞ!」

「対策を考える事が重要ですぞ!」

 

 動揺する家臣一同に皇帝の一喝が走る。

 

「静まらんか!相手はメガロメセンブリア連合に組しておらん!むしろ、敵対しておる!何故ならば、黄昏の媛巫女を攫ったのだ!それ故にメガロメセンブリア連合は賞金をかけておる!その存在があちら側の最高戦力である紅き翼を戦闘不能にしたのだ!これを朗報で無いはずなかろう!」

 

 確かにと頷くがこちらが受けた被害を考えると素直に喜ぶ事は出来ずにいた。

 

「ですが、閣下。こちらはかなりの被害を受けました。断固とした態度をとりませんと・・・・・・」

「余の権威が落ちると申すか?」

「恐れながら」

「構わん!余は自身の権威を落とす事になろうとこの戦争に勝利せねばならん!メガロメセンブリア連合から受けた屈辱を余は忘れん!亜人が受けた差別もな!もし負ければ、更にいわれなき差別を受けよう!故に何が何でも勝利しなければならん!本来なら既に勝利できたはずだ!なぜ、膠着状態になった!」

 

 その言葉に家臣一同思い浮かぶのは紅き翼のメンバーだった。戦争が始まった当初はヘラス帝国が押していた。

 だが紅い翼が参加してから戦線は押し返されていった。その紅き翼がどれくらいの時間で完治するかわからないが戦闘不能になったのだ。朗報以外何物でもないのは確かなのだ。こちらが被害を受けていなければ。

 

「故に感謝しよう!次の作戦が成功する事が出来る故に!そして、許そう!このたびの戦闘は!余の名で許す事を認めよう!」

 

 確かに紅き翼が出て来なければ、次のグレートブリッジ攻略戦は成功するだろう。だが、完治するまでの間なので完治すれば出てくるだろう。それまでに戦争を終了出来ると思う事が出来ない。故に家臣一同は思った殺していてくれればと。

 

「ナギ・スプリングフィールドは重体ですが、他のメンバーは健在です。直ぐにとは言えませんが、直に復帰するでしょう」

「そうなれば、再び戦線は押し返されるな。このままでは」

「どういたしますか?」

「その前に彼らと交渉するとしよう。我らがメガロメセンブリア連合受けた事を話し同情を誘い。紅き翼のみを迎撃して欲しいと」

 

 家臣たちはあまりの言葉に言葉を失った。

 

「それでは閣下が笑いものになってしまいます!」

「構わん!歴史に中で笑いものにされようと関係ない!余は国民を守らねばならん!そのためなら余は恥辱にも耐えよう!」

「わかりました。我ら一同決定に従います」

「という訳だ。そう伝えてもらえんか。レグレスよ。いや、間者殿」

 

 その言葉に周りの者達がレグレスに視線を向けました。レグレスは皇帝に視線を向けつつ、顎に一指しをあてて考えていました。

 

「おかしいですね。ちゃんと化けたのに何がいけませんでしたか?」

 

 先ほどと違い女性の声がレグレスよりもれました。そして、服装が露出の高い着物に変わり、九本の尻尾が生えて、頭に耳が現れ、女性に変わりました。

 突然の事で驚いていた衛兵が飛び掛かります。そして、女性は羽衣を取り出し

 

「テンプテーション!」

 

 と言葉にしてセクシーポーズをとると衛兵は虚ろな瞳になりボーとし始めました。

 

「怪我をさせないために術をかけました。衛兵は私の指示に従いますので抵抗はしないでくださいな」

 

 衛兵の状態を見て家臣たちは抵抗を諦めました。もっとも、ほとんどの者が隙を探っている。

 

「さて、これで落ち着いて話が出来ますね、皇帝陛下」

「この戦争で勝利出来るのなら余の命でも何でも好きなモノを渡そう」

「ご主人様は富や名誉は欲しておりませんし、あなたの命など一切役に立ちません。もらっても困るだっけです」

「ならば「ご主人様には報告いたします。この場ではそれだけです。あなた達はこちら側に対する交渉材料は無いのですから」わかった」

「ですが、あなたの覚悟は見せていただきました。中々出来る事ではございません。ご主人様はそういう者が大好きです。悪いようにはしないでしょう。捕虜になった者達も私が救出する事を約束しましょう」

「ほぉ~出来るのか?」

「ええ」

「わかった。よろしく頼む」

 

 そう言って皇帝は頭を下げました。その様子に家臣一同驚いていました。

 

「閣下!そのような者に頭を下げるなど!」

「その通りです!こやつらの所為で帝国は被害をこうむったのです!」

「静まれ!相手は格上だ!礼をこちらが尽くさなばならん!でなければ滅ばされるのはこちらだ!」

 

 その言葉に静まり返ります。

 

「失礼した。よろしく頼む」

 

 その言葉の後、玉藻は頭を下げて消えていった。

 その後、レグレスは自室で拘束されていたのを発見され、諜報員も一緒に発見された。さらに一週間後、約束通り捕虜は全員帝国に戻って来た。メガロメセンブリア連合ではこの事が問題になりはしたが、どのような手段を用いられたのかは闇に消えた。

 

 

 

メガロメセンブリア連合

 

 ウェスペルタティア王国の王女アリカ・アナルキア・エンテオフュシアは憤慨しながら議場のある部屋から出て廊下を進んでいた。望んでいた援軍要請を元老院に拒絶されたためだ。

 黄昏の媛御子を攫われた事によりウェスペルタティアの最終防衛ラインの防御力は著しく低下した為だった。国民を守る為には兵力の増員が必要だった。

 それを却下され、怒りは攫って行った神薙達に向けられた。確かにアリカ自身も黄昏の媛御子たるアスナの置かれている状況には思う事があった。だが、王族たる者が国民を見捨てるなどあってはならない。

 アスナにも王家に生まれた以上その義務が付いて回るのだと信じているのだ。それを横から出てきたよそ者が憐れだという理由で勝手に連れ去るなどあってはならない事だと思っているのだ。

 もっとも、神樂神薙がその信念を聞いたら失笑を持って無視するだろう。神樂神薙も多くの貴人やまつろわぬ神などを見てきて一つの考えが芽生えた。それは、その地位による恩恵を受けた者はその義務を果たさなければならないという事だ。

 彼自身カンピオーネという特殊な存在であり、前世の世界では多くの恩恵を受けた。その義務として彼が科したモノは出来る限り、周りに被害が出ないようにまつろわぬ神を倒さなければならないと思うようになり、実践してきた。彼の周りへの配慮はそういう理由である。

 その考えからアスナには一切の義務が無いと彼は判断した。アリカの場合は王族として多くの恩恵を受けてきた。飢える事がなく贅沢なモノを食べ、綺麗なドレスに身を包み、高度な教育を受け、王城の清潔な部屋で暮らし、多くの護衛兵に守られて、国民の税金で暮らしているのである。当然、神薙は義務があると判断する。

 対してアスナは地下牢に監禁され、成長を薬で止められ、戦時中に敵が最終防衛ライン到達するまで眠らされ、そして、苦痛を伴う作業をさせられて体を酷使され続けたのである。この様な目に合わされて、王族の義務などアスナには無いと判断した。

 アスナにも義務を訴えるならアリカと同じ待遇にしてから言えと神薙は言うだろう。もっとも、アスナが反発する可能性がある事は確かだと心の中でつぶやくだろうが。

 アリカは生まれによって義務が生じると考え、神薙は地位の恩恵によって義務が生じると感じているのだ。また、アリカは全体を考える指導者である事、神薙は個人である身内主義な人間である事も対立に拍車をかけている。

 そのために、アリカと神薙は交わる事が無い。おたかがいの考えによって。

 怒りを内に秘める彼女を追いかけてくる人物がいた。彼の存在に気が付いたアリカは振り返る。

 

「これはマクギル元老委員どうなされたのだ」

「アリカ王女が飛び出して行ったので慌てて追いかけたのだ。しかし、すまなかったな。先ほどの会議では」

「いや、十分力になって頂いた。それもこれもあの不埒者どもの所為だ」

「確かにな。彼らにはウェスペルタティア王国の窮地は助けられたが、紅き翼を当分戦闘不能にされ、黄昏の媛御子攫われてしまったからな。被害の方が大きいな」

「フン、紅き翼が到着していれば十分押し返す事が出来た。彼らにはそれだけの力がある。そう考えれば明らかにマイナスだ!余計な事をしてくれた!」

「だが、彼らはこの戦争を操る者達にとって脅威となっている。彼らを取り込めばこの戦争は終わらせられる」

「不要だ!あやつらなど!」

 

 マクギル元老委員から見てアリカ王女は民の安全を脅かされたので必要以上に敵視しているように感じた。そのために、視野が狭まっていると。

 マクギル元老委員は彼らとの交渉は自分が独自に行う事決めた。彼女に悪いが背後で戦争を操っている者達を一掃する事の方が急務である。その者達を炙り出すには強力な駒が必要になる。もっとも、彼らの行動を見れば駒に出来るとは思えない事もわかっていた。そのために、黄昏の媛御子を彼らに預ける事を公けの場で認める事でマクギル元老委員は交渉しようと考えていた。

 そのためにウェスペルタティア王家に泥を被ってもらう事になり、マクギル元老委員は彼女に恨まれる事も覚悟した。

 後はどの様にして彼らと接触するかをマクギル元老委員は考えているとアリカ王女が声を掛けてきた。

 

「マクギル元老委員!どうしたのだ!」

「すまない。考え事をしていて聞いていなかった」

「しっかりせんか!ナギ・スプリングフィールドが回復すれば紅き翼に会うぞ!」

「わかった。会合の場はワシがセッティングしよう」

「よろしく頼む」

 

 そう言ってアリカ王女は背を向けて歩き出した。

 その様子をマクギル元老委員は複雑な表情で見ていた。彼女は優れた指導者になれる資質があるのは確かだ。性格は清廉潔白で民の事をよく考えている。そして、強いカリスマ性もあり、聡明な事も良い評価対象だ。だが、彼女には汚さが足りない。その事が彼女の弱点にならねば良いとマクギル元老委員は思った。

 

 

 

紅き翼

 

 ナギ・スプリングフィールドは目を覚ますと白い部屋で寝かされている事に驚いた。体を動かそうと力を入れようとすると体中に激痛が走った。

 うめき声を上げるとゼクトが入ってきた。

 

「ナギ!目が覚めた様じゃな!」

「俺は一体どうしたんだ」

「それはこちらのセリフじゃ!お主の元に行くとでか゚クレーターの中心で死に掛けとったんじゃぞ!慌ててエリクシールを飲ませたが完治せんかった!本当に何があったんじゃ!」

 

 その言葉を聞いたナギははっきりと思い出した。

 

「師匠。アイツが使っていた魔法を覚えているか?」

「ああ、あの強力な爆発魔法じゃな」

「そうだ。アイツの話じゃ。あれは下位魔法なんだってよ」

「な、なんじゃと!!!!」

「オレは頑張って戦ったんだが、全く歯が立たなかった。それでも気持ちで負けねぇと思って立ち上がり続けたんだが、アイツは鬱陶しくなってきたみたいで高位魔法だっていう獅子に二本の角を生やした獣の形をした魔法をくらった後の記憶がねぇ」

「そうか。他のメンバーを連れて来る。ゆっくりと休め」

 

 そして、ゼクトは出て行った。ナギはベットの上で痛む体を休めていた。アイツらが何者であるかを考えながら。だが、答えは出る事は無かった。ナギ自身も散々バグだバグだと言われ続けた。詠唱を唱える事がなく下位魔法でさえこちらの上位魔法程の威力がある自身の常識を超えた魔法。こちらの高位魔法が全く意味のなさない魔法抵抗力。神獣と言っていた翼ある蛇。魔法で無い風を自在に操る能力。全てが常識外だった。

 神崎一護は悪いが桁が違った。確かにアイツの王鍵は脅威的な防御力を持つがそれだけだった。だが、アイツの方は攻撃、防御全てが揃っていた。絶望的な相手だが不思議と絶望していなかった。今まで超えるべき存在が居なかった男は初めて超えるべき対象を見据えた。それがどれだけ無謀な事か知らずに。

 しばらくして、ナギ以外の紅き翼のメンバーが入ってきた。

 

「ナギ、大丈夫ですか」

 

 アルビレオが代表して聞きます。

 

「体が痛すぎて全然大丈夫じゃねぇ!」

「その割には楽しそうな顔ですね」

「ああ、アイツを超えるのが楽しみだからな!」

「あれだけボロボロにされたのにまだ懲り取らんのか?」

「当たり前だ!超えてやる!」

 

 子供が夢を語る時の様に目を輝かせて答えるナギにマリサと詠春以外のメンバーは呆れながらもそれでこそナギだと感じていた。

 

「それでこそナギだ。俺もクー・フーリンに借りを返す」

 

 神崎一護が答えます。その答えにアルビレオが疑問を投げかけます。

 

「確か、アイルランドの光の御子と言われた存在と同名なのですか?」

 

 その事に神崎一護は失言だったと思い何とか誤魔化そうとします。

 

「そうだ。相手がそう名乗ったんだ」

「そうですか」

 

 そして、顎に手をあてて考えていたアルビレオはマリサに目を向けて疑問を聞く事にしました。

 

「マリサ、カンピオーネと叫んでいましたがあれはどういう意味だったのですか?」

 

 その言葉にマリサは観念した表情になり答えました。

 

「仕方ない。状況が状況だけに答えないといけないから答えるけどあいつらには私達じゃ勝てないわ」

「ハッ、臆病風にも吹かれたか!」

「落ち着け、一護。理由を説明してもらえんかのぉ」

「カンピオーネはとある偉業を達成した者達の総称よ。不可能である事をね」

「偉業とは何なのですか?」

「別世界なんだけどまつろわぬ神という神話を核にして自然現象が実体化した存在がいるのよ」

「とんでもない存在ですね」

「ええ、人では傷つける事さえも困難で一部の特殊な術や道具が必要になる程の存在よ。人では本来殺す事は出来ないわ。長い人の歴史の中でもほとんどいない不可能なはずの神殺しに成功した者達をカンピオーネというのよ」

「なるほどのぉ、リーダーである少年はカンピオーネというわけじゃの」

「その通りよ。カンピオーネになった者達は殺した神から権能を簒奪するわ」

「あの能力は権能という訳ですね」

 

 その言葉にマリサは頷いて答えました。

 

「召喚術と思っていたのは権能よ。一つはわかっているわ。『勇敢なる選ばれし魂』といって自身が倒した人の要素を持つまつろわぬ神を権能を犠牲にしてエインフェリアとして使役するというモノよ」

 

 そう話すと他の紅き翼のメンバーは絶句しました。そんな中、アルビレオが口を開きます。

 

「という事は本物のクー・フーリンなのですか?」

「その通りよ。ちなみにもう片方はヘラクレスよ」

「あのヘラクレスですか?」

「ええ、ギリシャ神話最強の大英雄よ」

 

 その言葉に全員が唾を飲み込みました。

 

「なるほど、言われてみればあの姿はヘラクレス以外の何ものでもないのぉ」

「そうだな!オレでもヘラクレスは知っているからな!」

 

 興奮し始めた紅き翼のメンバーをマリサが一喝します。

 

「話は続きがあるわ!だから、今は黙りなさい!」

 

 その言葉に全員が黙りました。

 

「話を続けるわ。更にカンピオーネになるとまつろわぬ神同様に傷つけようとすれば特殊な術などが必要になるわ。そして、武神を殺せば武術の才能を手に入れ、大地母神などを殺せば凄まじい回復能力を手に入れる事になるわ」

「もはや神じゃな」

「そう思ってくれて構わないわ。呪力という力もまつろわぬ神程になるしね」

「ぜひ、彼の人生を収集したいですね」

「だからこそ、彼らカンピオーネを人類の頂点に立つ者という認識があるのよ。ナギ、あなたはそんな存在に勝つつもり」

「当然だ!オレはサウザント・マスターナギ・スプリングフィールド!最強の魔法使いだ!倒してやるぜ!師匠!」

「なんじゃ」

「アイツにも効きそうな魔法をアンチョコに書いてくれ!」

「アンチョコに頼っておる様では勝てんぞ。基礎から教えてやるから覚悟せい」

「頼むぜ!師匠!」

 

 マリサはタメ息をつきながら

 

「バカは死ななきゃ。治らない様ね。死にかけじゃダメみたい」

 

 と呟きました。

 

「ナギは燃え上ってしまいましたね。ですが、あなたはどの様にしてその情報を知ったのですか?」

 

 その言葉に全員がマリサに視線を向けます。

 

「私には『連想』という能力があるの少しの情報から知識が連想されるの」

「その能力があるのなら有利に先ほどの戦いを進める事も可能ではありませんでしたか?」

「あれだけの力の差があったら対処方がわかっていても実行に移すのは不可能よ。直前だったしね」

「じゃあ、アイツの権能も丸裸の出来るんじゃないのですか」

「神樂神薙という名はわかっているんだけど、まったく、『連想』が働かないのよ。こんなこと初めてよ」

 

 その言葉に紅き翼のメンバーはがっかりした中、詠春がマリサに尋ねました。

 

「マリサさん」

「何、詠春」

「私が戦った相手は何者だったのですか?」

「フィアナ騎士団最強の騎士ディルムッド・オディナよ」

「そうですか、ありがとうございます。ナギ、悪いんですが、私は修行の為に紅き翼を離れます」

 

 詠春のその言葉に全員が驚きます。

 

「どうしてですか?詠春?」

「私は己惚れていた様です。この最強のパーティーのメンバーに入り、当初の武者修行している事も忘れていた。だからこそ、一度個人に戻り、自身を鍛え直したい!」

 

 詠春はそう言って一本の刀を握りしめます。

 

「ところでその刀はなんなんじゃ?かなりの邪気を感じるんじゃが?」

「いわくつきの妖刀で名をひなといいます。これを取り寄せておいてよかった。聞く限りこれぐらいの武器でないと戦う事もままならないようです」

「・・・・・・その刀使いこなせるの?とてもじゃないけど使いこなせないように感じるんだけど」

「わかりません。ですが、背中をただ切られて不様を晒すと私に残ったのは感情は強い憧れとただ今度こそ切り結びたいと思う気持ちだけでした。結局、私もナギの事を言えないんですよ。剣士としての性を押さえる事が出来ない。神鳴流は守護の刃だというのに」

 

 そう言って顔を向けた詠春の目は黒と白が入れ替わっていました。その様子に止める事が出来ない事を悟った紅き翼のメンバーは説得を諦めた。

 そして、神崎一護が口を開きました。

 

「俺も一緒に行っていいか?」

「そうですね。あなたの王鍵なら襲いかかっても大丈夫そうですから。いいでしょう」

「王鍵は使わない。卍解に至るには危機が必要だ。それにクー・フーリンに言われた。俺は王鍵だけの存在だと。次に会った時はそれを撤回させてやる!」

「あなたも剣士だという事ですね。ただし、暴走して切り殺されても恨まないでください」

「上等だ!」

 

 そう言って剣士二人は部屋を飛び出して行った。

 

「しばらく、紅き翼は開店休業の様です。私もゼクトを手伝いましょう」

「手伝ってもれえるのは助かるのぉ。この弟子に座学は苦労しそうじゃな」

 

 そう言って外にゼクトとアルビレオが出て行き、マリサも後に続きました。

 マリサは彼らと敵対するつもりはありませんでした。それどころか、神樂神薙の権能に彼女は希望を見出した。すなわち、両親を探し出す事が出来るのではないかと。

 そのために、メガロメセンブリア連合とヘラス帝国の国境にある地域で急激に盗賊団が壊滅していっている場所がある事を調べ出した。

 マリサには確信があった。この場に彼らがいると。

 ただ、どう交渉するかを彼女は悩まさせらる続けていたが。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
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