みみのこ・アップ・ライジング 作:紅茶オレを
激戦を潜り抜けて呑気に飯食ってたら襲われたので逃げたなう。
「ついてきてるかぁマイクル!」
「ええ、しっかりと! 僕も、あいつらも!」
耳通りの消えた薄暗い街を駆ける。あれだけ騒々しかった表通りも、今やスタジオセットのジオラマみたいに不自然なほど誰もいない。
アンミラー・リオ従業員の強襲シーンが盛り上がったかどうかは全く分からんが、どこまで仕込まれてんだろうなこの一連の話は。
「まてまてー」
「無駄っすよー」
気の抜けた声。しかしそれはやる気がないのに命令で仕方なく、というよりは本人自身に明確な意志がないかのようだった。耳拾いの仕事中にすら感じる、ひりつくような殺意が全く感じられない。
さっき俺の意識も持っていかれかけたし、何らかのそういう……洗脳っつうの? 摩訶不思議お電波なことしてくるヤツが隠れてるとは思うが、かといって逃げるのに精一杯でどうにもできねぇ。
迎撃ったって、いくら俺が戦闘経験や記憶があったとて無限に湧いてくるなら多勢に無勢だし、そもマイクルの片耳はもがれたっきりまだ再生してないため無理をさせられない。
だから逃げの一択しかないってのに、このままま振り切れる気が全くしねぇ。
やつらは諦める所かどんどんやってくる。つうか増えてる。
ありとあらゆる店という店、アンミラー・リオ傘下っつうらしい殺戮の名の付いた店舗からどんどん従業員が湧いて出てくる。やっぱりそっくりなシルエットで。
リボンでポニテ作って可愛らしくお揃いしてるっつうのに、やってることは何一つ可愛くない。ちょいと卑怯なやり口だったが、まだ休憩時間をくれるヴェトロの方がマシだ。
「どうするんですか!?」
マイクルが悲鳴のように質問を投げかける。そんなこと言われたって逃げ切るには、振り切るには足が必要だという他ない。
もし俺が盛り上がりだとかなんだとか作るんなら、ぜってぇ一発逆転できる手をどっかに作る。そういうのがなきゃぜってぇー詰まらんからな。
だから今ここで足を、もっと速い足を、それこそ──。
「車が必要かァ!?」
角を曲がると突然軽トラが現れた!
そいつは俺達と並走しつつ、運転席から俺達へ声をかける。
だが誰だお前はッ!
「あたしゃあ正義のみみのこや!」
なるほどッ!
「いや納得するんですか!? そんな説明で!」
させるんだよピンチな時は!
「乗ってくかい?」
「あたぼうよ! とぅっ!」
荷台へダイブしてマイクルへ手を伸ばす。
まだまだ納得のいってないマイクルはぶつくさ文句いいつつ、一度振り返り、従業員だらけの道よりかはと首を振って掴まってくれた。
引っ張り上げて一息。俺達がこうして文明の利器に乗っかっても、やつらは愚直に自分の足で追ってくる。こえー。
「だ、大丈夫ですよねこれ、耳もげませんよね!」
「安心せぇマイコゥ。風圧程度でもげてたら生活もままならんだろが」
「それもそうですがががが」
バタつく片耳を抑えながら泣きそうになってる。確かにちょっと前に風圧でも耳がもげるだなんて小話は広まったが、流石にそこまでみみのこはやわじゃない。それに素早く動いた勢いで死ぬんだったらさ、居合も回避もしてらんねぇっしょ。
ビビるマイクルを尻目に振り返り追手を確認。速度で差は出てるが、車と違って小回りの利く向こうはパルクール的なショートカットを使って地道に追いつかんとしてる。諦めの悪いこった。
「まだ追ってきてますね。さつりくのこが」
「殺戮ってワード気に入ったの?」
ぎゃぎゃぎゃと軽トラが唸り、右へ左へ小道を突き進む。
見事なドライビングテクニックと言いたいけど、これどこ向かってんの?
「イストティートって聞いたことない? あたしらの隠れ家だよ」
「え。それってもしかして……!」
知ってんのかマイクル。
「いやどうして君が知らないんですか。ダンボールのバッジに書いてある住所の建物ですよ」
「えぇ?」
どれ? あ、もしかしてこれ? このなんか、達筆っつうか、ぐにゅぐにゅにゅいーんってなってるくるくるーな字。
「……本当に字、読めてます……?」
「今ディスられた?」
そこだけ読めなかったんだYO! ……まぁいいや。
つうことはだ、俺達の目的である謎組織がお迎えに来てくれたってこと?
「あたしが迎えに来たのはコシアってみみのこなんやけど、お前さん達がそのバッジを持っとるっちゅうことは」
運転中で目を向けられないみたいなので、代わりに口頭でダンボールバッジについて説明する。
俺がこれを手に入れた経緯、その後の戦い、頼みの綱として向かおうとしていた旨。
荒っぽい口調のみみのこは一通り聞き終わると、ぽりぽり頭を掻きながらため息をつく。
「……なるほどな。あんたらは拾って巻き込まれたってクチか」
「すみません。この方の手癖が悪くて……」
「やっぱディスられてる?」
高架下を通り郊外へ踏み入れた頃、あれだけ沢山追ってきていた従業員たちはいつの間にかぱったりとその姿を消していた。
撒いたか諦めたかしたんだろうけど、得体の知れない連中のことだ。次の盛り上がりに備えて待機してるやもしれん。
おちょくってわざと延命させる舐めプとしか思えないが、それでもつかの間の平穏として受け入れよう。ヴェトロ戦のようにとはいかんだろうが、相手もみみのこ。逆転の一手こと両耳吹っ飛ばしで勝てるんだ。同じことを俺達にも言えるが、まぁ力と技と団結でかっ飛ばしてけ。
「降りんしゃいあんたら。こっからは歩きや」
薄暗い中で降ろされ、促されるままに何とか見える背中を追って歩く。俺達を助けてくれたみみのこはsample耳ではないけど、かといって装飾に凝った訳でもない、頭にひとつアクセサリーをつけただけのsimple耳だ。なんか上手い事言えたけどsampleとsimpleってパッと見じゃ区別付きにくいし、こいつの名前をお聞きしたいところ。
とにかくはぐれないようついて行って、右往左往と進んで、そろそろ流石の俺ちゃんでももはやここが地理的にどこだか分からんくなってきた。少なくとも表ではないのは確かだけど、どこまで行くんだろう。
三層に別れた街の表と裏。耳の住まい生活する通常スペースが表、床と天井の間にあるインフラ関係を押し込めた隙間空間が裏。野良耳ですら住み着かないそんな裏の世界を歩いたところで何があるって言うんだ。
「キャラクターは舞台を降りれば演者に、
どういう意味?
「説明しようったってなぁ。前提知識が多すぎるんよ」
マイクルと顔を合わせて首を傾げる。向こうも説明したがらないとか放棄したとかじゃなくて、どこから説明したらいいのか分からないから落ち着いて話そうといった雰囲気だ。
歩いて歩いてやがて、暗いままだが音の反響からして広い空間に出た。
「ここに物資輸送用のエレベーターがある。こいつを使って基地まで一直線や」
「へー」
ここまで案内してくれたみみのこが壁に光る点を突いて回ると、細々と明かりが灯りエレベーターがその姿を現す。
そのエレベーター、このシルエットは──ッ!
「まさか、こいつは!」
「フハハハ、そうだとも! お前に分かるか!」
「ああ! これに、乗れるのか!?」
「せや! 乗るんだとも!」
俺達の目の前に現れたそれは!
体現されし、漢のロマン! 夢!
巨大斜行、エレベーターッ!
まさかこいつに出会えるなんて!
まさかこいつに、乗る事ができるなんて!
「嬉しかろ……!?」
「涙がでそうだ……!」
「なんなんですかこの耳達」
マイクルがめっちゃ呆れた顔して自分の耳を抑えている。
なんだよ、なんなんだよ、いいじゃんか!
お前は漢のロマン、巨大斜行エレベーターの良さが分からないのか!?
「分かりませんよ……」
こいつまさか、みみのこじゃないな!?
「そんな判別方法あります? 耳ついてますよちゃんと。今は片っぽだけですけど」
まぁ冗談はさておき。
ゴウンゴウンと揺られるエレベーターで上へ上へと参るが、これどれくらいかかるんだ?
「10分てとこ。まぁ座りや」
「お茶いります? さっきの店で水筒に入れておいたんですよ」
「マジヤバくね?」
さり気なくマイクルが犯罪チックなことしてる。
「それ言い出したら僕達食い逃げしてるんですよ」
そういやそうだった。
「愉快なお耳さん達だ。さてお前ら、名前は?」
「僕はマイクルです」
俺は未だ名無しのsampleみみのこ。
「マイクルか……。ふふ、いい名前やな」
懐かしそうに目を細めた後、両手を広げてそのみみのこは名乗る。
「あたしはテスタ・フレッチャ。そのダンボールバッジを持ってたコシアちゃんとは友達だった
がごんとひと際大きな音と振動を最後にエレベーターが止まり、どこか壁に囲まれた場所へ出た。
目の前にデケェお屋敷は見えるし門らしき箇所へ通じる小道もある。なんだか手入れの行き届いた庭らしい様相だが、しかしよく見りゃ壁と称した物は瓦礫の山だし門なんてものも埋もれちまってる。
正規の玄関口としてこのエレベーターを使っているというより、紆余曲折を経て出入り口がここだけになっちまったって感じだな。
敵連中が真っ暗空間を恐れて近付かないっていうフレッチャの情報と合わせて、警備いらずな無敵の要塞という訳らしい。ダンボールバッジに不用心に住所を書いて平気な訳だ。
てかこれ、普通にここへ向かってたら詰んでた?
「ここって……」
「イストティートの本丸へようこそ。歓迎するで」
案内されるまま玄関を潜ると、大ホールでは多数のみみのこが和気あいあいと何か作業をしている。内職かな。それだけで食うのは難しいかも知れんが、仲間がいるってのは心強いもんだ。
町の大通りのような、安全とはいいつつ各々それぞれ孤立していて、最低限の自衛や警戒をしなきゃいけない所とは違う。ほんまもんの安全安心がここからは感じられた。
「ここ、僕が昔過ごしていたお屋敷……」
「そなの?」「そなんや」
聞こえた呟きに思わずフレッチャと共に振り向いてマイクルの顔色を伺う。どうも嘘は言って無さそうだ。
もしかしなくとも転生前の話だよな、それ。
「マイクルちゃんは
「……はい」
「んー……。説明がちとややこしいが、マイクルには前世の記憶。いわゆる転生前ってのがあるらしい」
「なるほどそゆこと」
わざとらしくポンと手を叩き、フレッチャは嬉しそうに案内を再開する。
なんかすごいすんなり受け入れられてるけど、転生前世を覚えてるって割と普通なことなの?
「イストティートに辿り付くんは、ようはそれなりに事情を持ったやつ。あたしも含めてな」
つまり似たようは話はよくあると。
それなのに町で俺の話が通じるやつが全くいなかったのは、全員ちゃっちゃとここへ辿り着いてたからって事?
「半分はな。多くは不用心に振舞って、こう」
耳をすぽんと抜くジェスチャー。
「せやけど気が付くやつは気が付く。タイミングがあるんなら辿り着く。それがイストティート。今日君達がここへ辿り着いたんも、そういう日だったっちゅう話。襲われとる真っ最中だってなぁお初やけど」
ホールを抜けて大きな部屋へ辿り着くと、フレッチャが手ぶり一つで待機していた給仕係っぽいメイドみみのこを動かす。頭を下げてどこかへ行ったメイド耳を見て、なぜかマイクルも付いてこうとしてた。てやんでい。お前はお客様だろが。
お行儀良しな所作なんて知らんし分からんので無礼を失礼どっこいしょ。
「あ、すみません。お仕事の癖というか……本能? みたいなのが……」
「前は執事だったとか?」
「……お嬢の友達兼任です」
「まぁ楽にな」
やっぱりマイクルが以前どういう立場だったのか微妙に分かりにくい。でもその些細な箇所がマイクルにとって重要なことなんだろう。俺達にとっての斜行エレベーターみたいに。例えが悪すぎる。
ごほん。それでフレッチャ。コシアなる者やダンボールバッジ、そもイストティートという場について、なぜ連中は近付けないか等々を色々教えて頂きたいんだが。
「うむよろし。まず分かりやすい所からいこか」
フレッチャが適当な紙とペンを取り出し砂時計のような形を描き、二本の線を引いて三分割する。
言うまでもなく、三層の空間からなる俺達のいるこの世界の地図だ。
「あたし達みみのこが住まう世界。この外側について考えた事あるか?」
砂時計の外側にハテナマークが追加される。
「疑問に思っています。僕は何があるのか、知りたいです」
「同じく」
砂時計を三分割する線を二重にし、先ほど俺達も通った“裏”を追加した。
矢印を伸ばし、その空間にもハテナマーク。
「せやけど世界の外を、外に通じる情報を、
「ある。俺はマイクルと出会うまでそんな話をあちこちでしたが、不自然に全員取り合ってくれなかった」
「せやろな。──なぜなら全員、メタを観測できひんキャラクターちゅう訳やから」
また出た。“キャラクター”だ。
流石の俺も説明抜きな単語に意味が分からず首を傾げると、マイクルも同じく首を傾げていた。揺れた耳が空中で絡み、フレッチャはそれを見て笑う。
どうもわざとらしいというか、何かリアクションを探るように言葉を選んでいる。どこまで何を知っているか、そういう知識のすり合わせなんだろうな。上手いことよ。
「さて。そこでお聞きするけど、この世界のど真ん中にあるのは?」
俺達の疑問を意に介さずといったように、フレッチャは新たな疑問を投げかける。
このタイミングって事はちゃんと意味があるんだろう。
「真ん中、中心にあるものって言えば……」
マイクルもすぐ思い浮かべる通り、そこにあるのは俺達の職場たるみみのこ闘技場。ファイトクラブ。
毎日毎日たくさんのみみのこが飽きもせずもぎ合う場だ。
施設の立地が中央にあるだけじゃなく、みみのこという存在そのものの中心として
「そうその
「……僕は……」
ちらっとマイクルが目線を向けてきたが、俺とてそこまでの疑問を投げかけた事はない。
せいぜいが「毎日毎日飽きないな」とか、「耳もげたら死ぬなんて不都合な生物だ」とかその程度。
ファイトがそこへ据えられてる経緯なんてものは、ついぞ考えもしなかった。
「そこや。メタがキャラクターがと語るにはまず、歴史のお勉強といこか」
メイド耳が用意した紅茶を飲みつつ描かれたのは、一つの四角。
乱暴に“とーぎじょー”と書かれたので、この箱は闘技場なんだろう。
「人間って種族知っとる? ぎょーさんおった大柄な生物でな、みみのことは広い土地を分け合い共存しとったんよ」
マイクルの気を引いた、疑問の始まりの存在だ。
しかし今は交流がないどころか人間という名すら廃れている。
「ずっと一緒に暮らしとったんやけど、しっかしあるとき人間は、みみのこが耳をもぎ合い決闘する習性を発見して面白がってもうた」
闘技場を指す四角い図形にみみのこが放り込まれ、その外から人間の顔がにやにやと眺める図となる。
なんだか嫌な予感がしてきた。マイクルの気になる人間は、もしかしたら友好的なものではなく──
「──みみのこのもぎ合いを観戦する為に、闘技場っちゅう悪趣味な娯楽施設を作ったんよ」
「人間が……もぎ合いを強いたのですか……?」
「せや。さっきも言った通り人間は大柄な種族でな、みみのこの倍はある。逆らえやせんよ」
聞いてマイクルが唸る。想像していた人間像と大いに違ったらしい。
マイクルは壁の向こうや人間に興味があったのだから、その相手がみみのこを
「みみのこを育て戦わせ競うブリーダーが、もぎ合いを賭け事として熱狂する者が、その様子を放送する者、実況する者。はたまたあるいは、みみのこの飼育環境から繁殖行為を観察する者、実物に興味なんぞなく数字だけ追う者……」
闘技場の絵に装飾が増えて、生えるように周囲に町が描かれる。
町は壁に囲まれ、床に穴が空き、天井を利用した二階が完成して、三層からなる空間が作られていく。
絵はさっきも見た砂時計へと進化した。
「とにかく、みみのこは人間共にとってビジネスとなった?」
「その通り」
砂時計の周囲を、矢印がぐるぐると回り続ける。
「閉じた空間で世代は循環し、やがて管理される存在に慣れ、それが当然となっていく」
「ビジネス的に都合のいい環境か」
ぐるぐる回る矢印の外はハテナマークでいっぱいだ。
「せやけど不都合な点、あるいは疑念点はずっと付きまとう。つまり反乱の可能性やな」
俺達みたいな
自分で言うのもなんだけど、どう考えたって邪魔だし。消しさってやりたい。
「無用な思考は管理しにくかったんに違いない。耳共はあるがままの姿を提供して、ただ戦ってくれたらそれでええから」
「それで、無意識下の洗脳と」
「どうやったんかまではあたしらも流石に分からんけどな」
金のため、生活のため、自衛のため、そういうものだからとか云々。色々な理由付けで思考を捕らえて抑え、最終的な実現手法は分からんままだが……現実として大多数のみみのこは明らかに存在する疑問を抱く事すらできない。
町を飛び交うカメラドローンはもしかしたら、治安維持の監視カメラなんかじゃなくって人間様へ献上する映像を集めているだけなのかも知れない。
そこまできたら、ヴェトロが口にした“盛り上がり”ってやつの正体も明らかだ。
つまり俺とマイクルの足掻きはスペシャル特番程度の娯楽、笑い種のいたぶりにすぎないって事。
なんだか腹立ってきたな。
「キャラクターってあたしが言う意味、分かったか?」
「はい……」「うむ」
連中は管理される側。楽しい娯楽の舞台演者。それゆえ床下も壁の外と同じ、
よしんばもし近付けるのなら、エレベーターを通ってこの屋敷まで到達できるような個体なら、それは不自然な世界に気が付けているっつう証拠。それゆえその場合は揺さぶってでも引き込めばいいってことか。
中々おいしい話じゃないの。
「話を続けよか。今まで語って来たこの世界の歴史、それはもうかつての話っちゅうこと」
砂時計の外、にやにや笑ってた人間の顔がバッテンで消される。
それは、いったいどういうことだ?
「今はもう人間の管理を外れて、この世界は独立てか孤立しちょる」
そら人間が認知されてない、存在すら誰も知らない訳だ。
「……それは、一体どうしてですか……?」
「残念やけどまだそこまでは分からん。ただ、ある時を境に人間達の干渉が無くなったのは確かや」
ことんとフレッチャは飲んでいたカップを置き、それ以上の情報は持ち合わせてないと手を振った。
「待て。それが本当なら連中はどうして視聴者意識の演出を続ける? 闘技場が今も稼働し続ける意味は?」
不自然過ぎるというか、理解不能な状況に思わず声を上げる。
人間がいないんなら俺達のやってることは何なんだよ。
「言うたろ。みーんな理解できひんのや。既に観客席に誰もおらんて事実に」
……それは、そうか……。それが当然だから、中止って選択肢すらないのか。
ある日を境に息をしなくていいとか呼吸は必要ないとか言われても、そんなことできる訳ないって思うもんな……。
しっかしここまで作り上げておいて、人間共はなんでだろうなぁ。一番考えやすいのは耳もぐだけワンパターンな生命体に飽きたとか、ブームが過ぎたって説だが。
まぁとにかく。連中の盛り上がりを作るのに熱心な理由も、他の耳共の思考が固まってる理由も分かった。それが世界の成り立ちであり絶対のルールって訳だ。
イストティートって組織は、このお屋敷に集ってるのはみんな、それをぶっ壊したいって話か?
「その通り」
フレッチャはサイドヘアーを指先でくるくる回して癖をつけ、懐から扇子を取り出し立ち上がる。
「かつては無策に藪を突いたから屋敷は焼かれ、同胞は離散。無様にも敗走したけども、だが今は違うッ! 」
その立ち振る舞いを見て、声を聞いて、マイクルが息を飲むのが分かった。
「卵の殻を破らねば雛鳥は生まれずに死んでいく。今こそ再び、共に歩もう!」
まさかと思うがテスタ・フレッチャ。
お前さんが前世や転生についてあっさり受け流したのは──
「──ついてきてくれるな?
「はい……僕の全ては、お嬢と共に……っ!」
涙ぐんだマイクルがふらふらと歩き、お嬢と呼ばれたフレッチャへと抱き着く。
なんともまぁ世間は狭いというかなんというか……。
「メイドさん」
「はい。ではどうぞこちらへ」
実はずっといた無言佇みメイドさんに声をかけ、この部屋を後にする。
あの二耳はお互い壮絶な最期を迎えた(?)って話だし積もる話もあるだろう。ここは大人のみみのことしてね、また日を改めてお話ししましょうって配慮よ。