みみのこ・アップ・ライジング 作:凡夫偽
抱き着いて一緒に飛ぶなんて言い方ちょっといやらしい表現だが、そうとしか言い表せない飛行で俺と耳騎士は錐揉み回転しながら
火を噴いて推進力を出しているのは耳騎士。俺はしがみ付いてるだけ。
当然こんなんじゃばたばたなびく耳を庇う余裕なんてない。
一時期は走っただけで耳がもげて死ぬなんて都市伝説すら流れたもんだが、俺にはここまでしたってもげたりなんかしないって確証がある。
そりゃ爆発に巻き込まれたり車で走ったりぶっ飛んだり色々あって経験したってのもあるけどさ。
けど、耳は手でもぐもの。もがれない限り、もげやしない。
「うぉおおおお! 着地!」
食紅たっぷりの目玉焼きみたいな色のバトロワ床をぶち抜き、カラフル墓標なトナメ台を潜り抜け。
「って、あるぇっ!?」
闘技場の最下層すら破壊し超えた先には光に満ちた空間があった。ハイウェイのアスファルトではなく。
どういうことだと目を眩ませながら視界を回せば、俺達はどうやら井戸のようにぽっかり空いた円柱状の空間へこれから飲み込まれようって状況らしい。
ここまで連れてきてくれた耳騎士のダンボールバッジはもう炎の噴出を止めているし、切り返して上へ復帰ってのも無理だな。てかその気も無さそう。俺だってしない。ここまできたんだから。上手いこと着地するしかねぇ。
みみのこはどんな高さから落ちたって平気とこれも確証はあるが、あくまで死なないだけだ。耳がもげないだけ。痛いものは痛い。
「いい加減に離せ!」
「あばばばばば!」
最後のひと噴射で耳騎士のやつ、俺を壁に押し付けてきやがった! 痛いものは痛いって言ったじゃん!
あいだだだだ! みみのこじゃなかったら擦り傷骨折ぐっちゃぐちゃじゃ済まないぞ!
「くっ!」
「べはぁっ!」
レンガの壁をがりがり削り散らかしながらドカンと墜落した俺を尻目に、途中で蹴っ飛ばして離脱していた耳騎士はいつから隠し持ってたのか分からんパラシュートでふわふわ降りようとしてる。
あいつ卑怯だな! ひとを減速に使いやがって、こういう時は助け合いじゃないのかよ!
つか!
「どこが騎士だよ。やっぱ宇宙飛行士じゃん」
大の字に横たわりながら生きてることに感謝しつつそれを見上げて、その姿を改めて観察して出た感想はそれだった。
マントはとっくに脱ぎ捨てて、顔を隠してた仮面はもうない。実は騎士といいつつ鎧一つ身に纏ってないし、もう自称騎士もいいとこ。
……もう正体を隠す気もないんだな。ありゃ。
まず指摘すべくは
今まで相対した闘技場陣営が偶々そうだったのかも知れんが、連中は数多の戦いを生き抜いてきた歴戦の猛者であろうのにも関わらず自身の力しか見せてきていない。出し渋ったようには見えなかった。
ガラスのヴェトロはともかく、手段を選ばずみみのこファイトらしからぬ攻撃してきたオンブラーニンジャですらそうだった。
それじゃあ耳騎士が一体何だっつうと、答えはひとつな訳で。
井戸底へ降り立ってこちらを向いたヤツへ投げかける言葉はもう決まっている。
「しぶとい耳だ。まだ生きていたか」
「撫でギミックならもうちょっと優しくしてくれていいんじゃないか? コシアちゃんよぉ」
「……」
俺とマイクルの旅の始まりである
イストティートの一室に大量の宇宙関連資料を持ち込み、宇宙への夢を語っていたコシアがなぜ敵対し耳騎士なんて格好つけていたのか。
「お前の情けない姿みて、お嬢はそんな奴知らんって嘆いてたぞ」
「……それでいい……」
聞きたい事は山ほどある。
記憶を保持したまま次の身体へ移る現象はマイクルの転生で知っているし話の本筋ではないので省き、大事なのはなぜイストティートへ所属し夢すら語っていたコシアがという点だ。
大災厄ブラックウィンターによって地上に住めなくなった事実を知っただけなら、それなら危険だと説得するだけでいい。宇宙の知識を部屋に置いて、ワケワカラン組織の手先になり、問いかけられても答えない必要なんざちょびっともない。
どうなんだコシア。
お前の性格は知らんが、無意に事を起こすようなもんじゃないだろ。
地上が危険だからだけじゃない、もっとそれ以上に阻止したい理由があるんじゃないのか?
それこそ、自身が悪役に徹し胸の内に秘めたいような。
「……“春来る計画”。みみのこファイトはそのために今は行われている」
「ああ?」
観念したかのようにため息を吐いて出たのは、聞いたことのない名前だ。
ブラックウィンターという冬に対しそれを乗り越えようって計画に思えるが、その顔を見るに良いもんじゃなさそうだな。
「死と生を繰り返すみみのこの身を笠にし戦いを続けさせれば、やがてお前のように革命を起こす者が現れるだろう。この計画は、それこそが狙いなのだ」
以前から闘技場陣営は俺達の戦いを出来レースのように仕込んでいたし、狙って戦わせていたという話は分かる。
けどそれは人間向けのバラエティー番組を作っていたっていう仕込みの名残で──。
──いや、かつてあった番組作りを乗っ取り“春来る計画”の一部としたってか。
番組は盛り上がればそこで目的達成だが、それを利用しているこの計画は革命軍の勝利したその先にあると?
「革命を起こさせる目的は? そのまま転覆されちゃたまったもんじゃないだろ」
「いいや。それでいい。そこまでできる逸材を探し、地上へ帰すのがこの計画なのだから」
「はあ?」
ますます意味が分からん。
「そうか。アミーチは何も教えなかったのか」
あの老耳が?
いや待ってくれ、色々言ってて逆に何を教えられたのか分からんかったんだ。
あいつちゃんとした言葉言わんかったからさ。
えっと、みみのこを作ったやつは桜が好き!
「それじゃない」
月にはウサギがいる!
「近いが違う」
フレンドじゃない。
「……もういい」
くそぅ、こういう手札を突きつける系のは苦手なんだよな。
裁判ゲームとかでさ、答えは分かってるのにストーリーに則った発言しないといけないせいで逆に答えに詰まるあの現象よ。
え? そも答えすら分かってないだろって? うるせ!
「知識のすり合わせからしよう。ブラックウィンターは知っているな?」
「地上に訪れた氷河期の事だろ?」
「そうだ。人類はその大災害により存続の危機に瀕していた」
古老アミーチも口にしていたそれは、回避する手段の模索すら取れなかったらしい。
その災害を生き残った僅かな人類がどうしたか。それは──
「文明は衰退し、社会を維持するのも困難。僅かな資源と人類を守るため、世界は仮想現実へと住居を移す宣言をした」
「──所謂、没入宣言」
「思い出して来たか?」
「なんとなくな」
おぼろげにだが記憶が蘇ってきた。
意識はそのままに社会や娯楽、食事や睡眠に至る全てデバイスを通した仮想現実へ頼ろうというそれ。
地上の雪解け、春が訪れるまで耐え忍ぼうという選択だ。それまで物理的肉体は生命維持のためにのみ存在していればいいっていう。
ストレスやくだらない喧嘩でただでさえ少ない人間を減らしたってしゃーないからな。
「だが、この世界は居心地が良すぎた」
仮想現実という理想郷はやがて現実に取って代わった。
望めば何でも労せず手に入るんだ。豪華な食事や個人の邸宅、
地上への帰還はもう誰も望まない。
「そこで“春来る計画”か」
人類全員が幸せなのは嬉しい事だが、それと同時に地上復興という使命の優先度は下がってしまった。
当然このままじゃ緩やかな絶滅を迎えるから頑張ってこって話。
「そうだ。他の所では別の計画も動いているらしい。手段は分散した方がいいからな」
溜息と共にコシアは腰を下ろし、懐から一枚の写真を取り出し俺へと差し出した。
月面にて地球を背景にして撮ったもので、そこには沢山の無垢なみみのこ達が並んでいる。
ほっぺにsampleの文字も入っていない、何も改変されていない元デザインのみみのこだ。
俺達が今いる井戸の底のような狭い世界じゃない、本物の広い世界に住んでいた本物のみみのこ達。
この今の身体が偽物だって理解しても実感は湧かないな。
「月面調査の際に生息が確認された不思議な生命体みみのこ。儀式や求愛行動かは結局分からなかったが、既に人間にとって馴染みのある生態と行動、及び番組を利用して当コロニーの“春来る計画”は実行に移された」
発見と研究が娯楽に移り変わったファイトクラブの歴史は現実としてあった事。
その知識記憶をベースに自分をみみのこと思い込まされた俺達が手のひらでもぎあい、死んだら
「ここでようやく、なぜ転覆できるする程の革命が望まれたのかって答えだな」
「言わずとも分かっているだろう」
「なんとなく」
考えてることを教えろと顎で示されるのはムカつくが話を進めるしかない。
なぜみみのこファイトの勝者、実力者ではなく革命を起こす方を求められているのか。
うぬぼれる訳じゃないが行動力や決断力、求心力等々の地上へ帰還した際に必要となる能力を持つ存在を探したいからだろう。過酷な世界に立ち向かう事の出来る存在を。
選ばれし者にだけ地上行きを許可する計画。
一言でいうなら、選民思想ってやつ。
「しかし潜り込んで分かった事だが、“春来る計画”はとうに破綻していた」
「破綻?」
「少数を断続的に送り出した所でどうにかなる訳がない」
機械やAIの補助があっても人間がひとりふたりここを出た所でってか。
「優秀な仲間を失うだけだ。それに強引に事を進めすぎて人情もない」
コシアの口ぶりに熱がこもり、続いてイストティートの屋敷の前で撮影した集合写真を渡された。
お嬢を中心にコシアやメイドさん、車椅子に座ったアミーチに知らん改変済耳共が写っている。
そんな中で目を引くのは、ここへ至るまで幾度も襲って来たアンミラー・リオ従業員だ。
従業員は単耳でそこにおり、様子からして特別扱いされている風でもない。
「彼はかつて我々の中でも……いいや、みみのこ全体を見ても上位に入り込む程の強耳だった」
うわ嫌な予感。
「手先として増やされたって?」
「その手順のお陰で転生システムを暴けたが、彼という
「なんでンなこと」
「地上へ送り過ぎたんだ。だが管理AIには計画を中断を選択する権限がない」
止める人間はどこにもおらず、それでも計画は進めなくてはならないと強引にでも手下を増やしたくてってか。
確かにあいつら、中身が無いというかNPCって感じの振る舞いだったけどホントにそういう類なのか。
あ、じゃあ99ちゃんもその内に生み出された存在? 頭に手をやるリスペクトは残ってる。
自爆は知らんが。
「調整が不十分なのもあり計画初期は革命を起こせる思考の耳が数多くいた。それこそ仲間を集い、イストティートという組織が結成される程に」
「地上へ行ったって事は、負け続きの歴史じゃないんだな」
「そう。だがその度に難易度調整が施され、イストティートもまた計画に取り込まれていった」
「それで今のお嬢運営と」
「……壊滅させられ死しても蘇り、また当主として座する。記憶を消された仲間と再会する。アンミラー・リオの末路とはまた別の地獄だ」
だいぶ状況が読めてきた。
コシアが耳騎士として俺達の前に立ちふさがり、理由を語らず戻れと戦った理由が。
それに転生システムの解析までした理由が。
「──お前、お嬢を助けたかったんだろ」
俺とマイクルが突き進んで革命を成し遂げれば地上へ辿り着く。この地下を後にする。権限がないのか地上へ
だが計画の一部となってしまっているイストティートは、お嬢だけは記憶を保持したまま屋敷へと戻り誰かが来るのを待つ事になるんだ。
コシアは“春来る計画”へ探りを入れて内部へ潜り込んだ際にその地獄を知ったのだろう。
転生システムの解析によって
だから立ち塞がった。
皆を、お嬢を守る騎士として。
「自分の苦労を悟られちゃいけないってんで悪役に徹したかったんだろ」
「……」
図星って顔だな。
全くかっこつけやがって。
「緩やかな絶滅を、地上復興を、宇宙への夢は確かにある! だが、お嬢を残して去る訳にもいかないだろう!?」
なるほどな。
恋って、やつか……。
「人情だよ!?」
ごめんて。
「ま、なら俺に任せとけ」
「何を」
「イストティートは俺に全ベットしたぜ?」
総力を挙げたオールイン。
計画の流れとして、役割としてお嬢は俺に協力したんだろうがオールインはオールインだ。
当然そこにお前もいる! ならついてこい!
「“春来る計画”をぶっ倒す! 俺がシステムを止める!」
夏だの冬だの春を待つだとか、その前に明日を創ってやる。
俺がこの地下という暗闇に夜明けを迎えさせてやる。
「無理だ、革命を起こした者は!」
革命なんかちゃちなモンじゃねぇ!
こえから俺が起こすのは──
「──
みみのこらしく、明確な決着つけてやろうじゃないか!