みみのこ・アップ・ライジング   作:紅茶オレを

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4 みみのこディナー

 

 

 

「ハラ減ったなぁ……」

「ですね……」

 

 午後23時30分。

 みみのこ闘技場での本戦(おしごと)が22時からの小一時間、そっからアフターでヴェトロとの個人戦。

 怪我も疲労もみちみちで、隣のマイクルもへとへとだ。

 ダンボール組織へ赴く前に寄り道して腹ごしらえとしたい。

 

「どこ行きます? 近くだと殺戮亭(さつりくてい)とか殺戮(さつりく)きんぐがありますけど」

「殺意がヤバい」

 

 耳通りの多い繁華街を歩きつつ周囲をきょろきょろ。

 警戒すべきは路地裏爆破の容疑やヴェトロ殺害とかいって裏で手を引いてる奴が治安維持部隊なんかをけしかけてくることだけど、今のとこそんな気配はしない。討ち取って逃げおおせた事にまだ気付いてないか、それとも泳がされてるのか。それこそヴェトロのいう“盛り上がり”のため準備中か。

 

 いずれにせよズタボロのsample耳が肩を並べて歩いてたって無事なのは嬉しい事だけど、それに反して右も左も果てしなき殺意の塊だ。

 字面がえぐすぎる。ただ飲食店が立ち並んでるだけなのに、全く落ち着けない。

 

 圧よ。

 この圧よ。

 

(さつ)きん、期間限定バーガーかぁ……」

「略すな略すな。略すならせめて後半部分だけ残してくれ、心臓に悪いから」

「じゃあ、(りく)んぐ?」

「すまん俺が悪かった」

 

 それだともう意味がわからない。

 

「ほんっと物騒な名前だらけだなぁ。この辺は特に」

「会社が一緒なんですよ。見たことありません? アンミラーって」

「……知ってるけどさ……」

 

 大きなリボンに鉄パイプのロゴが特徴のアンミラー・リオ社は、闘技場のスポンサーとしてあちこちに看板を出してるし自然と記憶に残っている。

 事業内容までははっきりと覚えてないけど、確かアンミラー・リオって警備会社じゃなかったっけ。飲食店も出してんの?

 

「正確にはアンミラー傘下ですね。飲食装飾土地管理、手広く収めているらしいですよ」

「これ以上街に殺意を広げないで欲しいかな……」

「……同意です」

 

 ま、今はいっか。とりあえず安全な内に腹ごしらえだ。といっても贅沢はできないし、入る店は慎重に選ばないといけない。

 家持ちかつ自宅で料理できる環境整ってるなら毎日もっと安くいいもん食えるだろうけどさ、そんな環境作るより先に今日の飯なのよ。

 なんせ俺達野良耳はいつも金欠。俺は闘技場の耳拾いを生業にしてるが、それだって一週間に四日のたった一時間、実労働時間相応ぽっきり支払われてそれだけ。他のイベント関連でも仕事すりゃいいったって、あまり他の食い扶持を奪い過ぎたっていけない。譲り合い共存の精神だ。

 あー生活できない。もう倍貰ったっていいだろ俺達。こんなかわいい俺様ちゃんが飢えていいってか。

 

「安い所ならあっち、(さつ)エリアがありますね」

「……もう名前にツッコまんよ」

 

 ついに殺すエリアと書いて(さつ)エリアのご登場だけど、安いなら安いで大助かりと飲み込むっきゃない。

 からんころーんと店へ入ると従業員の耳がやる気なく、それでもお仕事なのできちんと席へ案内してくれた。

 お店の端っこ目立たぬ窓際、そんな場所へ座ってようやく一休みとなる。

 

 メニュー表ぱらぱら。

 たこ焼きお刺身輸血液……輸血液!?

 に……秋の雑草……?

 い、意味が分からない……。

 

「何食べます?」

「お前のおすすめでいいよ……」

「そしたら34のLセットおすすめですね」

 

 メニュー表の一角を指差されたけど、おおよそ飲食店でおいしく頂く名前ではない。

 もう型番やんそれ。名前で何が来るのか一切わからんけん。なんきよっと?

 

「すみませーん、店員さーん」

 

 え、呼ぶの?

 ほんとうにそれでいくの?

 

「これ二つください」

「うぃー、34(みしー)のLセットっすねー」

 

 やる気のない従業員はふらふらした足取りですぐに引っ込む。

 ほんとうに何がくるんだろう。

 

「マイクルはこの店にはよく来るのか? どうも手慣れてるというか」

「ああ、えっと……」

 

 暇なので聞いてみたら目をさ迷わせた。

 別にそんな返答に迷う質問じゃないと思うんだけど。

 

「前は、よく来たんです」

「前?」

 

 やけに含んだ言い回しだ。

 

「その、笑わないで聞いてくれます……?」

 

 やけにもったいぶるな。

 この店に以前来たってだけでそんな、笑われるような話か?

 

「僕は……前世の記憶があるんです」

 

 流れ変わったな。

 

「僕は転生っていうものを知っていますか?」

 

 あー、なんつうの? それって、死んだ後にその者の魂だとか意識がだとかがっていう信仰上の話だろ。

 誰も死んだ後なんか知らないから空想だけだと思ってたけど、マイクルの話が本当ならそれまた興味深い。

 

肉体(アカウント)を変え、記憶や名前を捨てて、新たな肉体(アカウント)で新しい生活を始める。それを、これが“転生”と僕は理解しました。僕には、耳をもがれて死んだ瞬間の記憶まではっきりとあります」

「……だからか」

 

 ヴェトロに片耳をもがれた時マイクルは激しく動揺していた。それは死を経験しているが故もあったのだろう。

 なら最初の作戦をノータイムで飲んだのも、二度と死なないよう回避の練習をしていたからある程度自信があったからとかか。そんで次にもがれたから自信が崩れてと。

 

 転生、事実上の甦り。……俺がヴェトロとの決戦時に見えた光景や感情も、それに起因することなのかな。

 過去に闘技場で戦っていた耳の内のひとつ。戦いの果てに敗れ新たな生を得た存在。それが俺だったと。

 

「僕に記憶が残っている理由は分かりません。けど、事実は確かですし、この系列店でお嬢と食べたのもはっきりと……」

 

 マイクルの過去。俺の過去。

 どういう仕組みなのかは分からんが、残ってしまう場合があると。

 都市伝説的な噂にすらなってないんだからかなりのレアケースなのかな。 

 

「爆発事故と襲撃で家を追われてお嬢と逃げて、うぅ……最期に……なけなしのお金でお嬢と……」

「ああもう、泣くな泣くな。同じ店に来て思い出したんだな。よしよし」

 

 お嬢が何者なのかは知らんが、聞く限り存命は難しそう。

 つか襲撃って、いつの話なんだか。

 

「お前が世界の真実的なもんを知りたいのは、そういった経緯があってのことか」

「……ずびっ、そうです。お嬢の家には、人間について記された本がありました……」

 

 お嬢というからにはお金持ち。お金持ちってのは基本旧家。

 そういう誰も知らない過去の資料もこっそり残ってたりするのかな。

 ともかく人間という存在を知ったマイクルはそこから疑問を繰り返し、今の真実を追い求める姿勢に辿り着くと。

 

「君は、どうして世界に疑問を抱いたんですか?」

 

 俺か。俺は、具体的にはどうしてだっけな。

 最初は……そうだな、この街が記憶喪失だって思い浮かんだ時かな。

 

 気が付けば寒い上層隅の耳目につかない所にいて、野良耳として必死に生きて、何とか落ち着いた頃。

 俺についても街についてもなんもかんも、過去についてる奴は誰もいなかった事にふと気が付いた。

 生まれついて成体なのもそう。両親という単語があるにも関わらず誰も親を見たことがない。

 いつから街が存続しているのか。誰が闘技場を作り上げたのか。“みみのこ”という名は一体何なのか──。

 

 同じ疑問を持つ者が他にもいればいい。それならまだ解明されてない世界の不思議として納得する。

 

 けれどムカつく事に、俺がいくらおかしいよねって声をかけても誰ひとみみ首を振らない。

 全員まったく理解を示さない。過去に目を向けない。余裕がないとか理由付けできるモンじゃなくて、そんな発想を頭に存在させることができない。

 決まって誤魔化すようにしっしと笑うか、だんまり決め込むかの二択。折角会話ができても途端にそれ。

 

 ひとつ考えれば考えるほど疑問は重なって膨れ上がる。

 哲学っていったら仰々しいけどさ、明らかにおかしいだろ。なんもかんもさ。

 

「でもどうしたって喋りたい欲が出て、どうせ分かんねぇしいいだろって適当に話しかけて、そんでマイクルだ」

「ああ。あの時の急な話題の振り方ってそういう経緯で」

「そういうこと。もしかしたらいつか理解者が出てくるかもって期待してたのかもな。近所じゃもう誰も喋ってくんないのに」

「ふふっ、いい耳は見つかりました?」

 

 悪戯っぽくマイクルが笑う。

 そりゃもう当然、お前が見つかって良かったよ。

 ……まぁ、同時にとんでもないことになって来たが。

 

「何度もしつこいのを承知で繰り返すが、段ボールバッジを持っていたみみのこにスポンサーしてた組織があるってのは全部俺の妄想だ。むしろ、都合よく考え過ぎなくらいの内容。この書いてある場所もなんもかんもデタラメかも知れん」

「──それでも僕たちは進むしかない。やれるだけやるしかない」

 

 そういうこと。

 まぁ、ヴェトロがブチかまして来た時点でゲームの参加権ってもんだが。

 

「君は僕を危険な目に合わせたくないから隙あらば賭けから降ろそうとしているのかも知れませんけど、今さら揺さぶられると思います?」

「悪かったて」

「おまたせー。みっしーセットー」

 

 すいーっとやって来た従業員が34のLセット(だっけ?)をぽいぽいとテーブルへ投げ、すいーっと去っていく。

 ジュース片手とかそんな態度お前って思えど、少なくとも俺らsampleより地位は上だ。嘆かわしいね。

 

「そもそもsample耳って何なんでしょうね」

「さぁな」

 

 5500クレジットで身分を買えるって何? 頬についたsample文字撤去権も何?

 

「いただきましょう」

「よしきた」

 

 よっしゃ飯だメシ。

 型番みたいな名前に反しセット内容は普通で、お米にサラダにお肉。普段の飯が飯だけに、いわば普通なこれもテンコ盛り盛り豪勢なお食事に見える。

 これ何の肉だろ。鳥とかのもも肉かな。うっひょ~~~、あったけぇ!

 

「ふふっ」

「あん? んだよぅ」

「いえいえ。いい食べっぷりだなと」

 

 マイクルはナイフとフォークでお上品にちまちま食べてる。

 しゃーないだろ。こちとらマナーもへったくれもない、お嬢様とお食事なんて経験もない、戦いしか思い出せる事の無かった野良っぱなんだからよ。

 

「けど好きですよ。沢山食べるのを見るのは」

「そりゃ、どうも……」

 

 照れるぜ。というか、恥ずかしいぜ。

 

「ああいけない、つい年寄りムーブが」

「脂もの入るか? ん?」

「もう、身体は若いですよ! ……たぶん」

 

 転生ってのも考えものだね。

 そういや、転生という発想になってないだけで過去の経験を無意識に保持して活用してる耳とかいるんかな。

 

「どうでしょう。会話をしてみれば分かりそうですけど……」

 

 都市伝説的な事になってないから察するに、まぁどうせ違和感を抱かないようにはなってそう。

 うーん。なってそう、か。されてるとか?

 

「転生は管理されていて、俺達はシステムのバグやエラーで抜け出した。なんてどう?」

「まさか。いくらこの街が全て管理されているとしても、命や精神まで操作し出すならそんなもの……」

 

 マイクルが言葉を飲む。

 だが言わんとすることは分かるぞ。そんな事できるやつ相手に俺らが何をどうできるってもんだ。

 世界の過去を、謎を明かして納得する。だから……だから、なんだ?

 

 俺達は好奇心で突き進んで、どうなろうってんだ?

 人間に会いたいのか? 壁の向こうってとこに行きたいのか?

 ヘンな事に首突っ込まずこの世界で平穏に過ごせばいいんじゃないのか。

 野良耳の生活はそらきついけど、けどもがれる心配もなんもないんじゃ──

 

「落ち着いてください!」

 

 あ?

 

「ど、どうしたんですか急に、君がそんなっ」

「え、ああ、すまん?」

 

 ……確かに、どうした急に。

 

「なにが、起こったんですか……?」

 

 どうして急に俺は、今の探求心を辞める方向へ行こうとした?

 ヴェトロを倒したし後戻りできない、いけるとこまでゴーゴーって話だったじゃんか。

 

「つまりそういうことっすねー」

 

 第三者の声。

 目を向ければさっき俺達に料理を提供してた従業員が、すいーっとやってくるところだった。

 

「……まさかと思うがお前さん……」

「いやいやー」

 

 店員はひとつ伸びをすると、伸ばした腕で自身の髪をまとめて大きなリボンを後頭部から出す。

 そのリボンの在り方には見覚えがあった。

 幾度も闘技場の看板で見かけた、そして今いるとても殺意の高い店名の大元。

 アンミラー・リオ社のロゴデザイン。

 

 流石に苦笑いだぞ、こんな展開。今ここで仕掛けるのがお前らの()()()()()なのか?

 自然な動作で従業員はテーブルのナイフを引っ掴むとくるっと回して逆手に構え、次の瞬間には躊躇いなく振り下ろす。

 だが俺とて生半可なみみのこじゃない。そんなの食らう前には席を立ち、腕を掴んで抑え、ジャンプからのドロップキックで弾き飛ばしてやった。

 

 大きな音を立てて従業員は吹き飛んでいったが、店内が騒ぎになることはない。

 俺達以外の客は最初からいなかった。警戒しているのならそれすら疑うべきだったか。

 最初から見計らって仕掛けるつもりだったんだな、裏の連中は。

 

「通達っすね。れっつあくしょーんって」

「沢山きます!」

 

 立ち上がった従業員の後ろ、ぞろぞろとお仲間が揃ってやってくる。

 

「お、同じみみのこ……っ!?」

 

 そう。どいつもこいつも顔からリボンまで全部そっくり。

 よく見りゃひと耳ずつちょっと違いはあるが、パッと見て判別がつかない。

 各々別個体ではあるが、個性を消されて同一耳物(どういつじんぶつ)として立っている。

 なんともまぁ分かりやすく組織的な。

 

「……ははは、店選び間違えましたね……」

「そも店名で察するべきだった」

(さつ)だけに?」

「お前急にそんな、こんな時にマジかよ……」

 

 長い髪を大きなリボンで一つにまとめたみみのこが、二体三体と増えていく。

 各々片手にそこらの物品を携え武器にして、いつだって俺達を襲えるぞと半円に取り囲んできた。

 ヴェトロの分身みたく実体のない偽物ではなく、どれもこれも物理的に存在している。働いていた全員が同じ姿に化けてそこにいる。

 同時攻撃可能なら上位互換か? いや戦術的な話はいい。今はここを切り抜けよう。

 

「さっきの精神攻撃的なのと合わせて、恐らく中心になってる奴がいる。怪しい奴はいないか?」

「怪しい奴って、見当たりませんよそんな耳」

「アンミラーのロゴを思い出せ。鉄パイプにリボンだと思う」

「だからいませんって」

「そこをなんとか」

「相手に言ってくださいよ」

 

 軽口を叩きつつお互いカバーし多数のみみのこを警戒する。

 向こうは俺達がヴェトロを打ち負かしたブラザーズだと知っているのかどうか分からないが、数の利にかまける事無く隙を見せないか伺ったまま。

 アクションを起こすなら俺達の方だ。このままじゃ消耗して負ける。

 

「マイクル」

「なんです?」

「ここが一階の窓際でよかったよ」

「ですね」

「そろそろいいっすかー?」

 

 呑気な声の裏に殺気を隠せてない。

 んじゃ手筈通りにやりましょか。マイクルッ!

 

「任せてっ!」

 

 マイクルがテーブルを引っくり返しあらゆるものを宙に舞わせ、敵が一歩引いた隙に俺は椅子を引っ掴んで振り回す。

 ガラスを割るなら得意だ。もっと厚くて硬そうなガラスをぶち破った直後だからな。

 これくらいならば、ぱりーんっって簡単にな!

 

「いよっしゃダッシュだマイコゥ!」

「行きましょう!」

 

 多数に敵うわけねぇだろ!

 逃げるんだよーっ!

 

 

 

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